LOZ:彼は無感情で理性的だけど不器用な愛をくれる

meishino

文字の大きさ
59 / 253
混沌たるクラースの船編

59 恋バナ

しおりを挟む
 結論……ここの料理はとっても美味しい!魚介スープとリゾットを注文したわたくしリンは、ここにきてやっとこの旅に参加出来て良かったと実感出来た。できれば地酒も味わいたいところだが、生真面目なボスに反対されて断念した。でも、もしかしたら帰りに内緒で買って、クラースさんの実家で隠れて飲むかもしれない。大人なんだし、今日頑張ったんだから、それくらい良しとして欲しい!

 この食堂のレジの所で、クラースさんが店員さん二人と何やら話している。盗み聞きしている感じからすると、どうやらここはクラースさんの幼馴染が経営しているお店のようだ。小さい島だから、みんな互いのことを知っているんだね。

 私は目の前に座るキリーと、その隣に座るジェーンのことを見た。二人とも食事を終えてから何も話さないで、それぞれウォッフォンを見て時間を潰している。どうしたんだろ、折角なんだからお話しすればいいのに。

「どうしたの~二人とも。元気ないじゃん、疲れたの?」

 するとキリーがウォッフォンを止めて、こっちを見てくれた。

「いや、疲れてないよ。普通に過ごしているだけだけど、何か話したいの?」

 キリーは分かってるね、是非とも話したいよ!私は正直に言った。

「話したい!」

「う、うん、何を話す?」

 キリーがお茶をごくっと飲んで、そう聞いてくれた。なのにジェーンはそのままウォッフォンで操作をし続けているので、気を利かせた私が彼のウォッフォンを操作して、画面を閉じてあげた。するとジェーンはため息交じりに、こちらを見た……睨んだのかもしれない。まあまあ、折角だから、お話ししたいもんね、何を話そうかな。これかな!

 私は笑顔で二人に聞いた。

「ねえねえ、二人の初恋ってどんな感じだったの?」

「もっとマシな議題はありませんか?」

 ジェーンが呆れた顔でそう言った。照れちゃって!

「まあまあ、折角だから普段話さないこと話そうよ!じゃあキリーの初恋は、どんな感じだったの?相手はオーソドックスに同級生とか?」

「え?無いよ。」

 彼女のまさかな回答に私は笑った。

「アッハハ!無いって何?あるでしょ!」

 だが、キリーは頭をぽりぽりと掻いて、申し訳なさそうに言った。

「無いよ……悪いけど。」

 え?嘘でしょ?私が無言でダメージを受けていると、ジェーンがコーヒーを一杯口に含んでから、キリーに聞いた。

「本当に一度も無いのですか?」

「ない……恋したこと無い。」

 私は多分、今すごくにやけているだろう。それか笑顔だと思う。もう分からない。この二十も半ばの女性が、人を愛したことが無いなんて、ちょっと面白い。私の表情を見たキリーが少し怒った声を出した。

「じゃあリンはあるの?」

「あるよ?初恋でしょ?それは中学院の頃だったかな、同じ部活の先輩を好きになったの。まあ片想いで終わったけどね……その程度でいいんだけど、本当にキリーは無いの?」

「……無いってば……じゃあジェーンは?ジェーンはあるよね!?」

 何か知っているのか、キリーがにやけながらジェーンを指差して、そう聞いた。これは何かあるに違いない!きっとジェーンには初恋の相手が居るんだ!一気にワクワクしてきた私は、椅子ごとジェーンに体を向けて、今か今かと彼が話し始めるのを待った。その時、クラースさんが席に戻って来た。手にはコーヒーを持っている。

「何やら面白そうな話をしているようだが、何の話をしているんだ?」

 コーヒーを口に含んだクラースさんの質問に、私は答えた。

「ジェーンの恋の話。」

「ぶっ」と、クラースさんがテーブルにコーヒーを少し吹いてしまった。それを皆が一斉に布巾で拭いた。クラースさんがそうなるのも分かる。だってジェーンに初恋の経験があるなんて!改めて私はジェーンに聞いた。

「それで、ジェーンは誰か好きな人居たの?それも彼女だったりして!」

「そうですね……」と、ジェーンが上の方を見て固まってしまった。少し経ってから彼が口を開いた。

「まあ、そのうち分かることでしょうから結論を言いますと、妻がいます。」

「エ゛ッッッッッッ!?」

 私の急ブレーキの様な叫び声が店内に響いた。クラースさんも目も口もぽかんと開けて、硬直している。キリーはと言うと……冷静にお茶を飲んでいた。知ってたんだな、奴め。こんな大事なことを黙っているとは、後で懲らしめないといけないな。しかし、妻か。つまり妻!?どう言うこと!?

 ジェーンは続けた。

「どの様にして結婚したか、その方法については詳しく説明出来ませんが、妻といっても形だけの契約です。同じ屋根の下で暮らしたこともありませんので、夫婦としての意識は、あまりありませんね。」

「エ゛ッッッッッッ!?」

 またしても私の声が響いてしまった。そのせいで大体のお客様の視線が、私たちに集中した。だって、でもそうでしょ!?堪えきれないよ!形だけの結婚?もしやジェーンは大金持ちの息子さんで、同じく大金持ちの家と連携するために、そこの娘さんと嫌々婚約させられたのかもしれない。それならあの愛を一ミリも知らないロボットみたいな人間に、妻が居ることも納得出来る。

 でも……だからってキリーと一緒に暮らす?色々と聞きたいことが頭の中に混在してしまい、それを整理するのに時間が掛かっていると、私の隣に座るクラースさんがテーブルに身を乗り出してジェーンに聞いた。

「お、同じ家で暮らしたことが無いのに、結婚したのか?その嫁さんとは付き合ったことは無いのか?」

「はい、暮らしたことも無ければ、交際期間もありません。」

 えええ~!?私は開いた口が塞がらない!私は聞いた。

「キリーは恋したこと自体が無いんだよね?」

「無い。」

「ジェーンは奥さんが居るんだよね?」

「はい。」

 ……何それ、訳が分からないけど面白いわ。キハシ君風に言うと面白いじゃん。ハァ~そんな事実があったとは。あまりの衝撃にぼーっとしていると、クラースさんが腕を組みながら、考え込んでいるのが見えた。そして呟いた。

「何だ、そうだったのか……実は島の幼馴染の何人かに、ジェーンを紹介する様に頼まれたんだが……そうか、結婚していたのか。」

 残念そうにクラースさんがため息をついた。そうだったんだ、クラースさんそれは残念だね。でも私としてはちょっと面白い。早速部屋に帰ったら、ポータルにアップしよう。

 それにしてもジェーンは奥さんが居るのに、キリーにあんなに親しくしているんだ……キハシ君が言う通り、その気が無いから、逆に同じ部屋で住めたり寝たり出来るのかも。ああ、きっと割り切ってるんだ。ジェーンそう言うの得意そうだもんなぁ!

「リン、何で歯を食いしばってんの?」

「キリー、いい、いい。話しかけるな。」

 しかしそうなっては、チームイエスである私とアリスが賭けに負けてしまう……掛け金こそ、そんなに多くは無いが、負けること自体が嫌だ。それもキハシ君なんかに。私の方が先輩なのに私よりも優秀な後輩に、これ以上負けてたまるか!ああ、何とかお恵みを!誰でもいい、何でもいいから可能性だけでも、どうかどうかキリーとジェーンがくっつく為のお恵みを!

「お恵みをぉぉ!」

 私は叫び、天に向かって合掌をした。すると他の三人は何事を無かったかのように、帰る準備をし始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る

水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。 婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。 だが―― 「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」 そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。 しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。 『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』 さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。 かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。 そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。 そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。 そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。 アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。 ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

処理中です...