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2章
37 失踪者②
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これは……一体何年前から行われていたのか。
「大がかりだな……」
報告に対してサイベリアンがこぼす。
救護院で保護された人たちは、領内で違法な取引を行っていた商人や山賊まがいの行為を行っていた集団を領の治安部隊が捜索した際に見つけ、保護したものだった。それがその領内で起こっただけではなく、組織的に他領にまたがって行われていたことだとは誰も気づかなかった。
各領に自治を任せて統治に口を出すことがあまりないとはいえ、それをずっと知らすに無辜の帝国民が何人も犠牲になっていたとは、と自身の不甲斐なさに憤りを覚える。
攫われた人たちは帝国内だけではなく、おそらく帝国外にも売られているだろう。これほど人が大々的に奴隷として売られていたら、目につくに決まっている。表向き帝国では奴隷制度は禁止されているのだから──。
表向き……という理由は借金奴隷が存在するためだ。借りた金を返せなければ、代わりに労役で返済するために自由を奪われる。また、生活が立ち行かなくなった親が口減らしのために、子供を労働力として差し出すことがあった。これも、本来は禁止されているが法の抜け穴をついて、「親の借金を子供に負わせて」、書類上合法な借金奴隷として連れて行かせるのだった。領によってはそもそも子供に借金をさせることができないようにしているところもあるが、すべてではない。
サイベリアンは早急に帝国として、借金を出来る最低年齢と金銭のかたによる子供の強制労働禁止する法整備を進めなくてはなるまいと心に決めた。
この国の人には多かれ少なかれ獣人の血が混ざっている。そのため、獣人種に対して、「畜生の分際で人のふりをしやがって」などという偏見はない。「獣人だから」という理由だけで、奴隷のように扱われることはなかった。ただ、混血が進み過ぎていて、純血の獣人種や獣人としての特徴を顕わにする人は帝国中枢にはそれほど多くないのも事実で、獣人としての特徴を残すのは、地方の村などで他種族や人種族と頻繁に交流を行わない場所に済む人たちだった。
だが、偏見がない分タチが悪い。
貴族や金持ちの商人などの大半は祖先に肉食系の獣人種を持つ。純粋に草食獣人の愛らしさや、鳥人の羽の希少さを理由とする愛玩用に手元に置きたいと考える不届きものがいないわけではなかった。加えて、帝国の外ともなれば、獣人種のいない人種が中心の国もまだまだある。帝国内で捌けなくとも、需要は十分に考えられる。
いずれにせよ大罪だ。
売った方に限らず、買った方も罪に問われる。
売るやつがいるから買う。買うやつがいるから売る。
どちらも押さえなければ、結局第二、第三のハエニダエ侯爵が出てくるだけだ。
「ハエニダエと男爵との関係を示す証拠は?」
サイベリアンは鋭く尋ねる。
「ハエニダエ侯爵の周りが厳重で、そちらを当たるのは難しく……」
「草を使ってもか?」
「あぁ、草を何人か送ったが、そっちは入り込むのがやっとだ。その上何か証拠を探すには時間もなかった」
レオンがサイベリアンの問いに答える。
「そうか……」
後ろ暗い奴ほど、警戒が厳重なものだ。状況的にはこれ以上ないほどに、ハエニダエ侯爵が「黒」だと言っている。だが、証拠がなければ「侯爵」の罪を問うのは例え皇子であるサイベリアンでも難しい。
「男爵のほうはいろいろ調べられました。明後日に大規模な取引があることがわかりました」
サイベリアンは副騎士団長を見て頷き、先を促した。
「その取引にハエニダエ侯爵も同席するという情報を入手しています」
「ただ、それが……拠点の二か所までは割り込めたのですが、どちらで行われるかが不明で……」
第二騎士団副団長の説明を補足するように近衛騎士団長が説明する。
「取引の現行犯でハエニダエ侯爵を捕まえられれば、屋敷から領まで帝国から調査のために人を派遣することができます」
「ただし、どちらに現れるのかがわからない──」
サイベリアンが最後の言葉を引き取った。
明後日ということは、場所によっては今すぐ出発しなければ間に合わない。もしかすると、今すぐに出たところで間に合わないかもしれない。何にせよ検討にかけられる時間はない。
「場所はどことどこだ」
サイベリアンの質問に、近衛騎士団長が素早く動き、机の上に大きな地図を広げた。
「大がかりだな……」
報告に対してサイベリアンがこぼす。
救護院で保護された人たちは、領内で違法な取引を行っていた商人や山賊まがいの行為を行っていた集団を領の治安部隊が捜索した際に見つけ、保護したものだった。それがその領内で起こっただけではなく、組織的に他領にまたがって行われていたことだとは誰も気づかなかった。
各領に自治を任せて統治に口を出すことがあまりないとはいえ、それをずっと知らすに無辜の帝国民が何人も犠牲になっていたとは、と自身の不甲斐なさに憤りを覚える。
攫われた人たちは帝国内だけではなく、おそらく帝国外にも売られているだろう。これほど人が大々的に奴隷として売られていたら、目につくに決まっている。表向き帝国では奴隷制度は禁止されているのだから──。
表向き……という理由は借金奴隷が存在するためだ。借りた金を返せなければ、代わりに労役で返済するために自由を奪われる。また、生活が立ち行かなくなった親が口減らしのために、子供を労働力として差し出すことがあった。これも、本来は禁止されているが法の抜け穴をついて、「親の借金を子供に負わせて」、書類上合法な借金奴隷として連れて行かせるのだった。領によってはそもそも子供に借金をさせることができないようにしているところもあるが、すべてではない。
サイベリアンは早急に帝国として、借金を出来る最低年齢と金銭のかたによる子供の強制労働禁止する法整備を進めなくてはなるまいと心に決めた。
この国の人には多かれ少なかれ獣人の血が混ざっている。そのため、獣人種に対して、「畜生の分際で人のふりをしやがって」などという偏見はない。「獣人だから」という理由だけで、奴隷のように扱われることはなかった。ただ、混血が進み過ぎていて、純血の獣人種や獣人としての特徴を顕わにする人は帝国中枢にはそれほど多くないのも事実で、獣人としての特徴を残すのは、地方の村などで他種族や人種族と頻繁に交流を行わない場所に済む人たちだった。
だが、偏見がない分タチが悪い。
貴族や金持ちの商人などの大半は祖先に肉食系の獣人種を持つ。純粋に草食獣人の愛らしさや、鳥人の羽の希少さを理由とする愛玩用に手元に置きたいと考える不届きものがいないわけではなかった。加えて、帝国の外ともなれば、獣人種のいない人種が中心の国もまだまだある。帝国内で捌けなくとも、需要は十分に考えられる。
いずれにせよ大罪だ。
売った方に限らず、買った方も罪に問われる。
売るやつがいるから買う。買うやつがいるから売る。
どちらも押さえなければ、結局第二、第三のハエニダエ侯爵が出てくるだけだ。
「ハエニダエと男爵との関係を示す証拠は?」
サイベリアンは鋭く尋ねる。
「ハエニダエ侯爵の周りが厳重で、そちらを当たるのは難しく……」
「草を使ってもか?」
「あぁ、草を何人か送ったが、そっちは入り込むのがやっとだ。その上何か証拠を探すには時間もなかった」
レオンがサイベリアンの問いに答える。
「そうか……」
後ろ暗い奴ほど、警戒が厳重なものだ。状況的にはこれ以上ないほどに、ハエニダエ侯爵が「黒」だと言っている。だが、証拠がなければ「侯爵」の罪を問うのは例え皇子であるサイベリアンでも難しい。
「男爵のほうはいろいろ調べられました。明後日に大規模な取引があることがわかりました」
サイベリアンは副騎士団長を見て頷き、先を促した。
「その取引にハエニダエ侯爵も同席するという情報を入手しています」
「ただ、それが……拠点の二か所までは割り込めたのですが、どちらで行われるかが不明で……」
第二騎士団副団長の説明を補足するように近衛騎士団長が説明する。
「取引の現行犯でハエニダエ侯爵を捕まえられれば、屋敷から領まで帝国から調査のために人を派遣することができます」
「ただし、どちらに現れるのかがわからない──」
サイベリアンが最後の言葉を引き取った。
明後日ということは、場所によっては今すぐ出発しなければ間に合わない。もしかすると、今すぐに出たところで間に合わないかもしれない。何にせよ検討にかけられる時間はない。
「場所はどことどこだ」
サイベリアンの質問に、近衛騎士団長が素早く動き、机の上に大きな地図を広げた。
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