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2章
38 失踪者③
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地図には帝国領を中心にして隣接国まが描かれたもので、帝国領内については都市や街、町と街を結ぶ大道が記載されている。領と領は点線で区切られて、領境がわかるようになっていた。
「北の国境付近とアムマイン伯爵領とその隣領の間の森です」
「アムマイン領の隣の森側というと、ボルハウンド公爵領の反対側か?」
地図を眺めながら、レオンが尋ねた。
「おっしゃる通りです」
ボルハウンドとアムマインは帝都から南と東に位置している。いずれも広大な領地を所有しており、比較的穏やかな気候で裕福な領だ。領内に領主が騎士団を所有しており、治安は帝国内でも群を抜いてよいと言われている。そんなアムマインに人さらいの根城が……?
そこで、サイベリアンは地図を見ながら半年ほど前に、ボルハウンドの領内で発生した事件を思い出した。
領の南東側に位置する森の中の小さな村の住民がいなくなった。正確に言うと、村人が出て行って、代わりに全く別の住民が住み着いているのではないか、という相談が近くの役場に入った。
知人を訪ねて別の村の男がその村を訪ねたところ、知人はおらずに別の男が住んでいた。驚いた男は知人の家から出てきた女に、「ここに〇〇というものが住んでいたはずだが……」と聞いたところ、「あぁ、その人ならこの村から出て行ったよ。空いた家に入ったんだ」と言われたという。何も言わずに転居するほど不義理なやつでもない、と思ったものの、特段会う約束をして訪ねたわけではなかったので、その日はそのまま家に帰った。男は転居した知人から連絡が入るかもしれないと考えたのだ。
だが、待てど暮らせど転居した知人からは便りの一つも届かない。極めて仲が良かったとか、深い関係があったというわけではないが、村の男とは森で採れる薬草や肉と農作物を交換する程度には行き来をしていたのだ。それが急に何も言わずにいなくなり、その連絡一つもよこさないとは……。なにか、転居先を訪ねられては不都合があるのか、などと男は少しばかり寂しく思っていた。
その後、男は手に入らなかった薬草を買いに近くの街の商店を訪ねた際に「あの村の奴と薬草の取引をしていたのに、急にいなくなっちまって」と軽い気持ちで愚痴をこぼす。すると、薬草店の店主が「えぇ、そうなのかい。うちにもあの村から薬草を売りに来る奴が何人かいたが、ここんところめっきり来なくなっていたが……」というのである。
男は同じ人物かと、知人の特徴や名前を店主に伝えたが、店主のところに薬草を売りに来ていたのは別の人物だった。そこで男は、小さな村の住人がそう立て続けに村から出ていくものだろうか、と不思議に思った。この領は税金も他の領に比べると安く、土地も豊かであった。そんな場所からわざわざ別の土地に移住してまですることがあるのか、しかも何人もの村人が?
男は怪しく思って、再び知人の村を訪ねた。すると、昼間だというのに子供が一人もいない。それほど大きな村ではなかったので顔見知った人もいたが、その人たちもいなかった。
これはどういうことかと、怖くなって男はそのまま自分の街に帰り、そのことを役所に告げたのである。
すると、どうだろう。
役場では村人が移住していることを把握していなかった。
そうして、領の騎士団が調査をしたところ、村は丸っと盗賊に占拠されており、女性と子供は鎖でつながれ、男の人たちはどうやら帰らぬ人となっていた。
領の騎士団の働きで、盗賊は殲滅され、生き残った村人たちも解放された。その際、牢に繋がれた人の中に、村の住民ではなくどこかから連れてこられたと思しき子供たちがいたという情報が含まれていた。
あれも、これと一連の事件だった可能性が浮上する。
いくら裕福で、治安が良い領でも、広大な領の隅々まで騎士団を警備に配置することはできない。村や街からなにか申し出があって、魔獣の討伐に訪れたり、犯罪者を取り締まったりするのである。半分森のなかの村には目が届かないだろう。
顎に手を当てて考え込んでいた姿勢から、視線をあげるとレオンと目が合う。レオンも同じ考えに至ったのか、サイベリアンに向かって大きくうなずいた。
「半年ほど前にボルハウンド領で盗賊が村を乗っ取っていた話しを知っているか?」
サイベリアンは第二騎士団副団長と近衛騎士団長に向かって尋ねる。
両者の反応は異なり、第二騎士団副団長は「はい」と、近衛騎士団長は「いいえ」と答えた。
「北の国境付近とアムマイン伯爵領とその隣領の間の森です」
「アムマイン領の隣の森側というと、ボルハウンド公爵領の反対側か?」
地図を眺めながら、レオンが尋ねた。
「おっしゃる通りです」
ボルハウンドとアムマインは帝都から南と東に位置している。いずれも広大な領地を所有しており、比較的穏やかな気候で裕福な領だ。領内に領主が騎士団を所有しており、治安は帝国内でも群を抜いてよいと言われている。そんなアムマインに人さらいの根城が……?
そこで、サイベリアンは地図を見ながら半年ほど前に、ボルハウンドの領内で発生した事件を思い出した。
領の南東側に位置する森の中の小さな村の住民がいなくなった。正確に言うと、村人が出て行って、代わりに全く別の住民が住み着いているのではないか、という相談が近くの役場に入った。
知人を訪ねて別の村の男がその村を訪ねたところ、知人はおらずに別の男が住んでいた。驚いた男は知人の家から出てきた女に、「ここに〇〇というものが住んでいたはずだが……」と聞いたところ、「あぁ、その人ならこの村から出て行ったよ。空いた家に入ったんだ」と言われたという。何も言わずに転居するほど不義理なやつでもない、と思ったものの、特段会う約束をして訪ねたわけではなかったので、その日はそのまま家に帰った。男は転居した知人から連絡が入るかもしれないと考えたのだ。
だが、待てど暮らせど転居した知人からは便りの一つも届かない。極めて仲が良かったとか、深い関係があったというわけではないが、村の男とは森で採れる薬草や肉と農作物を交換する程度には行き来をしていたのだ。それが急に何も言わずにいなくなり、その連絡一つもよこさないとは……。なにか、転居先を訪ねられては不都合があるのか、などと男は少しばかり寂しく思っていた。
その後、男は手に入らなかった薬草を買いに近くの街の商店を訪ねた際に「あの村の奴と薬草の取引をしていたのに、急にいなくなっちまって」と軽い気持ちで愚痴をこぼす。すると、薬草店の店主が「えぇ、そうなのかい。うちにもあの村から薬草を売りに来る奴が何人かいたが、ここんところめっきり来なくなっていたが……」というのである。
男は同じ人物かと、知人の特徴や名前を店主に伝えたが、店主のところに薬草を売りに来ていたのは別の人物だった。そこで男は、小さな村の住人がそう立て続けに村から出ていくものだろうか、と不思議に思った。この領は税金も他の領に比べると安く、土地も豊かであった。そんな場所からわざわざ別の土地に移住してまですることがあるのか、しかも何人もの村人が?
男は怪しく思って、再び知人の村を訪ねた。すると、昼間だというのに子供が一人もいない。それほど大きな村ではなかったので顔見知った人もいたが、その人たちもいなかった。
これはどういうことかと、怖くなって男はそのまま自分の街に帰り、そのことを役所に告げたのである。
すると、どうだろう。
役場では村人が移住していることを把握していなかった。
そうして、領の騎士団が調査をしたところ、村は丸っと盗賊に占拠されており、女性と子供は鎖でつながれ、男の人たちはどうやら帰らぬ人となっていた。
領の騎士団の働きで、盗賊は殲滅され、生き残った村人たちも解放された。その際、牢に繋がれた人の中に、村の住民ではなくどこかから連れてこられたと思しき子供たちがいたという情報が含まれていた。
あれも、これと一連の事件だった可能性が浮上する。
いくら裕福で、治安が良い領でも、広大な領の隅々まで騎士団を警備に配置することはできない。村や街からなにか申し出があって、魔獣の討伐に訪れたり、犯罪者を取り締まったりするのである。半分森のなかの村には目が届かないだろう。
顎に手を当てて考え込んでいた姿勢から、視線をあげるとレオンと目が合う。レオンも同じ考えに至ったのか、サイベリアンに向かって大きくうなずいた。
「半年ほど前にボルハウンド領で盗賊が村を乗っ取っていた話しを知っているか?」
サイベリアンは第二騎士団副団長と近衛騎士団長に向かって尋ねる。
両者の反応は異なり、第二騎士団副団長は「はい」と、近衛騎士団長は「いいえ」と答えた。
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