異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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荊縛の呪い 15

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 年が明けた。そしてもう、一の月が終わろうという頃合いだ。
 世界は白に侵食されている。村の中はまだ良いものの、人の通らない場所は、もう相当積もっていることだろう。

「案外平気ですねぇ調理場。水が流れているし、外とも繋がってるからどうかと思ってたけど、むしろ暖かいと感じるくらいで」
「あぁ、地下水だからね。地中の水温は一年を通して一定だから、夏は冷たく冬は暖かいのだそうだよ」
「へえぇ、そうなんだ」
「何にしても、冬場の早朝に井戸まで水桶持っ何往復もしないで良いなんて、楽園ですよここは」
「ほんとそれ!うちはまだ子供も小さいから、あの時間が要らないだけですごく助かってる!」
「赤ん坊のうちは、せっかく寝かしつけても扉開け閉めする度に、寒風が吹き込んで起こしちゃうのよねぇ」
「今年はまだあかぎれもできてないのよ。ほら」

 きゃっきゃとはしゃぐ子供の声を聞きながら、それを見守る母親の輪。何故かその中に取り込まれている自分……。
 母親たちは子守。父親たちは仕事に勤しむ。それが冬場の日常だ。
 村人に言伝をするため出向いたのだが、訪れたら焚き火のそばにどうぞと促され、そのまま井戸端会議に突入してしまったのだ……。
 まぁ、村の暮らしについて聞こうと思ってたのもあるから、別に良いのだけど……。

 ここは店舗長屋の近場にある、広場。というか、まだ建設が進んでいない土地だ。
 村の中心地は建物も建っているが、まだ周辺は色々と空白が多い。
 今その中の一つで、子供たちが雪合戦をしたり、雪だるまを作ったりと遊び倒していた。
 これは冬の間、結構大切な行事であったりする。
 と、いうのも、ずっと家の中に閉じこもっていたら、子供は暇過ぎて鬱憤が溜まり、悪戯を繰り返すようになる。
 だから天候の恵まれた日に、近所で集まって、こうやってひたすら遊ばせる。
 たくさんの大人の目がある中なので、安心してのびのびとできるのだ。

「それでレイ様、今日は何の用だったんです?」
「あ?……あ、そうそう。今日は湯屋を開きたいから、それをカミルに伝えに来たんだ。
 三時頃から夕刻までの予定だから、遅れないようにって」
「まああぁぁ!今回も良いんですか⁉︎」
「そりゃ有難い!    カミルー!    今日もお仕事入ったよー!
 あんたたちもー、お風呂までは遊べることになったからー!」

 きゃー!という、歓喜の声。
 寒くないのかなぁと心配になるくらい雪にまみれた子供たちの中に、ロゼやカミルの姿もあり、馴染んでるなぁと苦笑する。
 まずカミルの一家だが、越冬の間の湯屋は指定日以外休みとなるため、この職人長屋に移動している。越冬は近所で寄り集まって行うのが常であるため、湯屋だけ少し離れているから不便なのだ。
 因みに、食事処も客商売をしていられるほどの食料確保はできないため休みとなっていて、現在は三人まとめて館にて、臨時の料理人として雇われている。
 で、ロゼとエルランドだが、流石に館での越冬は恐れ多いと辞退されてしまい、こちらも職人長屋の一つを借りて、越冬となっていた。
 ロゼの事情は村の職人らにも話しており、母親が身重で、状態があまりよろしくないため、この冬は家族と離れて過ごさなければならないのだと言うと、皆がこぞって面倒を見てくれるようになった。

「独り身の男にゃ無理ですよぅ、子守なんて」
「そうそう。半日で根を上げることになるんだから」
「半日保てば偉いわよぅ」

 かくして、婦人らの言葉通りになった……。
 なので日中のロゼは、こうして婦人らに預けられることが多い。
 婦人ら的には、子供が一人増えたってさした労力にはならないとのことであったし……。

「それにエルランドさんの保存食、一風変わったものが多いから楽しみだしねぇ」
「いろんな地方巡っているって言ってただけあるわぁ」

 食事も婦人らが集団で作るのを分けてもらうため、持ち寄った保存食を使うのだが、エルランドは地方色豊かな内容であったため、珍しがられて喜ばれていた。

「でも一番嬉しいのはやっぱりあの干物野菜よねぇ!」
「あぁあれ、凄いわよねぇ。この時期に人参や蓮根が出てきたときはどんな魔法かと思った!」

 ……………………危険だ。

 話題をふられる前にその場を離れることにした。
 ここの婦人は、分からないこと、知らないことは何でもかんでも俺に聞いてくるのだ。あの干物野菜を作っている国はどこだなんて聞かれたら、やばい……。
 まだ試験導入で、村に回す量はないからな。エルランドのおすそ分けで我慢してもらおう。

「それじゃ、俺はそろそろ仕事に戻るから……」
「あ、ごめんなさいねぇ。呼び止めちゃって」
「レイ様の麗しいご尊顔を拝するのは、私らにとって栄養補給みたいなものでさぁ。つい長く見たくなるのよねぇ」
「旦那の顔見てても全然癒されないしさぁ」
「お肌が潤う気さえするわよねぇ」

 ケラケラと笑い会うご婦人らに、はぁ……と、生返事しつつ、俺も笑って誤魔化す。

 ……俺はそんな特殊能力持ってないけどね。

 と、いうわけで。
 子供に混じっていた者たちにそろそろ行くよと声をかけたら、雪の中から黒い塊が立ち上がる。
 言わずと知れたシザーと、ものすごく不機嫌そうなハイン……。
 だがしかし、カミルは慣れているし、ロゼがやたらとくっついていくためか、危険ではないと理解した様子で、子供たちはもう、ハインの怖い顔を警戒すらしなくなってしまった。
 ついさっきまで、新雪の中に子供を放り込む遊びに駆り出されていたのだが、どうやら雪の中に引き倒されていたらしい。
 この寒さの中で汗をかいている二人にお疲れ様と労いの声をかけると、ハインに恨めしそうに睨まれた……。

「ハイン、またなー!」
「シザもねぇ!」

 子供らに手を振られても、ハインは無視。シザーは振り返しつつ、無反応のハインをチラチラと見る。手を振ってあげてと言いたいのだと思うが、口にはしない。彼は極度の無口だし、言っても多分ハインは手を振らない。
 まぁ、それでも子供らは関係なしに絡みにいくんだけどな。

「思いの外、生活に不満は無さそうだったよ」
「水汲みはどこの家庭でも重労働の代表格でしたからね……。
 それが無いだけで、かなり高待遇に感じることでしょう」
「まぁな。あれは雪が積もってもやらなきゃならないから……越冬最大の問題点だったもんな」

 人は水がなければ生きていけない。
 だからどれだけ雪が積もっても、その雪を掻き分けて井戸まで行き、水汲みをせねばならない。
 冬場はこの作業を子供にやらせるわけにもいかず、大抵の家庭でその重労働を担うのは、母親になるのだ。
 ……物わかりの良い旦那がいるなら、その限りではないが。

 来た道を引き返し館に戻ると、着膨れしたマルが執務室にて「おかえりなさい」と、迎えてくれた。その向かいにはエルランドがいて、丁度書類の整理をしていたところであるらしい。

「随分と時間がかかりましたねぇ」
「母親たちに捕まっちゃって……二人は子供に捕まってたけど」
「うわ、何してたんです?    べちゃべちゃじゃないですか……」
「……着替えてきます」
「うん、いってらっしゃい」

 シザーとハインはそのまま着替えのため、部屋を後にした。
 焚き火のそばで温まっていただけの俺は外套を脱ぎ、そのまま自分の席に。
 お疲れ様ですと声をかけてくれたエルランドに、ロゼも楽しそうにしてたよと伝えておく。

「湯屋の件、喜んでた。有難いって」
「それは良かったです」
「贅沢ですよね……降り積もる雪の季節に、本来は貴族だってなかなか使えない風呂だなんて……正直はじめは耳を疑いました」
「むっふふ。まさか健康促進目的で、定期的に風呂を供給されているなんて、思ってないでしょうけどねぇ」

 そうなのだ。
 湯屋を定期的に開いているのは、村人の健康管理を秘密裏に試験しているためだったりする。
 本日は久々に晴れたから、多分あの行事が行われると思っていたのだ。
 子供の鬱憤晴らしをすると、大抵一人二人は風邪を引き、数日寝込むことになるのが定例なのだが、今年はどうだろうな。今の所、その洗礼を受けた子供は発生していないのだけど。
 それに、この時期は湯浴みも億劫で、不衛生になりやすい。
 なにせ、水は冷たいし、そもそも水汲みは大変だし、体を拭くために湯を沸かすなんて薪も勿体無い……と、なるためだ。
 当然洗濯だって水だし、同じ手間がかかるので回数が減る。

「湯屋の湯は帰る前に洗濯に使えるし、ほんとお得ですよねぇ」

 身綺麗になると、子供たちは夫や寝かしつけ担当の者が先に連れ帰り、寝かせる。身体があったまっているから、寝つきも良いらしい。
 湯屋に残った婦人方は、残り湯でそのまま家の洗濯物を済ます。そこまでが湯屋の料金に含まれているから、当然利用する。湯屋に来る時ついでに、家中の洗濯物を持って来るのだ。

 今年はそんな感じに過ごしてもらうつもりだが、来年以降はどうだろうなぁと、思案していたりする。
 村がもっと大きくなれば、湯屋を数時間で切り上げるのは無理だし、洗濯するにしても、村全体で使うには、湯の量が足りないだろう。
 まぁ、それは来年以降の問題だ。今は今年の越冬だけに集中しよう。

「で、どうだ?    だいたい纏まった?」
「ええ。やはり、玄武岩の取れる区画。ここに隠れ家を作るのが一番無難かと。やはり避難場所は必要でしょうから。
 採掘場の現場管理用の小屋だと言っておけば良いですし、いざとなれば森の中に逃げられます。
 あとはセイバーン側の森を切り開いて、ここに家屋の増築でしょうかね」
「すまないな。まさか獣人が普通に村の中で生活しているとは思わなかったから」
「いえ、我々もそれを隠してましたから……」
「まぁ怪我の功名ってやつじゃないですか?」

 エルランドと俺がお詫び大会を始める前に、マルがさっと結論を入れてくる。

「吠狼衆の分かりやすい獣人たちを拠点この村に住まわせるのはまだ難しいですし、山城だって隠れ住んでるわけで、あまり良い状況じゃないですもんねぇ。
 獣人をそのまま受け入れている村なら、吠狼衆の隠れ場所にももってこいですよ」

 越冬時期、ここにとどまることとなったエルランドだが、丁度良いので冬の間だけ、臨時の文官として雇うことになった。
 と、いうのも。ある一つも大きな問題を、解決しなければならないからだ。
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