社畜モブの俺、異世界転移したら「Sub」っていわれたんだけど。え、「Sub」って何ですか?

鉾田 ほこ

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4章

1 漏れてる! 漏れてるから!!

 いい加減限界だ。
 公務は少しも減ることはないのに、加えて厄介事というものはいつだってサイベリアンの予定も体調もおかまいなしに舞い込んでくる。
 ゾイがケンを連れ戻しに来た日に約束された通り、サイベリアンは少しも手を抜くことなく日々の仕事に励んでいる。ゾイに言われるまでもなく、今までだって公務もそれ以外の頼まれごとにしても、手を抜いたことなどないのだが──。
 早くケンに会いに行くためにも、積みあがる仕事を綺麗に片づけたいのだが、案件を処理したはしから、次の案件がサイベリアンの元に舞い込んできて多忙を極めている。
 執務机の紙束の量は少しも減っていない。いや、多少は減っただろう……が、積みあがっていることにかわりはない。サイベリアンは一向に片付かない仕事にイラつき始めていた。
 光陰矢の如し。
 ゾイがケンを連れ戻しに来た日から、山積みの仕事にかまけているあいだになんだかんだとひと月は過ぎていた。
 たかだかひと月プレイをしないくらいで、いままで体調に不調がでるほどダイナミクスのストレスなどたまったことはなかった。それが、どうだろうか──。
「お前、最近寝ているか?」
 机の前に立つレオンの視線が突き刺さるが痛くも痒くもない。
 無視して机に広げられている書類に目を走らせ、右手に持ったペンでサインをしていく。右から左、右から左、まだ午前中だというのにその往復を何度しただろう。
 書類を眺めながら思うのは、「こんなことまで俺が確認する必要があるのか」という疑問だ。カニス帝国の貴族は武力に秀でたものが多い一方で、頭脳を使うことを得意とするものはあまり多くない……こともないのだが、優秀な嫡子はだいたいが親の後を継ぐために領地で領主補佐のような仕事をすることが多い。その兄弟も多くは領地を発展させることに尽力しており、結果文官として城に勤めるものは、不良とまでは言えないが、真面目だがいまいちポンコツか、最低限にも満たない仕事しかしないものになっている。
 サイベリアンの上には兄がいる。その兄は書類仕事だけなら、自分以上の業務をこなしているのだ。文句も言えない。すぐ下の弟も真面目で優秀だが、まだ学生だ。公務を任せられはしない。
 人を育てないことにはこの忙しさからは抜け出せないのはわかっているが、人を育てることだって一朝一夕にはいかない。

 サイベリアンの頭を悩ませているのは、人手不足だけではなかった。
 ひと月前に取り逃したハエニダエ侯爵がすっかり鳴りを潜めている。各地からダイナミクスを持つ人が行方不明になっているという報告は増えはしなくとも、減ってはいない。つまり、相変わらずのように人攫いが横行しているのだ。
 それにもかかわらず、取引を行っているという情報はぴたりとやんだ。
 こちらの捜査があと一歩のところまで手を伸ばしていたことを察したかのように、ほとぼりが冷めるのを待っているのか、奴隷を売買する動きが一切ない。
 人がいなくなったという情報をもとに捜査し、人攫いの拠点をいくつかはつぶした。見つけたあじとを捜索するが、違法に連れてこられた人々がそのあとどのように処理されるのか、どこに売られるのか、そういった情報は全く出てこないのだ。
 捕まえた人攫いたちに拷問に近い尋問を行っても、口を割らない……というより、そもそも自分たちが捕まえた人たちをそのあとにどうするのか知らないようだった。
 誰かの指示でその仕事を受けたというわけではない。
 それは「人を攫うこと」がならず者の間では、金になる生業なりわいだと常識として広まっているということなのか、何なのか。
 末端をいくらつぶしたところで、大本をつぶさなくては意味がないということを突き付けられているようだった。早く解決したい。ダイナミクスを持つというだけで、危険にさらされている無辜の帝国民をこれ以上増やしてはならない。

 目の前の書類に目を通しながら、無意識に低い唸り声をあげる。このままならない状況をどうにもできない自分自身に、サイベリアンは苛立ちをおされられなかった。
「おい、漏れてる漏れてる」
「なにがだ」
Glareグレアだよ、Glareグレア
「……」
「ダイナミクス持ちじゃない俺ですら感じるって相当だぞ!?」
 言われなくてもわかっている。
 こんなに自分の感情がコントロールできなかったことも過去にはなかった。
 ふと頭をよぎるのは──。
 あの人に会いたい。
 そんな焦燥感がストレスと重なり合って、苛立ちを抑えられない。
 忙しさに加えて、ダイナミクスのストレスを発散していないことも原因だということは、自分自身がよくわかっていた。
 だが、ただ体調を整えるため、ストレスを発散させるため、だとわかっていても、あの人以外とプレイをする気が起きないのだから仕方がない。
「あぁ……会いたい、ケン」
「なんか言ったか?」
 口の中でつぶやいた言葉は目の前のレオンの耳には届かなかった。
「いや……、すまない。昼食を持ってきてくれるように伝えてくれ」
「わかった。昼めし食ったら少し休めよ」
 サイベリアンはそれには返事をせずに目の前の書類をめくった。
  
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