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第8話 次なる目標
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<エアル視点>
「ふふ~ん」
街ですれ違う人が噂をしてる。
僕はまたこっそりと聞き耳を立てていた。
「なあ、聞いたか昨日の」
「ああ。ジャイアントコングが出たんだろ」
「それもだが、それを焼き払った奴がいるらしい」
「まじかよやべえな」
みんな僕の話をしているみたいだ。
もう言っちゃおうかなー、誰がそれをしたかって。
「ねえ──」
「エアルく~ん?」
「……!」
だけど、ネタばらしをしようとした瞬間、後ろから肩を掴まれる。
ゆっくりと振り返った先には──案の定リザがいた。
「ちょっと来てくれるかな~」
「は、はい……」
それからズルズルと引かれるがまま、宿へやってくる。
ベッドに座る僕に、リザは説教を始めた。
「何度言ったら分かるのかしら」
「え、えーと、なんのことでしょう」
リザはじろりとした目で声を上げた。
「だから! ジャイアントコングのことは内緒にしろって言ってんの!」
「は、はい……」
やっぱりだ。
そう言われて、僕はこうなった経緯を思い出す。
昨日、僕はジャイアントコングを倒した。
正直そこまで強くはなかった。
故郷のダンジョンの魔物に比べたら全然だ。
けど何より、探索者さん達に感謝されたのが嬉しくて良かったなと思ってる。
でも、その時リザは言った。
『この事は内密にするべきだわ』
どうしてかは分からない。
“能あるドラゴンは爪を隠す”、とかなんとか言ってたけど。
とにかくリザには考えがあるみたい。
「聞いてる? エアル」
「え、あ、うん!」
リザにぐっと顔を近づけられて、意識を現実に戻す。
それから彼女は話を続けた。
「もう一度言うけど、セントラルは探索者が集まる場所なの」
「そうだね」
「けど、それは決して善人が集まるというわけじゃないの」
「……!」
リザの目が真剣なものに変わる。
「あなたやおじいちゃんのような探索者だけじゃない。中には人を騙し、闇討ち、レアアイテムを強奪する者だっているわ」
「そんな……」
「それほど“未知”という魔力に人は惹かれるの」
この表情から察する。
リザは知ってるんだ、探索者というのがどういう存在かを。
その上で僕のために言ってくれているんだと。
「うん。わかった」
「それでいいわ」
そして、リザは穏やかに微笑んだ
でも、すぐに不安げな表情へと変わる。
「こんな話の流れで……なんだけど」
「うん?」
リザは、下から覗き込むように僕を見てくる
それから意を決したように言葉にした。
「私と正式にパーティーを組む気はない?」
「……!」
リザが胸に手を当てつつ声を上げる。
「情報はいくらでも出す! 何でも協力もする! だから──」
「なーんだ、そんなことか」
「え?」
でも、そんなに迫真じゃなくてもいいのになあ。
「こちらこそ。こんな僕でよければ!」
「本当……!」
リザの目がぱあっと開いた。
よっぽど嬉しかったのかもしれない。
「でもちょっと悲しいなあ」
「な、なにがかしら。私に至らない所があればなんでも──」
「ううん、そうじゃなくて」
僕は真っ直ぐにリザを向いて答えた。
「僕はすでに仲間だと思ってたんだけど」
「……ふふっ。あはははっ!」
「リ、リザ?」
だけど、リザはふいに笑う。
やがて目元に手をやりながら口を開く。
「ごめんなさい。あなたがあまりに“疑う”ってことを知らないから」
「え?」
「こんな無垢な少年は、お姉さんが面倒を見てあげないとね」
「うん。これからもよろしく!」
こうして、僕たちは正式にパーティーを組むことになった。
これで都会の喧騒に悩まされずに済みそうだ。
「じゃあ、改めてこれからの事を説明するわね」
そうして、リザが話を始める。
これからの目標についてだ。
「前にも説明した通り、ラビリンスは下へと多くのダンジョンが連なってるわ」
「うん」
「それこそ最前線へ行くには、何週間、何カ月とかかるほどにね」
「へえ……って、あれ」
そこでふと気づくことがある。
僕はそのまま疑問をたずねた。
「食料とか装備とかってどうするの?」
「そこよ。ラビリンスには、いくつかダンジョンを突破するごとに『探索者街』と呼ばれる開拓地があるの。有志たちが作った“街”ね」
「街ってことは安全なの?」
「ええ、被害はまず聞いたことがないわ。『探索者街』専門で商売をする人もいるほど栄えた場所もあるの」
探索者街も、セントラルほどではないけど休息や準備はできる場所みたい。
小休憩地とか、野営地ってところかな。
「セントラルが最初の街だとすれば、“次の街”って言い方が分かりやすいかしら」
「じゃあ、奥に進むときはそこで補給するんだね」
「そう。いくつかダンジョンを突破、探索者街で体を休めて、また奥へと進む。その繰り返しよ」
ダンジョン内に街を作って休憩する。
すごいなあ、都会の人達の考えることは。
「ちなみに、昨日行った『はじまりの平原』。そこからもう一つダンジョンを抜けた先に、次の街があるわ」
「へえ!」
「『ツヴァイ』という探索者街がね」
ここまで話してもらえれば僕でも分かる。
「じゃあ、ひとまず『ツヴァイ』を目指すんだね」
「ええ!」
僕たちは立ち上がった。
今日からは正式にパーティーだ。
「行こう!」
目指すは探索者街ツヴァイ!
★
<三人称視点>
一方その頃、とあるダンジョンにて。
『はじまりの平原』の次にあたるダンジョンのようだ。
そんな場所に、複数人の探索者がいた。
だが、何やら驚いた表情を浮かべている。
「この痕跡は……!」
彼らは探索者の中でも、特に研究に力を入れている者たちだ。
そんな研究者たちが、とある痕跡を発見したようだ。
「どうしてこんな場所に……」
「分からない……」
「ありえないことだぞ……」
それは、本来ここにはいない魔物たちの痕跡。
ジャイアントコングと同等、もしくはそれ以上の強者たちだ。
「一体この辺りで何が起こっているんだ……」
彼らはまだ気づいていない。
その後ろでうごめく、“魔物の頂点たる存在”を。
「クォン……」
ジャイアントコングの件が、異常事態の一端に過ぎないということを。
「ふふ~ん」
街ですれ違う人が噂をしてる。
僕はまたこっそりと聞き耳を立てていた。
「なあ、聞いたか昨日の」
「ああ。ジャイアントコングが出たんだろ」
「それもだが、それを焼き払った奴がいるらしい」
「まじかよやべえな」
みんな僕の話をしているみたいだ。
もう言っちゃおうかなー、誰がそれをしたかって。
「ねえ──」
「エアルく~ん?」
「……!」
だけど、ネタばらしをしようとした瞬間、後ろから肩を掴まれる。
ゆっくりと振り返った先には──案の定リザがいた。
「ちょっと来てくれるかな~」
「は、はい……」
それからズルズルと引かれるがまま、宿へやってくる。
ベッドに座る僕に、リザは説教を始めた。
「何度言ったら分かるのかしら」
「え、えーと、なんのことでしょう」
リザはじろりとした目で声を上げた。
「だから! ジャイアントコングのことは内緒にしろって言ってんの!」
「は、はい……」
やっぱりだ。
そう言われて、僕はこうなった経緯を思い出す。
昨日、僕はジャイアントコングを倒した。
正直そこまで強くはなかった。
故郷のダンジョンの魔物に比べたら全然だ。
けど何より、探索者さん達に感謝されたのが嬉しくて良かったなと思ってる。
でも、その時リザは言った。
『この事は内密にするべきだわ』
どうしてかは分からない。
“能あるドラゴンは爪を隠す”、とかなんとか言ってたけど。
とにかくリザには考えがあるみたい。
「聞いてる? エアル」
「え、あ、うん!」
リザにぐっと顔を近づけられて、意識を現実に戻す。
それから彼女は話を続けた。
「もう一度言うけど、セントラルは探索者が集まる場所なの」
「そうだね」
「けど、それは決して善人が集まるというわけじゃないの」
「……!」
リザの目が真剣なものに変わる。
「あなたやおじいちゃんのような探索者だけじゃない。中には人を騙し、闇討ち、レアアイテムを強奪する者だっているわ」
「そんな……」
「それほど“未知”という魔力に人は惹かれるの」
この表情から察する。
リザは知ってるんだ、探索者というのがどういう存在かを。
その上で僕のために言ってくれているんだと。
「うん。わかった」
「それでいいわ」
そして、リザは穏やかに微笑んだ
でも、すぐに不安げな表情へと変わる。
「こんな話の流れで……なんだけど」
「うん?」
リザは、下から覗き込むように僕を見てくる
それから意を決したように言葉にした。
「私と正式にパーティーを組む気はない?」
「……!」
リザが胸に手を当てつつ声を上げる。
「情報はいくらでも出す! 何でも協力もする! だから──」
「なーんだ、そんなことか」
「え?」
でも、そんなに迫真じゃなくてもいいのになあ。
「こちらこそ。こんな僕でよければ!」
「本当……!」
リザの目がぱあっと開いた。
よっぽど嬉しかったのかもしれない。
「でもちょっと悲しいなあ」
「な、なにがかしら。私に至らない所があればなんでも──」
「ううん、そうじゃなくて」
僕は真っ直ぐにリザを向いて答えた。
「僕はすでに仲間だと思ってたんだけど」
「……ふふっ。あはははっ!」
「リ、リザ?」
だけど、リザはふいに笑う。
やがて目元に手をやりながら口を開く。
「ごめんなさい。あなたがあまりに“疑う”ってことを知らないから」
「え?」
「こんな無垢な少年は、お姉さんが面倒を見てあげないとね」
「うん。これからもよろしく!」
こうして、僕たちは正式にパーティーを組むことになった。
これで都会の喧騒に悩まされずに済みそうだ。
「じゃあ、改めてこれからの事を説明するわね」
そうして、リザが話を始める。
これからの目標についてだ。
「前にも説明した通り、ラビリンスは下へと多くのダンジョンが連なってるわ」
「うん」
「それこそ最前線へ行くには、何週間、何カ月とかかるほどにね」
「へえ……って、あれ」
そこでふと気づくことがある。
僕はそのまま疑問をたずねた。
「食料とか装備とかってどうするの?」
「そこよ。ラビリンスには、いくつかダンジョンを突破するごとに『探索者街』と呼ばれる開拓地があるの。有志たちが作った“街”ね」
「街ってことは安全なの?」
「ええ、被害はまず聞いたことがないわ。『探索者街』専門で商売をする人もいるほど栄えた場所もあるの」
探索者街も、セントラルほどではないけど休息や準備はできる場所みたい。
小休憩地とか、野営地ってところかな。
「セントラルが最初の街だとすれば、“次の街”って言い方が分かりやすいかしら」
「じゃあ、奥に進むときはそこで補給するんだね」
「そう。いくつかダンジョンを突破、探索者街で体を休めて、また奥へと進む。その繰り返しよ」
ダンジョン内に街を作って休憩する。
すごいなあ、都会の人達の考えることは。
「ちなみに、昨日行った『はじまりの平原』。そこからもう一つダンジョンを抜けた先に、次の街があるわ」
「へえ!」
「『ツヴァイ』という探索者街がね」
ここまで話してもらえれば僕でも分かる。
「じゃあ、ひとまず『ツヴァイ』を目指すんだね」
「ええ!」
僕たちは立ち上がった。
今日からは正式にパーティーだ。
「行こう!」
目指すは探索者街ツヴァイ!
★
<三人称視点>
一方その頃、とあるダンジョンにて。
『はじまりの平原』の次にあたるダンジョンのようだ。
そんな場所に、複数人の探索者がいた。
だが、何やら驚いた表情を浮かべている。
「この痕跡は……!」
彼らは探索者の中でも、特に研究に力を入れている者たちだ。
そんな研究者たちが、とある痕跡を発見したようだ。
「どうしてこんな場所に……」
「分からない……」
「ありえないことだぞ……」
それは、本来ここにはいない魔物たちの痕跡。
ジャイアントコングと同等、もしくはそれ以上の強者たちだ。
「一体この辺りで何が起こっているんだ……」
彼らはまだ気づいていない。
その後ろでうごめく、“魔物の頂点たる存在”を。
「クォン……」
ジャイアントコングの件が、異常事態の一端に過ぎないということを。
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