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1章
13 恥ずかしい
しおりを挟む見つめるリアンの瞳から逃げるように目を逸らす。射抜くような鋭い視線は健介の股間が兆したことにすでに気づいていることを物語っていた。
隠したところで意味がないのならばいっそ恥もなにも掻き捨てて、さらけ出すべきか。
恥ずかしい。
(褒められたい)
二つの相反する気持ちが頭のなかでうずまいている。だが、心はリアンの命令に従いたがっていた。
健介は押さえていた手を股間から離して、寄せていた膝と膝を開く。ひっくり返ったカエルのような無様な格好だった。
(恥ずか死ねる!!)
頭に血が上って顔が熱い。鏡を見なくても、自分の顔色が真っ赤になっていることがわかる。
顔を隠したくて仕方がなかったが、仰向けの姿ではそれも無理だった。そのまま羞恥に耐えて、じっと待つ。
だが、しばらくしてもリアンは何も言わない。
ちゃんと言われた通りに『見せた』のに──。
目尻にうっすらと涙が滲んだ。
嬉しかったり、悲しかったりと情緒が忙しい。
(褒められたい……)
その欲望だけが健介の思考を支配し始める。
部屋の中はしんと静まりかえって、衣擦れの音すらしなかった。沈黙が重苦しい。
心がざわついて落ち着かない。
健介にはその時間がとても長く感じられた。
にわかにリアンが立ち上がって、健介の脇にしゃがみ込む。すらっとした長い指の大きな手がゆっくりと健介に近づいてくる。
待ちに待った歓喜のときだった。
額にかかる前髪をかきあげ、そのまま頭を優しく撫でて、甘く低い声で「よくできたね、いいこ」と耳元に囁いた。
健介の身体がびくっと跳ねる。
(えっ?)
「えっ?」
心の中の呟きは思わず声に出ていた。
何が起きたのか、健介には一瞬わからなかった。それを理解した瞬間に飛び起きてうずくまる。
前を隠すどころの騒ぎじゃない。このまま床にめり込んで消えてしまいたかった。
(な、なんで……!)
溜まっていたのだろうか……。いや、実際溜まってはいたのだろう。
社畜を極めていた健介はこちらの世界に来る前から、自慰行為など久しくしていなかった。そもそも、性欲自体が大変に薄い。ゆえに、こちらの世界に来てからも、それほどその必要性を感じていなかったのだ。それに、現在の住まいは壁が薄い。以前住んでいた木造の安アパートをはるかに凌駕する。それに、部屋には水まわりの設備がない、共同生活なのだ。
敢えて、どうしても、なにが何でもその行為をするほど逼迫していなかった。
何より生理現象である「夜間睡眠時勃起現象」、いわゆる朝立ちもしないそれに、健介は「こいつはもう死んだんだ」と思っていたほどだ。
それなのに──。
触れてもいないどころか、リアンの囁きだけで健介の股間は暴発していた。濡れた股間が気持ち悪い。何とかやり過ごしてリアンにはバレないようにしたかった。
床に突っ伏したままで、リアンの表情もわからない。バレたら流石に気持ち悪いと思われるに違いない。
親切にも、倒れていた自分を介抱して、体調不良の解消すら言い出してくれた恩人を前に何と言う粗相だ。
「ケン、どうしたの? 動いていいって言ってないよ」
優しいのに鋭い声が健介の背中に落ちる。顔を向けることもできないので、リアンの表情はわからない。
「ご、ごめんなさい。申し訳あ、りませ、ん」
「どうしたのか聞いているんだよ、ケン」
甘い響きの中に厳しさが混じる声で追い詰められる。
「ほら」
全身が恥ずかしさで熱くなる。何と返したらいいのかわからなくて、床に額を擦り付けた。
「あ、あの、あ……」
「『言って』」
答えたくない。なのにその命令は身体に染みるように響きわたる。
答えたくない。
(答えなくては)
言いたくない。
(言わなくては)
頭の中ぐちゃぐちゃになっていた。ぐるぐると考えたあと、最後に残ったのは理性ではなく、命令に従いたい本能だった。
「あ、も、漏れて、しまいました」
口にした事実に打ちのめされるでも、慚愧に喘ぐでもなく、もはやその羞恥心にクラクラする。
「『いいこ』」
恥ずかしい。
(気持ちいい……)
褒められた喜びで、恥ずかしさなどどこかへ行ってしまった。ただただふわふわと心地がよい。
もっと、もっと──。
健介の心のうちを見透かすように、「じゃあ、『見せて』」と甘く低い声が妖しく命令を下した。
背中からぞくぞくと這い上がってくる悦びに健介は言われたとおりに素直に従う。床に膝立ちになって、濡れて色の変わったズボンの前をリアンに見せつけた。
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