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【番外編】魔術書のおっさんとミランダ 3

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~アシュレイ~

あっという間に土曜日になった。
何か、今週は忙しかったなぁ。
エコード所長にアダモスの魔術書は義姉の所にあった事を報告したら、何が何でも契約させるか、俺と契約をかわせと言われるし。
簡単に言ってくれるが、あの義姉がそんなすぐに契約するものか!
一筋縄では行かないんだぞ、全く。

今日はこの後午後から兄貴の家に行く事になっている。
もちろん、魔術書についてと魔術研究所への勧誘だ。

ハァァ、気が重い。子供たちに会えるのは良いんだけどな。
可愛いし、和むし。あ、そうだ、三人にお土産買って行かなきゃな。


何だかんだでお土産がいっぱいになってしまったが、約束の時間に兄貴の家に訪問した。

「いらっしゃい。休みの日に悪いなアシュレイ」
「本当、わざわざありがとうございます」
「いや、特に出かける予定もないし、魔術書を復活させたの俺だしね」

出かける予定が無いと聞いたからか、二人は明らかに同情するような目で俺を見る。
だから、やめろってぇ、その可哀想な人を見る目は。
別にいいだろ!好きで一人でいるんだから。
そもそも、義姉だって、仕事に打ち込んで独身通すつもりだったって、言ってたじゃ無いか!

「も~、俺は良いんだよ。ほら土産」
「おう、気を遣わせてすまん。夕飯は食ってってくれ」
「子供たちのお土産こんなに?ありがとう。上がって下さい。魔術書はリビングにあるんで」
「?本棚じゃなく?」
「えぇ、ちょっと、ね。二度と寝室には行かないようクギ差したんで」

何かあったらしい。始まりの魔術師とはいえ、義姉には勝手が違うのだろうな。

リビングに行くと、テーブルの上にちんまりと魔術書が置かれていた。
見た感じ、復活した時のままだ。

「義姉さん、魔術書と話した?どうだった?」
「あ、う~んとね。とりあえず契約は断った」

やっぱりな。
しかし、珍しく歯切れの悪い言い方だな、何だろう。

「俺でも話せるかな?」

と聞いてみたら、何と義姉は魔術書をバシン!と小突いた。
おいおい、貴重な魔術書だぞ。なんて事してくれる。

「ほら、アシュレイさんが話せって」
『全く、魔術書使いの荒い女子おなごじゃの。おぉ、お前がアシュレイか。わしはアダモス・ゴードンだ』
「どぅも、お目にかかれて光栄です」

頭に響く感じは何とも気持ちが悪いが、始まりの魔術師と話せるのは何とも感慨深い。

『お前さんから、わしと契約するよう何とかこの女子おなごを説得してもらえんか?』
「だーかーらー、私は騎士団事務官なの!魔術師じゃ無いの!」
「そうは言っても義姉さん、今、事務官に空きが無いんだろ?」
「ぐっ、そうなんだけど・・・」 
「事務官だとブランクも随分あるし、魔術師の方は子供たち小さいからその辺考慮して毎日来なくても良いって」
「え?そうなの?」
「義姉さんには古い魔術書とか、汚れて読めなくなった書類とか、改ざんされた書類とかを元の状態に戻す仕事をして欲しいんだって」
「あ、そういうので良いんだ」

あれ、乗ってきた?もしかしたら行ける?

「そうそう。詳しくはエコード所長から聞くと思うが、魔術書と契約すると魔力が上がるし、仕事はしやすくなると思う」
『そ、そうだ!そうだ!時を遡る魔力の手伝いならするぞ』
「あと、ぶっちゃけ、事務官より給料は良い」
「うっ」

良し!後、一息だな。

「基本個人で働くから干渉してくる人もいないし、事務官よりは集中して仕事出来る職場だと思うけどな」
「俺も騎士団の別の隊に行かれるくらいなら、魔術研究所の方が安心出来る」

兄貴、ナイスアシスト!
そうだよな、男ばかりのガツガツした騎士団より魔術師の方が安心だろ。
基本的に魔術にしか興味ない奴らばかりだからな。

「そっかぁ、グラントがそう言うなら、考えても良いかな。一度所長の話しを聞いても良い?」
「もちろん!」

よぉっしゃぁぁ!俺は心の中でガッツポーズをした。

『でかした!小僧!ほれ、ミランダ。わしと契約せい』
「それは嫌!」
『な、何故?』
「だって、男は好かん、女が良い、なんて発言する人と契約するの嫌でしょ」

聞いた途端、兄貴から怒りの魔力が魔術書に放たれた。

バシン!という音とともに、ギャァと魔術書から悲鳴が上がる。
うわっ!兄貴容赦ねぇな。
魔術書を見ると、表紙の一部がブスブスと焦げついている。
兄貴は義姉のことになるとエゲツない。

『わ、悪かった!わしが悪かった!もうそんな事言わんから。アシュレイ助けてくれっっ!』
「兄貴、こう言ってるから許してやって。一応この魔術書貴重品なんだ」

呆れた口調で取り成した。
俺も今まで話聞いてて、ちょっと契約するの、嫌になったけどな。
兄貴は気が済んだのか、スッと魔力を消した。
はぁ、良かった。

「兄貴と義姉さんを怒らせんなよ。魔術師じゃ無いから当たり強いぞ」
『そのようじゃな、肝が冷えたのは何百年ぶりかの』

手に取るとカタカタと震えている。余程兄貴の怒りが怖かったと見える。
まぁ、そうだろうな。あの魔力をまともに食らえば恐ろしかろう。
あれでもかなり抑えてたけどな。

「契約はしないけど、仕事は手伝ってよ」
『何だと?』
「ずっとまともに働いてないんでしょ?ブランクでいったら私以上じゃない。契約するにしても、使えるかどうか見てからにする」

確かに!すっごい現実的だ。
義姉には「始まりの魔術師」なんて肩書きは通用しないらしい。
さすが、ゴリサマと呼ばれた王国調査局のサマンサ局長の娘だ。
伝説の人物にも対等に渡り合うとはな。
俺は笑いが込み上げて来た。

「あっはっはっ!アダモス・ゴードン、あんたの負けだよ。義姉さんに契約してもらえるよう、頑張って成果出すんだな」

思わず俺も、バシン!と小突いてしまった。

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