俺の魔力は甘いらしい

真魚

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8話

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 畜生……根こそぎ魔力を持っていきやがって……

 俺は塔の最上階にある天幕のかかった円形のベッドで、乱れた衣服のまま重たい体を投げ出していた。

 王宮に呼び出されて、ここに連れてこられたのが昨日。
 魔法で手足を拘束されたまま、散々抱き潰された。

 さっきも王太子の野郎がここにやってきて、二時間くらい好き勝手していった。
 普通魔力は魔力量の多い方から少ない方に流れるはずなのに、王族の能力なのか、こっちが空っぽになるまで吸い取られた。
 この場所で手酷く魔力を搾取されて初めて、この城のバリアが誰かの犠牲の上に成り立っていることを知った。
  
 ……ルイ、心配しているだろうな……
 王太子に体を好きにされながら、ルイの顔ばかりが浮かんだ。

 ……せめて、あと五日待ってから拉致ってくれればよかったのに……
 ルイとの幸せな二週間を満喫して、あいつをエブラに送り返してからならば、その後はどうでもよかった。

 タイミングが最悪だった。
 セックスなんて、いつ誰としようがただの快楽を得るだけの手段だったのに、あいつじゃない手が俺に触れることが受け入れられず、気持ち悪くてしかたがなかった。

 ルイが好きだ……
 学院にいた頃も大好きだったが、この数日間は本当に幸せだった。

 俺が現実を逃避するようにルイの笑顔と優しい声を思い浮かべていると、鍵がかかっているはずの部屋の扉が乱暴に破壊される音がした。

「サシャ!」
 目を横に向けると、息を切らしたルイがそこに立っていた。
「ルイ?」
 え? なんでルイがここにいる?
 ルイはほうける俺に駆け寄ると、俺の酷い有様を見てその顔を苦痛に歪めた。
 
「……サシャ、ごめん……俺、お前を守れなくて……」
 ルイが俺の衣服を覚束おぼつかない手で直し始めた。
「サシャ、もう大丈夫。ここから……逃げよう」
 ルイの声が震えている。
 ルイを心配させたくないのに、魔力切れのせいか体を起こすこともできない。

「ルイ、俺に触れて。魔力が空っぽなんだ」
 そう言った俺を、ルイは涙を溜めた目でじっと見た。
 ルイは壊れものを扱うように俺の頬を撫でると、床に腕を突き、ゆっくりとその唇を合わせてきた。

 初めてルイとするキスは、ルイの涙の味がした。
 優しく慰めるように俺の舌を撫でていくルイの舌は、不器用でぎこちない。

 ルイから流れ込んでくる魔力は、真夏の太陽のような強い光と、爽やかに吹き抜ける新緑のような匂いがして、それは今まで触れたどんなものよりも生命力に溢れ、温かく、幸福感に満ちていた。

「ルイ、ありがとう」
 俺は、ゆっくりと唇を離したルイを見返した。
 笑えるようになった俺に、ルイが少し安堵の表情を見せた。

「逃げよう」
 ルイは俺の腕をつかんで力強く引き起こすと、その手に剣を抜き、出口に向かって俺を導いた。

   *

 それから俺達は、取るものもとりあえず一路エブラへ向かった。
 ガルムナンドは、王族の命令に逆らっても生きていけるような甘っちょろい国ではない。

 三年ぶりに戻ったエブラは、懐かしい石畳の街並みに穏やかな青空が広がっていて、昔の記憶よりも何だか明るい光に包まれていた。

 ひとまずルイの部屋に転がりこんだ俺は、エディトさんに会いに行ってくると言ったルイの帰宅を待っている。

 エブラまでの道中、何度もルイに好きだと言われた。
 なぜだかルイは、俺がルイの事を昔から好きだったことを知っていて、問い詰めると、レイモンから聞いたと言う。

 何でレイモンが俺のルイへの気持ちを知っているんだ?
 ちょっと意味が分からない……

 ささやかな不満を言うならば、あんなに俺に触れようとしていたルイが、全く接触させてくれないことだ。
 キスだって、あの時の一回だけだ。

 よく見ると俺の体は男だし……
 ルイは元々女性が好きな人間だし……
 いや、俺はプラトニックでも全然構わない。
 俺は今一番、幸せだ。

 階段を登ってくる足音がして、ルイが部屋に帰ってきた。
 両手にいっぱいの荷物を抱えたルイは俺を見て微笑むと、紙袋に入った食材やワインをテーブルに置いた。

 ガラスのコップに水を入れて渡してあげると、ルイはソファーに座って俺を手招きした。
 ルイの横に座ろうとすると、ルイは「そっちじゃない」と俺を抱えて、俺もろともソファーの角に深く身を沈めた。

「エディトとはお別れしてきた……」
 喋るルイの息が耳元に当たる。
「そうか……彼女悲しんでいたかな……」
「うん。でも、こうなるんじゃないかって、分かってたって言っていた……」
「そうか……」
 あんまり人から恋人を奪うのは、気持ちの良いものではない。

「昔っから分かってたって。俺のサシャへの気持ちは特別すぎるって……俺、自分のことが分かってなくて、エディトもサシャも傷つけてしまった……」
 ルイの声があんまり沈んでいるので、俺は体を反転させて、ルイの青色の瞳を見つめた。

「ルイ……」
 その柔らかい唇に口付けると、ルイは俺の両肩を優しく持って、ゆっくりと俺の唇をんだ。
「サシャ……好きだよ……」
 ルイは唇を離すと、その腕で俺をソファーに倒して、再び上から俺に口付けた。

 俺たちはゆっくりとしたキスをずっと続けた。
 ルイの吐息と、時折するクチュっとした水音しか聞こえない。
 
 ルイの体の重さが心地いい。
 ルイの熱い体温がじんわりと、重なる体から伝わってくる。

 ふとルイが、押さえていた俺の手のひらを親指でなぞった。
 その肌のこすれる感覚がエロティックすぎて、俺は息を止めた。

「サシャ……甘くって仕方ない……」
 唇を離したルイの目は、熱を持ったように潤んでいる。
 できるだけルイに俺の魔力が流れ込まないように気をつけているのだが、ふとした瞬間緩んでしまう。

「ごめん。魔力が流れた」
「いや、大丈夫そう。少しづつ俺に流していって」
 そう言ってルイは、俺のシャツの下から手を入れてきた。

 ルイが優しく撫でる手が、心地いい。
 もう、この手以外には触れられたくない。

 俺はルイの様子を見ながら、せきき止めていた魔力を少しづつ解放していった。
「あぁ……サシャ、気持ちいいよ」
 ルイが俺の魔力を感じて、気持ちよさそうにしている。
 もう少し流し入れても大丈夫かもしれない。

 気持ちよさそうに息を乱すルイの足元に目を移すと、ルイの股間がぎっしりと勃ち上がり、布を突き破りそうになっている。
 俺は少し体を起こすと、ルイのズボンのベルトに手をかけた。

 それを見たルイが少し照れたように笑い、自分で前をくつろげた。
 狭い場所から解放されたそれは、ちょっとお目にかかったことが無いような立派な一物で、糸のようにカウパーが垂れ落ちていた。
 ルイの男の象徴から目が離せなくなった俺は、吸い込まれるようにそれに口付け、熱い肉棒を舐め上げた。

「あぁ……サシャ……」
 吐息で消えそうなルイの声が頭上から降ってくる。
 口元のルイのペニスも嬉しそうに震えている。
 ルイに快楽を与えることを許されたことが嬉しい。

 もっと舐めていたいと思ったのに、ルイは俺の頭を優しく引き剥がすと、俺をソファーに倒して俺のズボンのボタンを外し始めた。
 下穿きと一緒にズボンを下ろされ、天を向いて物欲しげにそそり勃つ俺のそれが、まだ明るい室内にさらされた。

 ルイが俺の太ももを割り開き、じっと期待にヒクつく俺のペニスを見ている。
 どうしよう……ルイは男同士のやり方は知らないよな……

 俺の心配をよそに、ルイはソファー横のチェストの引き出しを開けると、しっかりと蓋のしまった瓶を取り出した。
 蓋を開けたルイが中の透明な液体を長い指にとり、俺のアナルにそっとあてた。

 ペチャリという濡れた感覚と、滑らすように圧力をかけるルイの指先に、ズクンと下腹が収縮する。
 ルイは俺の顔をじっと見ながら、指をそこに滑り込ませてきた。

 ルイの目に浮かぶ明らかな欲情と、俺の中を探るように蠢くルイの指のせいで、俺のペニスからどくどくとカウパーが溢れてくる。
 もっと……
 もっと欲しい……
 ルイのその股間のペニスで俺を気持ちよくして欲しい……

 懇願するようにルイを見上げると、ルイは指を二本に増やし、入口を擦ったり、クパクパと広げたりしていじり始めた。そして俺のなかを複雑に這い回るルイの指が、とうとう触ってはいけない場所をかすめた。
「あ……んっ」
 あまりの強い刺激に、俺のあそこがルイの指を締め付ける。
「ここ?」
 ルイがゾッとするような意地悪な表情かおで、そこに指先を滑らせた。

「あっ……あっ……ルイ……だめ……」
 あまりの快楽に飛びそうになる俺を、ルイは許してくれない。
「だめ」
 ルイはゆっくりとそこをさするその手を止める気配がない。
「あ……ん。ルイ……もう。だめ…………お前のが……欲しい……」
 俺は息も絶え絶えに、ルイの手を握ってそれを止めた。

 俺のあられも無い痴態を凝視しながら、ルイが息を荒くしている。
 挿入直前の完全に高まったルイの男性的攻撃性が、揺らめいて見えるようだ。
「サシャ。挿れるよ」
 ルイが別の生き物のように生々しく首をもたげるペニスに指を添えて、俺にあてがった。
 ゆっくりと腰で圧力をかけてくるルイのペニスが、その最も太い部分で俺の入り口を広げ始めた。

 あぁ……挿入はいってくる……
 ルイが少しづつ腰を当てつけるように揺らしながら、その長大なものを徐々に侵入させてくるいやらしさに、俺の頭はショートしそうになった。
 もういっそ、一気に奥まで挿入れてくれればいいのに、ルイはその工程を楽しむかのように、時間をかけて少しづつペニスを挿入している。
 時折腰を回して、クチャクチャと俺の内壁のいろんなところを摩る刺激に、頭が狂いそうだ。
 ルイに押さえつけられている俺の腰が、まな板の上でさばかれている魚のようにビクビクと勝手に暴れた。

「サシャ、俺のペニスがお前の中に入ってる……」
 全てを挿入れ終えたルイはじっと動かずに、その感触を堪能している。
 自分の体が、ルイのずっしりとしたペニスに絡みつき、嬉しそうにキュウキュウと締め上げているのがわかる。

「あ……っ。ルイ……。俺、イってしまう……」
 ルイのペニスは奥で止まったままなのに、次々に打ち寄せる快楽の波が俺を絶頂へと押し上げていく。
「あぁ、サシャ。君の魔力が入ってくる……」
 ルイが俺の中に入れたペニスを更に充血させ、それを脈動させた。

「あぁっっ」
 ルイが苦しそうに眉を顰め、硬直した。
 あまりの快楽に、ルイに流し込む魔力を止められない。
「あぁっっ! サシャ!」
 ルイが体を痙攣させながら、俺の体内に熱いものをほとばしらせた。
 体のなかに何回にも分けて噴出されるルイの欲望が俺のせきを崩壊させ、俺は白い光に包まれながら地平のその向こうへ意識を飛ばした。

 完全に出し切ったルイが、荒い息のまま俺の上にバタリと倒れ込んだ。
 俺も幸福な虚脱感に、ルイの背をさすることもできない。

 しばらく二人で息を整えていると、ルイが重そうな体を起こし、俺の髪を指で梳いた。
「サシャ、愛してる」
 ルイは眩しそうな目でこちらを見ると、ゆっくりと俺の口を塞いだ。

   *

 エブラに帰国して一月ひとつきが経った。
 俺は学院の頃の教授の伝手で、エブラ城の魔道具研究所に勤め始めた。
 ルイに作った魔法効果を打ち消す指輪の改良から、まずは手をつけ始めている。
 ガルムナンドの技術も参考にしているので、スパイみたいで申し訳ないが、大枠のアイデアは俺の発想だからいいだろう。

 使節団まで派遣したというのに、エブラ王女とガルムナンド王太子の婚約の話は、立ち消えになってしまったらしい。
 それがいいと思う。ガルムナンドの王太子は、ちょっと人間としてそれはどうかなと思うところがあった。


 今日も出勤か……

 まぶしい朝の日差しのなか目を覚ますと、隣に柔らかな栗色の髪がうずもれている。

 布団をずらしてその凛々しい眉と、長いまつ毛を眺める。
 俺は誰よりも好きなルイのその唇に、そっと口付けた。
 

――fin.――
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