異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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後遺症 10

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 部屋に戻ると、マルとルオード様が警備配置を話し合う最中だった。
 中座したことと、サヤの無作法を改めて詫びて戻る。話がひと段落したところを見計らって、今後の予定をざっくりで良いからまず教えてくれと頼んだ。

「まず、人足は一旦契約終了とし、雨季の後に雇い直します。希望者は継続しようとは思うんですけどねぇ。経験者は貴重なので。
 あと、人足の中に、怪我をする前は遍歴の石工だったって者がいましてね。それの伝手で石工を集めようかと思ってます。河川敷の補強に、石を使うつもりなんで。
 それから……現場の経過観察と土嚢作りの練習を、近衛の方々の訓練に加えつつ、レイ様の警護をお願いしてますよ」
「近衛部隊の方々は、どれくらいの間滞在されるのだろうか。人数は…」
「雨季の間は滞在する予定だよ。人数は、私を入れて二十五名」
「ルカたち土建組合の面々はどうなる?」
「数人残ってもらう予定ですよ。河川敷の設計に携わってもらうので」
「雨季の間に進められることは、他に無いか?」
「えー?どうしちゃったんです?何か問題がありました?」

 訝しげな顔をされたので、いや、良いんだと言葉を濁す。
 少なくとも三十名程は滞在しているんだな。なら、賄い作りは継続出来るから良しとするか。
 うーん……サヤが料理人だと伏せてたから、料理に関することは口を挟まない方が良いだろうし……。
 なにか別口で、使えそうなネタは無いかな……。

「人足の雇用は終了するなら……集会場は一旦閉めるのか」
「ええ。万が一の時、避難場所として機能出来ないんじゃ困りますし。
 それでですね、ちょっとどうしようかって思ってるのが、賄い作りなんですよ」

 目的の話題が釣れた。
 焦るな、慎重に進めるんだ。自分に言い聞かせつつ、マルに続きを促す。

「とりあえず、当初は第一段階のみ、数週間の予定でしたから、あー……諸々考慮した結果、賄い作りをした方が良いという結論に至っていたわけですが、好評でしたし、思いのほか士気が上がりました。なら続けるべきかと。しかし、数年単位となってくると、当初と予定が違いすぎますからねぇ。
 賄い作りを続けるにも、少し無理がある。続けるべきか、止めるべきか考えたんですけど」

 賄いはおしまいにしようとか言い出すなよと、内心で念じながら先を待った。

「雨季の間は続けるとしても、現場の簡易調理場も雨の中では使いづらいですし、どうしようかなって思ってたんですけど、土建組合の面々が、空家を改良すれば良いって言うんで、仮の食堂に作り変えちゃおうかって言ってまして」

 それ良い!

「メバックから大工を呼んでますので、土建組合員と協力しつつ、彼らが滞在してる借家を、明日から改良するつもりです。
 人数が居るからさして手間でもないみたいで、すぐ終わるってことなんで。
 ただねぇ、広さの問題が。一度に食事出来ないでしょう?」
「?……暇になった者から食べたんじゃ駄目なのか?」
「管理しにくいじゃないですか。誰が食べて誰が食べてないのか把握しにくいんですよ」
「……分かった、そこは効率化民族に相談する」
「あ、そうですね。そうしましょう」

 サヤなら、何か効率よく管理する方法を知ってそうな気がする。
 食堂を作るなら、料理の勉強は続けられるわけだし、雇うことも出来る。
 むしろ、食堂という形になるなら、訓練としても良い気がする。
 ん?   待てよ……どうせならいっそ、食事処を作ってしまえば良いんじゃないか?
 この村には食事処など無い。しかし、工事を数年続けるというなら、賄い作りを延々続けていくというのも実際無理だと思う。サヤはここにずっと居るとは限らないし、そもそもが料理人ではないのだから。
 けれど、ユミルがサヤの料理を作れるようになれば、賄い作りを任せることも出来るのだ。
 より長く、継続した雇用が可能になる。

「土建組合員の使ってる借家じゃなく、もう少し広い物件は無いのか?」
「そりゃ有りますけど、家主が改装をを了解してくれるかどうかって問題が」
「買い取る」
「………はい?」
「工事を数年続ける予定なのだよな?どこまで賄い作りを続けるか、問題になる。
 その最大の原因が、この村に食事の出来る場所が無いからだよ。
 なら、もう食事処を作る。
 数年使い続けるならきちんとしたものにしたい。間取りの適した、広い物件を買い取る。工事が終わった後も、河川敷を流通の要とするなら、宿泊、食事の施設は必要だ。
 事業関係だから、運用資金から出せるだろう。ウーヴェに相談出来るか?」
「……まぁ、レイ様がやる気ならその様に進めますよ。了解です。今日中に物件の目星をつけます」
「改装が終わるまでは、引き続き集会場の調理場を使っておこう」
「……ふふ。細かくはまたあとで詰めましょうね」

 マルが、後で話してくださいよ。と、目で訴えてきた。ルオード様の目があるから、自重した様子だ。

「じゃあ次、警備、観察の為の仮小屋を、土嚢壁側に作り変えるんですが、今ある休憩所を解体すればすぐ移動できるんで、また土嚢で作り直しますね。屋根だけ雨漏りしないものに直しますけど。あとは……」

 途中から、ルオード様のことを失念していた。
 河川敷をメバックまで繋げるなら、どこが要所となるか、難関はどこか。現在メバックまで続いている道は、川の対岸にあるのでメバックまで至る分には問題無いが、西方面には不自由をさせてしまう。そのための仮の道をどの様に作るか。そんな話を延々とした。
 いつもの調子で言葉を交わし、はっと気付くと、にこにこと笑顔のルオード様にじっくりと見られていて、慌ててしまう。

「も、申し訳ありませんっ」
「何も申し訳なくない。
 いや、レイシールがとても、生き生きしていて、なんだか嬉しかったんだ。
 君は、そんな風にも出来るんだね。
 心配していたけれど、領地だってちゃんと回してる。
 ここに君が戻ったと教えて下さった時、クリスタ様は、とても心配されていたが……。
 杞憂だった。君は、私たちが思うより、ずっと逞しかった様だ」

 その思いがけない言葉に呆然とする。
 生き生きしてる?    俺が?
 逞しいって?    人の手を煩わしてばかりなのに?

「い、いえ……いつも、皆の手を煩わせてばかりで……。ここ最近なのです、多少なりとも、まともに出来ているなと、思えるのは……」
「ははっ、何を言うんだか。君は自分が成人前だということを忘れ過ぎだよ」
「ですよねぇ。そもそも、ご領主様不在のまま、手探りで始めた領地運営が成り立っちゃってるあたり、結構なもんだと思うんですけど、この人全然そのこと理解してないんですよねぇ」

 それは……父上が、とても詳細な記録を残していてくれたから。ハインが俺の補佐に心血を注いでくれるから。そして、足を伸ばせない地方の役人や士族らが、頑張ってくれているからだ。
 そう思ったのだけど、せっかく褒めてくださったルオード様の言葉を否定するのも憚られ、俺は赤くなって俯くしかなかった。
 その様子を見たルオード様が笑う。「ああ、その顔は昔のままだね」と。
 逃げ出したくなる自分に、全く成長してないなと、俺は思った。
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