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レーベンの狂犬
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目の前にはナイフ。
後ろの男は大きい。一瞬のことで顔も見えなかった。
ギリギリと腕で締め上げられる。
く、苦しい。
耳元で濁声が響く。
「ずっとこの機会を待ってだぞ。グラント・ロックス」
「お前!バルト・アンガ!何故ここにいるんだ。今頃刑務所のはずだろ」
「レーベンに引き渡されてから、俺の仲間が移送中に助け出してくれたって訳だ。せっかく俺を捕まえたのに残念だったな、ロックス副隊長さま」
バルト・アンガ!!レーベンの狂犬!!強盗に殺人、誘拐に人身売買組織等など・・・しかし、最悪なのは麻薬組織だ。
あちこちの闇組織で麻薬を製造販売しては、莫大な利益を得て凶悪組織を運営していると噂がある。
グラントはグリードエンド内の組織を一つ一つ潰していき、先日やっとの思いで潜伏していたバルトを逮捕したのだが、レーベンが横槍を入れて来た。
なんと、レーベン国籍のバルトの引き渡しを要求して来たのだ。
あの国は散々奴をのさばらしておいて、何を言ってるのだと憤りを隠せなかったが、国が絡めば騎士団にはどうしようもない。
バルトはレーベンに引き渡され、あちらで刑罰を受ける予定だった。
それがこの有様だ。
「俺の組織をことごとく潰してくれた礼はさせてもらう」
「やめろ、バルト!ミランダは関係ないだろ。離せ」
「いいや、関係ある。お前にずっと復讐するチャンスを伺っていたんだ。お前の前でこの婚約者をズタズタに割いて殺してやる」
あんなに悪事を働いておいて、捕まえたグラントに復讐だと!
逆恨みも甚だしい。なんて奴だ。
グラントは私とバルトを交互に見つめながら、苦悶の表情を浮かべている。
私はじっと目の前のナイフを見つめた。
「復讐なら俺を殺せば良いだろう!」
「俺も大事な組織をお前に奪われたんだ。お前から大事な物を奪ってやるのが筋だろう」
「くっ!!」
グラントの後ろを見ると、騒ぎを聞きつけて誰かが通報してくれたのか、第二隊の見回り部隊が集まって来ていた。
だが、状況を見て、迂闊には動けないらしい。
「もう逃げられないんだぞ、バルト!投降しろ。ミランダを離せ」
「いずれにしても死刑になるなら、俺は復讐を果たす」
「っ!!やめろ!!」
グラントの悲痛な声。
ジリジリと緊張感が高まる。
追い詰められた奴は今にも私の喉を掻き切ろうとしていた。
もういいか。
私はフッと顔を上げ、目の前のサバイバルナイフをそっと指先で摘んだ。
いきなりのことでバルトもグラントも動けなかった。
一瞬で普段押さえている魔力を解放し、そのまま指先に力を込める。
バキバキバキバキッ!
鋼鉄のナイフは砕けた。
「「!!!」」
呆気に取られたバルトの腕をむんずと掴むと、素早く体を入れ替え、そのまま横の壁に叩きつけた。
ドガッ!
あ、ヤバッ!壁ちょっと崩れた。
「あがっっ!」
ズルズルと地面に横たわる。
突然の事で何が起きたかわかってないようだ。
それにしても、まだ、意識あるんだ。へぇ~、さすが狂犬、しぶといな。
かがみ込んでグッタリしたヤツの首元を掴んで持ち上げると、右手に握り拳を作った。
「人のデートを邪魔すんなっての!」
目一杯ヤツの顔面に右の拳を叩きつけ、第二隊の方へ向かって殴り飛ばした。
メキメキッ!
「ぶへっ!」
唖然とするグラントと第二隊のメンバーの前に、白目をむいて顔面にパンチの後のついた、無残なバルトが吹っ飛ばされ、ゴロゴロと転がった。完全に気を失っている。
「全く。黙って聞いてれば好き勝手な事を。私をやるならやられる覚悟を持ってこいやっっ!!!」
はぁ、スッキリした。パンパンと両手を払って路地裏から出て来る。
全く、喧嘩売るなら相手の力量ぐらい測れっての。
呆然と私を見る第二隊の隊員に向かって言った。
「ん?どうしたんですかみんな。ボサっとしてないで、とっととコイツを連れて行って下さい」
ハッとなって慌てて、見回り部隊が意識の無いバルトに手錠をかけ、連行して行った。
グラントが私に駆け寄って来て抱きしめた。
「ミランダ!すまない。大丈夫だったか?」
「見ての通り、全然大丈夫」
テヘッと笑う。
あ、びっくりしたよね。いきなり凶悪犯ぶっ飛ばしたんだもんね。
「それにしても、さっきのあれは?」
「あ~、あの、私の能力、『剛腕』なの。母譲りなんだ」
「剛腕!サマンサさんもそうなのか!?」
「そう。調査員してた頃から家族も狙われるかもしれないって、小さい頃から子供達3人は母から戦闘とサバイバル訓練を受けてたの」
「なるほど、それであんなに強いのか」
「普段使うことないからほとんど忘れてたけど。ごめんね、言ってなくて。幻滅した?」
恐る恐る彼を見る。
グラントは驚いたように目を見張ってから、ニッコリと笑った。
「まさか!惚れ直した!ミランダは俺の嫁にピッタリだよ!」
ぎゅっと抱きしめて、頬ずりしてくれた。
***
それからというもの、あの凶悪犯バルトをぶっ飛ばして逮捕させた私に絡んでくる強者などいるはずもなく、それどころか騎士団に行けば、
「あ、姉御、おはようございます」
「姉御!副隊長はまだ訓練中なのでこちらでお待ち下さい」
「姉御!」
姉御、姉御とうるさいって。
どうやら、あの時いた見回り部隊から私の武勇伝を聞いて、私はすっかり第二隊から姉御呼ばわりされるようになってしまった。
まぁ、嫌われるよりかはいいか・・・
バルトは今度こそ、レーベン引き渡されることなく、求刑通り死刑となり、即刻執行された。
魂が抜けたように大人しかったらしい。
私は凶悪犯バルト逮捕のお手柄として、なんと陛下直々に表彰されることになった。
陛下の前で緊張する私に、陛下はバッチンとウインクすると
「さすがサマンサの娘だよね。知ってる?サマンサの学生時代のあだ名はね・・・」
「!!」
その日の帰り、グラントが送ってくれることになった。
今日は馬に乗せてくれるらしい。
騎士の格好に馬の組み合わせのグラントが格好良過ぎて、恥ずかしさなどぶっ飛んでしまった。
きゃー!久々に鼻血出そう!!
グラントが馬上から爽やかに笑いかけて来た。
「たまには良いだろ?馬も」
はい、すっごく良いです。
コクコクコクと頷くことしか出来なかった。
無事馬上に引き上げてもらい、パカポコと馬に揺られて家路に向かう。
「そういえば、さっき陛下に何か言われてなかった?」
「ええっと、大したことじゃないんだよ。はは」
「そうか」
グラントはそれ以上追求するつもりはなかったらしく、すぐ別の話題になったのでホッとした。
ニンマリとイタズラっぽく笑う陛下を思い出す。
『知ってる?サマンサの学生時代のあだ名はね、ゴリラとサマンサで、ゴリサマって呼ばれてたんだよ』
母よ、あなたの判断は正しかった。
私もこんな義父は嫌だ!!!!
後ろの男は大きい。一瞬のことで顔も見えなかった。
ギリギリと腕で締め上げられる。
く、苦しい。
耳元で濁声が響く。
「ずっとこの機会を待ってだぞ。グラント・ロックス」
「お前!バルト・アンガ!何故ここにいるんだ。今頃刑務所のはずだろ」
「レーベンに引き渡されてから、俺の仲間が移送中に助け出してくれたって訳だ。せっかく俺を捕まえたのに残念だったな、ロックス副隊長さま」
バルト・アンガ!!レーベンの狂犬!!強盗に殺人、誘拐に人身売買組織等など・・・しかし、最悪なのは麻薬組織だ。
あちこちの闇組織で麻薬を製造販売しては、莫大な利益を得て凶悪組織を運営していると噂がある。
グラントはグリードエンド内の組織を一つ一つ潰していき、先日やっとの思いで潜伏していたバルトを逮捕したのだが、レーベンが横槍を入れて来た。
なんと、レーベン国籍のバルトの引き渡しを要求して来たのだ。
あの国は散々奴をのさばらしておいて、何を言ってるのだと憤りを隠せなかったが、国が絡めば騎士団にはどうしようもない。
バルトはレーベンに引き渡され、あちらで刑罰を受ける予定だった。
それがこの有様だ。
「俺の組織をことごとく潰してくれた礼はさせてもらう」
「やめろ、バルト!ミランダは関係ないだろ。離せ」
「いいや、関係ある。お前にずっと復讐するチャンスを伺っていたんだ。お前の前でこの婚約者をズタズタに割いて殺してやる」
あんなに悪事を働いておいて、捕まえたグラントに復讐だと!
逆恨みも甚だしい。なんて奴だ。
グラントは私とバルトを交互に見つめながら、苦悶の表情を浮かべている。
私はじっと目の前のナイフを見つめた。
「復讐なら俺を殺せば良いだろう!」
「俺も大事な組織をお前に奪われたんだ。お前から大事な物を奪ってやるのが筋だろう」
「くっ!!」
グラントの後ろを見ると、騒ぎを聞きつけて誰かが通報してくれたのか、第二隊の見回り部隊が集まって来ていた。
だが、状況を見て、迂闊には動けないらしい。
「もう逃げられないんだぞ、バルト!投降しろ。ミランダを離せ」
「いずれにしても死刑になるなら、俺は復讐を果たす」
「っ!!やめろ!!」
グラントの悲痛な声。
ジリジリと緊張感が高まる。
追い詰められた奴は今にも私の喉を掻き切ろうとしていた。
もういいか。
私はフッと顔を上げ、目の前のサバイバルナイフをそっと指先で摘んだ。
いきなりのことでバルトもグラントも動けなかった。
一瞬で普段押さえている魔力を解放し、そのまま指先に力を込める。
バキバキバキバキッ!
鋼鉄のナイフは砕けた。
「「!!!」」
呆気に取られたバルトの腕をむんずと掴むと、素早く体を入れ替え、そのまま横の壁に叩きつけた。
ドガッ!
あ、ヤバッ!壁ちょっと崩れた。
「あがっっ!」
ズルズルと地面に横たわる。
突然の事で何が起きたかわかってないようだ。
それにしても、まだ、意識あるんだ。へぇ~、さすが狂犬、しぶといな。
かがみ込んでグッタリしたヤツの首元を掴んで持ち上げると、右手に握り拳を作った。
「人のデートを邪魔すんなっての!」
目一杯ヤツの顔面に右の拳を叩きつけ、第二隊の方へ向かって殴り飛ばした。
メキメキッ!
「ぶへっ!」
唖然とするグラントと第二隊のメンバーの前に、白目をむいて顔面にパンチの後のついた、無残なバルトが吹っ飛ばされ、ゴロゴロと転がった。完全に気を失っている。
「全く。黙って聞いてれば好き勝手な事を。私をやるならやられる覚悟を持ってこいやっっ!!!」
はぁ、スッキリした。パンパンと両手を払って路地裏から出て来る。
全く、喧嘩売るなら相手の力量ぐらい測れっての。
呆然と私を見る第二隊の隊員に向かって言った。
「ん?どうしたんですかみんな。ボサっとしてないで、とっととコイツを連れて行って下さい」
ハッとなって慌てて、見回り部隊が意識の無いバルトに手錠をかけ、連行して行った。
グラントが私に駆け寄って来て抱きしめた。
「ミランダ!すまない。大丈夫だったか?」
「見ての通り、全然大丈夫」
テヘッと笑う。
あ、びっくりしたよね。いきなり凶悪犯ぶっ飛ばしたんだもんね。
「それにしても、さっきのあれは?」
「あ~、あの、私の能力、『剛腕』なの。母譲りなんだ」
「剛腕!サマンサさんもそうなのか!?」
「そう。調査員してた頃から家族も狙われるかもしれないって、小さい頃から子供達3人は母から戦闘とサバイバル訓練を受けてたの」
「なるほど、それであんなに強いのか」
「普段使うことないからほとんど忘れてたけど。ごめんね、言ってなくて。幻滅した?」
恐る恐る彼を見る。
グラントは驚いたように目を見張ってから、ニッコリと笑った。
「まさか!惚れ直した!ミランダは俺の嫁にピッタリだよ!」
ぎゅっと抱きしめて、頬ずりしてくれた。
***
それからというもの、あの凶悪犯バルトをぶっ飛ばして逮捕させた私に絡んでくる強者などいるはずもなく、それどころか騎士団に行けば、
「あ、姉御、おはようございます」
「姉御!副隊長はまだ訓練中なのでこちらでお待ち下さい」
「姉御!」
姉御、姉御とうるさいって。
どうやら、あの時いた見回り部隊から私の武勇伝を聞いて、私はすっかり第二隊から姉御呼ばわりされるようになってしまった。
まぁ、嫌われるよりかはいいか・・・
バルトは今度こそ、レーベン引き渡されることなく、求刑通り死刑となり、即刻執行された。
魂が抜けたように大人しかったらしい。
私は凶悪犯バルト逮捕のお手柄として、なんと陛下直々に表彰されることになった。
陛下の前で緊張する私に、陛下はバッチンとウインクすると
「さすがサマンサの娘だよね。知ってる?サマンサの学生時代のあだ名はね・・・」
「!!」
その日の帰り、グラントが送ってくれることになった。
今日は馬に乗せてくれるらしい。
騎士の格好に馬の組み合わせのグラントが格好良過ぎて、恥ずかしさなどぶっ飛んでしまった。
きゃー!久々に鼻血出そう!!
グラントが馬上から爽やかに笑いかけて来た。
「たまには良いだろ?馬も」
はい、すっごく良いです。
コクコクコクと頷くことしか出来なかった。
無事馬上に引き上げてもらい、パカポコと馬に揺られて家路に向かう。
「そういえば、さっき陛下に何か言われてなかった?」
「ええっと、大したことじゃないんだよ。はは」
「そうか」
グラントはそれ以上追求するつもりはなかったらしく、すぐ別の話題になったのでホッとした。
ニンマリとイタズラっぽく笑う陛下を思い出す。
『知ってる?サマンサの学生時代のあだ名はね、ゴリラとサマンサで、ゴリサマって呼ばれてたんだよ』
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