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chapter4 小休止
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入国して程なく東国の王城、即ちかつて敵対した国の要に辿り着いた。東国の城は三分の二が空襲によって焼け落ちていて、残った一隅に生き残りの王侯貴族が暮らしているらしい。
「少将殿。こちらへ」
「うん」
案内されたのは、瓦礫や泥で汚れた城内で異彩を放つほど小綺麗な客室だった。
「西国軍の英雄殿には似つかわしくない、汚い場所でしょうがな」
ふ、と囁くようにそんな声が聞こえた。振り向いても目の合う者はいない。
まあ、そんなものだろう。
「そんなことありませんよ。お気遣いいただき恐縮です」
私は板についた愛想笑いを浮かべて、朗らかに答えた。
♯♯
人払いをして、癖になった煙草を吹かす。軍人なんて、上に行けば行くほど見栄とハッタリの世界だ。人を脅かし、恐れさせるために顔や、声や、武器を使う。女としての可愛げなんて、どこか遠くに捨ててきてしまった。
それにエレノアは案外、これを燻らせながら思索に耽るのを好んでいた。
(………講和条約か。戦争で消えた金、人、心………賠償金はいくらで纏まるだろう)
前世を知るエレノアの尽力があって、戦争は本来なら有り得ないほど早期に終結した。しかしだからといって、踏みにじられたものの重さも同様に軽いと見るのは早計だ。
(西国は多分、相応の金銭を要求するだろう。属国はそれに倣う………同盟国はどう出るだろう)
対する東国は、完膚なきまでに叩きのめされ疲弊している。要求されるままに支払うことは出来ないから、幾分か抵抗するだろう。
(……私がしっかりしなくては。恐らく私がこの中で一番、両国の痛みを理解している……)
エレノアには記憶を持つがゆえの負い目と、責任があった。それは戦争で傷付いた全ての人たちへの負い目と、これから先生まれる未来世代の幸福への責任である。
(………しっかりしなくては。戦争はまだ、終わっていない)
「少将殿。こちらへ」
「うん」
案内されたのは、瓦礫や泥で汚れた城内で異彩を放つほど小綺麗な客室だった。
「西国軍の英雄殿には似つかわしくない、汚い場所でしょうがな」
ふ、と囁くようにそんな声が聞こえた。振り向いても目の合う者はいない。
まあ、そんなものだろう。
「そんなことありませんよ。お気遣いいただき恐縮です」
私は板についた愛想笑いを浮かべて、朗らかに答えた。
♯♯
人払いをして、癖になった煙草を吹かす。軍人なんて、上に行けば行くほど見栄とハッタリの世界だ。人を脅かし、恐れさせるために顔や、声や、武器を使う。女としての可愛げなんて、どこか遠くに捨ててきてしまった。
それにエレノアは案外、これを燻らせながら思索に耽るのを好んでいた。
(………講和条約か。戦争で消えた金、人、心………賠償金はいくらで纏まるだろう)
前世を知るエレノアの尽力があって、戦争は本来なら有り得ないほど早期に終結した。しかしだからといって、踏みにじられたものの重さも同様に軽いと見るのは早計だ。
(西国は多分、相応の金銭を要求するだろう。属国はそれに倣う………同盟国はどう出るだろう)
対する東国は、完膚なきまでに叩きのめされ疲弊している。要求されるままに支払うことは出来ないから、幾分か抵抗するだろう。
(……私がしっかりしなくては。恐らく私がこの中で一番、両国の痛みを理解している……)
エレノアには記憶を持つがゆえの負い目と、責任があった。それは戦争で傷付いた全ての人たちへの負い目と、これから先生まれる未来世代の幸福への責任である。
(………しっかりしなくては。戦争はまだ、終わっていない)
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