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1章
33 買い物①
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「買い物……ですか?」
「うん、そう。買い物。ケンはここに来てから外出ほぼしてないよね」
「そう、ですね」
最後に「必要ないですから」というのはやめておいた。
だって、本当に必要がないのだ。
街に行って食事をする?
いや、しない。ここでは朝食も昼食も食堂に行けば食べられる。夕飯はでてこないが、別に外に食べに出るほどのこともない。
街に行って服を買う?
いや、買わない。ここでは毎日掃除や洗濯をするのに新しい服を着る必要はない。今着てる服で十分だ。一張羅……というか外出着を買う必要もない。見せる相手もいないし、外出をしないのだから。
じゃあ、街に行って何する。
そう、何もすることがないのに、街に行く必要はない。
夜は明かりが勿体ないので、早く寝るし。社畜を極めて、休みなく働いていた健介にとって、休みの日に何もせず身体を休めることが出来ることが喜びでしかなかった。
いまのところ、健介は街に出てまですることがなにも思いつかなかった。
そんなことを考えていると、ウンシアが「いいですね! 僕もご一緒していいですか?」と健介とシュナが出かける前提で話しを進める。
「もちろん! みんなで出かける方が楽しいもん」
健介の思惑とは別のことろで、二人は外出をすることを決めてしまった。
「ね?」
とシュナに振り向かれて、健介は「俺行く必要あります?」という言葉が喉まで出かかって、飲み込んだ。何も水を差すこともない、と思ったのだ。
だが、一緒に行くことになると少しだけ厄介だった。一人なら気にならない。
誰かと出かけるのであれば、この服装はかなりみすぼらしい。それは自覚している。こんな薄汚い恰好をしたやつと出歩きたいひとはいないと思う。
誘ってきたシュナを見ると、今日はボウタイの薄いピンクベージュをしたテロっとした長袖のシャツブラウスを着ている。机の下で下半身は見えないが上衣がそれで、下が擦り切れそうなズボンなはずはなく、きっとベルベットのような材質の上品なズボンを履いていることだろう。
隣のウンシアを見れば、襟はなく丸首で生成りのシャツを着ている。もちろん、破れてもほつれてもいない。普通の庶民が着る上着といったところだが、その上に乗っている大変に素晴らしく整った顔のおかげで、二百倍上等なものに見えた。ズボンも高価なものではなく、綿の長ズボンだが、健介が履いているものよりははるかにまともだった。
そして、自分自身を見下ろす。
ここに来た時にもらった一着と、その前の救護院でもらった一着。健介はこの二着を洗濯しつつ、大事に着ていた。どこにいくでも、誰に見せるわけでもないので、気にしたこともなかったが、欲見れば相当くたびれている。ところどことほつれているし、洗濯はしているものの、なんだか臭ってきそうなほどだ。
この服装のやつと一緒に街を歩きたいと思うか?
いや、歩きたくないだろう。
健介は楽しそうな二人に水を差したくはなかったが、「あの、俺はいいよ。二人で行ってきてください」と言った。
「ダメだよ! ケンも一緒にいくの」
「そうです。一緒に行きましょう?」
二人に詰め寄られる。顔圧が強い。思わずうなずきそうになるが、そこは心を鬼にして、「いや、俺は行かないですよ」と再度伝えた。
「なんで?」
シュナが尋ねるが、あまり答えたくはなかった。服装がみすぼらしいから一緒に歩きたくないだろうとは自分から口にしたいことではない。
それに、若い二人におっさんが一人混じっているのも、周りの目が気になる。
「……」
黙って俯いていると、シュナが「買い物したら、数字を覚えた実感が出来るよ。それに紙とかペンも必要じゃない?」と寂しげに聞いてくる。
罪悪感がすごい。
なんだか断っている自分が悪者になった気分だ。
「で、でも……」
「「だめ?」」
シュナとウンシアは二人で健介を見つめて声を揃えた。
確かに紙とペンは自分でもほしい。お金が足りるなら石鹸とかも購入したい。
「んぅ……」
もう一押しと感じ取ったシュナが「ほら、いこう!」と健介の手を取る。
「……うん」
最終的に健介は折れた。だが、服がみすぼらしいのはどうにもならない。自分の服の裾をもじもじといじっていると、シュナが気づいて、「服も買おう!」と言ったのだった。
昼食も外で三人で取ることにして、すぐに出かけた。
言っていた通りにまずは服屋を訪れることにした。
ハウスがあるのは商人街でも貴族街に近く、並ぶ店のほとんどは高級店ばかりだ。そんなところに、この格好で入れるはずもないので、健介は「古着屋さんとかないのですか?」と尋ねる。
「古着?」
シュナには古着というものがピンとこないようだ。そういえば、プレイヤーのお給料がいいこともさることながら、シュナはそもそも貴族だった。
「あの、人が着たあとに売られた中古の衣服のことです」
「あぁ、わかった。けど、この辺にはそういうお店はないなぁ。新しいのでよくない?」
よくない。
こんな高級店が立ち並ぶ中の衣裳店など、考えただけで恐ろしい。金額もそうだが、デザインや機能面だって心配だ。何度も言うが、普段着でいいのだ。掃除や洗濯しかしていない人前に出ることも、人と会うこともない健介には華美な服など必要ない。
「もう少し、安いお店がいいのですが……」
「そう? じゃあ、庶民街のほうまで移動しよう」
そう言って、さっと辻馬車を止めるとさっさと乗り込む。手慣れている。
健介とウンシアもそれに続いて、馬車に乗り込んだ。
「うん、そう。買い物。ケンはここに来てから外出ほぼしてないよね」
「そう、ですね」
最後に「必要ないですから」というのはやめておいた。
だって、本当に必要がないのだ。
街に行って食事をする?
いや、しない。ここでは朝食も昼食も食堂に行けば食べられる。夕飯はでてこないが、別に外に食べに出るほどのこともない。
街に行って服を買う?
いや、買わない。ここでは毎日掃除や洗濯をするのに新しい服を着る必要はない。今着てる服で十分だ。一張羅……というか外出着を買う必要もない。見せる相手もいないし、外出をしないのだから。
じゃあ、街に行って何する。
そう、何もすることがないのに、街に行く必要はない。
夜は明かりが勿体ないので、早く寝るし。社畜を極めて、休みなく働いていた健介にとって、休みの日に何もせず身体を休めることが出来ることが喜びでしかなかった。
いまのところ、健介は街に出てまですることがなにも思いつかなかった。
そんなことを考えていると、ウンシアが「いいですね! 僕もご一緒していいですか?」と健介とシュナが出かける前提で話しを進める。
「もちろん! みんなで出かける方が楽しいもん」
健介の思惑とは別のことろで、二人は外出をすることを決めてしまった。
「ね?」
とシュナに振り向かれて、健介は「俺行く必要あります?」という言葉が喉まで出かかって、飲み込んだ。何も水を差すこともない、と思ったのだ。
だが、一緒に行くことになると少しだけ厄介だった。一人なら気にならない。
誰かと出かけるのであれば、この服装はかなりみすぼらしい。それは自覚している。こんな薄汚い恰好をしたやつと出歩きたいひとはいないと思う。
誘ってきたシュナを見ると、今日はボウタイの薄いピンクベージュをしたテロっとした長袖のシャツブラウスを着ている。机の下で下半身は見えないが上衣がそれで、下が擦り切れそうなズボンなはずはなく、きっとベルベットのような材質の上品なズボンを履いていることだろう。
隣のウンシアを見れば、襟はなく丸首で生成りのシャツを着ている。もちろん、破れてもほつれてもいない。普通の庶民が着る上着といったところだが、その上に乗っている大変に素晴らしく整った顔のおかげで、二百倍上等なものに見えた。ズボンも高価なものではなく、綿の長ズボンだが、健介が履いているものよりははるかにまともだった。
そして、自分自身を見下ろす。
ここに来た時にもらった一着と、その前の救護院でもらった一着。健介はこの二着を洗濯しつつ、大事に着ていた。どこにいくでも、誰に見せるわけでもないので、気にしたこともなかったが、欲見れば相当くたびれている。ところどことほつれているし、洗濯はしているものの、なんだか臭ってきそうなほどだ。
この服装のやつと一緒に街を歩きたいと思うか?
いや、歩きたくないだろう。
健介は楽しそうな二人に水を差したくはなかったが、「あの、俺はいいよ。二人で行ってきてください」と言った。
「ダメだよ! ケンも一緒にいくの」
「そうです。一緒に行きましょう?」
二人に詰め寄られる。顔圧が強い。思わずうなずきそうになるが、そこは心を鬼にして、「いや、俺は行かないですよ」と再度伝えた。
「なんで?」
シュナが尋ねるが、あまり答えたくはなかった。服装がみすぼらしいから一緒に歩きたくないだろうとは自分から口にしたいことではない。
それに、若い二人におっさんが一人混じっているのも、周りの目が気になる。
「……」
黙って俯いていると、シュナが「買い物したら、数字を覚えた実感が出来るよ。それに紙とかペンも必要じゃない?」と寂しげに聞いてくる。
罪悪感がすごい。
なんだか断っている自分が悪者になった気分だ。
「で、でも……」
「「だめ?」」
シュナとウンシアは二人で健介を見つめて声を揃えた。
確かに紙とペンは自分でもほしい。お金が足りるなら石鹸とかも購入したい。
「んぅ……」
もう一押しと感じ取ったシュナが「ほら、いこう!」と健介の手を取る。
「……うん」
最終的に健介は折れた。だが、服がみすぼらしいのはどうにもならない。自分の服の裾をもじもじといじっていると、シュナが気づいて、「服も買おう!」と言ったのだった。
昼食も外で三人で取ることにして、すぐに出かけた。
言っていた通りにまずは服屋を訪れることにした。
ハウスがあるのは商人街でも貴族街に近く、並ぶ店のほとんどは高級店ばかりだ。そんなところに、この格好で入れるはずもないので、健介は「古着屋さんとかないのですか?」と尋ねる。
「古着?」
シュナには古着というものがピンとこないようだ。そういえば、プレイヤーのお給料がいいこともさることながら、シュナはそもそも貴族だった。
「あの、人が着たあとに売られた中古の衣服のことです」
「あぁ、わかった。けど、この辺にはそういうお店はないなぁ。新しいのでよくない?」
よくない。
こんな高級店が立ち並ぶ中の衣裳店など、考えただけで恐ろしい。金額もそうだが、デザインや機能面だって心配だ。何度も言うが、普段着でいいのだ。掃除や洗濯しかしていない人前に出ることも、人と会うこともない健介には華美な服など必要ない。
「もう少し、安いお店がいいのですが……」
「そう? じゃあ、庶民街のほうまで移動しよう」
そう言って、さっと辻馬車を止めるとさっさと乗り込む。手慣れている。
健介とウンシアもそれに続いて、馬車に乗り込んだ。
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