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1章
43 冷たい声
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「『おすわり』」
部屋に響くサイベリアンの声は冷たい。最初にプレイしたときのような優しい響きはなかった。
早まったことをしたかもしれない。健介はそう思ったが、ここまで来て「プレイ」を拒否することも逃げることもできるはずがなかった。
言われるままにその場に座る。サイベリアンは床にぺたりと正座した健介を置いて移動し、一人ソファに腰をかけた。
無言が薄明るいプレイルームを支配する。このまま次の命令が与えられるまで座っていればいいのか、それともサイベリアンの側に侍るべきか……。
そわっと腰を浮かせた瞬間、「『動くな』」と鋭い命令がとんだ。
「うっ」
命令とともに浴びせられる威圧感に健介の身体はじっとりと冷や汗をかく。
(これは……威圧?)
苛立ちの混じった命令は健介の心を着実に削っていった。
どうして、サイベリアンはわざわざ自分を探し出してまでプレイをしようと思ったのか、健介にはひとつも理解できない。
「『脱いで』」
健介はその場でおずおずと立ちあがり、いわれるまま着ていたガウンを脱いでその場に落とすと、部屋の真ん中に立ち尽くした。あばら骨の浮いたがりがりの身体は部屋が薄暗いとはいえ、サイベリアンの前でさらすには貧相すぎる。着ている下着も、かろうじて股間が隠れるほど小さな布が腰の紐で止められているだけの、いわゆるTバックの紐パンだ。自分に似合うはずもないそんなものを身に着けたままの情けない姿で美しいサイベリアンの前にさらしている。
いたたまれなさに思わず俯く。
すると、その下着すらも許さないと言うように「全部だよ。全部『脱ぐんだ』」とサイベリアンから厳しい命令が下された。
褒められもせずに次々と新たな命令を出される。
今ですら限界なのに──。
だが、命令に背いてこれ以上怒りを買うのは得策ではない。
指先は冷たいのに手は汗でびっしょりとぬれている。結ばれた紐を解こうとするが、震える指先が言うことをきかない。
早く解かなくてはと思うのに、上手くいかず情けなさに泣きたくなってくる。
何度目かの試みののち、ようやく紐をほどいて、下着を脱ぐとしょんぼりとした健介の股間が露になる。
さりげなく両手で股間の前を隠すように組むと、見透かされたように「両手は後ろに」と言われてしまう。
命令ではないそれにおずおずと手を後ろに回し、隠すものが何もなくなった前をサイベリアンに見せる。
(褒められない……)
言うことをきいているのに、少しも褒めてくれない。健介の心はどんどん追い詰められていく。
「『おいで』」
健介は両手を後ろで組んだまま、サイベリアンの座るソファへと近づいた。目の前まで来たところで、「『おすわり』」と再び座るように命令を下された。
どうして褒めてくれない?
何がいけないのか?
どうしたらいいのか?
言われたことはちゃんと従っているのに、何がダメなのか……。
健介は軽いパニックに陥っていた。
「顔色が良くない。怯えているの?」
怯えるに決まっている。命令されるだけで、ひとつも褒めてもらえない。
これは本当にプレイなのか。
だが、経験の浅い、知識もない健介にはこれが正しいのか間違っているのかもわからなかった。
「怯えているのか聞いている」
なんと答えたら正解なのかもわからない。黙っていると、サイベリアンは「『言え』」と命令で健介に答えを要求してきた。
「あ、あ、ぅう……しゃ……、」
怯えていると素直に言いたい。だが、言っても言わなくても怒りを買う。それなら自分にはどうすることができるというのだろう。
健介の瞳から堪えきれなくなった涙があふれる。
「あぁ……う、うぅ、しゃちっ……ひぐっ」
このプレイを一刻も早く止めたくて、嗚咽まぎれに「セーフワード」とやらを口にする。セーフワードに「社畜」を選んだのはただの思い付きだった。だが、皮肉にもぴったりの言葉だと思う。
嫌なことにも限界まで耐え、理不尽なことにも唯々諾々と従う。異世界に来ようが自分の性質はかわらない。
一度決壊した涙腺は止めようと思っても止まらなかった。そのうえ鼻水まで垂れてくる。涙と鼻水で健介の顔はぐっちゃぐちゃだ。そうでなくとも見目の良くない顔は不細工このうえないことになっているだろう。だが、健介にはどうしようもなかった。
「はぁ……」
サイベリアンがため息をつく。
健介はぼろぼろと涙をこぼしながら、心の中で「ため息をつきたいのはこっちだよ!」と思ったが、それを口にすることができていたらこんなことにはなっていない。
もう、いますぐにでもプレイを止めて、真っ裸のままでもかまわないから部屋から飛び出したかった。
「すまない」
すると、サイベリアンがソファから立ち上がり、健介を抱きしめて謝罪を口にする。何に謝られてるのかわからない健介はリアンの腕に抱きしめられるまま呆然とした。突然の出来事にどうしてそうなったのかわけがわからず、驚きに涙は止まっていた。
垂れた鼻水やら涙やらでびしゃびしゃだった顔のまま、サイベリアンのシャツに顔をうずめることになっている。普段の健介なら「あぁ、汚れる」とか気になるところだが、そんなことも思いいたらないほどに、困惑していた。
部屋に響くサイベリアンの声は冷たい。最初にプレイしたときのような優しい響きはなかった。
早まったことをしたかもしれない。健介はそう思ったが、ここまで来て「プレイ」を拒否することも逃げることもできるはずがなかった。
言われるままにその場に座る。サイベリアンは床にぺたりと正座した健介を置いて移動し、一人ソファに腰をかけた。
無言が薄明るいプレイルームを支配する。このまま次の命令が与えられるまで座っていればいいのか、それともサイベリアンの側に侍るべきか……。
そわっと腰を浮かせた瞬間、「『動くな』」と鋭い命令がとんだ。
「うっ」
命令とともに浴びせられる威圧感に健介の身体はじっとりと冷や汗をかく。
(これは……威圧?)
苛立ちの混じった命令は健介の心を着実に削っていった。
どうして、サイベリアンはわざわざ自分を探し出してまでプレイをしようと思ったのか、健介にはひとつも理解できない。
「『脱いで』」
健介はその場でおずおずと立ちあがり、いわれるまま着ていたガウンを脱いでその場に落とすと、部屋の真ん中に立ち尽くした。あばら骨の浮いたがりがりの身体は部屋が薄暗いとはいえ、サイベリアンの前でさらすには貧相すぎる。着ている下着も、かろうじて股間が隠れるほど小さな布が腰の紐で止められているだけの、いわゆるTバックの紐パンだ。自分に似合うはずもないそんなものを身に着けたままの情けない姿で美しいサイベリアンの前にさらしている。
いたたまれなさに思わず俯く。
すると、その下着すらも許さないと言うように「全部だよ。全部『脱ぐんだ』」とサイベリアンから厳しい命令が下された。
褒められもせずに次々と新たな命令を出される。
今ですら限界なのに──。
だが、命令に背いてこれ以上怒りを買うのは得策ではない。
指先は冷たいのに手は汗でびっしょりとぬれている。結ばれた紐を解こうとするが、震える指先が言うことをきかない。
早く解かなくてはと思うのに、上手くいかず情けなさに泣きたくなってくる。
何度目かの試みののち、ようやく紐をほどいて、下着を脱ぐとしょんぼりとした健介の股間が露になる。
さりげなく両手で股間の前を隠すように組むと、見透かされたように「両手は後ろに」と言われてしまう。
命令ではないそれにおずおずと手を後ろに回し、隠すものが何もなくなった前をサイベリアンに見せる。
(褒められない……)
言うことをきいているのに、少しも褒めてくれない。健介の心はどんどん追い詰められていく。
「『おいで』」
健介は両手を後ろで組んだまま、サイベリアンの座るソファへと近づいた。目の前まで来たところで、「『おすわり』」と再び座るように命令を下された。
どうして褒めてくれない?
何がいけないのか?
どうしたらいいのか?
言われたことはちゃんと従っているのに、何がダメなのか……。
健介は軽いパニックに陥っていた。
「顔色が良くない。怯えているの?」
怯えるに決まっている。命令されるだけで、ひとつも褒めてもらえない。
これは本当にプレイなのか。
だが、経験の浅い、知識もない健介にはこれが正しいのか間違っているのかもわからなかった。
「怯えているのか聞いている」
なんと答えたら正解なのかもわからない。黙っていると、サイベリアンは「『言え』」と命令で健介に答えを要求してきた。
「あ、あ、ぅう……しゃ……、」
怯えていると素直に言いたい。だが、言っても言わなくても怒りを買う。それなら自分にはどうすることができるというのだろう。
健介の瞳から堪えきれなくなった涙があふれる。
「あぁ……う、うぅ、しゃちっ……ひぐっ」
このプレイを一刻も早く止めたくて、嗚咽まぎれに「セーフワード」とやらを口にする。セーフワードに「社畜」を選んだのはただの思い付きだった。だが、皮肉にもぴったりの言葉だと思う。
嫌なことにも限界まで耐え、理不尽なことにも唯々諾々と従う。異世界に来ようが自分の性質はかわらない。
一度決壊した涙腺は止めようと思っても止まらなかった。そのうえ鼻水まで垂れてくる。涙と鼻水で健介の顔はぐっちゃぐちゃだ。そうでなくとも見目の良くない顔は不細工このうえないことになっているだろう。だが、健介にはどうしようもなかった。
「はぁ……」
サイベリアンがため息をつく。
健介はぼろぼろと涙をこぼしながら、心の中で「ため息をつきたいのはこっちだよ!」と思ったが、それを口にすることができていたらこんなことにはなっていない。
もう、いますぐにでもプレイを止めて、真っ裸のままでもかまわないから部屋から飛び出したかった。
「すまない」
すると、サイベリアンがソファから立ち上がり、健介を抱きしめて謝罪を口にする。何に謝られてるのかわからない健介はリアンの腕に抱きしめられるまま呆然とした。突然の出来事にどうしてそうなったのかわけがわからず、驚きに涙は止まっていた。
垂れた鼻水やら涙やらでびしゃびしゃだった顔のまま、サイベリアンのシャツに顔をうずめることになっている。普段の健介なら「あぁ、汚れる」とか気になるところだが、そんなことも思いいたらないほどに、困惑していた。
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