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2章
5 すまない
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「怯えているの?」
目の前で顔を青くして震えながら両手をついて座り込むケンを見下ろす。その姿はそうでなくとも細くて小さな体をもっと小さく見せていた。
ケンは浅い呼吸を繰り返すだけで、何も答えない。薄暗い部屋が沈黙に包まれて、聞こえるのは苦しそうなケンの息遣いだけ。
怯えているのは火を見るよりも明らかで、サイベリアンだって答えられなくたってわかりきっていた。
優しくしたい、守りたい、甘やかしたい、と思う反面、酷くしたい、支配したい、虐めたい、という気持ちが胸の奥底から湧いて抑えきれない。
サイベリアンも自分で止められないほどのDom性に支配されていた。ケンに「もう止めてくれ、勘弁してくれ」と言われるまで気が済まない。自分で自分を止められる気がしなかった。
「怯えているのか聞いている」
それでも、答えないケンにしびれを切らして「『言え』」とコマンドを発した。
とうとう限界を迎えたケンが堪えきれずに小さく嗚咽を漏らし始める。
「あぁ……うぅ、しゃ、あうぅ、しゃち……ふぐぅ」
ケンが途切れ途切れにセーフワードを口にする。
そこでサイベリアンはようやく自分がやり過ぎていたことに……、プレイでもなんでもなくただただ自分の怒りをぶつけてケンを責め立てていただけたったという過ちに気づいた。
(最低だ……信頼関係もくそもない)
自分にあきれて、思わずため息が漏れる。
サイベリアンはソファから立ち上がり、足元にうずくまるケンの両脇に手を差し込んで、そのまま持ち上げて抱きしめた。
「本当にすまない……」
謝ったところで、許してもらえるかわからなかったが、謝りたかった。それが自己満足でしかなかったとしても、自分のした仕打ちを反省していることを伝えたい。
「こんなのはプレイとは言えない。ただの八つ当たりだ。貴方は俺にもう一度会いたいとは思わなかったの?」
会いたくなかったと言われたくない一心で、答えを待たずに話し続ける。
「初めて会ったとき、腕の中に貴方が倒れこんできたとき、今までに感じたことのない庇護欲を感じた。この閉じられた瞳は何色だろう、どんな声で俺を呼ぶのだろう……と。目覚めた貴方が俺をその瞳に写すのを心待ちにしていたんだ」
言い訳がましいと思いながらも、サイベリアンは自分の気持ちを素直に吐露した。ケンの表情に嫌悪が浮かんでいるのではと怖くて顔を見れずに、腕の中に抱きしめたままでいることしか出来ない。
「どうしてですか?」
胸の中のケンがくぐもった声で尋ねる。
「どうして?」
何を聞かれているのかわからず、サイベリアンはそのまま疑問を返す。
「なんで、俺なんですか?」
きょとんとした目でサイベリアンを見上げていた。
そんなことはサイベリアンにもわからなかった。ただただ、自分の中のDomの部分がどうしようもなく、この人を求めて仕方がないのだ。
「わからないよ。ただ、腕に抱きしめた瞬間に貴方を守るのは自分でありたいと思ったんだ。それにプレイの相性も最高だった」
それなのに、貴方は何も感じなかったのか?
そう責めそうになる気持ちを抑えたかったが、「貴方は翌朝にはいなくて、俺は端的に言って落胆した。俺が感じたほどのものをケンは感じなかったのだと」と、若干非難めいた物言いをしてしまう。
「もう一度……一度とは言わず貴方とプレイをしたいと思った」
「光栄です……」
光栄……だと思ってくれるのか。サイベリアンの心に喜びが溢れる。光栄だと思ってくれるのなら、プレイをやり直したい、サイベリアンはケンの方を掴んで、視線を合わせてその思いを告げた。
「は、はい。もちろんです」
ケンは黒曜石の瞳でこちらを見つめて、悩むことなく答える。そして、サイベリアンはその答えに気を大きくして、多少の無理を通そうと考えた。
「じゃあ、『キス』して」
目の前で顔を青くして震えながら両手をついて座り込むケンを見下ろす。その姿はそうでなくとも細くて小さな体をもっと小さく見せていた。
ケンは浅い呼吸を繰り返すだけで、何も答えない。薄暗い部屋が沈黙に包まれて、聞こえるのは苦しそうなケンの息遣いだけ。
怯えているのは火を見るよりも明らかで、サイベリアンだって答えられなくたってわかりきっていた。
優しくしたい、守りたい、甘やかしたい、と思う反面、酷くしたい、支配したい、虐めたい、という気持ちが胸の奥底から湧いて抑えきれない。
サイベリアンも自分で止められないほどのDom性に支配されていた。ケンに「もう止めてくれ、勘弁してくれ」と言われるまで気が済まない。自分で自分を止められる気がしなかった。
「怯えているのか聞いている」
それでも、答えないケンにしびれを切らして「『言え』」とコマンドを発した。
とうとう限界を迎えたケンが堪えきれずに小さく嗚咽を漏らし始める。
「あぁ……うぅ、しゃ、あうぅ、しゃち……ふぐぅ」
ケンが途切れ途切れにセーフワードを口にする。
そこでサイベリアンはようやく自分がやり過ぎていたことに……、プレイでもなんでもなくただただ自分の怒りをぶつけてケンを責め立てていただけたったという過ちに気づいた。
(最低だ……信頼関係もくそもない)
自分にあきれて、思わずため息が漏れる。
サイベリアンはソファから立ち上がり、足元にうずくまるケンの両脇に手を差し込んで、そのまま持ち上げて抱きしめた。
「本当にすまない……」
謝ったところで、許してもらえるかわからなかったが、謝りたかった。それが自己満足でしかなかったとしても、自分のした仕打ちを反省していることを伝えたい。
「こんなのはプレイとは言えない。ただの八つ当たりだ。貴方は俺にもう一度会いたいとは思わなかったの?」
会いたくなかったと言われたくない一心で、答えを待たずに話し続ける。
「初めて会ったとき、腕の中に貴方が倒れこんできたとき、今までに感じたことのない庇護欲を感じた。この閉じられた瞳は何色だろう、どんな声で俺を呼ぶのだろう……と。目覚めた貴方が俺をその瞳に写すのを心待ちにしていたんだ」
言い訳がましいと思いながらも、サイベリアンは自分の気持ちを素直に吐露した。ケンの表情に嫌悪が浮かんでいるのではと怖くて顔を見れずに、腕の中に抱きしめたままでいることしか出来ない。
「どうしてですか?」
胸の中のケンがくぐもった声で尋ねる。
「どうして?」
何を聞かれているのかわからず、サイベリアンはそのまま疑問を返す。
「なんで、俺なんですか?」
きょとんとした目でサイベリアンを見上げていた。
そんなことはサイベリアンにもわからなかった。ただただ、自分の中のDomの部分がどうしようもなく、この人を求めて仕方がないのだ。
「わからないよ。ただ、腕に抱きしめた瞬間に貴方を守るのは自分でありたいと思ったんだ。それにプレイの相性も最高だった」
それなのに、貴方は何も感じなかったのか?
そう責めそうになる気持ちを抑えたかったが、「貴方は翌朝にはいなくて、俺は端的に言って落胆した。俺が感じたほどのものをケンは感じなかったのだと」と、若干非難めいた物言いをしてしまう。
「もう一度……一度とは言わず貴方とプレイをしたいと思った」
「光栄です……」
光栄……だと思ってくれるのか。サイベリアンの心に喜びが溢れる。光栄だと思ってくれるのなら、プレイをやり直したい、サイベリアンはケンの方を掴んで、視線を合わせてその思いを告げた。
「は、はい。もちろんです」
ケンは黒曜石の瞳でこちらを見つめて、悩むことなく答える。そして、サイベリアンはその答えに気を大きくして、多少の無理を通そうと考えた。
「じゃあ、『キス』して」
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