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1章
23 ハウス②
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関西弁で話すのはワイラーだ。
「おはようございます。ワイラーさん」
「おはようさん。いつも呼び捨てでえぇって言うとるやないか。わいの方が歳下なんやし」
このワイラーはハウスで働く人たちの中で二番目に若い。シュナの次に若く、まだ十九歳だ。だが、このハウスで働いて三年以上経つ、健介の先輩である。
職場の上下関係は重要だ。そしてそれは年齢ではなく、経験と就いている仕事によると、健介は考えている。そうなると、いくら自分よりも十歳以上歳下であろうが、敬うべき先輩なのである。
「いえ、そういうわけにはいきません。先輩ですから」
いつものように答えて、艶々した焦茶の髪をした人懐こい笑顔を向けているワイラーの顔を見上げた。
「いつも通り、お堅いなぁ……。まあ、ええわ。で、どない? 体調は」
「すっかり良いです。お気遣いありがとうございます」
ワイラーは健介が働き始めるまで、ハウスの雑用をこなしていた一人だ。もう一人は一番若年のシュナである。この二人からハウスで行う様々な業務、細々とした雑務を引き継いだ。ハウスに来てから最も長い時間を二人と共に過ごしている。
ありがたいことにワイラーもシュナもおりに触れ、健介を気遣って様子を見てくれる。そのため、健介にとってはこの二人……ワイラーとシュナがよく話をする、一番気安い相手だった。
そして、今回も純粋に心配して様子を見に来てくれたことが素直に嬉しかった。
「そうだねー。昨日より随分顔色が良さそう」
大柄なワイラーの後ろに隠れて気づかなかったが、シュナも来ていたようで声がした。
「シュナさんもおはようございます」
「おはよう」
「お二人ともどうしてここに?」
「あぁ、今日もケンの体調が悪いなら、洗濯出来ないかな?って。でも、あんまり溜められないし、溜まると大変でしょ?」
「だから、わいらで出来ることはしとこうと思ったんや」
最後の説明はワイラーが引き取って、二人揃ってこの場所に来ている理由を説明した。
本当にこの職場は極めてホワイトである。業務の引き継ぎをしてくれる。体調が悪い時は先輩が仕事を手伝ってくれる。そして、福利厚生も最高だ。住む部屋も食事も出てくる。
転移前の職場とは雲泥の差……いや、比較するのも烏滸がましい。
最初のころは手取り足取り仕事を教えてくれる、優しい姿勢に戸惑った。右も左もわからなくても、前の職場では誰も教えてくれなかったし、それが当たり前だった。
あまりにも自分が鈍臭く、物覚えが悪いから、丁寧に教えてくれるのかと思って申し訳なかった。恐縮しかりだった健介に、二人は「初めての場所でどこに何があるか、何をすれば良いのかわからなくて当然だ」と、「聞いて、教えて、覚えた方が効率的だ」と言われ、目から鱗が落ちそうだった。
そうでなくても、記憶喪失なんて厄介な属性を持っていて、井戸水一つ汲んだことがなく、洗濯も分からないというおっさんに教えるのはさぞかし骨が折れたことだろう。だが、二人とも嫌な顔一つせずに付き合ってくれた。
洗濯物が普段より少なかったのも、きっと昨日のうちに二人が少し片付けてくれたからだろう。
「ありがとうございます。助かります」
健介はその場でバッと立ち上がって、九十度腰を曲げて最敬礼して、心からのお礼を伝えた。
「今日も休んでええんやで!」
「いいえ! そういうわけにはいきません」
鼻息荒く、返事をする。これ以上迷惑はかけられない。二人とも色子としての仕事が本業で忙しい。
「そう? 確かに昨日より元気そうだけど……」
そうなのだ。
昨日とは打って変わって、今日は体調がすこぶる良い。
おそらく、きっと、たぶん……リアンとのプレイのおかげで、かつてないほどに活力が漲っているのだと思う。これで休みをもらったりしたら、ただのさぼりだ。
「でも、昨日の顔色は本当にヤバかったよ。体調悪くてしんどいよーって感じだったし。そんな一日で良くなる?」
シュナが訝しむのも尤もだ。普通は風邪とか病気なら、だんだんよくなっていくことはあるが、一日で「きっかり」回復することはそう無いだろう。
健介は昨日の不調の理由を説明したら、わかってもらえるだろうと思い、「あの、お医者さんで薬をいただいたんです。原因はダイナミクスによる不調だそう……」と言った。
言い終わらないうちに、ワイラーとシュナが大声で叫んだ。
「「ダイナミクス!?」」
「おはようございます。ワイラーさん」
「おはようさん。いつも呼び捨てでえぇって言うとるやないか。わいの方が歳下なんやし」
このワイラーはハウスで働く人たちの中で二番目に若い。シュナの次に若く、まだ十九歳だ。だが、このハウスで働いて三年以上経つ、健介の先輩である。
職場の上下関係は重要だ。そしてそれは年齢ではなく、経験と就いている仕事によると、健介は考えている。そうなると、いくら自分よりも十歳以上歳下であろうが、敬うべき先輩なのである。
「いえ、そういうわけにはいきません。先輩ですから」
いつものように答えて、艶々した焦茶の髪をした人懐こい笑顔を向けているワイラーの顔を見上げた。
「いつも通り、お堅いなぁ……。まあ、ええわ。で、どない? 体調は」
「すっかり良いです。お気遣いありがとうございます」
ワイラーは健介が働き始めるまで、ハウスの雑用をこなしていた一人だ。もう一人は一番若年のシュナである。この二人からハウスで行う様々な業務、細々とした雑務を引き継いだ。ハウスに来てから最も長い時間を二人と共に過ごしている。
ありがたいことにワイラーもシュナもおりに触れ、健介を気遣って様子を見てくれる。そのため、健介にとってはこの二人……ワイラーとシュナがよく話をする、一番気安い相手だった。
そして、今回も純粋に心配して様子を見に来てくれたことが素直に嬉しかった。
「そうだねー。昨日より随分顔色が良さそう」
大柄なワイラーの後ろに隠れて気づかなかったが、シュナも来ていたようで声がした。
「シュナさんもおはようございます」
「おはよう」
「お二人ともどうしてここに?」
「あぁ、今日もケンの体調が悪いなら、洗濯出来ないかな?って。でも、あんまり溜められないし、溜まると大変でしょ?」
「だから、わいらで出来ることはしとこうと思ったんや」
最後の説明はワイラーが引き取って、二人揃ってこの場所に来ている理由を説明した。
本当にこの職場は極めてホワイトである。業務の引き継ぎをしてくれる。体調が悪い時は先輩が仕事を手伝ってくれる。そして、福利厚生も最高だ。住む部屋も食事も出てくる。
転移前の職場とは雲泥の差……いや、比較するのも烏滸がましい。
最初のころは手取り足取り仕事を教えてくれる、優しい姿勢に戸惑った。右も左もわからなくても、前の職場では誰も教えてくれなかったし、それが当たり前だった。
あまりにも自分が鈍臭く、物覚えが悪いから、丁寧に教えてくれるのかと思って申し訳なかった。恐縮しかりだった健介に、二人は「初めての場所でどこに何があるか、何をすれば良いのかわからなくて当然だ」と、「聞いて、教えて、覚えた方が効率的だ」と言われ、目から鱗が落ちそうだった。
そうでなくても、記憶喪失なんて厄介な属性を持っていて、井戸水一つ汲んだことがなく、洗濯も分からないというおっさんに教えるのはさぞかし骨が折れたことだろう。だが、二人とも嫌な顔一つせずに付き合ってくれた。
洗濯物が普段より少なかったのも、きっと昨日のうちに二人が少し片付けてくれたからだろう。
「ありがとうございます。助かります」
健介はその場でバッと立ち上がって、九十度腰を曲げて最敬礼して、心からのお礼を伝えた。
「今日も休んでええんやで!」
「いいえ! そういうわけにはいきません」
鼻息荒く、返事をする。これ以上迷惑はかけられない。二人とも色子としての仕事が本業で忙しい。
「そう? 確かに昨日より元気そうだけど……」
そうなのだ。
昨日とは打って変わって、今日は体調がすこぶる良い。
おそらく、きっと、たぶん……リアンとのプレイのおかげで、かつてないほどに活力が漲っているのだと思う。これで休みをもらったりしたら、ただのさぼりだ。
「でも、昨日の顔色は本当にヤバかったよ。体調悪くてしんどいよーって感じだったし。そんな一日で良くなる?」
シュナが訝しむのも尤もだ。普通は風邪とか病気なら、だんだんよくなっていくことはあるが、一日で「きっかり」回復することはそう無いだろう。
健介は昨日の不調の理由を説明したら、わかってもらえるだろうと思い、「あの、お医者さんで薬をいただいたんです。原因はダイナミクスによる不調だそう……」と言った。
言い終わらないうちに、ワイラーとシュナが大声で叫んだ。
「「ダイナミクス!?」」
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