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4章
第6話 約束
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夏休みが明けると、じきに学園祭の季節がやって来た。
「何やる?」
「去年のは結構大変だったから、今年は楽なのがいいなあ」
「えー? でもそろそろ進路を見据えてさ……」
話し合いは結構揉めた気がする。具体的に言うと、企画に対する熱意の違いみたいなもので。
去年のクラスみたいに、纏める人材がいなかったのもあるかもしれない。つくづく委員長は凄かったんだなあ、とシエルは思った。
「アステオのクラスは、何やる?」
帰り道にそう尋ねる。
「別に普通の店だよ」
「あ、そうなんだ?」
何だか食い気味なのが少し気になったが、大人しく頷いておいた。
「あと、僕は今年も演舞をやる」
「そうか。じゃあ忙しいなー」
そういえば去年は、演舞の打ち合わせのために何度も学校やシエルの家に集まって話し合いをしていた。
「シエルは今年、出ないの?」
アステオの綺麗な緑の目が、こちらを不思議そうに見つめてくる。
それを眺めてふと、この道を何度も二人で通ったなあと思い、なぜか懐かしい気がした。
「………ん。
ま、俺より相応しい人はいるしな」
そう言って、アステオに笑いかける。
「でも、今年も一緒に回ろうな」
「………まあ、時間があったらね」
約束とも言えない約束を交わす。照れくさそうにプイとそっぽを向くアステオが、無性に愛おしく感じた。
♯♯
さて、学園祭当日。
今年はどちらかと言うと裏方に回ったシエルは………あまりのやることの多さに、忙殺された。
「……景品Aの数が1ダース足りない!? どこ置いたのよ!」
「うわっ、飾りが剥がれてきてる! テープどこだ!?」
「昼のシフトに出れない!? なんでもっと早く言わないんだよ!!」
数々のトラブルや不手際にてんやわんやで、もはや殺気立っている現場。それを恐々眺めながら、手早くシエルは立ち回る。
去年は表の大会などで手一杯だったけど、その裏でこんな苦労があったなんて知らなかった。華々しい表舞台が成り立つための苦労。今更それを知って、シエルは頭が上がらない思いだ。
(それにしてもやっぱり………この分じゃ今年は、アステオと回るのは無理かもなあ)
そう思ったとき、遠くからザワザワと声が聞こえてきた。
「何だ………?」
「なんか、お城の魔法使い様が来たらしいよ」
呟きに近くにいたマイクが答えた。その言葉にシエルは思わずギクリとなる。
「魔法使いが?」
「なんでも、学園の優秀な生徒をスカウトしに来たんじゃないかって」
「へー」
適当な相槌を打ちながら、シエルは空き箱をどんどん潰していく。
「彼ら、かなりの色男だし、魔法省に興味を持ってる人も多いから。騒ぎになってるんだろうね」
「マイクも行くのか?」
「うん。午後の演目で余興をやるらしいし。シエルくんも行く?」
ニコニコ、と全く邪気の無い顔で誘われた。それを、シエルは少し申し訳なく思いながら断る。
「いや、午後は予定があって。誘ってくれてありがとな」
♯♯
一人で校内をブラブラ歩く。喫茶店にお化け屋敷、迷路に謎解きなど道を歩いてるだけでも退屈しない。
「──でも、去年のほうが楽しかったかな」
誰にも聞こえない声で呟いた、そのとき。
トン、とすれ違った誰かに肩をぶつけてしまった。
「あ、すみませ………」
言いかけてピタリと止まる。
思わずシエルは目を見張った。
そこにいたのは珠のような肌にエメラルドみたいな美しい瞳、フワフワした紫のドレスが可愛いらしいご令嬢──
「しっ、シエル…………!!」
の、格好をしたアステオだったのだから。
「何やる?」
「去年のは結構大変だったから、今年は楽なのがいいなあ」
「えー? でもそろそろ進路を見据えてさ……」
話し合いは結構揉めた気がする。具体的に言うと、企画に対する熱意の違いみたいなもので。
去年のクラスみたいに、纏める人材がいなかったのもあるかもしれない。つくづく委員長は凄かったんだなあ、とシエルは思った。
「アステオのクラスは、何やる?」
帰り道にそう尋ねる。
「別に普通の店だよ」
「あ、そうなんだ?」
何だか食い気味なのが少し気になったが、大人しく頷いておいた。
「あと、僕は今年も演舞をやる」
「そうか。じゃあ忙しいなー」
そういえば去年は、演舞の打ち合わせのために何度も学校やシエルの家に集まって話し合いをしていた。
「シエルは今年、出ないの?」
アステオの綺麗な緑の目が、こちらを不思議そうに見つめてくる。
それを眺めてふと、この道を何度も二人で通ったなあと思い、なぜか懐かしい気がした。
「………ん。
ま、俺より相応しい人はいるしな」
そう言って、アステオに笑いかける。
「でも、今年も一緒に回ろうな」
「………まあ、時間があったらね」
約束とも言えない約束を交わす。照れくさそうにプイとそっぽを向くアステオが、無性に愛おしく感じた。
♯♯
さて、学園祭当日。
今年はどちらかと言うと裏方に回ったシエルは………あまりのやることの多さに、忙殺された。
「……景品Aの数が1ダース足りない!? どこ置いたのよ!」
「うわっ、飾りが剥がれてきてる! テープどこだ!?」
「昼のシフトに出れない!? なんでもっと早く言わないんだよ!!」
数々のトラブルや不手際にてんやわんやで、もはや殺気立っている現場。それを恐々眺めながら、手早くシエルは立ち回る。
去年は表の大会などで手一杯だったけど、その裏でこんな苦労があったなんて知らなかった。華々しい表舞台が成り立つための苦労。今更それを知って、シエルは頭が上がらない思いだ。
(それにしてもやっぱり………この分じゃ今年は、アステオと回るのは無理かもなあ)
そう思ったとき、遠くからザワザワと声が聞こえてきた。
「何だ………?」
「なんか、お城の魔法使い様が来たらしいよ」
呟きに近くにいたマイクが答えた。その言葉にシエルは思わずギクリとなる。
「魔法使いが?」
「なんでも、学園の優秀な生徒をスカウトしに来たんじゃないかって」
「へー」
適当な相槌を打ちながら、シエルは空き箱をどんどん潰していく。
「彼ら、かなりの色男だし、魔法省に興味を持ってる人も多いから。騒ぎになってるんだろうね」
「マイクも行くのか?」
「うん。午後の演目で余興をやるらしいし。シエルくんも行く?」
ニコニコ、と全く邪気の無い顔で誘われた。それを、シエルは少し申し訳なく思いながら断る。
「いや、午後は予定があって。誘ってくれてありがとな」
♯♯
一人で校内をブラブラ歩く。喫茶店にお化け屋敷、迷路に謎解きなど道を歩いてるだけでも退屈しない。
「──でも、去年のほうが楽しかったかな」
誰にも聞こえない声で呟いた、そのとき。
トン、とすれ違った誰かに肩をぶつけてしまった。
「あ、すみませ………」
言いかけてピタリと止まる。
思わずシエルは目を見張った。
そこにいたのは珠のような肌にエメラルドみたいな美しい瞳、フワフワした紫のドレスが可愛いらしいご令嬢──
「しっ、シエル…………!!」
の、格好をしたアステオだったのだから。
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