[完結】うちの第二隊副隊長さまはモテ過ぎるのでとっとと結婚してほしい

いかくもハル

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Side グラント

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彼女と初めて会ったのは俺が高等部3年の時だった。

***

ウォルフがジュンジ・サカタの手記を訳したいと言い出した。
ジュンジ・サカタの手記は十分訳されて出回ってるはずだが、実は手記は二種類あるらしい。

宰相の息子であるウォルフは何かと情報通で、をあるルートから手に入れたから訳したいのだと言う。
今の便利な生活はジュンジ・サカタの功績と言っても過言では無く、何故彼の別の手記が訳されていないのか、それは気になる。

図書館に辞書があるから借りに行けば良いのだが、言い出しっぺのウォルフが面倒だと言い出した。 
確かに、図書館に行ってまともに借りて来れた試しが無い。
図書委員に対する印象はハッキリ言って悪い。
何しろ手際が悪すぎる。

借りたい本がすぐに見つかれば15~20分程度で終わるが、場所がわからないと図書委員に任せることになる。
延々待たされた挙句、見つからず探しておくと言われる事がほとんど。
その後教室まで持って来てくれ事もあるが、取りに来てほしいと言われる事もある。
いずれにしても時間がかかるし二度手間なのだ。
出来れば利用は遠慮したい。


ウォルフ、ロバート、俺の3人でジャンケンをして負けた。
ウォルフがついでに、と渡されたメモには更に2冊追加されていた。

こいつ、本来の目的はこの2冊でジュンジの手記は我々の興味を引くために出したな!!
ったく、腹黒のウォルフのやりそうな事だ。

「急ぎでよろしく」

ニヤニヤしながらウォルフが言いやがった。
まぁ、手記は興味もあるし、ジャンケンで負けたのだ、仕方なく図書館まで行った。

今日は人が少ないから、探すのには丁度良い。
どういう訳か、一人で歩いてると俺は女性に絡まれやすい。
あまり邪険にする訳にも行かず、急いでいる時は少々困る。
こんな面白味もない男に絡んだところで何の得があるのか?本当に謎だ。

ここの図書館は広くて、全体を把握してないと目的の本を探すのは難しい。
入り口受付にいた図書委員はいつもの高等部ではなく中等部の生徒らしい。

はぁぁぁ、高等部でさえあの手際の悪さなのだ。
中等部の子ではもっと期待できない。
仕方ない、自力で探すかと棚をうろつき始めた。

「あの、何かお探しですか?」

躊躇いがちに声をかけられた、
見ると、受付にいた少女だった。
キラキラした金の髪と、利発そうな大きな青緑の瞳が印象的なとても可愛らしい子だ。

見兼ねて声をかけてくれたらしい。
上級生で190cm超えるような大きな男に声をかけるのは怖かっただろうに。
軽くかがんで彼女にメモを差し出すと、すぐに案内してくれた。
迷いなく進むその姿にびっくりした。
もしかして、この広い図書館全て把握してるのか?

コーナーまで案内してくれ、探すのまで手伝ってくれた。おかげですぐ見つかった。
しかも、辞書に関しては、こちらが何も言わなくてもジュンジに関する辞書まで提供してくれたのだ。
一歩先を読んで動ける彼女に感心した。
先ほど名を聞いたところ、中等部3年のデパルさんという子らしい。

それから、同じく中等部らしき子と一緒に貸出処理をしてくれたが、その手際が良い事。
あっという間に3冊借りて図書館を出た。
時間にしてトータル10分もかかって無い。
今まで掛かってた時間は何だったんだろう・・・
これからは彼女達にぜひお願いしたい。
あの手際の良さといい、洞察力といい、仕事に対する態度といい、彼女は非常に好感が持てた。

図書館を出てはたと気がついた。
しまった!人に名乗らせておいて、自分が名乗るのを忘れてしまった。
急ぎと言った手前、今更戻るのも間が悪い。今度会った時にでも名乗ろう。

ウォルフに借りて来た本を差し出す。
その早さに驚いていたので、事の顛末を聞かせた。
辞書に関しては彼も感心したらしい。
こちらが名乗るのを忘れてしまったと言うと、呆れたように

「向こうはグラントの事知ってますよ」

と言われた。何故だ?

しかし、あれから何度図書館に行っても、受付の子達に聞いても、デパルさんには会えなかった。

落胆していると、ウォルフがあの子の名前がミランダ・デパルといい、成績も優秀なのだと教えてくれた。
そして、将来公務員目指して今から勉強中である事も。
全く。こいつは密偵でも子飼いにしてるのかと思うくらい色々と情報を仕入れてくる。
彼女の知らぬところで個人情報を知るのはいかがなものかと思い、それ以上の事は聞かなかったが、ウォルフは魔術学校卒業後も時々彼女の情報を仕入れていた。

そして、聞いてもいないのに、告白されても全て断っているだの、魔術専科に進学してからも優秀で魔術師になる様説得されているらしいだのと、俺に話しまくっていた。
そのせいなのか、たった一度、しかも10分弱関わった相手だったのに、ずっと心に引っ掛かっていてのは確かだ。

俺は魔術専科を卒業してから騎士団に入り、彼女が魔術専科に進んでからもウォルフは時々彼女の話をしていた。

「ミランダ・デパルですが、魔術師にはならずにやはり公務員試験を受ける様です。出来れば彼女の様に出来る人は宰相補佐官になってくれるといいのですが」
「公務員試験をうけるなら可能性としてはあるだろう。随分と彼女を気にするな、珍しい」

あれから数年経つのに、いまだどこからか情報を仕入れくる。

「ええ。美しくて能力の高い人は当然好感が持てます。一緒に仕事出来るのなら楽しいと思いませんか?」

うっすらと微笑みながらウォルフが言う。
もしかして会ってるのか?
彼がミランダと呼び捨てにし、好感を持つと言うと、何となく胸がザワザワした。
奴は興味が無い物は徹底無視だ。
それが長きに渡り情報を集めている。
それ程興味を引く対象という事なのだろうか?


そして公務員採用試験では騎士団事務官試験の受験者名簿にその名を見つけて正直ホッとした。

優秀な彼女は、採用試験で魔術実技はアンナ・エメルに首位を譲ったものの、それ以外はトップで通過したのだった。
面接した団長達によると、騎士団事務官の仕事に対する熱い思いは誰よりも強かったという。
そこまで優秀で熱い思いがあったとは・・・正直びっくりした。
通常ならば、おそらくいずれかの団長の事務官になるだろう。

そして、いよいよ配属を決める段階になった時、俺は初めて自分のこれまでの功績を引き合いに出して一つの我が儘を通した。

騎士団第二隊に入隊してから、幸い仕事に恵まれ、業績も残す事が出来た。
おかげで副隊長にまでなれた。
褒賞をもらう機会も何度もあり、その都度、職務を全うしたに過ぎない自分には過ぎたことだと断っていた。
今まで褒賞を辞退した分、ミランダを自分の事務官に所望したところ、団長以下、快く応じてくれた。
少し揶揄われたが・・・
しかし、どうしてもミランダを事務官に欲しかった。

そして、入隊式のミランダを見た時、我が儘を通させてもらって本当に良かったと思った。
黒の軍服に輝く金の髪と鮮やかな青緑の瞳が映え、そこだけスポットライトが当たったかのように周りの男どもの視線を一身に集めていた。
本人は周りの視線などお構いなしに凛とした表情で立っていたが。
それにしても、まだほんの少女だったミランダが6年で驚く程美しい女性に成長したものだ。

あれでは狼の群れどころか、狼の巣穴に直接子ウサギを放り込む様な物だ。

自分の目の届くところなら少しは危険を遠ざける事が出来るだろう。

そして、通常業務になっても、彼女の優秀さ、さりげなく細やかな気遣いは初めて会った時のままか、それ以上のもので、毎度心が洗われるようだった。


毎朝彼女が淹れてくれる上手い紅茶を二人きりの執務室で飲む事が俺の密かな楽しみになっていた。

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