社畜モブの俺、異世界転移したら「Sub」っていわれたんだけど。え、「Sub」って何ですか?

鉾田 ほこ

文字の大きさ
16 / 183
1章

16 落ち着くのは自分のほう

しおりを挟む
      * * *

 一度は部屋を出たももの、様子が気になりリアンは再び客間へと戻っていた。ベッドにはその人がいまだに眉間に皺を寄せて眠っている。いつ目を覚ましても良いように、少しの間この部屋にいようと窓際の椅子に腰かけた。
 その人はリアンが椅子に座ってから、ほどなくして目を覚ました。絶妙は頃合いで部屋に戻っていたな、と自分のタイミングの良さに思わず口元に笑みが浮かぶ。
 ベッドから少し離れた椅子に腰かけたまま、目覚めたその人を眺めた。起き上がろうともがいているが身体に力が入らないのか上手くいかない。
 すぐに諦めたのか、少しだけ顔を動かして辺りを見回している。窓際の椅子に腰掛けるリアンにはまだ気づいていない。
 リアンは静かに立ち上がり、ベッドの側へと近寄った。
「無理しないで」
 声をかけると、身体をびくっとさせて驚きに眼を見開いている。
「あ、あの、お、お、おれ……」
 何かを話そうとするが、言葉をつまらせ上手く話せていない。「落ち着いて、大丈夫だから」と言うが慌すぎていてこちらの話を聞かず、謝り続けている。
 深呼吸を促すが、今度は息を吸い過ぎたのかむせてしまった。
 なんだこの生き物は……可哀そうで可愛い。

 窺うように見上げる濡れた黒曜石の瞳がリアンの劣情を酷く刺激する。
 虐めたい、お仕置きしたい。
 ……優しく支配したい。
 湧き上がる嗜虐欲と庇護欲に混乱した。これまでも少なくない数のSubとプレイをしてきたが、こんなにDomらしい欲望を相手に抱いたことは未だかつてあっただろうか。
 リアンは自分に問いかけるが、そんな記憶はどれだけ探しても思い当たらなかった。
 股間に集まった熱に気づかないふりをして、カラフェからグラスに水を入れる。片手で頭を支えてやり、口元にグラスを運ぶとごくごくと音をたてて勢いよく水を飲んだ。
 飲み込むたびに上下する喉ぼとけがみだりがましい。こちらも喉をごくりと鳴らした瞬間、盛大にむせて水を噴き出した。
「う゛、うぇっ、……ぅう……」
 ぽろぽろと黒い瞳から涙を流す。
 あぁ……、なんだってこうこちらの欲望を刺激してくるのか。
 堪えきれずにリアンはベッドの上の彼を抱きしめて、頭を優しく撫でた。肩口にあたるその人の息がしっとりと温かい。しばらく抱きしめたまま撫で続ける。
「あ、の……、離して……もらえませんか」
 小さくくぐもった声でそう告げるので、「落ち着いた?」と声をかけるが、内心では「自分が落ち着けよ」とつっこみをいれたくなるほどに興奮していた。
 どうしても、この人とプレイをしたい。
 自分の状況がわからない彼にここは自分の家で、危険はないこととGlareグレアに当てられたので介抱するために連れてきたことを伝える。決して、さらってきたわけでも無理やり連れ込んでいるわけでもないと言い訳のように。
 すると、目の前の人は「ぐれあ?」と初めて聞いたことばのように、リアンの言葉を繰り返した。
Glareグレアを知らない?)
 そんなはずはない、だって彼はSubなのだから。
 表情をうかがうが、彼の顔には疑問しか浮かんでいない。
(もしかして!)
「倒れる前に受け止めたと思ったのだけど、記憶がない?」
 そう聞くと、「倒れる前から記憶喪失でして……」と申し訳なさそうに呟く。
 そんなことはあるのか。
 本当にGlareグレアがわからないとは……偶然助けた人が記憶喪失だったなんて。
 Glareグレアがわからないのであれば、今の自分の状況も理解していないだろう。そう思い、いくつか質問をするが、ダイナミクス全般の知識がほぼ無いようだとわかってリアンは衝撃を受けた。
 これは、サブドロップのケアを言い訳にプレイが出来るのではないか。
 騙くらかすようで……というか、実際半分は騙しているようなものだが、プレイをしないことには彼自身にも危険な状態が続くのは真実、そう自分に言い聞かせて説明を続ける。だが……、
「ありがとう……ごさいます。た……すけて、くださって。も、もう、失礼します」
 と帰ろうとした。
 このまま帰せるわけがない。リアンは「そんな! こんな状態で外に出せるわけない!」と自分でもおかしいくらい悲壮な声をあげる。
「私はDomです。貴方が嫌でなければケアをさせてほしい」
 もはや懇願に近かった。
 だが、目の前の人は何かを悩んでいる。具合が悪化しているのか、苦しそうに肩で息をしていた。あとひと押しが必要だ。
「身を……任せてほしい」
 リアンの必死さが伝わったのか、それ以上体調が悪いままでいたくなかったのか、その人がどう考えた結果かはわからなかったが、小さくうなずくと「お願いしま、す」と答えてくれた。
 リアンは頭の中でガッツポーズを取った。言質は取った。これでこの人とプレイが出来る。
 怖がらせないように嫌な思いをさせないように。
 俺に溺れるように。
 最高のプレイをしてあげたい。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
ある日ハイランクDomの榊千鶴に告白してきたのは、Subを怖がらせているという噂のあの子でー。 更新がずいぶん遅れてしまいました。全話加筆修正いたしましたので、また読んでいただけると嬉しいです。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

バーベキュー合コンに雑用係で呼ばれた平凡が一番人気のイケメンにお持ち帰りされる話

ゆなな
BL
Xに掲載していたものに加筆修正したものになります。

人気アイドルが義理の兄になりまして

BL
柚木(ゆずき)雪都(ゆきと)はごくごく普通の高校一年生。ある日、人気アイドル『Shiny Boys』のリーダー・碧(あおい)と義理の兄弟となり……?

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

やけ酒して友人のイケメンに食われたら、付き合うことになった

ふき
BL
やけ酒の勢いで友人に抱かれた榛名は、友人の隠された想いに気付いてしまう。 「お前、いつから俺のこと好きなの?」 一夜をなかったことにしようとする瑞生と、気付いたからには逃げない榛名。 二人の関係が、少しずつ変わっていく。 瑞生(ミズキ)×榛名(ハルナ)

帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。

志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。 美形×平凡。 乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。 崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。 転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。 そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。 え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。

処理中です...