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1章
44 なんで……俺?
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「本当にすまない。こんなのはプレイとは言えない……ただの八つ当たりだ」
ひときわ強く健介を抱きしめて、酷く切なそうなかすれた声で小さくつぶやく。
「貴方が俺に会ってもちっとも嬉しそうではなかったから……」
そもそも、プレイヤーでもない自分にわざわざプレイをしたいと申し出る奇特な人物にちっとも心あたりがないところに、ゾイから「第二皇子様よぉ」と言われて困惑しきりだったにもかかわらず、部屋に現れたのが、「リアン」だったのだ。急旋回、急上昇するジェットコースターのような心理状態の自分にそんな感情を求められても、無理というものだ。
「貴方は俺にもう一度会いたいとは思わなかったの?」
思ったか思わなかったかで言ったら、「思わなかった」。
まったくこれっぽっちも。
会いに行ったところで会えるはずがないことは火を見るよりも明らかだった。あの部屋の内装、あの屋敷、着ていた服……どれをとっても身分違いだ。この封建制の世界観の中で、一介の平民──それも、裕福ですらない下男の自分が会いに行ったところで、会わせてもらえるはずもないと考えるのは至って道理にかなっている。
元の世界だったとしても、道すがらに具合の悪くなった人を介抱したくらいで、「貴方にあいたかった」と会いに来られたら、「え? ストーカーになった?」と恐怖心すら与えかねない。
わきまえただけなのだが……?
逆にどうしてそこまで健介に会いたかったのか不思議で仕方がない。Subではあるが見た目も普通、身体は貧相なとうの立った男に何の興味をひかれたというのだ。
黙ってなにも答えないでいる健介に、サイベリアンは何を思ったのかはわからないが、抱きしめた腕を緩めて、健介の顔をオッドアイが覗き込む。
その表情はこちらの胸まで痛くなりそうなほど、とても辛そうなものだった。
「初めて会ったとき……、腕の中に貴方が倒れこんできたとき、今までに感じたことのない庇護欲を感じた」
口をはさめない健介を置いてけぼりにして、サイベリアンの独白はまだ続く。
「この閉じられた瞳は何色だろう、どんな声で俺を呼ぶのだろう……と。目覚めた貴方が俺をその瞳に写すのを心待ちにしていたんだ」
サイベリアンはこちらが恥ずかしくなるような言葉を次から次へと口にする。
えぇ?そんなに?
健介には何がそこまでサイベリアンの琴線に触れたのか正直理解できない。ぼろぼろの服を着たがりがりのおじさんにこの美しい男がそんな感情を普通なら抱かないだろう。
「あ、あの……」
いつのまにか身体に感じていた重圧感はなくなっていた。それでも、健介の顔色はまだ優れない。
「ん? なあに」
さきほどの固く冷たい声とは打って変わって優しい声だった。
「どうして、ですか?」
「どうして?」
「なんで……俺、なんですか」
健介はこれだけは聞きいておきたかった。
「わからないよ。ただ、腕に抱きしめた瞬間に貴方を守るのは自分でありたいと思ったんだ。それにプレイの相性も最高だった」
プレイの相性?
プレイには相性というものが存在するのか。健介はウンシアとのプレイも含めてもまだ数えるほど、いや正確には二回しかしていない。比較できるほどのプレイをしたことがないので、その「相性」がどういったものかわからなかった。
「それなのに、貴方は翌朝にはいなくて、俺は端的に言って落胆した。俺が感じたほどのものをケンは感じなかったのだと……」
それはそうだ。そのような運命的ななにかを感じたりはしなかった。感じてしまったのは主に股間だけだった。
ふとその時の自分の痴態を思い出して健介は顔を赤くして俯いた、
「探し出して、もう一度……一度とは言わず貴方とプレイしたいと思った」
「そ、それは、あの、こ、光栄です」
褒められているのかはわからないが、求められていたことはわかる。健介はこの答えが正しいかわからないが、それしか返す言葉がなかった。
「やり直させてほしい、ケン。もう一度、ちゃんとプレイをしてもらえる?」
美しいオッドアイが健介の黒い瞳を射貫くような強い視線で見つめる。断ることなんてできそうにない。
それにもとより自分はそのためにここにいる。断るいわれもない。
「は、はい。もちろん、です」
後ろで握り締める指先は氷に触れていたように冷たい。サイベリアンがその手を掴んで指を絡める。
「じゃあ、『キスして』」
ひときわ強く健介を抱きしめて、酷く切なそうなかすれた声で小さくつぶやく。
「貴方が俺に会ってもちっとも嬉しそうではなかったから……」
そもそも、プレイヤーでもない自分にわざわざプレイをしたいと申し出る奇特な人物にちっとも心あたりがないところに、ゾイから「第二皇子様よぉ」と言われて困惑しきりだったにもかかわらず、部屋に現れたのが、「リアン」だったのだ。急旋回、急上昇するジェットコースターのような心理状態の自分にそんな感情を求められても、無理というものだ。
「貴方は俺にもう一度会いたいとは思わなかったの?」
思ったか思わなかったかで言ったら、「思わなかった」。
まったくこれっぽっちも。
会いに行ったところで会えるはずがないことは火を見るよりも明らかだった。あの部屋の内装、あの屋敷、着ていた服……どれをとっても身分違いだ。この封建制の世界観の中で、一介の平民──それも、裕福ですらない下男の自分が会いに行ったところで、会わせてもらえるはずもないと考えるのは至って道理にかなっている。
元の世界だったとしても、道すがらに具合の悪くなった人を介抱したくらいで、「貴方にあいたかった」と会いに来られたら、「え? ストーカーになった?」と恐怖心すら与えかねない。
わきまえただけなのだが……?
逆にどうしてそこまで健介に会いたかったのか不思議で仕方がない。Subではあるが見た目も普通、身体は貧相なとうの立った男に何の興味をひかれたというのだ。
黙ってなにも答えないでいる健介に、サイベリアンは何を思ったのかはわからないが、抱きしめた腕を緩めて、健介の顔をオッドアイが覗き込む。
その表情はこちらの胸まで痛くなりそうなほど、とても辛そうなものだった。
「初めて会ったとき……、腕の中に貴方が倒れこんできたとき、今までに感じたことのない庇護欲を感じた」
口をはさめない健介を置いてけぼりにして、サイベリアンの独白はまだ続く。
「この閉じられた瞳は何色だろう、どんな声で俺を呼ぶのだろう……と。目覚めた貴方が俺をその瞳に写すのを心待ちにしていたんだ」
サイベリアンはこちらが恥ずかしくなるような言葉を次から次へと口にする。
えぇ?そんなに?
健介には何がそこまでサイベリアンの琴線に触れたのか正直理解できない。ぼろぼろの服を着たがりがりのおじさんにこの美しい男がそんな感情を普通なら抱かないだろう。
「あ、あの……」
いつのまにか身体に感じていた重圧感はなくなっていた。それでも、健介の顔色はまだ優れない。
「ん? なあに」
さきほどの固く冷たい声とは打って変わって優しい声だった。
「どうして、ですか?」
「どうして?」
「なんで……俺、なんですか」
健介はこれだけは聞きいておきたかった。
「わからないよ。ただ、腕に抱きしめた瞬間に貴方を守るのは自分でありたいと思ったんだ。それにプレイの相性も最高だった」
プレイの相性?
プレイには相性というものが存在するのか。健介はウンシアとのプレイも含めてもまだ数えるほど、いや正確には二回しかしていない。比較できるほどのプレイをしたことがないので、その「相性」がどういったものかわからなかった。
「それなのに、貴方は翌朝にはいなくて、俺は端的に言って落胆した。俺が感じたほどのものをケンは感じなかったのだと……」
それはそうだ。そのような運命的ななにかを感じたりはしなかった。感じてしまったのは主に股間だけだった。
ふとその時の自分の痴態を思い出して健介は顔を赤くして俯いた、
「探し出して、もう一度……一度とは言わず貴方とプレイしたいと思った」
「そ、それは、あの、こ、光栄です」
褒められているのかはわからないが、求められていたことはわかる。健介はこの答えが正しいかわからないが、それしか返す言葉がなかった。
「やり直させてほしい、ケン。もう一度、ちゃんとプレイをしてもらえる?」
美しいオッドアイが健介の黒い瞳を射貫くような強い視線で見つめる。断ることなんてできそうにない。
それにもとより自分はそのためにここにいる。断るいわれもない。
「は、はい。もちろん、です」
後ろで握り締める指先は氷に触れていたように冷たい。サイベリアンがその手を掴んで指を絡める。
「じゃあ、『キスして』」
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