社畜モブの俺、異世界転移したら「Sub」っていわれたんだけど。え、「Sub」って何ですか?

鉾田 ほこ

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1章

22 ハウス①

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 朝日が昇ったころ、ようやくハウスに帰り着けた。お客様が入る表玄関ではなく、裏の従業員用の扉から中に入る。
 まだ、人が起きている気配はない。
 どうやら間に合ったようだ。
 一度部屋に戻ろうと廊下を歩いていると、前から歩いてくる人影が見えた。

「あら、おはよう。体調はどお? 昨日の朝はいつにも増して、顔が酷かったって聞いたわよ」
 そうオネェ言葉で話しかけてきたのは、このハウスをまとめているゾイだ。
 
 顔が酷かったって、顔色なのか、顔の造形なのか。もとより顔の造形は良くない。
「あ、申し訳ありません。おやすみをいただきまして」
 健介は休むつもりはなかったのだ。医者に薬を貰ったら、午後からは戻って仕事をするつもりでいた。みんなからは「休め」とは言われていたが……。
 それが何故かよくわからないまま屋敷に連れて行かれて、これまたよくわからないうちにあられもない行為をしてきてしまった。
 結果、体調はすこぶる良くなっていた。
 今日まで休むわけには行かないし、あの屋敷に居続ける理由も無いので帰ってきたものの……あれは現実だったのだろうか。
 なんにせよ、無断欠勤。ダメ絶対。
 今日は昨日の分もバリバリ働こうと考える。

「顔色、ずいぶん良くなったわね」
 顔色。先程の件も、おそらく顔色のことだったのだろう。
「ご心配おかけしました」
「いいのよぉ。今日も休んだらよかったのに」
「そういうわけには行きません」
 キッパリとお断りする。働かざるもの食うべからずだ。
「ほどほどにね」
 そう言ってすれ違う時に、ゾイは何かに気づいて立ち止まった。
「あらやだ、ケンちゃん。もっとまともなお洋服着なさい? お給料足りない?」
「あ、いえ! 大丈夫です。十分いただいてます」
 いきなり何かと思えば、健介の着ている服がどうにもボロいのが気になったようだ。
 この世界の平均賃金がいくらなのかは全くわからない。だが、細々とした掃除や洗濯やらをするだけで、十分生きていける、いや十二分の賃金をもらっている。
 何より、この寮……というか、宿舎に住んでいる分にはほぼお金は使わない。朝飯も昼飯も食堂に行けば食べられる。夜ご飯だけは、色子の人たちが仕事で食べないので用意されない。それでも、家賃も食費も無料だ。
「そう? 何かあったらすぐに言うのよ」
 見返したゾイは太く濃い眉を心配そうに寄せている。
 はっきりとした彫りの深い男らしい顔立ちにオネエ言葉が似合うのは口元のほくろのおかげだろうか。190cm近い身長に健介は見下ろされる形だが、威圧感を感じないのは言葉遣いに相応しい優しい仕草と雰囲気のお陰だろう。
「お気遣いありがとうございます」
 会釈をして、その場を離れる。ゾイも廊下を歩き始めたとき、健介は「あ、」と声をあげた。
「どうかした?」
 その声に気づいて、ゾイが立ち止まって振り返る。
 健介はこの施設──ハウスが「娼館」ではなく、「ダイナミクスを持つ人たちのための施設」だと言われたことを思い出して、思わず声が出ていた。聞いたものか、聞かないでおいても問題ない気がして、「いえ、大丈夫です」と言った。
「そう? 無理はしないようにね」
 そう言い残して、去っていくゾイの背中を見つめる。また、何かの機会に聞けばいい。
 そう考えて、健介も自室へと廊下を進んだ。


「あー……」
 やはり、昨日一日休んでしまった分の洗濯物が洗濯場に溜まっている。
 現在、このハウスに下男は健介しかいない。健介が来る以前はおばちゃんが一人いたのだが、お子さんに孫が産まれて、その手伝いのために辞めていまったそうだ。
 それからは見習いの子達が順番に洗濯や掃除をしていた。ここは夜のお店……というわけではなく、昼だからといって客が来ないわけではない。それなりに客がつくようになってきて、手が回らなくなっていたところに運良く健介は雇われた。タイミングが良かったのだ。
 ただ、タイミングだけとは言い切れない。ここで働く子たちはもちろん見た目が大変に良い。下心を持って働きにくる者や、ハウスで働く人たちに恋愛感情を抱いてしまうような若い男女はあまり好ましくないようだった。
 そう考えると、逆に身元不明の健介はよく雇ってもらえたとも思う。その点については、ゾイの人を見る目がずば抜けているのか……。
 いずれにせよ、健介にとっては大変にありがたいことだった。給料もよく、何より住む場所があり、食事も出てくる。
 ここで雇われなかったら、もっと条件の悪いところで馬車馬の如く働かされるか、スラムで物乞いをしていたことだろう。なんにせよ、本当にありがたいことだった。


「あれ……?」
 改めて洗濯かごの中を見ると、二日分にしては量が少ない。昨日は客が普段より少なかったのだろうか……?
 それとも、まだ持って来れていない部屋があるのだろうか。プレイルームで使用した洗濯物は部屋を使用していた人が洗濯場に持ってくる。夜通しで部屋を利用している場合は、客が帰るまでは持って来られないからだ。
 入れられたリネン類を仕分けて、何から始めようかと考える。元の世界と違って、水道は当たり前には設置されていない。貴族の家やお金持ちの家は魔石を使用した水回りがあるようだが、このハウスではプレイルームとみんなが共用で使う風呂場にしか設置されておらず、洗濯は裏の井戸から水を汲んで使用する。そこそこの重労働だ。
 腰を上げて、水を取りに行こうとした時、洗濯場に誰かが入ってくる。
「あれ? ケンやないか。大丈夫なんか?」

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