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閑話 髪飾り 2
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「今の職場で仕事続けながらで良いなら……所属できるなら、良いなって……。
収入無いと困るんで、そんな感じになるんですけど……」
こちらから声を掛けるつもりだったんだけど……自分から言ってくるとは。
ただ、そう言うわりに、決死の覚悟というか、今から死地に赴くといった表情なのだ。
「……仲間に止められたり、したのかな?」
こんな時間に人目を偲ぶようにしてやってきたのは、それでじゃないかと思い、そう聞いたのだが、ギクリと体を強張らせる。当たりか。
「……う、胡散臭いって……」
かなり悩んでから、やっとそれだけ口にする。
けれど、それが多分、一番言いやすい言葉だったのだろうな。俺の耳には、もっと沢山届いていた。だけど、それを言えばロビンはもっといたたまれなくなるんだろうし、気付かなかったふりをする。
「そうだろうな。今までの価値観から真逆のことを言っているのだし。
ロビン。あの張り紙について説明しよう。
この前の祝賀会で伝えたように、我々はこれから、セイバーンからアギーに繋がる交易路を作っていく。
それには膨大な資金が必要だ。貴族の知人を伝手に、支援金を集めているし、今まで手がつけられていなかった氾濫対策資金なども注ぎ込むのだけど、それではまだ全然、足りないんだ」
俺が急に語り始めた内容に、ロビンはきょとんとした顔だ。あの張り紙と関係あるのかな?と、疑問を感じているのだろう。
「今ある資金を、運用して、もっと増やさなければならないんだ。
だからあの店……大災厄前文明文化研究所を作った。そこで、市政の生活を向上させる目的の道具を開発、販売していく予定だ。
それの中に、この髪飾りも含めようと考えている。
所属職人には、この髪飾りや、研究所で所持する秘匿権を持つ品を、全て開示する。ロビンが所属してくれるなら、装飾品の意匠は、全てロビンが好きに作れる。
ただ、ロビン以外も所属したなら、その職人にも同じようにするよ。
そして、この新しい装飾品が世の中に受け入れられたら、今度は国全体に、秘匿権を開示する。……言っている意味、分かるかな?」
ぽかんとした顔で聞いていたロビンだが、眉間にシワを寄せてウンウンと唸る。
そうしてなんとか、俺の言葉を理解したらしく、恐る恐る、問うてきた。
「……それ、御子息様は、何か得しますか?」
「私の得?……資金が増えるし税収も上がるね」
「や、それはそうなんですけど……それだけ? 所属職人に、開示するまでは、分かります。でもその後……最終的に、秘匿権を放棄しちゃったら、大損なのでは?」
「損はしないよ。私の得は、まだ他にもいろいろある。が、今ここで言ってもややこしいからね。また今度教えよう。
あと、正確には、放棄ではない。開示するんだ。誰でも作れるものにするんだよ。
放棄してしまうと、権利を主張する者が出てきた時、独り占めされてしまうからね。それでは困るから。
ただ、新たに提案するものだから、ある程度浸透するまでは、研究所で秘匿権を所持する。交易路の資金も貯めなきゃいけないからね」
生活に便利なものを提供するのに合わせて、新しい価値観も浸透させていく。神殿の教えを盲信する状況を変えていく。
口には出さない裏の目的は沢山ある。そしてそれが、獣人を受け入れる布石になっていく。
「あの……好きに作って良いって……勝手に作って売っても良いってこと?」
「将来的にはそうなるよ。けどまだ先の話だ。
それに研究所がまだできていないからね。具体的には決めてないのだけど、研究所へ品を卸してもらい、研究所がそれを売る形になるかな。
あとは、拠点村に間貸しの店を置く予定だから、そこで直接販売してもらうかだ」
「み、店⁉︎ 間貸し⁉︎」
「そう。月貸しか、年貸しか、その辺もまだ未定なんだけどね。屋台の店版だと思ってくれたら良いよ。
予定では、一階を店舗。二階を住居にする予定で、客は拠点村を訪れる行商人や旅人となる。メバックやセイバーンも近いから、そちらからの客も多少は期待できる。
ロビンは買い手と直接のやりとりにやりがいを感じるようだから、店を持つ方が良いかな。
充分な技術が身につき、資金が貯まれば、そこを出てメバックに店を構えたりとか……そんな風に、先に繋げていけたらと思っている」
「…………?…………⁉︎…………えぇ⁉︎」
頭を抱えて理解不能といった様子のロビンに、つい口元が綻ぶ。
嫌な反応じゃない……。こちらの言葉の意味は理解できているけれど、本当に自分の解釈で良いのか自信が持てず、混乱してるって感じだな。
「我々は、もっと豊かになれると思うんだ。豊かになって、幸せになれたら良いと、思ってる。
今はまだちょっと胡散臭いって思われる思想だけど、隣人の幸せが、自分の幸せになる価値観を、育てたいんだよ。
自分だけが得をする、けどその裏で恨まれるなんて、馬鹿みたいだろう?
できるだけ沢山の人が、幸せになれば、妬む必要なんて無くなるんじゃないかって、思うんだ」
これは、サヤの祖である二つの種の話と同じだ。
例えばこの髪飾り、ロビンだけが秘匿権を持つなら、少量しか生産されない。一人の手で作れる量には限度がある。
そうなれば、浸透しない。せっかく良いものがあっても、広まらない。結局、一部の人だけが知る道具で終わり、いつか忘れ去られるのだ。
けれど、沢山の人がこれを作れたとしたら……この飾りを知る人間は、飛躍的に伸びるだろうし、求める人間も増える。経済が回る。血が巡るみたいに、新たな客を呼ぶ。
そうすれば技術者の腕も向上し、より良い商品を提供できるようになる。きっとその中から、何か良いものをひらめく人間が現れ、それをまた皆で共有したなら、もっと先が見えてくるのだろう。
そんな風に、皆で幸せを追う社会になれば良いと思う。
そうした中で、獣人も、受け入れられる価値観を、育てていければ……。
気の遠くなるような話だけれど、それでも一歩、前に進む。
「さて。それでだ、ロビン。
この試作品は、充分な出来栄えであったみたいだから、追加注文だ。
まずはこの髪飾りの価値を理解してもらわなければならないから、沢山必要だよ。
だけど、まだ職人は君しかいないから、君が頑張るしかない」
今回は言い値で支払うと言ってあったから、それぞれの金額を聞き、待機していたハインに指示を出す。
作られた分の料金を手渡し、それとは別に、金貨二枚を用意させた。
「これが材料費。あった方が、良いよな?
これで、試作と同じくらいの料金におさまるように、極力量産してほしい。
最大で銀貨二枚までだ。銅貨で済む価格帯のものが多い方が嬉しいな。質はこれくらいを維持してくれ。
次回はできた分から、材料費を差し引いて支払う形になる。その支払いで、軍資金はそれなりにできるのじゃないかと思う。
工夫や、違う意匠も色々含めてくれ。案は任せるから。例えば……この蝶の部分を花にするとか、硝子玉をあしらうとかだな。
そこら辺はロビンの良いと思うものをしてくれたら良い。君の美意識に任せる。
できた分から持ってきてくれたら、その都度買い取ろう。在庫が必要だから、いくらでも買うよ」
ルーシーの食いつき的にも好感触だし、はじめは物珍しさもあってよく売れるだろう。
だから好きなだけ作れと言っておく。
拠点村ができるのはずっと先になるから、まずは屋台等で名売りも兼ねて販売してみるのも手だろう。
「えっ、す、好きなだけ作って良いんですか⁉︎」
「ああ。お願いする。
また新しい意匠ができるなり、思いつくなりしたら、要相談だ。連絡をくれ。こちらからもする」
ロビンが羽振り良くやっていれば、自分もと思う者が現れるかもしれない。つまり彼自身も広告となるのだが、まあそれは、本人が自覚せずとも良いことだろうから、黙っておく。
「依頼書を書くから、ちょっと待っておいてくれ。
あ、秘匿権の手続きは終わっているから、もう見られても問題無いよ。私の依頼として、職場で作業してくれたら良い。
ただ、君を指名した仕事になるから、君が作ること」
注意事項も含め、依頼書に書き記す。
個数の部分は極力量産としておく。
それを差し出すと、呆然とした表情のまま、受け取った。
「…………ほ、本当に、いくらでも?」
「うん、そうだよ。
あ、もし知人に贈りたいのなら、それも要相談だ。売り出し前だと問題になってしまうだろうから」
そう言うと、ボッと顔を赤らめた。
うん。当たりかな。贈りたい相手がいるらしい。
「じゃあ、待ってるよ」
収入無いと困るんで、そんな感じになるんですけど……」
こちらから声を掛けるつもりだったんだけど……自分から言ってくるとは。
ただ、そう言うわりに、決死の覚悟というか、今から死地に赴くといった表情なのだ。
「……仲間に止められたり、したのかな?」
こんな時間に人目を偲ぶようにしてやってきたのは、それでじゃないかと思い、そう聞いたのだが、ギクリと体を強張らせる。当たりか。
「……う、胡散臭いって……」
かなり悩んでから、やっとそれだけ口にする。
けれど、それが多分、一番言いやすい言葉だったのだろうな。俺の耳には、もっと沢山届いていた。だけど、それを言えばロビンはもっといたたまれなくなるんだろうし、気付かなかったふりをする。
「そうだろうな。今までの価値観から真逆のことを言っているのだし。
ロビン。あの張り紙について説明しよう。
この前の祝賀会で伝えたように、我々はこれから、セイバーンからアギーに繋がる交易路を作っていく。
それには膨大な資金が必要だ。貴族の知人を伝手に、支援金を集めているし、今まで手がつけられていなかった氾濫対策資金なども注ぎ込むのだけど、それではまだ全然、足りないんだ」
俺が急に語り始めた内容に、ロビンはきょとんとした顔だ。あの張り紙と関係あるのかな?と、疑問を感じているのだろう。
「今ある資金を、運用して、もっと増やさなければならないんだ。
だからあの店……大災厄前文明文化研究所を作った。そこで、市政の生活を向上させる目的の道具を開発、販売していく予定だ。
それの中に、この髪飾りも含めようと考えている。
所属職人には、この髪飾りや、研究所で所持する秘匿権を持つ品を、全て開示する。ロビンが所属してくれるなら、装飾品の意匠は、全てロビンが好きに作れる。
ただ、ロビン以外も所属したなら、その職人にも同じようにするよ。
そして、この新しい装飾品が世の中に受け入れられたら、今度は国全体に、秘匿権を開示する。……言っている意味、分かるかな?」
ぽかんとした顔で聞いていたロビンだが、眉間にシワを寄せてウンウンと唸る。
そうしてなんとか、俺の言葉を理解したらしく、恐る恐る、問うてきた。
「……それ、御子息様は、何か得しますか?」
「私の得?……資金が増えるし税収も上がるね」
「や、それはそうなんですけど……それだけ? 所属職人に、開示するまでは、分かります。でもその後……最終的に、秘匿権を放棄しちゃったら、大損なのでは?」
「損はしないよ。私の得は、まだ他にもいろいろある。が、今ここで言ってもややこしいからね。また今度教えよう。
あと、正確には、放棄ではない。開示するんだ。誰でも作れるものにするんだよ。
放棄してしまうと、権利を主張する者が出てきた時、独り占めされてしまうからね。それでは困るから。
ただ、新たに提案するものだから、ある程度浸透するまでは、研究所で秘匿権を所持する。交易路の資金も貯めなきゃいけないからね」
生活に便利なものを提供するのに合わせて、新しい価値観も浸透させていく。神殿の教えを盲信する状況を変えていく。
口には出さない裏の目的は沢山ある。そしてそれが、獣人を受け入れる布石になっていく。
「あの……好きに作って良いって……勝手に作って売っても良いってこと?」
「将来的にはそうなるよ。けどまだ先の話だ。
それに研究所がまだできていないからね。具体的には決めてないのだけど、研究所へ品を卸してもらい、研究所がそれを売る形になるかな。
あとは、拠点村に間貸しの店を置く予定だから、そこで直接販売してもらうかだ」
「み、店⁉︎ 間貸し⁉︎」
「そう。月貸しか、年貸しか、その辺もまだ未定なんだけどね。屋台の店版だと思ってくれたら良いよ。
予定では、一階を店舗。二階を住居にする予定で、客は拠点村を訪れる行商人や旅人となる。メバックやセイバーンも近いから、そちらからの客も多少は期待できる。
ロビンは買い手と直接のやりとりにやりがいを感じるようだから、店を持つ方が良いかな。
充分な技術が身につき、資金が貯まれば、そこを出てメバックに店を構えたりとか……そんな風に、先に繋げていけたらと思っている」
「…………?…………⁉︎…………えぇ⁉︎」
頭を抱えて理解不能といった様子のロビンに、つい口元が綻ぶ。
嫌な反応じゃない……。こちらの言葉の意味は理解できているけれど、本当に自分の解釈で良いのか自信が持てず、混乱してるって感じだな。
「我々は、もっと豊かになれると思うんだ。豊かになって、幸せになれたら良いと、思ってる。
今はまだちょっと胡散臭いって思われる思想だけど、隣人の幸せが、自分の幸せになる価値観を、育てたいんだよ。
自分だけが得をする、けどその裏で恨まれるなんて、馬鹿みたいだろう?
できるだけ沢山の人が、幸せになれば、妬む必要なんて無くなるんじゃないかって、思うんだ」
これは、サヤの祖である二つの種の話と同じだ。
例えばこの髪飾り、ロビンだけが秘匿権を持つなら、少量しか生産されない。一人の手で作れる量には限度がある。
そうなれば、浸透しない。せっかく良いものがあっても、広まらない。結局、一部の人だけが知る道具で終わり、いつか忘れ去られるのだ。
けれど、沢山の人がこれを作れたとしたら……この飾りを知る人間は、飛躍的に伸びるだろうし、求める人間も増える。経済が回る。血が巡るみたいに、新たな客を呼ぶ。
そうすれば技術者の腕も向上し、より良い商品を提供できるようになる。きっとその中から、何か良いものをひらめく人間が現れ、それをまた皆で共有したなら、もっと先が見えてくるのだろう。
そんな風に、皆で幸せを追う社会になれば良いと思う。
そうした中で、獣人も、受け入れられる価値観を、育てていければ……。
気の遠くなるような話だけれど、それでも一歩、前に進む。
「さて。それでだ、ロビン。
この試作品は、充分な出来栄えであったみたいだから、追加注文だ。
まずはこの髪飾りの価値を理解してもらわなければならないから、沢山必要だよ。
だけど、まだ職人は君しかいないから、君が頑張るしかない」
今回は言い値で支払うと言ってあったから、それぞれの金額を聞き、待機していたハインに指示を出す。
作られた分の料金を手渡し、それとは別に、金貨二枚を用意させた。
「これが材料費。あった方が、良いよな?
これで、試作と同じくらいの料金におさまるように、極力量産してほしい。
最大で銀貨二枚までだ。銅貨で済む価格帯のものが多い方が嬉しいな。質はこれくらいを維持してくれ。
次回はできた分から、材料費を差し引いて支払う形になる。その支払いで、軍資金はそれなりにできるのじゃないかと思う。
工夫や、違う意匠も色々含めてくれ。案は任せるから。例えば……この蝶の部分を花にするとか、硝子玉をあしらうとかだな。
そこら辺はロビンの良いと思うものをしてくれたら良い。君の美意識に任せる。
できた分から持ってきてくれたら、その都度買い取ろう。在庫が必要だから、いくらでも買うよ」
ルーシーの食いつき的にも好感触だし、はじめは物珍しさもあってよく売れるだろう。
だから好きなだけ作れと言っておく。
拠点村ができるのはずっと先になるから、まずは屋台等で名売りも兼ねて販売してみるのも手だろう。
「えっ、す、好きなだけ作って良いんですか⁉︎」
「ああ。お願いする。
また新しい意匠ができるなり、思いつくなりしたら、要相談だ。連絡をくれ。こちらからもする」
ロビンが羽振り良くやっていれば、自分もと思う者が現れるかもしれない。つまり彼自身も広告となるのだが、まあそれは、本人が自覚せずとも良いことだろうから、黙っておく。
「依頼書を書くから、ちょっと待っておいてくれ。
あ、秘匿権の手続きは終わっているから、もう見られても問題無いよ。私の依頼として、職場で作業してくれたら良い。
ただ、君を指名した仕事になるから、君が作ること」
注意事項も含め、依頼書に書き記す。
個数の部分は極力量産としておく。
それを差し出すと、呆然とした表情のまま、受け取った。
「…………ほ、本当に、いくらでも?」
「うん、そうだよ。
あ、もし知人に贈りたいのなら、それも要相談だ。売り出し前だと問題になってしまうだろうから」
そう言うと、ボッと顔を赤らめた。
うん。当たりかな。贈りたい相手がいるらしい。
「じゃあ、待ってるよ」
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