異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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新たな戦い 14

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 応接室にて、マルにホセのことや、干し野菜、竹炭を作るに至った経緯を説明した。
 とりあえず秘匿権に関わるということで、ルーシーも呼ばれ、この作業に関わった人間には全員状況を把握しておいてもらおうとなったのだ。

「凄い……凄いですよこれ……!    野菜を干して保存する地方はあると聞きますが、そんなに長く保つなんて聞いたことがないです!
 実物も初めて見ました。こんな形状で保存ができるんですか⁉︎    しなびて食べられなくなる直前の食材にしか見えませんけどね⁉︎」
「あ、それまだ、生乾きの状態です。これだと保って十日程度。もう少し乾かさないと、長期保存はできません」

 マルの興奮が収まらない……。新たな野菜の保存方法に、狂喜乱舞する勢いだ。
 これだけ喜ぶのだから、彼の知識にもない手法なのだと分かる。
 冬場の食料における保存方法は、主にそのまま保つものを暗所に置いておくか、酢漬けにするか、塩漬けにするか、もしくは燻製にするかだ。ここで保存されるのは主に肉。野菜は本当に少ない……。なのにサヤは、野菜が長期的に保存できると言ったのだ。

「本当は、根菜類や香味野菜が最も長期保存には適しています。だけど時期的に今は少ないので……。
 それで、乾燥野菜には水気が大敵です。極力水気のない、暗所で保管するのが良いんです。
 だから、蓋つきの硝子瓶にこの炭と野菜を入れて保存しようと思ってました。
 炭は三ヶ月くらいで交換した方が良いんです。
 水気を吸って、効果が薄くなります……。あ、乾燥させればまた使えるので、天日に干したりしても良いんですが、薪と一緒に使ってしまっても良いかなって……」
「竹を使用した理由はなんなんです?」
「安価であることと、作りやすさ。あと、性能です。
 竹には腐敗やカビを、ある程度防ぐ効果があります」
「ああ、聞いたことありますよ。ジェンティーローニの怪事件。
 竹林で殺した男が、一週間経っても腐らなかったせいで、事件が発覚したって。あれです?」
「はい。竹の抗菌作用だと思われます。だから、食べ物など、鮮度を保ちたいものを扱う場合は、竹を使う方が良いんです」

 マルとサヤが行う情報のすり合わせを、同席して見ているだけなのだが、分かるのはサヤの凄い知識にマルがついていっているということだけだ。口の挟みようもなく、ただ見ているしかできないのが現状だった。

「じゃあこれ、鍋で作ったって本当なんですね?……うーん。それなら確かに……その製法を守る限り、秘匿権には引っかからないでしょうねぇ……。
 あれは窯を使って作ります。時間もかかりますし、鍋で二時間焼いたくらいではできません」
「……ああ、それが秘匿権に引っかかる炭なんですね」
「……なんとなく予想してましたけど……知ってるんですね?    そちらの炭の作り方も」
「いえ、作れるほどに詳しい自信はありません。ただ、炭の種類は、母に聞きました。……その……製造過程の差も」
「それで、竹は作りやすい……というのも知ってらっしゃると」
「はい……」
「……よくよく考えてみりゃ、こういうことだったてあるよな」

 二人のやりとりを見ていた横から、不意にギルが話しかけてくる。
 ハインや俺が視線をやると、少し疲れた表情ながら、言葉を続けた。

「サヤの知識と、こっちの知識。かぶることだって、そりゃあるよなって。
 今までうまく間をすり抜けてたけど、俺たちの知らない秘匿権だって存在する。サヤの知識だと思って利用してたら、実はもうあった……なんてことも、そりゃあるよなぁって」
「……そうだな」

 そして、そう言った事例が、事件へと発展した例も、ある。
 あまり公にはならないが、もう秘匿権として上がっていたものを、発見し直した者がそれを知らず申請して、問題が発覚するという例だ。
 正直そういうのはもう、運が悪かったとしか言いようがない。
 こういう場合は、立場の弱い方が、権利の放棄をするしかなくなる。
 そう……相手が貴族であった場合、権利を奪われるということも、ありうるのだ。
 では、サヤの竹炭はどうだろうかというと、マルの言う通り製造過程が大きく違い、用途も別だ。多分大丈夫だと思うが……。というか……。

「マル……知ってるんだな。木炭の秘匿内容……」

 まずそこが驚くべきことなんだけど……。
 俺の呟きが聞こえたらしいマルが、こちらを見る。

「ああ、職業柄ね。調べられるものは調べてますよぅ。
 世にある秘匿権全てを把握しているとは言いませんけどねぇ。貴族絡みであるものは問題になりやすいので」

 と、そんな風に言った。
 いや、製造過程知ってるって、真っ黒だよな……。それ絶対晒してないやつだし。
 だって作り方を知られてしまえば、作られてしまうかもしれないのだ。だから一部は公開したとしても、全貌は伝えない。しかしマルの口ぶり……サヤの竹炭は秘匿権に引っかからないという判断を下したことからして、彼は、全貌を知っている……。
 でもまぁ、知ってくれていたおかげで、どうやら大丈夫そうだと分かってホッとできるわけだけれど。

「まあ、今回はあれだ。運が悪かったと思って、これはもう、なかったことにしよう。
 被らないにしても、勘違いされそうなもんに手を出さない方が良いだろ。
 特に貴族絡みの秘匿権ならな」

 ギルがそう言ってこの話を終わりにしようとする。
 関わらないにこしたことはない。それは確かにそうなのだ。貴族絡みなら特に、問題となった場合に勝てる可能性は少ない。だが……。

「いえ、引きません。
 問題となった場合も戦う手段はあります。その時は僕が引き受けますので、これは、進めなきゃ駄目です」

 マルがきっぱりと言い切った。

「大災厄前文明文化研究所の目玉商品にします。
 これは、世に広めるべき技術ですよ。考えてみてください、冬の過ごし方が、劇的に変わる可能性がある。
 今まで保存できる野菜なんて、玉葱か馬鈴薯か蕪かってな具合で、限られていたんですよ?    わざわざ美味でもない酢漬けや塩漬けを有難がるくらいにね。
 でもこれで沢山の野菜が長期保存できたら?
 例えば夏場に余るほどできた胡瓜を冬場に食べられたら?
 本当にこの保存方法が有効であれば、僕の故郷も、冬を越せます」

 真剣な、熱を帯びた瞳で、マルが言う。
 そのためには、乾燥材が必要なのだ。干し野菜だけではいけない。この竹炭が、必要なのだ。

「他に乾燥剤となるようなものはあるんですか?」
「……私の国では主にシリカゲルというものを利用していますけれど、きっとこちらにはありません。
 重曹も、ふくらし粉を見かけませんから、ないのじゃないかと思うのですが……。
 あとはちょっと、思い浮かばないです……」

 少し考えたサヤがそう答える。
 それに頷いたマルは「ならやはり、竹炭は必要ですよ」と、言った。

「何よりこれ、燃料にもなるんですよ。
 そうなれば、冬場の暖の取り方も変わります。まず煙が少ない。閉め切った状態になる室内の状況改善にも使えるかもしれません。
 そして竹は、だいぶん安価です。薪の代わりにも使えます」
「だけど竹って、爆ぜるんじゃなかったか?    なんか爆発しまくったって大騒ぎになった覚えがあるぞ」

 ギルの指摘。ああ、それは聞いたことあるな。

「あの……それは竹を割らずに使用したからだと思います。
 節と節の間。あそこの中は空洞で、焼くと中の空気が膨張して爆ぜます。
 割って利用すれば大丈夫だったはずです。
 あ、でも……竹は油分が多いので、着火は早いのですけど、薪ほど長持ちはしません。
 竹炭は、燃焼に邪魔な不純物は除去したあとなので、竹をそのまま燃やすよりは長く燃えるかもしれませんが……」
「成る程。着火材としては優秀。薪の代用品としては検証が必要ということですね。
 まあ曖昧な部分はこれから色々検証、検討しましょう。
 とにかく、干し野菜は普及させるべきです。ひと月でも食品が保てば、色々違ってきますよ。大きな話題性もあります。
 風呂は施設を作らなければ普及できませんが、これは干し野菜を作って売るという手法が使える。是が非でも、手数に加えるべきです。
 なにより、秘匿権を放棄するということを実践するのに、良い素材ですよ。
 作り方自体は、そう難しくないようですし」

 マルの言葉に、俺も今一度、今回のことについて考える。
 ホセの村の手助けになればと思ったのだけれど、サヤが教えてくれた干し野菜はそれだけにとどまらない、もっと大きなものである様子だ。
 世間の価値観を大きく覆すことを考えるなら、注目度の高い、話題性のあるものを提供するのは理に適っていると思う。

「なら、まずは干し野菜の検証が必要かな。
 食べ物だからな……実際どれくらい保つのかを試してみないと心配だし、どのように広めていくかも問題となりそうだ。
 竹炭の効果についても確認しないとな」
「そうですね。とにかく、そのホセという者の村は、石を買い付けるということで、当座の問題は解決するでしょうし、まだ干し野菜は伏せておきましょう。
 まずは取引です。他領であっても、そこは問題無いわけですし」

 捨場のものは買えない。という法律は無い。心象の問題だ。
 食わしていけないから捨てる。それをしてしまったが故に、そこに近付きたくない。ただそれだけでできた決まりごとだろう。
 もし、その捨場のあるのがセイバーン領内であったなら、当然そんなものを許すつもりはない。
 そういったことまでしなければならないほどの苦境に、民を追いやったのだとしたら、それは我々貴族の落ち度だ。我々自身が謝罪し、正す必要があると思った。

「捨場ねぇ……正直、セイバーン領内である可能性は低いでしょうね。
 こちらの土地は豊かですし、地質の話からして、火山が近い。なら、アギーか、もしくはオースト辺りですかね。
 アギーなら、まだ聞く耳を持ってくれそうですが……オーストは少々ややこしいかもしれません」

 その可能性は俺も考えていた。
 玄武岩を多く扱っている領地はオーストであるし、わざわざ捨場のものに手を出すほど困ってもいないのだろう。
 だが、資源に困っていないからといって、捨場を放置しておいて良いわけはない。
 俺は、ホセのあの態度が気になっていた。
 初めから、俺に対して不信を募らせていたように思う……。エルランドに口を利かないよう言い含められていたのも、それが原因であるのかもしれない。
 貴族に関わる場合、大抵の者は臆し、萎縮する。何か粗相をしないか、間違って手打ちになったりしないか、そちらの心配が先にたつことが多い。
 けれどホセは、違っていたように思うのだ。

「……どこの領地であったにしても、そのままにはしない。
 せっかく手を伸ばそうとしているんだ……受け止めてやらなきゃ、駄目だ」

 助けてと、訴えたなら、それを聞くのが俺の立場であり、役割だ。

「畏まりました。じゃ、それを踏まえて僕も色々用意するとしましょう。
 じゃあ、とりあえずはそういうわけで、まずは保存食を、作り切ってみましょうか」

 マルの言葉に一同頷くが、ギルはやはり、少し心配そうにしていた。
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