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3章
18 馬車
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玄関は家の顔ともいわれるだけあって、屋敷の規模から想像されるに十分なものだった。ホールの天井は高く、大きなシャンデリアが煌めくことなく静かに吊るされている。
両開きの大きな扉を使用人が静かに開けると、薄暗いホールへ朝日が入り込み、眩しさに目の前が白くなった。一瞬のあいだ目を閉じてから開くと、明るさに慣れた目に大きくて艶のある黒い箱が見える。
石階段の先のアプローチにあるその箱の前には毛艶のいい馬が四頭。
前後についた車輪も車体同様に黒く、縁だけが赤くなっており細部へのこだわりが感じられる。側面についた扉は金で装飾が施され、その中央には紋章が描かれていた。
確かに馬車で帰るものとは思っていた。
ゾイも帝都はハウスのある街から馬車で二日ほどの距離にあるといっていたので、歩いて帰るには少し遠い。
だが、自分の想像していた馬車とは大きく様相が異なっていた。
この世界において、お金に余裕のある人の移動手段は馬車。よって大概の貴族は馬車で移動する。それ以外にも馬ということもあるが、庶民ではなく貴族の移動手段だ。
庶民の場合はお金さえあれば辻馬車か長距離の乗り合い馬車、もしくは徒歩である。
健介も救護院を出た後、紹介されたハウスのある場所までの移動は途中までは徒歩、途中から乗り合いの馬車に乗った。
なので、移動手段が馬車だというのはわかる。
自分の知っている馬車は馬一頭が引く、幌のついたものであって、このような立派なものではなかった。遊園地のメリーゴーランドの中にあるような、おとぎ話の中に出てくるような馬車など見たこともなかった。
本当にこれに乗るのだろうか……。
開け放たれた扉を前に固まっていると、ゾイが振り返る。
「どうしたの?」
どうしたも、こうしたも。
やはり、これに乗るようだ。
「え、あ、はい……」
「行くわよ?」
「あ、はい……」
そそくさと後ろをついていく。踏面の広い階段を下りゾイの横まで歩く。
御者さんが馬車の扉を開けると、ゾイはステップに足をかけて乗り込んだ。
自分も本当にこれに乗るのか、半信半疑の健介は扉を開けたまま頭を下げる御者さんをじっと見つめる。
(扉は閉められない……)
ということは、自分もこれに乗ると思われているわけだ。
「早く乗って?」
馬車の中から、顔だけ出したゾイがこちらを見ている。
やはりこれに乗るのか、と馬車を見る。あまりの豪華さに気後れした。
だが、後ろにはゾイと自分を玄関まで案内した使用人さんとメイドさんがずらりと並んでいる。自分がまごついて、その人たちを玄関で待たせているのも申し訳ない。
開け放たれた馬車の前に立ち、ゾイと同じようにステップに足をかけて乗り込んだ。
馬車の中も信じられないほど贅沢な作りだった。ふかふかの椅子、ガラスの窓がありカーテンが着いている。元の世界でだって、車の窓にカーテンを付けるのは金持ちだけだ。普通の人は車の窓にカーテンは付けない。というか、必要ない。
向かい合わせに配置された座席。ゾイは進行方向に向かうように座っている。
広い車内は横並びに三人は座れそうだが、隣に座るのがいいのか、向かいに座るべきなのか。
(車の上座ってどこだっけ!?)
車の上座の位置を思い出そうとしたが、車の座席は向かい合わせでは配置されていない。
椅子に座ることもなく、せわしなく首を右に左に動かしながら座席を見ていたら、ゾイが笑って自分の隣を勧めてくれた。
「し、失礼、します」
「えーやだ、ケンちゃん。私の隣は不満?」
「い、いえ、めっそうも、ない、ことです」
「やだ、ちょっと……なんか、よそよそしくない?」
「い、いえ、そんな、ことはご、ござ……ないです」
胡乱な目でゾイに見つめられて、健介はすっと目をそらす。横で、御者さんが静かに扉を閉めるのが見えた。
ただ馬車に乗るだけでも一苦労である。
両開きの大きな扉を使用人が静かに開けると、薄暗いホールへ朝日が入り込み、眩しさに目の前が白くなった。一瞬のあいだ目を閉じてから開くと、明るさに慣れた目に大きくて艶のある黒い箱が見える。
石階段の先のアプローチにあるその箱の前には毛艶のいい馬が四頭。
前後についた車輪も車体同様に黒く、縁だけが赤くなっており細部へのこだわりが感じられる。側面についた扉は金で装飾が施され、その中央には紋章が描かれていた。
確かに馬車で帰るものとは思っていた。
ゾイも帝都はハウスのある街から馬車で二日ほどの距離にあるといっていたので、歩いて帰るには少し遠い。
だが、自分の想像していた馬車とは大きく様相が異なっていた。
この世界において、お金に余裕のある人の移動手段は馬車。よって大概の貴族は馬車で移動する。それ以外にも馬ということもあるが、庶民ではなく貴族の移動手段だ。
庶民の場合はお金さえあれば辻馬車か長距離の乗り合い馬車、もしくは徒歩である。
健介も救護院を出た後、紹介されたハウスのある場所までの移動は途中までは徒歩、途中から乗り合いの馬車に乗った。
なので、移動手段が馬車だというのはわかる。
自分の知っている馬車は馬一頭が引く、幌のついたものであって、このような立派なものではなかった。遊園地のメリーゴーランドの中にあるような、おとぎ話の中に出てくるような馬車など見たこともなかった。
本当にこれに乗るのだろうか……。
開け放たれた扉を前に固まっていると、ゾイが振り返る。
「どうしたの?」
どうしたも、こうしたも。
やはり、これに乗るようだ。
「え、あ、はい……」
「行くわよ?」
「あ、はい……」
そそくさと後ろをついていく。踏面の広い階段を下りゾイの横まで歩く。
御者さんが馬車の扉を開けると、ゾイはステップに足をかけて乗り込んだ。
自分も本当にこれに乗るのか、半信半疑の健介は扉を開けたまま頭を下げる御者さんをじっと見つめる。
(扉は閉められない……)
ということは、自分もこれに乗ると思われているわけだ。
「早く乗って?」
馬車の中から、顔だけ出したゾイがこちらを見ている。
やはりこれに乗るのか、と馬車を見る。あまりの豪華さに気後れした。
だが、後ろにはゾイと自分を玄関まで案内した使用人さんとメイドさんがずらりと並んでいる。自分がまごついて、その人たちを玄関で待たせているのも申し訳ない。
開け放たれた馬車の前に立ち、ゾイと同じようにステップに足をかけて乗り込んだ。
馬車の中も信じられないほど贅沢な作りだった。ふかふかの椅子、ガラスの窓がありカーテンが着いている。元の世界でだって、車の窓にカーテンを付けるのは金持ちだけだ。普通の人は車の窓にカーテンは付けない。というか、必要ない。
向かい合わせに配置された座席。ゾイは進行方向に向かうように座っている。
広い車内は横並びに三人は座れそうだが、隣に座るのがいいのか、向かいに座るべきなのか。
(車の上座ってどこだっけ!?)
車の上座の位置を思い出そうとしたが、車の座席は向かい合わせでは配置されていない。
椅子に座ることもなく、せわしなく首を右に左に動かしながら座席を見ていたら、ゾイが笑って自分の隣を勧めてくれた。
「し、失礼、します」
「えーやだ、ケンちゃん。私の隣は不満?」
「い、いえ、めっそうも、ない、ことです」
「やだ、ちょっと……なんか、よそよそしくない?」
「い、いえ、そんな、ことはご、ござ……ないです」
胡乱な目でゾイに見つめられて、健介はすっと目をそらす。横で、御者さんが静かに扉を閉めるのが見えた。
ただ馬車に乗るだけでも一苦労である。
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