社畜モブの俺、異世界転移したら「Sub」っていわれたんだけど。え、「Sub」って何ですか?

鉾田 ほこ

文字の大きさ
114 / 192
3章

18 馬車

しおりを挟む
 玄関は家の顔ともいわれるだけあって、屋敷の規模から想像されるに十分なものだった。ホールの天井は高く、大きなシャンデリアが煌めくことなく静かに吊るされている。
 両開きの大きな扉を使用人が静かに開けると、薄暗いホールへ朝日が入り込み、眩しさに目の前が白くなった。一瞬のあいだ目を閉じてから開くと、明るさに慣れた目に大きくて艶のある黒い箱が見える。
 石階段の先のアプローチにあるその箱の前には毛艶のいい馬が四頭。
 前後についた車輪も車体同様に黒く、縁だけが赤くなっており細部へのこだわりが感じられる。側面についた扉は金で装飾が施され、その中央には紋章が描かれていた。
 確かに馬車で帰るものとは思っていた。
 ゾイも帝都はハウスのある街から馬車で二日ほどの距離にあるといっていたので、歩いて帰るには少し遠い。
 だが、自分の想像していた馬車とは大きく様相が異なっていた。
 この世界において、お金に余裕のある人の移動手段は馬車。よって大概の貴族は馬車で移動する。それ以外にも馬ということもあるが、庶民ではなく貴族の移動手段だ。
 庶民の場合はお金さえあれば辻馬車か長距離の乗り合い馬車、もしくは徒歩である。
 健介も救護院を出た後、紹介されたハウスのある場所までの移動は途中までは徒歩、途中から乗り合いの馬車に乗った。
 なので、移動手段が馬車だというのはわかる。
 自分の知っている馬車は馬一頭が引く、幌のついたものであって、このような立派なものではなかった。遊園地のメリーゴーランドの中にあるような、おとぎ話の中に出てくるような馬車など見たこともなかった。
 本当にこれに乗るのだろうか……。
 開け放たれた扉を前に固まっていると、ゾイが振り返る。
「どうしたの?」
 どうしたも、こうしたも。
 やはり、これに乗るようだ。
「え、あ、はい……」
「行くわよ?」
「あ、はい……」
 そそくさと後ろをついていく。踏面の広い階段を下りゾイの横まで歩く。
 御者さんが馬車の扉を開けると、ゾイはステップに足をかけて乗り込んだ。
 自分も本当にこれに乗るのか、半信半疑の健介は扉を開けたまま頭を下げる御者さんをじっと見つめる。
(扉は閉められない……)
 ということは、自分もこれに乗ると思われているわけだ。
「早く乗って?」
 馬車の中から、顔だけ出したゾイがこちらを見ている。
 やはりこれに乗るのか、と馬車を見る。あまりの豪華さに気後れした。
 だが、後ろにはゾイと自分を玄関まで案内した使用人さんとメイドさんがずらりと並んでいる。自分がまごついて、その人たちを玄関で待たせているのも申し訳ない。
 開け放たれた馬車の前に立ち、ゾイと同じようにステップに足をかけて乗り込んだ。
 馬車の中も信じられないほど贅沢な作りだった。ふかふかの椅子、ガラスの窓がありカーテンが着いている。元の世界でだって、車の窓にカーテンを付けるのは金持ちだけだ。普通の人は車の窓にカーテンは付けない。というか、必要ない。
 向かい合わせに配置された座席。ゾイは進行方向に向かうように座っている。
 広い車内は横並びに三人は座れそうだが、隣に座るのがいいのか、向かいに座るべきなのか。
(車の上座ってどこだっけ!?)
 車の上座の位置を思い出そうとしたが、車の座席は向かい合わせでは配置されていない。
 椅子に座ることもなく、せわしなく首を右に左に動かしながら座席を見ていたら、ゾイが笑って自分の隣を勧めてくれた。
「し、失礼、します」
「えーやだ、ケンちゃん。私の隣は不満?」
「い、いえ、めっそうも、ない、ことです」
「やだ、ちょっと……なんか、よそよそしくない?」
「い、いえ、そんな、ことはご、ござ……ないです」
 胡乱な目でゾイに見つめられて、健介はすっと目をそらす。横で、御者さんが静かに扉を閉めるのが見えた。
 ただ馬車に乗るだけでも一苦労である。

しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。

志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。 美形×平凡。 乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。 崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。 転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。 そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。 え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。

叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。 幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。 大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。 幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。 他サイト様にも投稿しております。

処理中です...