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chapter6 振り向いてください
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「早期に終結したからには、それなりの権利をーー」
「いや、ウチの国は民家がーー」
笑顔で足を踏み合う国々を、エレノアは冷めた目で眺める。
♯♯
会議はエレノアの予想した通り難航した。支出をできうる限り抑えたい東国と、ありったけを搾り取りたい西国の利害が完全に対立したためである。
そんなとき、一人の男がチラリとエレノアに目を向けた。
「ーーエレノア殿はどう思われますか? 西国の英雄たるエレノア殿の意見とあれば、我らも東国も聞かぬわけにはいきますまい」
緊迫する空気のなかで、ふと一人の文官がエレノアに話しかける。エレノアの記憶では、この男は外務を担当していた者だ。
エレノアはフッと唇で弧を描く。
「私はただのいち軍人ですので、政治のことはわかりかねます」
「よろしいですよ。ご意見を」
慇懃なその口調とは裏腹に、文官はどこか下卑た笑みを浮かべている。こういう手合いはどこにでもいた。女だから、平民だからと見下す輩。
しかし、長く軍部で魑魅魍魎と戦ってきたエレノア。弱いと見くびられるのは心外である。
「では、私見を。
まず西国は東国に、復興の手伝いを行うべきでしょう」
エレノアは悠々と脚を組み直して大仰にそう答えた。その言葉にピキリ、と会議に出席していた連中全員が固まった。敵も味方も、あの王子すらもである。
「なにを………っ!?」
「東国は西国軍の爆撃で、工場も農耕もも軒並み停止しておられる。人も、随分減ったことでしょう。賠償だのなんだのというお話は、そこを解決してからすべきであると愚考しますが」
エレノアはなんでもないようにそう言う。
♯♯
会議のあと、部屋へ戻ろうとするエレノアを後ろから呼び止める声が聞こえた。
振り向いて思わず固まる。なんとそこにいたのは……
「少将閣下」
シャノン王子だった。
彼はエレノアを責めるように睨み付け、疑わしそうに尋ねる。
「なんのつもりだ。先程のあれは」
そう聞かれてエレノアは、ああやっぱり恨まれてるのだな、と気持ちが沈むのを感じる。しかしそんなことを顔に出しはしない。
「なにか問題でもございましたか?」
「問題しかない。なぜ、私の国を庇うような……!」
忌々しそうな眉間のシワがぐっと増えるたびいたたまれなくて、それでも会話できたことに心が浮きだってしまう。
「西国の英雄たる貴様が、なんのつもりだ」
ヒュウッ、と吹雪が吹き付けるような向かう冷たい視線だった。
それでもなんとか、エレノアは答える。
「私は………先ほど申し上げた通り、自分の考えを述べただけです」
「嘘をつくな! 貴様のような、卑劣な女が………!」
そこで、王子はぐっと言葉を呑み込んだ。
「………いや、いい。無駄な時間を過ごした」
ふっ、と王子の瞳が色を失う。ああ、失望された。そう気づいて、心の芯がすううっと冷えた。
「待って…………振り向いて、ください。シャノン王子」
声が震える。視界がぐるぐる回る。
ああ、私はなにを言おうとしてるんだ。
「私はあなたがーーあなたのことが好きで。あなたを愛して、ここまで来たんです」
ピタ、と王子が固まる。足を止めてくれたことで、もしかしたら、という希望が沸き上がる。
けれどそんな想いは彼と目があった瞬間、粉々に打ち砕かれた。
「………失礼する」
迷いのない堂々とした足で、シャノン王子は去っていく。そんな王子を眺めながら、空っぽになった心でエレノアは思う。
ああ、この人にとって私の想いは、存在することすら許されない。
「いや、ウチの国は民家がーー」
笑顔で足を踏み合う国々を、エレノアは冷めた目で眺める。
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会議はエレノアの予想した通り難航した。支出をできうる限り抑えたい東国と、ありったけを搾り取りたい西国の利害が完全に対立したためである。
そんなとき、一人の男がチラリとエレノアに目を向けた。
「ーーエレノア殿はどう思われますか? 西国の英雄たるエレノア殿の意見とあれば、我らも東国も聞かぬわけにはいきますまい」
緊迫する空気のなかで、ふと一人の文官がエレノアに話しかける。エレノアの記憶では、この男は外務を担当していた者だ。
エレノアはフッと唇で弧を描く。
「私はただのいち軍人ですので、政治のことはわかりかねます」
「よろしいですよ。ご意見を」
慇懃なその口調とは裏腹に、文官はどこか下卑た笑みを浮かべている。こういう手合いはどこにでもいた。女だから、平民だからと見下す輩。
しかし、長く軍部で魑魅魍魎と戦ってきたエレノア。弱いと見くびられるのは心外である。
「では、私見を。
まず西国は東国に、復興の手伝いを行うべきでしょう」
エレノアは悠々と脚を組み直して大仰にそう答えた。その言葉にピキリ、と会議に出席していた連中全員が固まった。敵も味方も、あの王子すらもである。
「なにを………っ!?」
「東国は西国軍の爆撃で、工場も農耕もも軒並み停止しておられる。人も、随分減ったことでしょう。賠償だのなんだのというお話は、そこを解決してからすべきであると愚考しますが」
エレノアはなんでもないようにそう言う。
♯♯
会議のあと、部屋へ戻ろうとするエレノアを後ろから呼び止める声が聞こえた。
振り向いて思わず固まる。なんとそこにいたのは……
「少将閣下」
シャノン王子だった。
彼はエレノアを責めるように睨み付け、疑わしそうに尋ねる。
「なんのつもりだ。先程のあれは」
そう聞かれてエレノアは、ああやっぱり恨まれてるのだな、と気持ちが沈むのを感じる。しかしそんなことを顔に出しはしない。
「なにか問題でもございましたか?」
「問題しかない。なぜ、私の国を庇うような……!」
忌々しそうな眉間のシワがぐっと増えるたびいたたまれなくて、それでも会話できたことに心が浮きだってしまう。
「西国の英雄たる貴様が、なんのつもりだ」
ヒュウッ、と吹雪が吹き付けるような向かう冷たい視線だった。
それでもなんとか、エレノアは答える。
「私は………先ほど申し上げた通り、自分の考えを述べただけです」
「嘘をつくな! 貴様のような、卑劣な女が………!」
そこで、王子はぐっと言葉を呑み込んだ。
「………いや、いい。無駄な時間を過ごした」
ふっ、と王子の瞳が色を失う。ああ、失望された。そう気づいて、心の芯がすううっと冷えた。
「待って…………振り向いて、ください。シャノン王子」
声が震える。視界がぐるぐる回る。
ああ、私はなにを言おうとしてるんだ。
「私はあなたがーーあなたのことが好きで。あなたを愛して、ここまで来たんです」
ピタ、と王子が固まる。足を止めてくれたことで、もしかしたら、という希望が沸き上がる。
けれどそんな想いは彼と目があった瞬間、粉々に打ち砕かれた。
「………失礼する」
迷いのない堂々とした足で、シャノン王子は去っていく。そんな王子を眺めながら、空っぽになった心でエレノアは思う。
ああ、この人にとって私の想いは、存在することすら許されない。
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