社畜モブの俺、異世界転移したら「Sub」っていわれたんだけど。え、「Sub」って何ですか?

鉾田 ほこ

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1章

21 明日?も仕事だ

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        * * *

 健介は先ほどまでいた場所を振り返った。表から帰るのは気が引けて、裏口の木戸からそっと外にでる。中も豪華だとは思ったが、外から見ると桁違いの豪邸だった。屋敷どころの騒ぎではない、「大」豪邸だ。とにかく大きい。広い。
 こちらの世界では、平民、商人、貴族の居住場所がわかれている。住んではいけないわけではないが、それは暗黙のルールのようなもので、金持ちであろうと商人は貴族街には住まない。健介が住み込みで働く『ハウス』は商業街と貴族街のちょうど境目あたりの商業街に位置していた。割かし大きく綺麗な建物が多く、身なりがよい人が多い。健介がいまきているような襤褸を着ているような人はたとえ下男だとしてもいない。
 健介もこのような服を着なくてはならないほど困窮もしていない。ただ、着古したシャツ独特の柔らかな肌触りが好きなの。
 
 裏木戸から出た健介はあたりをきょろきょろと見回す。灯りが少ないが整備された石畳の道路でここが貴族街か商業街だということがわかる。健介は「ハウス」のある商業街から滅多に出ない。……というか、「ハウス」自体から外にほぼ出ることはない。そのため、初めて来たこの場所がどのあたりに位置するのかよくわからない。
 とりあえず、高い塀と塀の間の石畳をあてもなく歩き始める。右か左のどちらかに行けば、大通りにはでられるはずなのだ。
 さすがにこの時間に出歩く人はいない。とはいえ、いま何時かよくわからないのだが……。
 この国……なのか、この領がなのかはよくわからないが、比較的治安はよい。街灯が少なく薄暗い道を歩いているとはいえ、この世界に来た初日のように道端でかどわかされるようなことはそうそう発生しない。
 ただ、スリや物盗りなんぞはまあまあいる。昼間でも普通にいる。そのあたりは元居た世界で住んでいた国とは違う。だが、いまの健介の身なりでは何も盗れるものはないと判断されるし、人さらいにしてもこんなみすぼらしいおっさんをさらっても一銭の価値にもならない無駄な行為はしないことだろう。
 夜が明ける前には帰宅したかった。今日(明日?)も朝から仕事なのだ。それも、昨日は休んでしてしまっているので、いろいろやらなくてはいけないことがきっとたまっているはずだ。
 そんなことを考えながら歩いていたら、大通りに出ることが出来た。ホッとしながら道の先を見ると、見慣れた教会の尖塔が通りの向こうの遠くの方に見える。この街で最も大きい大教会の尖塔だ。それが結構小さく見えているだけ。これは徒歩で帰るには骨が折れそうだった。この時間では辻馬車も走っていない。そもそも、貴族街では流しの馬車など走っていない。
 尖塔の奥の空がオレンジ色から濃紺のグラデーションになってきていた。そろそろ夜明けが近いのだろう。急がなくては朝までに帰れない。
 結構な距離を歩かなくてはいけないことは、単純に大変そうだなとは思った。だが、いままでに感じたことがないほどに気力に満ち溢れている。それどころか、就職してからこれまでで一度も体感したことがないほどに身体が軽く感じていた。
 これはプレイのおかげなのだろうか。
 昨日までの倦怠感や頭痛といった不調は一切ない。体力、気力のメーターがあったなら、マイナスがゼロに戻った訳ではなく、むしろプラスにバフがかかっているように思うほどだった。
_結局、昨日医者からもらった薬を飲むことはなく、回復した。薬は失くしてしまっていた。
 薬はきっと倒れた時に落としてしまったのだろう。寝かされていた部屋にまとめられていた自分の荷物の中にはなかったのだ。
 だが、しばらくは薬など飲まなくても問題ないと思う。
 それほどに身体はすっきりとして、体力がみなぎっていた。

(リアム様、ありがとうございます)
 助けてくれた上に、自分の体調不良まで直して、むしろ改善してくれたリアムに心の中で御礼を言う。
 直接御礼を言いたいという気持ちもあった。
(初対面でアレはない……)
 だが、醜態を晒しすぎて、顔を合わせるのが気恥ずかしかった。プレイとはそういうものなのか、それとも自分はやはりおかしいのかもわからないが、いままでの常識から考えたら、普通にありえないとおもう。初めてあった人とその日のうちに……なんて。
 それに、好意で連れてきてもらったとはいえ、自分のような平民がいつまでも居座っていいような場所ではないと思ったのだ。
 ご迷惑をおかけする前に辞するのは当然のコト。多少は礼を欠いているかもと思ったが、それよりも面倒をかけるほうが嫌だった。

 もう二度と会うことがないので、直接御礼を申し上げることはないが、このことは心の中に留めて、宝物のように大切な思い出にしようと思う。

「よし!」
 健介は「さあ、明日も仕事だ」と気合を入れる。
 健介は脚に力をこめて、仕事場兼住居までの道のりを再び歩き始めた。


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