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4章
31 今日はプレイをしないのですか?
「今日はプレイをしないのですか?」と尋ねたい。なんなら、もっと直接的に「何しに来たのですか?」と聞きたいくらいだ。
だが、何度も言うが、小心者の健介にそんなことを相手に直接尋ねることなどできないのだ。事の成り行きを相手に任せることしかできない。
「あ、あの……」
「ケンについて知りたいんだ」
健介が声を上げたタイミングとサイベリアンが話し始めるタイミングが重なる。しかも、「ケンについて」知りたいと。何について知りたいのか……。何も面白い話などない。
「は、はぁ……」
言われたことへの回答に窮して、またも曖昧な返事を返す。こんなときにシゴデキ営業マンとかなら、なんて返すのだろうかと健介は不思議でたまらない。
他人とコミュニケーションを取る能力が圧倒的に欠けている認識はある。
だが、シュナやバーニーと話をしていると二人が話をしてくれるので、上手いこと会話が成り立っているように勘違いしていたのだが、自分からは特になにも話してはいないのだ。
それは記憶喪失を装っていて、話せることがないとかそういう次元の話ではなく、健介は会話を拡げる、膨らませるということが得意ではなかった。
コミュニケーションが上手い人なら、聞かれたくないことを聞かれてもさりげなく会話を別の方向に誘導したりすることができるが、健介にはそんな芸当は逆立ちしても無理だった。
(だからいろいろ押し付けられて社畜だったんだけど……)
そんなことを思い出して憂鬱になっても、目の前のもっと憂鬱な状況から抜け出せるわけではない。
「はぁ……」から先の会話が続かないことにサイベリアンはどう考えているのだろう。
「でも、記憶喪失じゃ話せることもあまりないのか……」
「そうですね!」
思いのほか力強く答えてしまった。もう少し記憶喪失を憂いているような神妙な返事のほうがよかったかもしれない。
サイベリアンはおもむろに部屋を見渡す。何かあるかと健介もつられて部屋を見た。
何も特別なことはない。いつもと変わらないプレイルームだ。
サイベリアンは何度かこのハウスを訪れているが、毎回違う部屋に通されているが、入口の扉の位置が違うだけで、中の造りはどれも一緒である。部屋の真ん中にどんと置かれた大きなベッド、三人掛けの布張りのソファとその脇に置かれたスツール。スツールの上には水の入ったボトルとグラスがいくつか置かれている。
カーテンは分厚く外の光を通さない。いまは夜なので関係ないが、掃除のときと人が入るまでは開けられているが、プレイを始めるときには昼でも夜でもカーテンはぴったりと閉じられたままだ。
特に変わったところもない。
サイベリアンを見上げると、その人はじっと健介を見下ろしていた。
(なんだろう……)
正面から見続けることができず、健介はすっと視線を外した。
なおも見つめるサイベリアンの視線が頬のあたりに突き刺さる。
「ケンはどうしてプレイヤーに?」
プレイヤー? いや、プレイヤーではないのだが、その説明はしていいのだろうか。判断が難しい。無難にこのハウスで働き始めた経緯を話すことにする。
「助け出された救護院でこのハウスで働く推薦状をいただきまして……」
「救護院で?」
「そ、そうです」
救護院ではハウスの仕事の推薦は出さないのだろうかどうか、健介にはその辺の常識がないので聞き返された理由が判然としない。でも、これについては嘘はついていないのだから胸を張って答えられる。
「あぁ、さっきから質問攻めだね」
そういって健介に微笑む。キラキラのイケメンが薄暗い部屋で微笑みかけてくる破壊力たるや……。何の意味もないはずなのに胸が高鳴ってくるから不思議だ。
ぱっと目をそらして下を向くと自分の姿が目に入る。
自分の格好はよく見なくとも、プレイをしないのに下着にガウンだけというなんとも恥ずかしい姿だ。
サイベリアンにプレイをする気がないのなら、一刻も早く何かを着た方がいい。この間抜けな格好のまま質問攻めにされるのはどうにもいただけない。
「あの、き……」
「今度は自分の話をしようと思う」
またもタイミングが悪く、健介とサイベリアンの声がかぶる。
「すまない。ケン、何かあったか?」
サイベリアンが真剣な表情で健介をじっと見つめる。その眼差しに一瞬怯んで健介は視線を泳がせたが、サイベリアンに向き直って、
「い、いえ。大丈夫です……。ど、どうぞ」
と言って、サイベリアンの前に手のひらを差し出した。早くも健介は自分が下着にガウン一枚の姿で話続けることを受け入れる。
だが、何度も言うが、小心者の健介にそんなことを相手に直接尋ねることなどできないのだ。事の成り行きを相手に任せることしかできない。
「あ、あの……」
「ケンについて知りたいんだ」
健介が声を上げたタイミングとサイベリアンが話し始めるタイミングが重なる。しかも、「ケンについて」知りたいと。何について知りたいのか……。何も面白い話などない。
「は、はぁ……」
言われたことへの回答に窮して、またも曖昧な返事を返す。こんなときにシゴデキ営業マンとかなら、なんて返すのだろうかと健介は不思議でたまらない。
他人とコミュニケーションを取る能力が圧倒的に欠けている認識はある。
だが、シュナやバーニーと話をしていると二人が話をしてくれるので、上手いこと会話が成り立っているように勘違いしていたのだが、自分からは特になにも話してはいないのだ。
それは記憶喪失を装っていて、話せることがないとかそういう次元の話ではなく、健介は会話を拡げる、膨らませるということが得意ではなかった。
コミュニケーションが上手い人なら、聞かれたくないことを聞かれてもさりげなく会話を別の方向に誘導したりすることができるが、健介にはそんな芸当は逆立ちしても無理だった。
(だからいろいろ押し付けられて社畜だったんだけど……)
そんなことを思い出して憂鬱になっても、目の前のもっと憂鬱な状況から抜け出せるわけではない。
「はぁ……」から先の会話が続かないことにサイベリアンはどう考えているのだろう。
「でも、記憶喪失じゃ話せることもあまりないのか……」
「そうですね!」
思いのほか力強く答えてしまった。もう少し記憶喪失を憂いているような神妙な返事のほうがよかったかもしれない。
サイベリアンはおもむろに部屋を見渡す。何かあるかと健介もつられて部屋を見た。
何も特別なことはない。いつもと変わらないプレイルームだ。
サイベリアンは何度かこのハウスを訪れているが、毎回違う部屋に通されているが、入口の扉の位置が違うだけで、中の造りはどれも一緒である。部屋の真ん中にどんと置かれた大きなベッド、三人掛けの布張りのソファとその脇に置かれたスツール。スツールの上には水の入ったボトルとグラスがいくつか置かれている。
カーテンは分厚く外の光を通さない。いまは夜なので関係ないが、掃除のときと人が入るまでは開けられているが、プレイを始めるときには昼でも夜でもカーテンはぴったりと閉じられたままだ。
特に変わったところもない。
サイベリアンを見上げると、その人はじっと健介を見下ろしていた。
(なんだろう……)
正面から見続けることができず、健介はすっと視線を外した。
なおも見つめるサイベリアンの視線が頬のあたりに突き刺さる。
「ケンはどうしてプレイヤーに?」
プレイヤー? いや、プレイヤーではないのだが、その説明はしていいのだろうか。判断が難しい。無難にこのハウスで働き始めた経緯を話すことにする。
「助け出された救護院でこのハウスで働く推薦状をいただきまして……」
「救護院で?」
「そ、そうです」
救護院ではハウスの仕事の推薦は出さないのだろうかどうか、健介にはその辺の常識がないので聞き返された理由が判然としない。でも、これについては嘘はついていないのだから胸を張って答えられる。
「あぁ、さっきから質問攻めだね」
そういって健介に微笑む。キラキラのイケメンが薄暗い部屋で微笑みかけてくる破壊力たるや……。何の意味もないはずなのに胸が高鳴ってくるから不思議だ。
ぱっと目をそらして下を向くと自分の姿が目に入る。
自分の格好はよく見なくとも、プレイをしないのに下着にガウンだけというなんとも恥ずかしい姿だ。
サイベリアンにプレイをする気がないのなら、一刻も早く何かを着た方がいい。この間抜けな格好のまま質問攻めにされるのはどうにもいただけない。
「あの、き……」
「今度は自分の話をしようと思う」
またもタイミングが悪く、健介とサイベリアンの声がかぶる。
「すまない。ケン、何かあったか?」
サイベリアンが真剣な表情で健介をじっと見つめる。その眼差しに一瞬怯んで健介は視線を泳がせたが、サイベリアンに向き直って、
「い、いえ。大丈夫です……。ど、どうぞ」
と言って、サイベリアンの前に手のひらを差し出した。早くも健介は自分が下着にガウン一枚の姿で話続けることを受け入れる。
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