記憶味屋

花結まる

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温かい肉そば

届く想い

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気がつくと、連は箸で蕎麦を挟んでいた。
半分ツユにつけたままで止まっている。
あの肉蕎麦、だけど、ここは違う店だった。
そう、あの隠れ家みたいな店に戻ってきたのだ。
長い間、夢でも見ていたようだ。

いい夢だったな。

連がそう思っていると、蕎麦をずずずっとすする音がした。
隣からだ。
振り向くと、そこには、よく肉蕎麦を一緒に食べた頃のまだ元気なじいちゃんが座っていた。

連くんも蕎麦食べな。

驚きで口が閉じない連に、じいちゃんがあの垂れ目で、にかっと笑って言った。
連と話せるらしい。

じいちゃん、なんでここに?

連が目を見開いて聞くと、そりゃ予約したけん、とさらっと応える。

なんかたまにこの蕎麦を無性に食べたくなるっちゃ。

そう言ってずずずとすする。
そういえば、女店主が予約席だといっていた。
まさか亡くなったじいちゃんが予約していたなんて。
驚いて女店主を探したが、カウンターの奥には誰もいない。
じいちゃん、どうやって予約したん?亡くなったよね?どうしてここにいるん?
連がパニック気味に質問攻めをすると、じいちゃんは、両手でお椀を持ってツユをくいっと飲んだ。

そりゃ、連くんの顔がまた見たくなってね。
元気かね?

わからないことだらけだが、それよりも嬉しさが勝って連は夢中で応える。
大丈夫だよ、上手くやってるで。
そんなら安心だ、といって、じいちゃんは、また蕎麦をすする。

じいちゃん、あのな、なんか昔のこと思い出してん。

じいちゃんは、んん、と蕎麦を詰め込みながら返事をする。

昔、法隆寺、せっかく連れてってくれたのに駄々こねて、帰らせちゃってごめんな。本当は行きたかったやろ?

連がお椀を見つめながらポツリと言うと、じいちゃんは、そうじゃったっけなぁ、と笑う。

それから、よく昔、切符集めるの手伝ってくれて、ありがとうな。あれ、大変やったよな。

そんなんもあったなぁ、とじいちゃんは懐かしむ。

よくこの蕎麦食べながら、話もいっぱい聞いてくれたよな。

じいちゃんは、またにかっと笑う。

連くんは僕の自慢の孫やけぇ。
皆、大事な思い出や。

そう言って、じいちゃんは連の背中をポンポンと叩く。
昔から変わらない、安心させてくれる手の温もりだ。
うん..といって連は蕎麦をすすった。まだ口に入っていても、2回すすった。
そうしなければ込み上げてくるものを止められなかった。

俺な、大学第一志望受かって、東京行ったんよ。じいちゃんに報告にも行ったんやで。

じいちゃんは、蕎麦を食べる手を止めて、連を見る。

覚えちょるよ。全部聴こえよったけん。
おめでとう、連くん。ちゃあんと伝えられなくて、ごめんなぁ。

連は急に口の端がヒクヒクして、目頭が熱くなるのを感じた。急いでお椀に向き直り、蕎麦をすする。

なんや、聴いてくれてたんや。あれじゃ聴こえてたんか分からんかったから…

連が言うと、じいちゃんもにかっと笑う。

聴こえよったよ。ずっと応援してたけん。これからも見守っちょるけんね。

二人とも蕎麦をすする。
あったかい。
胃の中からポカポカして、手先足先までじんわりして、なんだか目まで熱くなってぼやけてきて、これ以上支えられずに、連は目をぎゅっと瞑った。
あたたかな雫が連の顔をつたった。




ふと気がつくと、いつもの駅前にいた。
辺りは真っ暗だが、数軒灯りがついている。
連はハッとして、急いであの店に向かった。
あの店があると思った場所に。
そこは、空き地になっていた。
そういえば、ここはいつも空き地だった。

全部、夢…..?

連は落胆のあまり、深いため息をついた。
夢ならもう少しみていたかった。
そう思って、スーツのポッケに手を入れると何やら紙のようなものがあった。

何だろう、、

取り出してみると、それはあの店の箸袋だった。蕎麦を食べた時、確かにこの袋から箸を出した。

俺、本当にじいちゃんに会ったんだ。

箸袋を見ると、じいちゃんとの会話が鮮明に蘇る。
袋には「記憶味屋」と書いてあった。

きおくみや…..いつかまた行きたいな。

連は、これからどこかで出会うかもしれない奇跡に胸を高鳴らせ、暗い道を温かな灯りを頼りに帰っていった。
箸袋をいつまでも見つめながら。
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