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社交界 11
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部屋から出れない……。
衝動を抑え込み、なんとか正常な思考を取り戻したのだけど、そうすると恥ずかしさといたたまれなさ、そして恐怖で部屋を出るに出れない状況に陥った。
人様の官邸内で、まさかサヤに欲情するとか……それをもろサヤにぶつけるとか、俺はなんてことを……もう婚姻は取りやめにしたいと言われかねない失態だよ⁉︎
多分それをして拒まれたであろうカナくんという存在を知っていたのに、同じ轍を踏まないよう気をつけることもできないって、俺はどれだけ馬鹿なんだ……!
サヤが俺を怖がるようになってたらどうしよう……いや、ならないはずがない。あんなことしたのに……許されるはずがない、もう敵認定だ!
そう考えると恐ろしくて寝台からすら出られなかった。
結果を知りたくない……サヤを失うなんて耐えられやしないのに、俺の馬鹿!
謝って済む問題かな……だけど謝らないのは論外だよな……でも顔を見てまたムラってきたらどうすれば⁉︎
どうやって許してもらおうかと必死で頭を悩ませていたら、 コンコンと寝室の扉が叩かれて、飛び上がった。
「あの……レイシール様」
「はっ、あ、あのっ、何⁉︎」
何、じゃ、ないだろっ⁉︎
思いがえない声が……サヤの声が聞こえてきたから、慌てて飛び上がった。
開けても良いですか? と言うから、ちょっと待ってと必死で押しとどめ、自分におかしな場所がないかを確認する。
少々髪は乱れたかもしれないけれど、肉体的な部分は……うん。大丈夫、サヤを見て大丈夫だと確信が持てない部分がなんとも際どいけど、一瞬なら全然……必死で無心になれ、心よ凪げと言い聞かせてどうぞと言うと、ひょこりとサヤが、顔を覗かせて……。
「あ、あの……ハインさんが、そろそろ起きてくださいって……」
「う、うん。もう、起きるから……今何時頃?」
「昼を、回ってます。昼食を早く召し上がってくださいと、怒ってらっしゃいます」
「分かった……」
扉から入ってこようとはしない。けれど、表情に怯えは無いように思う……。どちらかというと、戸惑い?
少し視線を彷徨わせてから、では……と、言ったサヤを、咄嗟に呼び止めてしまってから、何を言うとも決めていなかったことに、余計混乱することとなった。
「あっ、あの……さっきは本当、ごめんっ! すまなかった‼︎ サヤを、傷付けようとか、そういうつもりは……っ」
「い、良いです。分かってますっ。…………そ、その……もう、聞きましたから……大丈夫です」
………………⁉︎
……………………誰に⁉︎ 何を⁉︎
唖然としてそれ以上を言えず、ただ固まっていると、じゃあ、準備をして待っていますからと、サヤが部屋を後にする。
頬が上気していたなとか、だけどさほど嫌そうにも見えなかったなとか、でも誰が何を吹き込んだ⁉︎ とか、頭を混乱させていたら、またもや訪いの音。
「若様。宜しいですか?」
……若様。
それ、俺のこと?
初めて聞く呼び方に、半ば呆けていたら、声の主は女中頭であった様子。部屋に入ってくるなりずんずんと大股で歩いてきて、目の前でピシリと姿勢を正し、俺を睨め付けるものだから震え上がった。
なんとなくそれで、この人だと悟る。
サヤに何か言ったの、この人だ……。
「若様……婚約してらっしゃるのに、サヤさんにその関係の何たるかを説明していらっしゃらないというのは、どういうことでしょう……」
「え……な、なんたる……か?」
一通りは説明、してますけど……?
「ええそうですね。表面的な部分は全て伝えてらっしゃいました。
ですが。
そんな杓子定規な内容……今の時代にどこの誰が行なっているとおっしゃるんです?
法的なことを守ろうとするのは良いのです。それだけサヤさんを大切に思ってらっしゃるんでしょうし。
ですけど、もっとこちらの国の現状を詳しく伝えておくべきでしょう?
それから、貴方様が、どういった状態であるかも」
「っ、違う。あれはつい……! そんなつもりじゃなくて、ちゃんと三年、俺は……っ!」
俺がサヤに何をしようとしたのか、この人はサヤから聞き出してる……!
それが分かって蒼白になった。
さして面識も無いこの人に、それを相談するほどに、サヤを追い詰めてしまったのだと理解した。
彼女には、それくらい恐ろしい経験だったのだ。俺のしたことは……っ!
「すまんっ、もう絶対に、あんなことは……。もう、触れない……怖がらせたいわけじゃなく、傷つけようなんて毛頭……っ!」
離れよう。サヤと距離を置くべきだ。三年耐えると言った口で、彼女をもう少して汚してしまうところだった。
これ以上はダメだ。サヤを怖がらせてしまえば、失ってしまう、そんなのは嫌だ!
必死でそう言って身を乗り出したら、パン! と、目の前で手が打ち鳴らされた。
「できないことをやれなんて、言ってやしませんし、それは逆効果ではございません? サヤさんも周りも、余計な誤解をしてしまいます。
そうではなくて……本来ならば、サヤさんと貴方はどういった状態が許されており、若様が何を我慢して、今の状況か。その部分の説明でございます。
本来なら、旦那様がサヤさんを庇護に置き、今すぐサヤさんを妻に娶ることができるのですって部分です!
世間では普通、そちらの手段が選ばれますし、庇護される女性側のことなんて考慮しやしません。
身分差があれば尚更……女性の意思すら尊重されない場合が多々あります。
でも若様は、サヤさんを縛ることは、少しだってしたくない。
サヤさんの年齢と、気持ちが伴うまで……彼女の意思で行動の選択ができるようになるまで、待とうというお考えなのですね? ここまで間違っていませんか⁉︎」
「は、はいっ!」
まくしたてられて咄嗟に首肯する。
「まぁでも、だからって欲求はございますわよね……。
今回は、その部分が少し暴走してしまったと、そういうことですね⁉︎」
「お、おっしゃる通り……です…………あぁぁ」
「……まぁよく頑張っていらっしゃると思いますけれど……うちの息子らなんて……もっと本能に忠実ですよ」
いや、だって女中頭の息子は貴族じゃないし。
十五やそこらで嫁を取り、家庭を築く彼らだからそれが許されるんであってだね……。
尚更自分の不甲斐なさと、自分のしでかしたことへの嫌悪感で顔が上げられない。
そんな俺に、女中頭は……。
「サヤさん、待つとは言われたけれど、理由も状況も、何も分からないままで、法的な部分は説明を受けたけれど、それも途中で話を中断してしまったって……そうおっしゃってましたわ。
若様は待つとおっしゃいましたけど、でも契りを交わして耳飾を得ると聞いたから、貴族の方と婚約した以上、そういうことをするのだろうと思っていたって。
だけど自分がそれをつい拒んでしまうから、まだできていないって……。
そのうち愛想を尽かされてしまうのじゃないか、受け入れるべきことを拒んで婚約なんて許されるのかって。
…………まぁ、若様の周りは若い人……しかも男性が多いですし、未婚者ばかりですものね……貴族のご婦人との交流は無かったようですし……その辺のことに触れられる人、いらっしゃいませんね……」
お、おっしゃる通りです……。
ていうか、下手に話させると危険な人物の方が多い……マルとかハインとか、ジェイドにしたって多分、遠慮なしに言葉も選ばず結構なことを言いそうだ。
それもあって絶対にサヤの前でその手の話題に触れるなと厳命したし、サヤには俺からの情報以外が、入らないようになっているのだ。
そういえば……。サヤを娶りたいという話も、前にしたのだった。
その時は……サヤが妻になる気は無いときっぱり拒否してきたし、契りを交わして耳飾を得ることは説明したけれど、俺にそのつもりは無いということを、はっきりとは言っていなかったかな。
その後も、なんとなくもうその前提は伝えてあるつもりで……サヤがちゃんと理解しているかどうかも、確認してなかった……。
そう、か……そういうことすら俺は、ちゃんとしてなかったんだ……。
呆然とする俺に、女中頭は溜息を吐いて、すっと居住まいを正す。
ご命令があればどうぞといったその姿勢に、彼女が俺の意を汲んでくれる気でいるのだと理解した。
確かに俺の周りは、若手の男ばかりだ。既婚者もいないし……サヤへのそういった配慮ができていない。今からだって、きっと色々、抜け落ちてしまうと思う。
どうしたって、俺たちに足りない部分……それは、彼女らセイバーンに仕える者らを、頼るべきなのだろう……。頼って良いのだと、彼女は、態度で示してくれているのだ。
「…………あの、申し訳ないのだけど……。
俺はサヤの成人まで、婚姻を進めるつもりは無くて、契りを交わすつもりも無くて、そのために色々、準備もした。
だからその……サヤがそういうことを、焦って受け入れる必要は無いし、俺もそれを承知しているのだと、言っておいて、もらえるだろうか……。
これは俺の気持ちだけの話ではなく、ちゃんと父上も承知している。領主の承認を得ていることだから。
もし、周りでそのようなことをサヤに急いたり、言っている者がいた場合も、それを伝えてくれると、有難い。
それで……俺もたまにその……こういう……っ。いや、今後はこんなこと、無いように、する。けど、万が一……っ。
万が一が、もしあったって、それは俺の本意では無い!
殴ってでも止めてくれ。ほんと、それは望んで無い。絶対に、望まないから……!」
サヤとずっと一緒にいたい。何十年だって、共に歩みたい。
そのための三年だ。
改めて自分にそう言い聞かす。
「承りましたわ。
若様から、サヤさんへの強要は本意では無い。
周辺の野次馬も……立場的に、若様よりもサヤさんを槍玉に挙げるでしょうし、見かけた場合は私が盾となりましょう。
若様……今後こういうことが絡む場合は、まず私めにご相談いただけますと、有難いですわ。
こちらでも準備を必要とする場合が多々ありますし」
「……仕事を増やしてしまって、申し訳ない……」
「いいえ! むしろ遠慮は控えていただきたいですわ!
もし、人数的な問題等で、無理などありましたら、私も遠慮なく、ご相談させていただきますから」
そう言った女中頭に、ありがとうと頭を下げた。
本当に、有難い。サヤの味方になってくれると、彼女はそう言ってくれたのだ……。
身元の定かでないサヤだ。古参に睨まれているし、それが女中頭自身の不利になるかもしれないのに……。
その考えが透けて見えたというように、女中頭は肩を竦めた。
そうして婉然と微笑み……。
「今更ですわ」
と、力強いお言葉。
…………そうだった。この人、古参に手拭いを投げつけた人だった……。女傑だ。
衝動を抑え込み、なんとか正常な思考を取り戻したのだけど、そうすると恥ずかしさといたたまれなさ、そして恐怖で部屋を出るに出れない状況に陥った。
人様の官邸内で、まさかサヤに欲情するとか……それをもろサヤにぶつけるとか、俺はなんてことを……もう婚姻は取りやめにしたいと言われかねない失態だよ⁉︎
多分それをして拒まれたであろうカナくんという存在を知っていたのに、同じ轍を踏まないよう気をつけることもできないって、俺はどれだけ馬鹿なんだ……!
サヤが俺を怖がるようになってたらどうしよう……いや、ならないはずがない。あんなことしたのに……許されるはずがない、もう敵認定だ!
そう考えると恐ろしくて寝台からすら出られなかった。
結果を知りたくない……サヤを失うなんて耐えられやしないのに、俺の馬鹿!
謝って済む問題かな……だけど謝らないのは論外だよな……でも顔を見てまたムラってきたらどうすれば⁉︎
どうやって許してもらおうかと必死で頭を悩ませていたら、 コンコンと寝室の扉が叩かれて、飛び上がった。
「あの……レイシール様」
「はっ、あ、あのっ、何⁉︎」
何、じゃ、ないだろっ⁉︎
思いがえない声が……サヤの声が聞こえてきたから、慌てて飛び上がった。
開けても良いですか? と言うから、ちょっと待ってと必死で押しとどめ、自分におかしな場所がないかを確認する。
少々髪は乱れたかもしれないけれど、肉体的な部分は……うん。大丈夫、サヤを見て大丈夫だと確信が持てない部分がなんとも際どいけど、一瞬なら全然……必死で無心になれ、心よ凪げと言い聞かせてどうぞと言うと、ひょこりとサヤが、顔を覗かせて……。
「あ、あの……ハインさんが、そろそろ起きてくださいって……」
「う、うん。もう、起きるから……今何時頃?」
「昼を、回ってます。昼食を早く召し上がってくださいと、怒ってらっしゃいます」
「分かった……」
扉から入ってこようとはしない。けれど、表情に怯えは無いように思う……。どちらかというと、戸惑い?
少し視線を彷徨わせてから、では……と、言ったサヤを、咄嗟に呼び止めてしまってから、何を言うとも決めていなかったことに、余計混乱することとなった。
「あっ、あの……さっきは本当、ごめんっ! すまなかった‼︎ サヤを、傷付けようとか、そういうつもりは……っ」
「い、良いです。分かってますっ。…………そ、その……もう、聞きましたから……大丈夫です」
………………⁉︎
……………………誰に⁉︎ 何を⁉︎
唖然としてそれ以上を言えず、ただ固まっていると、じゃあ、準備をして待っていますからと、サヤが部屋を後にする。
頬が上気していたなとか、だけどさほど嫌そうにも見えなかったなとか、でも誰が何を吹き込んだ⁉︎ とか、頭を混乱させていたら、またもや訪いの音。
「若様。宜しいですか?」
……若様。
それ、俺のこと?
初めて聞く呼び方に、半ば呆けていたら、声の主は女中頭であった様子。部屋に入ってくるなりずんずんと大股で歩いてきて、目の前でピシリと姿勢を正し、俺を睨め付けるものだから震え上がった。
なんとなくそれで、この人だと悟る。
サヤに何か言ったの、この人だ……。
「若様……婚約してらっしゃるのに、サヤさんにその関係の何たるかを説明していらっしゃらないというのは、どういうことでしょう……」
「え……な、なんたる……か?」
一通りは説明、してますけど……?
「ええそうですね。表面的な部分は全て伝えてらっしゃいました。
ですが。
そんな杓子定規な内容……今の時代にどこの誰が行なっているとおっしゃるんです?
法的なことを守ろうとするのは良いのです。それだけサヤさんを大切に思ってらっしゃるんでしょうし。
ですけど、もっとこちらの国の現状を詳しく伝えておくべきでしょう?
それから、貴方様が、どういった状態であるかも」
「っ、違う。あれはつい……! そんなつもりじゃなくて、ちゃんと三年、俺は……っ!」
俺がサヤに何をしようとしたのか、この人はサヤから聞き出してる……!
それが分かって蒼白になった。
さして面識も無いこの人に、それを相談するほどに、サヤを追い詰めてしまったのだと理解した。
彼女には、それくらい恐ろしい経験だったのだ。俺のしたことは……っ!
「すまんっ、もう絶対に、あんなことは……。もう、触れない……怖がらせたいわけじゃなく、傷つけようなんて毛頭……っ!」
離れよう。サヤと距離を置くべきだ。三年耐えると言った口で、彼女をもう少して汚してしまうところだった。
これ以上はダメだ。サヤを怖がらせてしまえば、失ってしまう、そんなのは嫌だ!
必死でそう言って身を乗り出したら、パン! と、目の前で手が打ち鳴らされた。
「できないことをやれなんて、言ってやしませんし、それは逆効果ではございません? サヤさんも周りも、余計な誤解をしてしまいます。
そうではなくて……本来ならば、サヤさんと貴方はどういった状態が許されており、若様が何を我慢して、今の状況か。その部分の説明でございます。
本来なら、旦那様がサヤさんを庇護に置き、今すぐサヤさんを妻に娶ることができるのですって部分です!
世間では普通、そちらの手段が選ばれますし、庇護される女性側のことなんて考慮しやしません。
身分差があれば尚更……女性の意思すら尊重されない場合が多々あります。
でも若様は、サヤさんを縛ることは、少しだってしたくない。
サヤさんの年齢と、気持ちが伴うまで……彼女の意思で行動の選択ができるようになるまで、待とうというお考えなのですね? ここまで間違っていませんか⁉︎」
「は、はいっ!」
まくしたてられて咄嗟に首肯する。
「まぁでも、だからって欲求はございますわよね……。
今回は、その部分が少し暴走してしまったと、そういうことですね⁉︎」
「お、おっしゃる通り……です…………あぁぁ」
「……まぁよく頑張っていらっしゃると思いますけれど……うちの息子らなんて……もっと本能に忠実ですよ」
いや、だって女中頭の息子は貴族じゃないし。
十五やそこらで嫁を取り、家庭を築く彼らだからそれが許されるんであってだね……。
尚更自分の不甲斐なさと、自分のしでかしたことへの嫌悪感で顔が上げられない。
そんな俺に、女中頭は……。
「サヤさん、待つとは言われたけれど、理由も状況も、何も分からないままで、法的な部分は説明を受けたけれど、それも途中で話を中断してしまったって……そうおっしゃってましたわ。
若様は待つとおっしゃいましたけど、でも契りを交わして耳飾を得ると聞いたから、貴族の方と婚約した以上、そういうことをするのだろうと思っていたって。
だけど自分がそれをつい拒んでしまうから、まだできていないって……。
そのうち愛想を尽かされてしまうのじゃないか、受け入れるべきことを拒んで婚約なんて許されるのかって。
…………まぁ、若様の周りは若い人……しかも男性が多いですし、未婚者ばかりですものね……貴族のご婦人との交流は無かったようですし……その辺のことに触れられる人、いらっしゃいませんね……」
お、おっしゃる通りです……。
ていうか、下手に話させると危険な人物の方が多い……マルとかハインとか、ジェイドにしたって多分、遠慮なしに言葉も選ばず結構なことを言いそうだ。
それもあって絶対にサヤの前でその手の話題に触れるなと厳命したし、サヤには俺からの情報以外が、入らないようになっているのだ。
そういえば……。サヤを娶りたいという話も、前にしたのだった。
その時は……サヤが妻になる気は無いときっぱり拒否してきたし、契りを交わして耳飾を得ることは説明したけれど、俺にそのつもりは無いということを、はっきりとは言っていなかったかな。
その後も、なんとなくもうその前提は伝えてあるつもりで……サヤがちゃんと理解しているかどうかも、確認してなかった……。
そう、か……そういうことすら俺は、ちゃんとしてなかったんだ……。
呆然とする俺に、女中頭は溜息を吐いて、すっと居住まいを正す。
ご命令があればどうぞといったその姿勢に、彼女が俺の意を汲んでくれる気でいるのだと理解した。
確かに俺の周りは、若手の男ばかりだ。既婚者もいないし……サヤへのそういった配慮ができていない。今からだって、きっと色々、抜け落ちてしまうと思う。
どうしたって、俺たちに足りない部分……それは、彼女らセイバーンに仕える者らを、頼るべきなのだろう……。頼って良いのだと、彼女は、態度で示してくれているのだ。
「…………あの、申し訳ないのだけど……。
俺はサヤの成人まで、婚姻を進めるつもりは無くて、契りを交わすつもりも無くて、そのために色々、準備もした。
だからその……サヤがそういうことを、焦って受け入れる必要は無いし、俺もそれを承知しているのだと、言っておいて、もらえるだろうか……。
これは俺の気持ちだけの話ではなく、ちゃんと父上も承知している。領主の承認を得ていることだから。
もし、周りでそのようなことをサヤに急いたり、言っている者がいた場合も、それを伝えてくれると、有難い。
それで……俺もたまにその……こういう……っ。いや、今後はこんなこと、無いように、する。けど、万が一……っ。
万が一が、もしあったって、それは俺の本意では無い!
殴ってでも止めてくれ。ほんと、それは望んで無い。絶対に、望まないから……!」
サヤとずっと一緒にいたい。何十年だって、共に歩みたい。
そのための三年だ。
改めて自分にそう言い聞かす。
「承りましたわ。
若様から、サヤさんへの強要は本意では無い。
周辺の野次馬も……立場的に、若様よりもサヤさんを槍玉に挙げるでしょうし、見かけた場合は私が盾となりましょう。
若様……今後こういうことが絡む場合は、まず私めにご相談いただけますと、有難いですわ。
こちらでも準備を必要とする場合が多々ありますし」
「……仕事を増やしてしまって、申し訳ない……」
「いいえ! むしろ遠慮は控えていただきたいですわ!
もし、人数的な問題等で、無理などありましたら、私も遠慮なく、ご相談させていただきますから」
そう言った女中頭に、ありがとうと頭を下げた。
本当に、有難い。サヤの味方になってくれると、彼女はそう言ってくれたのだ……。
身元の定かでないサヤだ。古参に睨まれているし、それが女中頭自身の不利になるかもしれないのに……。
その考えが透けて見えたというように、女中頭は肩を竦めた。
そうして婉然と微笑み……。
「今更ですわ」
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…………そうだった。この人、古参に手拭いを投げつけた人だった……。女傑だ。
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