社畜モブの俺、異世界転移したら「Sub」っていわれたんだけど。え、「Sub」って何ですか?

鉾田 ほこ

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1章

24 ハウス③

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 驚いた顔のまま、二人が詰め寄ってくる。
「ケン、ダイナミクスて……」
 とワイラー。
「どういうこと?」
 とシュナ。
 二人の表情があまりにも真剣で圧がすごい。その勢いに健介は気圧される。
(何かダメだったのかな……)
「あ、えっと、その……」
 どう答えたら良いか迷ってしまい、言い淀む。これも健介の悪い癖だった。強い口調で詰め寄られると、上手く答えられない。元いた世界の会社でも、それでよく相手をイライラさせていた。
 顔を俯かせて、口の中でモゴモゴと言葉にならない音を発する。
「ケン、ごめん。大丈夫だから。事情を教えて。ケンはダイナミクス持ちだったの?」
 シュナがその様子に気づいて、声を和らげて再度尋ねてくれた。
 自分よりも十以上歳下の子相手にもこれだ。自分自身でもこのうじうじした性格が嫌だったが、そう簡単に変われるものでもなかった。
「医者には行ったんだ。そしたら、そこで『ダイナミクスのストレスだ』って……」
 事情のみを簡潔に話す。顔を少し上げて、二人の表情を盗み見た。
 二人とも驚いた表情をして、健介を見ている。正解だったのか、答え間違えたのか、二人の次の言葉を待つ。
「ケンは記憶喪失やったか?」
 そういうことにしている。
「自分がダイナミクス持ちだったのも覚えてなかったの?」
 もともと、ダイナミクスなんてものは持っていなかった。
 だが、そうは答えられないので、肯定的にこくりと頷いた。
「そうか……なら、仕方あらへんな?」
「仕方なくないよ! 仕方ないけど!」
 シュナが大きな声をあげて抗議する。
「せやかて……」
「ケン、ここにはたくさんのDomが働いているし、お客様で来られる方も多いんだ。うっかりはちあったり、SubだったらDomのGlareに当てられたら大変なんだよ」
 シュナは一転して優しい声で説明してくれた。
 シュナの発言からもやはりここは、ただの「娼館」というわけでは無いようだ。
 このまま働き続けることは出来なくなってしまうのか、と健介は不安に顔を青ざめさせた。
「Domならいいけど、Subだったら、Domが発した何気ないひと言が命令になってしまうことだってあるんだよ。気をつけないといけないんだ……」
 そう言ってシュナは唇を噛んだ。
「どうしたら……?」
 自分では状況がよく理解できずに、心の声がそのまま漏れた。
「とりあえず、ゾイに相談しよう」
 そう言って、シュナが健介の手を取って立たせる。そのまま掴んだ手を引いて、洗濯場から連れ出そうとした。
「あ、洗濯物……」
「今はそれどころじゃないから!」
「はいっ」
「少しはやっとくから~」
 洗濯場を出ていく時、後ろからワイラーの声が聞こえた。

 健介は勢いよく歩くシュナに引っ張られるように、廊下を歩く。その間もシュナからの質問は止まらない。
「薬はもらったの?」
「はい」
 シュナの剣幕に「でも、落としてしまったけど」とはとても言えなかった。
「薬で良くなった? 昨日は本当に酷い顔色だったし……」
「う、うん。大丈夫です」
「本当の本当に?」
 これは……昨日何があったか、本当のことを言える雰囲気ではなかった。Glareに当てられて、知らないDomとプレイをして、体調が回復したなどと言った日にはシュナが卒倒するかもしれない。
 そう思った。
 心配してくれていることがわかるだけに、嘘をついていることが申し訳ない気持ちになる。
「う……ん。だ、大丈夫、です」
「ぁゃ……ぃ」
 小さな声でシュナが呟いた言葉は健介の耳には入らなかった。

 手を引かれるままに歩みを進めるとだんだん廊下の雰囲気が変わってくる。
 このハウスはカタカナのエの字の形をしている。正面玄関を中心に左右に二階建てのプレイルームが並び、一本の廊下で繋がって居住スペースがあった。右側が食堂や洗濯場、風呂場などの共有スペースがあり、左側が住み込みで働く人たちのための部屋になっている。
 共有スペースも二階建ての造りで部屋の大きさは色々あるようだが、年齢順なのか年功なのかはわからない。でも、割り当てられた部屋が自分の部屋なことに特に疑問を感じたことはない。健介の部屋もワンルームだが、十分な広さがあり、ベッドや棚、小さな机などといった生活に必要なものは全て揃えられていて、なにも不自由なことがなかった。

 プレイルームがある建物にはプレイルーム以外に色子のみんなが待機する部屋とゾイの部屋がある。みんなが待機するためのサロンは、エントランスから左右に広がる一階プレイルームの一番手前にそれぞれある。そして、くだんのゾイの部屋はエントランスから階段を上がってすぐ、二階のプレイルームの一番手前にあった。
 居住スペースからお客様が訪れる来客スペース……プレイルームの並ぶ区画にくると、雰囲気は随分と変わる。二か所を行き来する渡り廊下には、プレイルーム側と居住スペース側のどちらにも扉が設置されていた。その扉を開けると、板張りだった廊下は絨毯張りになり、歩くとふかっと足をとられそうになる。内装も華美になっていき、ぼろぼろの服を着たみすぼらしい自分が踏み入れるのが躊躇された。
「あ、あの!」
「なぁに?」
「いいんでしょうか?」
「? なにが?」
「こっちに来て」
「良いにきまってるよ」
「でも……」
 小声でシュナに訴えるが、シュナには健介が何を躊躇しているのかわからない。
「掃除でこっちにだってくるでしょ」
 確かにそうだが、その時は掃除用具を持っており、一目で「掃除のおじさん」だとわかる。いまは、手ぶらで……子供のように手を引かれているのだ。
 いっこうに手を離そうとしないシュナに連れられて、フロアをなるべく音をたてないように静かに歩く。

 ゾイの部屋は初めてこの場所に来た時に一度だけ入ったことがある。
 ただ、そこがゾイの暮らしている部屋なのか、それともこのハウスを運営するための執務室なのかは知らない。以前に来た時にはきょろきょろとすることもできず、小さくなって自分の足元ばかりみていた。そのため、健介は部屋の中がどんな様子だったかもよく覚えていやしなかった。
 シュナと階段を上がって、ゾイの部屋までたどり着く。扉の前に立って、シュナがノックをする。
 そして、シュナはあろうことか中からの返事を待たずにノブに手をかけて扉を押し開けた。
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