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3章
1 三度目の正直
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サイベリアンは目を覚ましてから、隣ですぅすぅと寝息を立てるケンを見下ろしていた。
初めて会ったときにあった目の下の真っ黒なくまは、いまやすっかりと消えていた。こけていた頬も少しだけ肉が付き、土色だった肌も健康的な色をしている。
昨晩たくさん泣かせたせいか、目のふちに少しだけ赤みが残っていた。
天蓋の薄布の先を眺めると、カーテンの隙間から朝日が差し込む。もう少ししたら、メイドが朝の支度の手伝いに部屋の扉をノックする。
それまではこの人の寝顔を堪能したかった。
なにせ、ケンより先に起きれたのは初めてなのだ。ケンは早起きなのだ。初めて泊まらせた日は夜も明けきらぬうちに目覚めていたし、三日前の朝も自分より先に目覚めたケンは窓際に佇んで、外を眺めていた。
今朝は初めて、ケンより先に目が覚めたのである。サイベリアンはこれ幸いと愛しい人の寝顔を楽しんでいた。
今度こそは一緒に朝食を! という固い決意をこめて、昨晩のうちに執事長へ指示を出している。たとえサイベリアンが指示をしなかったとしても、優秀な使用人たちは滞りなく完璧な朝食を整えるにちがいない。だが、楽しみな気持ちが抑えられず前のめりになって、サイベリアンはケンを寝かせたあとに、執事長と使用人にあれこれと口出しせずにいられなかった。それにしても、朝食を食べるだけのことをこんなに待ち遠しく思ったことはかつてあっただろうか……。
いや、ない。
そもそも、ともに食事をとりたい相手というもの自体初めてのことだ。
それなのに。一度目は目を覚ましたら、予定をしていた相手はすでに屋敷からいなくなっていた。二度目は急遽入ったどうしても先送りにできない重要な執務のために自分がいけなかった。三度目の今回は、執務は入らないだろうし、食事の相手のケンは屋敷を抜け出すことはできない。
今度こそ!
思いは強くなるばかりだ。
隣で眠るケンの額にかかった髪を優しくかきあげる。現れた眉毛はきゅっと中心に寄って、うっすら皺を刻んでいた。どんな夢を見ているのだろう。
薄く開いた唇に親指をふにっと押し当てれば、「ん、ぅ……」と息をもらし、サイベリアンに昨晩の行為を思い出させた。うっかり股間が熱を持ちそうになる。
いけないいけないと、首を振って邪念を追い出し、ケンの眉間によった皺を人差し指でさすると、ふっと表情が緩るむ。
ケンをハウスに戻すつもりはない。
プレイヤーではないとは聞いているが、ハウスにはSubだけではなく、Domのプレイヤーだっている。そんな大勢のDomが同じ屋根の下で暮らす場所に戻すわけがない。
この屋敷から外には出さず、常に自分のことだけを考えて、自分だけに視線を向けて欲しい──。これがDomの本能からくるものだということはサイベリアンにもよくわかっているが、そうまでしたいと思ったSubはケンが初めてなのだ。
単純にSubだからなのではなく、「ケンだから」だ。
朝食のときにそのことを伝えて、ケンの口からもサイベリアンのことをどう思っているのか聞きたい。
そして、今後のことについて話し合えればいいと思った。
この後の楽しい朝食に思いをはせていると、腕の中のケンの瞼かぴくぴくと動く。そろそろ目を覚ましそうだ。
今日も一日忙しくなる。
ケンがこれからこの屋敷で暮らすための手続きをしなくてはならないし、失踪事件のほうも片付いていない。やらなければならないことは山積みだ。
朝食の時間にはどれほど時間をかけられるだろうか。サイベリアンは髪をかき上げて、小さくため息をついた。
どれだけ忙しくて時間に追われていても、ケンとの朝食の時間だけは削れない。それだけは譲れない。
ならば、もう起きて朝の仕度を始めよう──と、サイベリアンはケンの頭に小さくキスをおとしてベッドから起き上がった。
初めて会ったときにあった目の下の真っ黒なくまは、いまやすっかりと消えていた。こけていた頬も少しだけ肉が付き、土色だった肌も健康的な色をしている。
昨晩たくさん泣かせたせいか、目のふちに少しだけ赤みが残っていた。
天蓋の薄布の先を眺めると、カーテンの隙間から朝日が差し込む。もう少ししたら、メイドが朝の支度の手伝いに部屋の扉をノックする。
それまではこの人の寝顔を堪能したかった。
なにせ、ケンより先に起きれたのは初めてなのだ。ケンは早起きなのだ。初めて泊まらせた日は夜も明けきらぬうちに目覚めていたし、三日前の朝も自分より先に目覚めたケンは窓際に佇んで、外を眺めていた。
今朝は初めて、ケンより先に目が覚めたのである。サイベリアンはこれ幸いと愛しい人の寝顔を楽しんでいた。
今度こそは一緒に朝食を! という固い決意をこめて、昨晩のうちに執事長へ指示を出している。たとえサイベリアンが指示をしなかったとしても、優秀な使用人たちは滞りなく完璧な朝食を整えるにちがいない。だが、楽しみな気持ちが抑えられず前のめりになって、サイベリアンはケンを寝かせたあとに、執事長と使用人にあれこれと口出しせずにいられなかった。それにしても、朝食を食べるだけのことをこんなに待ち遠しく思ったことはかつてあっただろうか……。
いや、ない。
そもそも、ともに食事をとりたい相手というもの自体初めてのことだ。
それなのに。一度目は目を覚ましたら、予定をしていた相手はすでに屋敷からいなくなっていた。二度目は急遽入ったどうしても先送りにできない重要な執務のために自分がいけなかった。三度目の今回は、執務は入らないだろうし、食事の相手のケンは屋敷を抜け出すことはできない。
今度こそ!
思いは強くなるばかりだ。
隣で眠るケンの額にかかった髪を優しくかきあげる。現れた眉毛はきゅっと中心に寄って、うっすら皺を刻んでいた。どんな夢を見ているのだろう。
薄く開いた唇に親指をふにっと押し当てれば、「ん、ぅ……」と息をもらし、サイベリアンに昨晩の行為を思い出させた。うっかり股間が熱を持ちそうになる。
いけないいけないと、首を振って邪念を追い出し、ケンの眉間によった皺を人差し指でさすると、ふっと表情が緩るむ。
ケンをハウスに戻すつもりはない。
プレイヤーではないとは聞いているが、ハウスにはSubだけではなく、Domのプレイヤーだっている。そんな大勢のDomが同じ屋根の下で暮らす場所に戻すわけがない。
この屋敷から外には出さず、常に自分のことだけを考えて、自分だけに視線を向けて欲しい──。これがDomの本能からくるものだということはサイベリアンにもよくわかっているが、そうまでしたいと思ったSubはケンが初めてなのだ。
単純にSubだからなのではなく、「ケンだから」だ。
朝食のときにそのことを伝えて、ケンの口からもサイベリアンのことをどう思っているのか聞きたい。
そして、今後のことについて話し合えればいいと思った。
この後の楽しい朝食に思いをはせていると、腕の中のケンの瞼かぴくぴくと動く。そろそろ目を覚ましそうだ。
今日も一日忙しくなる。
ケンがこれからこの屋敷で暮らすための手続きをしなくてはならないし、失踪事件のほうも片付いていない。やらなければならないことは山積みだ。
朝食の時間にはどれほど時間をかけられるだろうか。サイベリアンは髪をかき上げて、小さくため息をついた。
どれだけ忙しくて時間に追われていても、ケンとの朝食の時間だけは削れない。それだけは譲れない。
ならば、もう起きて朝の仕度を始めよう──と、サイベリアンはケンの頭に小さくキスをおとしてベッドから起き上がった。
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𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄
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