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1章
38 夜のハウス
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「なんだって? もう一度言ってくれ」
「は、はい。 お探しの方はこの領のハウスに入って行きました。裏口からです」
「ハウス……、だと?」
「は、はっ!」
その夜、報告に戻ってきて懇切丁寧に説明する騎士の話を聞いて、リアンは驚愕した。なぜならケンがハウスで働いていたと言っているから。
どうしてケンがハウスで働いているんだ?
あの人は自分がSubであることをあの会った日に知ったと言っていた。記憶が無く、ダイナミクスについて何も知らなかった。そんな人がどうして……。
この屋敷から出て行った後にハウスに行って雇われることになったのか。詳細はなにもわからない。いまわかることは、あの人が「ハウス」で働いているということだけだ。
だが、ハウスで働いていると言う事は、あの人のことを誰か別のDomが既に触れていると言うことと同義だった。
それを考えるとリアンは腑が煮え繰り返りそうになる。
棚に置かれた時計を見ると、時刻はまだ夜の七時を回ったところ。
今からでも間に合うか。
通常、夜なら客はハウスに早ければ五時には店に入る。今日、すでに客を取っていたらたとえそれが終わっていたとしても、もう一人その夜のうちに客を取ることはないだろう。
だが、いままさに客を取っていたなら……、九時か十時か。どちらにしても、夜通しの客が入る時間にはまだ早い。
今ならば、あるいは──。
見つけたのならすぐにでも会いに行きたい。だが、すでに誰かとプレイをした直後のケンと対峙して、自分が正気でいられるだろうか──。
ただ部屋で悩んでいる時間がもったいない。
リアンの心は最初から決まっていた。椅子から立ち上がって、目の前の騎士に「今から行く」と短く告げる。
「はっ! ……はい?」
「馬車を回してくれ」
「はっ」
騎士は一瞬怪訝な声を出した後、すぐに表情を改めて、最敬礼をしたのちに部屋から早足で出て行った。
リアンもかけてあった上着に腕を通し、取るものもとりあえず部屋をあとにした。
* * *
夕方の早い時間にベッドに寝かされて、健介は少しだけうとうととしていた。深い眠りではない心地よいまどろみから目を覚ます。
身体も頭もすっきりしている。
部屋は真っ暗だった。夜中というほどではないはずだが、いまが何時なのかはわからない。
誰かが部屋の扉をノックしている。
健介はシュナが様子を見に来たのかと思い、ベッドから起き上がって扉を開けた。
するとそこには想像とは別の人物が立っている。
「え」
「ごめんなさいね、休んでるとは聞いたんだけど……」
それは眉を寄せて、申し訳なさそうな表情をしたゾイだった。
ゾイに「ちょっと来てほしい」と言われたきり、何も説明されないままに、健介はハウスの中のプレイルーム側の建物にある執務室へと連れていかれる。この時間はすでにお客様が入ってきている時間だ。健介は夜にこちらの建物に足を踏み入れたことはない。
なにせこちらに来る用事がない。
無言のゾイの後ろを歩き、居住スペースとプレイルームの建物を隔てる扉をくぐると、雰囲気が一気に変わる。貴族の館のような、落ち着いていて上品な豪華さの内装に掃除のときはいつも気後れしていた。
朝に来るときの静けさとは違って、ざわざわと人の気配が多い。
すでに客が何人か入っているのだろう。
そんな時間帯に健介にいったい何の用事があるというのか──。
連れられるままに、ゾイとともに執務室にはいる。ソファをすすめられ、おとなしくすわることにした。
ゾイも向かいのソファに腰を掛けると、言いずらそうに「困ったわ……」と小さい声でつぶやいた。
「お断りしたのよ……貴方はうちで働いているけど、下男であってお客さんは取らないって。それにそういうお仕事してないから、きっとご奉仕も上手く出来ないって」
出し抜けにゾイがそう言った。
誰がなんだって?
「プレイヤーじゃないって、何度もご説明したんだけど……。どうしても、ケンちゃん、貴方だっていうのよ」
どういうことか話についていけない。
健介は「え、……どういうことですか?」
と、単刀直入に尋ねる。
「あ、ごめんなさいね。どうしても貴方とプレイをしたいとおっしゃる方がいらして。貴方はプレイヤーではないから、無理だとお断りしたんだけど……」
そりゃそうだ。
健介はここで働いてはいるが、掃除や洗濯などの雑用を行う下男のようなものだ。プレイヤーではない。
それが、なんだって?
「プレイヤーじゃなくてもいいから、とにかく貴方に会ってプレイがしたいとおっしゃるの」
そりゃ、無理だ。
ここで働いている人……プレイヤーとして働いている人たちはプロだ。
同じことをしろと言われても、みんなが何をしているのかも知らない。いきなり客の前にでるなんて、到底ありえない。健介は不安な瞳でゾイを見る。
「何度もプレイヤーじゃないから、きちんとご奉仕てきないとお伝えしたのよ。でも、そんなことはどうでも良いって……。お金ならいくらでも出すなんて言うから、なら一番人気の子にって言ったのよ……でも、貴方が良いって言うの」
「は、はい。 お探しの方はこの領のハウスに入って行きました。裏口からです」
「ハウス……、だと?」
「は、はっ!」
その夜、報告に戻ってきて懇切丁寧に説明する騎士の話を聞いて、リアンは驚愕した。なぜならケンがハウスで働いていたと言っているから。
どうしてケンがハウスで働いているんだ?
あの人は自分がSubであることをあの会った日に知ったと言っていた。記憶が無く、ダイナミクスについて何も知らなかった。そんな人がどうして……。
この屋敷から出て行った後にハウスに行って雇われることになったのか。詳細はなにもわからない。いまわかることは、あの人が「ハウス」で働いているということだけだ。
だが、ハウスで働いていると言う事は、あの人のことを誰か別のDomが既に触れていると言うことと同義だった。
それを考えるとリアンは腑が煮え繰り返りそうになる。
棚に置かれた時計を見ると、時刻はまだ夜の七時を回ったところ。
今からでも間に合うか。
通常、夜なら客はハウスに早ければ五時には店に入る。今日、すでに客を取っていたらたとえそれが終わっていたとしても、もう一人その夜のうちに客を取ることはないだろう。
だが、いままさに客を取っていたなら……、九時か十時か。どちらにしても、夜通しの客が入る時間にはまだ早い。
今ならば、あるいは──。
見つけたのならすぐにでも会いに行きたい。だが、すでに誰かとプレイをした直後のケンと対峙して、自分が正気でいられるだろうか──。
ただ部屋で悩んでいる時間がもったいない。
リアンの心は最初から決まっていた。椅子から立ち上がって、目の前の騎士に「今から行く」と短く告げる。
「はっ! ……はい?」
「馬車を回してくれ」
「はっ」
騎士は一瞬怪訝な声を出した後、すぐに表情を改めて、最敬礼をしたのちに部屋から早足で出て行った。
リアンもかけてあった上着に腕を通し、取るものもとりあえず部屋をあとにした。
* * *
夕方の早い時間にベッドに寝かされて、健介は少しだけうとうととしていた。深い眠りではない心地よいまどろみから目を覚ます。
身体も頭もすっきりしている。
部屋は真っ暗だった。夜中というほどではないはずだが、いまが何時なのかはわからない。
誰かが部屋の扉をノックしている。
健介はシュナが様子を見に来たのかと思い、ベッドから起き上がって扉を開けた。
するとそこには想像とは別の人物が立っている。
「え」
「ごめんなさいね、休んでるとは聞いたんだけど……」
それは眉を寄せて、申し訳なさそうな表情をしたゾイだった。
ゾイに「ちょっと来てほしい」と言われたきり、何も説明されないままに、健介はハウスの中のプレイルーム側の建物にある執務室へと連れていかれる。この時間はすでにお客様が入ってきている時間だ。健介は夜にこちらの建物に足を踏み入れたことはない。
なにせこちらに来る用事がない。
無言のゾイの後ろを歩き、居住スペースとプレイルームの建物を隔てる扉をくぐると、雰囲気が一気に変わる。貴族の館のような、落ち着いていて上品な豪華さの内装に掃除のときはいつも気後れしていた。
朝に来るときの静けさとは違って、ざわざわと人の気配が多い。
すでに客が何人か入っているのだろう。
そんな時間帯に健介にいったい何の用事があるというのか──。
連れられるままに、ゾイとともに執務室にはいる。ソファをすすめられ、おとなしくすわることにした。
ゾイも向かいのソファに腰を掛けると、言いずらそうに「困ったわ……」と小さい声でつぶやいた。
「お断りしたのよ……貴方はうちで働いているけど、下男であってお客さんは取らないって。それにそういうお仕事してないから、きっとご奉仕も上手く出来ないって」
出し抜けにゾイがそう言った。
誰がなんだって?
「プレイヤーじゃないって、何度もご説明したんだけど……。どうしても、ケンちゃん、貴方だっていうのよ」
どういうことか話についていけない。
健介は「え、……どういうことですか?」
と、単刀直入に尋ねる。
「あ、ごめんなさいね。どうしても貴方とプレイをしたいとおっしゃる方がいらして。貴方はプレイヤーではないから、無理だとお断りしたんだけど……」
そりゃそうだ。
健介はここで働いてはいるが、掃除や洗濯などの雑用を行う下男のようなものだ。プレイヤーではない。
それが、なんだって?
「プレイヤーじゃなくてもいいから、とにかく貴方に会ってプレイがしたいとおっしゃるの」
そりゃ、無理だ。
ここで働いている人……プレイヤーとして働いている人たちはプロだ。
同じことをしろと言われても、みんなが何をしているのかも知らない。いきなり客の前にでるなんて、到底ありえない。健介は不安な瞳でゾイを見る。
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