[完結】うちの第二隊副隊長さまはモテ過ぎるのでとっとと結婚してほしい

いかくもハル

文字の大きさ
26 / 37

【番外編】マリモリ先生の受難2

しおりを挟む
私の書いた『青薔薇の騎士団』が、何と特別賞をもらい、書籍化することが決まった。
私がまだ魔術学校高等部で未成年であるため、年齢、性別一才不明の作家としてデビューする事になった。

しかも、担当さんから、この騎士団はシリーズ化する事が決定したと、またも嬉しいことを言われた。

何しろ、目の前にモデルがいるのだ。
彼らを見ていればアイデアはどんどん浮かんでくる。
しかも彼らは揃いも揃って主人公級に個性もあるのだ。
何と有難い!!
主人公も話ごとに変えて、バリエーションも豊富にした。


***

無事、小説も発売され、青薔薇騎士団は世の乙女たちの心をとらえたようで、BL小説としては珍しくランキング上位に上がる売れ行きになり、シリーズは高評価で私はBL作家の「マリモリ」として、認知されていた。
もちろん、学業があるからそちらを優先させてもらっているのでペースとしてはゆっくりだったけど、私はおっとりしてるから丁度良かった。


そんなある日、初めての授業参観があった。
年に一度、子供たちの学校生活を親御さんたちが見にくる日があるのだという。
うちは父は領地があるから、母が見に来てくれる。
隔週で帰るようにはしたので、久しぶりというほどではないけど、わざわざ王都まで見に来てくれるのはやっぱり嬉しい。

うちのクラスはグラントくん、クリストファーくん、ウォルフくんと有名人3人が揃っているので、この3人の親御さんたちを生で拝見出来る機会は中々なくて、ちょっとドキドキしていた。

グラントくんのお父さんは第二隊隊長だけあって、背が高くて逞しくて、The男!って感じでめちゃくちゃカッコイイ!
テレビでは何度か見た事あったけど、生ロベルトさんは迫力も凄かった。

ウォルフくんのお父さんもスラリとして、上品なイケメン紳士という感じだったけど、物凄く切れ物の雰囲気はあった。さすが!

そして、一番びっくりしたのがクリストファーくんのお父さんのレオナルドさん。
浄化師って普段あまり見かける事は無かったんだけど、存在感が凄かった。
腰まである銀髪といい、深い紫の瞳といい、圧倒されるくらい美しくって、神様みたいだった。生きてる人かな?っていうくらい。
隣には金髪の物凄い美女がいて、この人はきっとお母さんだよね。クリストファーくんに似てるし、レオナルドさんと腕を組んですっごい仲良さそうだ。
素敵なご夫婦だな~と思った。

本当に世の中凄い人がいるもんだよね。
それにしても、レオナルドさんは凄い。この人でも何かいい話が浮かびそう。


***

私の学生生活も作家生活も順調そのもので、シリーズ化した青薔薇騎士団と新たに『僕のおじさま』というシリーズも書いている。

気がつけば、高等部3年生になっていた。
あまり人の来ない古びた温室の一角にちょっとした自分の用の書斎を作っていた。
といっても、放置されていた机と椅子を使えるように綺麗にしただけなんだけどね。

部活は入ってないし、すぐに寮に戻るのもなぁって時には、お茶買って、ここで小説を書いていたりする。

そして今日もまたいつものように、柔らかな日の入る明るい温室で夢中になって書いていた。



「何してるの?」

不意に声が聞こえた。

「ヒッ!!!」

物凄い近くで声がして、ビックリして思いっきりのけぞってしまったため、書きかけの小説をあちこちにばら撒いてしまった。

「ごめんね。びっくりさせちゃった?何度か声かけたんだけど」
「お、お、お、王太子殿下!!何故ここに?」

見るとジークフリード殿下だった。
毛先に緩いウェーブのある銅色の髪、王家の瑠璃色の瞳。
繊細に整った美貌。
間違いない、王太子殿下だ。
なんで護衛もつけずに一人でいるのだろう。

「んー?何でかって?よくここに気晴らしに来るからだよ。君は?」

言われてハッとなった。しまった、ビックリしすぎて不敬な態度を取ってしまった!
慌てて立ち上がって、スカートをつまみ、軽く膝を曲げて頭を下げて自己紹介をした。

「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私は高等部3年のエマリア・モリーシュです」
「3年生・・・じゃあ、先輩じゃないですか。モリーシュっていうと、あの公爵領のお嬢さんかな?」
「は、はい!そうです。ハロルド・モリーシュの娘です」

思わず、ピンッと背筋を伸ばして答えた。
柔らかい声なんだけど、背筋を伸ばさずにはいられない不思議な声音だ。
殿下はそんな私を見ると、クスクスと笑った。

「後輩にそんなに気を使わないで下さい。モリーシュ先輩」
「いえいえ、畏れ多い。敬語など使わないで下さい」

確か、今年入学で高等部1年生のはず。
私より遥かに背が高くて、大人っぽい。
銅色の髪の毛が夕日に当たってキラキラして凄く綺麗だった。

足元に散らばった紙をついと拾い上げ、何気なく目を通している。
ん?!?
あわわわわわわっっっっっ!!!み、み、み見られてる!殿下に!よりによってBL小説をっっ!!
奪い返したいのはやまやまなれど、そんな無礼な真似は出来ず、ただただ、あわあわするしか出来なかった。

殿下の口元はニンマリと笑みをこぼして、ゆっくりとこちらを見た。

「先輩って中々なお話を書くんですね。見かけによらず」
「も、申し訳・・・」

死んだ。もう死んだ。恥ずか死んだ。
涙が滲んできて、よく見えない。
何とも言えず、ただ俯いてやり過ごすしかなかった。


「はい」

え?いつのまにか、散らばった紙を拾い集めてくれていたらしい。
何が起こったかよくわからず、目の前に差し出された紙をただぼんやりと見つめることしか出来なかった。
王太子は私の右手をそっと持ち上げると手の平を上に向けて紙の束を置いてくれた。

「大事な原稿なんでしょう?無くしたらダメだよ。ちゃんと持って」
「はい・・・拾っていただき、ありがとう、ございます」

ようやくつっかえつっかえ、お礼を言った。

「じゃあ、またね。マリモリ先生」
「!!!」

耳元でそう言われて、思わず衝撃で顔を上げてしまった。
殿下はクスッと笑うと、原稿を指差し、書いてある、と声には出さずにそう言うと、スルリと温室から出て行った。

私はそのまま原稿を抱え込むと、ペタンと地面にへたり込んだ。
はぁぁぁ、びっくりした。
何で王太子がここにいたんだろう。よく気晴らしに来るって言ってたけど、一度も会ったことはない。
たまたま被らなかっただけなんだろうけど、それよりも、私がBL小説を書いているのを知られてしまった!!

どうしよう・・・どうしようも無いけど・・・
何となく、殿下は広めたりしない人だろうと思った。
考えてみたら、変な人が変な話を書いている、くらいにしか思わないだろう。
忙しい人だし、私の事などすぐに忘れてくれるはず。
そう思っていた。









しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...