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2章
27 そわそわ
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身体を離して、サイベリアンの顔を正面から見つめて、健介は宣言した。
すると、萎れていた花が水を吸い込んで元気を取り戻すように、くたびれていたサイベリアンの表情がみるみる輝きだす。
(あぁ、本当にお疲れなんだ……)
元の世界で社畜を極めていた健介にはサイベリアンの今の気持ちが痛いほどに理解できた。
家に帰れず、寝ずに二日三日と仕事をこなして、ようやく帰宅できたときの疲れ方は一日頑張って働いたとかそういった類の疲労感とは別の種類のもので、澱がたまっていくようなそんな感じなのだ。ただただ蓄積されていくのでもなく、倍々に積もっていく。
それに加えて、ダイナミクスのストレスまで感じているのだとしたら、身体は相当につらいはずだ。
(プレイを、いや癒されたいかったんだな……)
サイベリアンの表情を見て、「うんうん」と健介は納得に何度もうなずいた。
いま、ここに自分がいる理由……プレイをして、サイベリアンのストレスを解消しなくては、と健介は使命感がむくむくと湧き上がってくる。
「お食事は召しあがられましたか? お風呂になさいますか? プレイをすぐされますか?」
と、まくしたてるように口にして、「ん?」と思う。
これではまるで、「ご飯にする? お風呂にする? それとも、あ・た・し?」ってやつではないか!
何やら恥ずかしいことを口走ったことに気づいて、健介の顔は「ぼっ」と赤くなる。
「お風呂にしたら、ケンが手伝ってくれるの?」
サイベリアンは健介の耳元に口を寄せて、低く甘い声で囁く。それだけで、健介の腰に甘い痺れが走った。
「い、いえ、あの、そ、それは……」
お風呂場でプレイをするということなのか、ならば断る理由はないが、メイドさんたちが普段どのようなお世話をしているのかがわからない。そんななかで正直なところ、健介はサイベリアンの湯あみをきちんと手伝えるとは思えなかった。
しどろもどろに答えを濁していると、「それはまた今度だな。すぐに入ってくるから待ってて」と言って、扉に向かって歩いていく。
廊下に待機していたメイドさんに声をかけると、メイドさんたちはてきぱきとサイベリアンの風呂の準備を始めた。
健介はひとまずほっと息をつく。
サイベリアンをバスルームに見送り、ベッドに腰かける。そこからだと、入れ変わり立ち代わりバスルームと廊下に消えていくメイドさんたちがよく見えた。
どこからともなく、リネンを籠いっぱいに持って、バスルームに消えていったり、先ほどまでサイベリアンが着ていたと思われる白の上下を腕に抱えて廊下に消えていったり……。
廊下から部屋の中に入ってくるたびに、丁寧に「コン、コン、コン」とノックをされ、そのたびに健介は「はい、どうぞ」と声をあげていた。この屋敷の主人のための用意なのだから、自分のことなど気にせずにがんがん扉を開け閉めしてほしいのだが、そう言ったところでしてはくれないだろう。
健介も一番最初はメイド長さんから入浴の手伝いをすると言いわれた。だが、入浴手伝いなどしてもらう意味がわからずに、丁重にお断りした。屋敷滞在初日の夜のお風呂のときにも、他のメイドさんたちから入浴の手伝いを申し出られたのだが、風呂と着替えの準備だけをお願いして、ほっといてもらっていた。そのため、風呂場でメイドさんたちがどのような手伝いをしているのかは健介には全くわからない。
入浴の手伝いって何をしてもらうのだろう……。
それにしても、自分の部屋に戻って入るのではなく、健介の滞在している部屋の風呂に入るとは──。
横着なのか、それとも早く風呂に入ってプレイをしたいのか。いずれかだろう。
健介はベッドの上で風呂場から出てくるサイベリアンをそわそわと待った。
すると、萎れていた花が水を吸い込んで元気を取り戻すように、くたびれていたサイベリアンの表情がみるみる輝きだす。
(あぁ、本当にお疲れなんだ……)
元の世界で社畜を極めていた健介にはサイベリアンの今の気持ちが痛いほどに理解できた。
家に帰れず、寝ずに二日三日と仕事をこなして、ようやく帰宅できたときの疲れ方は一日頑張って働いたとかそういった類の疲労感とは別の種類のもので、澱がたまっていくようなそんな感じなのだ。ただただ蓄積されていくのでもなく、倍々に積もっていく。
それに加えて、ダイナミクスのストレスまで感じているのだとしたら、身体は相当につらいはずだ。
(プレイを、いや癒されたいかったんだな……)
サイベリアンの表情を見て、「うんうん」と健介は納得に何度もうなずいた。
いま、ここに自分がいる理由……プレイをして、サイベリアンのストレスを解消しなくては、と健介は使命感がむくむくと湧き上がってくる。
「お食事は召しあがられましたか? お風呂になさいますか? プレイをすぐされますか?」
と、まくしたてるように口にして、「ん?」と思う。
これではまるで、「ご飯にする? お風呂にする? それとも、あ・た・し?」ってやつではないか!
何やら恥ずかしいことを口走ったことに気づいて、健介の顔は「ぼっ」と赤くなる。
「お風呂にしたら、ケンが手伝ってくれるの?」
サイベリアンは健介の耳元に口を寄せて、低く甘い声で囁く。それだけで、健介の腰に甘い痺れが走った。
「い、いえ、あの、そ、それは……」
お風呂場でプレイをするということなのか、ならば断る理由はないが、メイドさんたちが普段どのようなお世話をしているのかがわからない。そんななかで正直なところ、健介はサイベリアンの湯あみをきちんと手伝えるとは思えなかった。
しどろもどろに答えを濁していると、「それはまた今度だな。すぐに入ってくるから待ってて」と言って、扉に向かって歩いていく。
廊下に待機していたメイドさんに声をかけると、メイドさんたちはてきぱきとサイベリアンの風呂の準備を始めた。
健介はひとまずほっと息をつく。
サイベリアンをバスルームに見送り、ベッドに腰かける。そこからだと、入れ変わり立ち代わりバスルームと廊下に消えていくメイドさんたちがよく見えた。
どこからともなく、リネンを籠いっぱいに持って、バスルームに消えていったり、先ほどまでサイベリアンが着ていたと思われる白の上下を腕に抱えて廊下に消えていったり……。
廊下から部屋の中に入ってくるたびに、丁寧に「コン、コン、コン」とノックをされ、そのたびに健介は「はい、どうぞ」と声をあげていた。この屋敷の主人のための用意なのだから、自分のことなど気にせずにがんがん扉を開け閉めしてほしいのだが、そう言ったところでしてはくれないだろう。
健介も一番最初はメイド長さんから入浴の手伝いをすると言いわれた。だが、入浴手伝いなどしてもらう意味がわからずに、丁重にお断りした。屋敷滞在初日の夜のお風呂のときにも、他のメイドさんたちから入浴の手伝いを申し出られたのだが、風呂と着替えの準備だけをお願いして、ほっといてもらっていた。そのため、風呂場でメイドさんたちがどのような手伝いをしているのかは健介には全くわからない。
入浴の手伝いって何をしてもらうのだろう……。
それにしても、自分の部屋に戻って入るのではなく、健介の滞在している部屋の風呂に入るとは──。
横着なのか、それとも早く風呂に入ってプレイをしたいのか。いずれかだろう。
健介はベッドの上で風呂場から出てくるサイベリアンをそわそわと待った。
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♡やお気に入り登録、しおり挟んで追ってくださるのも、全部全部ありがとうございます…!すごく励みになります!! ( ߹ᯅ߹ )✨
おかげさまで、なんとか合宿編は終わりそうです。
次の目標は、教育実習・文化祭編までたどり着くこと…、、
𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄
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𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄
⚠︎書きながら展開を考えていくので、途中で何度も加筆修正が入ると思います。
タイトルも仮ですし、不定期更新です。
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𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄
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