異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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神殿 4

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 結局、アレクセイ殿同席の上で孤児院運営の許可を取り付けるに至った。
 交易路の資材を管理する拠点村に、孤児院を建設したい。けれど神殿は必要ないという内容だ。正直少々心配だったのだけど……。

「それは有難いことです。
 セイバーンは豊かであるとはいえ、孤児がいないわけではありませんでしたし、二軒の神殿のみで捌ききるのは困難でありました。
 私も各地域の状況は聞いておりますが、セイバーンの孤児管理は、優先度的には低いものの、問題に上がる中の一つであったのですよ。
 確かに、資材拠点の村に神殿を置くのは適切ではないでしょう……。神殿建設には時間が掛かりますから。
 貴族方の出入りが増える地であれば、孤児の管理は徹底した方が良い。無為に来世へと旅立つ事態は避けたいですからね」

 無為に来世へ旅立つ……貴族に不敬を働き、切り捨てられるのは罪の償いには足りない。……ということであるらしい。
 孤児の命が軽んじられるのは俺も納得いかないのだが、少し感覚が違う……という違和感は感じた。
 とはいえ、事前にルオード様より助言をいただいていたので、表情に出すことは控える。

「セイバーンの神殿から申し立ては無かったのですが……無理をしていただいていたのでしょうね。
 拠点村は、雑務には事欠かぬと思いますから、孤児らの罪の償いにもなりましょう。
 各神殿からも多少は引き取れると思いますので、状況を確認いたしましょう。とはいえ、孤児院の建設は、この許可を取り付けてからとなっておりましたので、数ヶ月先になります。
 しかし春よりセイバーンの河川敷造りは始まりますからね……。
 借家を利用した仮の運営を始めても良いのであれば、戴冠式後すぐに始動することが可能ですが……」
「それは構いませんよ。ただ……。セイバーンには神殿が、少なすぎますね。
 交易路計画が進み、周辺が栄えたならば、近辺の街はもっと人が増えましょうし……。
 拠点村に神殿を設けよとは申しませんが……神殿は、必要になると思います」

 とまぁ……そんな感じで笑顔を振りまかれ、状況的に頑なに拒み続けるのも怪しまれそうであったこともあり、妥協できるギリギリを探った結果……。

「……正直、レイ殿には驚かされた……。
 貴殿が貴族を辞めると言った時は、どう生活するつもりだと思っていたのだが……商人でもやっていけるな」

 結局数時間に及ぶ話し合いとなり、夕食も取れなかった我々は空きっ腹を抱えての帰路となった。
 とはいえ、消耗しているのは俺一人……。やっぱり表情を読みながらの攻防は疲れる……。

「だけど、神殿は作らなきゃいけなくなりました……」
「いや、だがあれが妥当であったと思うぞ。
 拠点村には孤児院だけを設ける。という部分は通したのだし、神殿とて礼拝堂のみで済んだ」
「……今は、ですけどね……」

 纏めるとこうだ。
 拠点村には孤児院のみ建設することを許可するが、将来的には畳まれる村。その後の孤児の処遇に問題が残るため、近場に神殿は必ず必要。
 後々拠点村が閉村したならば、孤児はその神殿に移すこととする。
 交易路計画の内容的に、アギーへと繋がる交易路周辺は発展が予想されるため、交易路が開通したら必ずメバックに礼拝堂を建設する。寄付を集め、将来的にここを神殿へと増築していく。拠点村の孤児を移す場もこことする。
 神殿建設が終了するまで、セイバーンは神殿に交易路からの収益より一分を毎年寄付する。

 結局交渉の殆どはアレクセイ殿が行なった。
 と、いうのも、あの司祭は簡単に俺に丸め込まれすぎたのだ。
 将来の司教の目を気にしすぎ、目先の利益に流される。状況を正しく見極める能力が無いと判断したアレクセイ殿は、途中から交渉役を司祭と交代した。
 そして馬車で一日の距離であるバンスに神殿があるから近場には必要無いと主張する俺に対し、では拠点村ではなくメバックにと切り込んできて、交易路計画への出費で神殿建設の出費までは確約できないとする俺に、ならばまずは礼拝堂のみ。と、提案してきた。
 彼は手強かった……。神殿の方と交渉ごとになったのは初めてだけれど、貴族出身の方によくある浮世離れした感じは全く無く、世事にも精通していた。
 アレクセイ殿……メバックへの神殿建設は多分……はじめから念頭にあったのだろうな。
 着任してから話をつけるつもりであったのかもしれない。それを、ここで絡めてきたのだと思う。
 でなければ、メバックの位置関係や経済状況まで把握していたのはおかしい。セイバーンとしては大きめの街だけれど、国からすれば辺鄙な領地の多少栄えている街でしかないのだから。

 こうしてあちらに取られた分を並べると結構なことになってしまっているのだが、こちらも勝ち取ったものはそれなりにある。

 まずは、拠点村には孤児院のみを建設すること。
 礼拝堂建設は交易路が開通した後、翌年から。寄付も当然翌年からだ。
 これは、交易路利用者は証文を購入する必要があり、この証文の収入が交易路の維持管理に利用されるとともに、通過領地の利益となるためだ。
 そして……拠点村が将来、きちんと村として存続することが決定したとしても、この村に神殿を作ることはあり得ない。
 馬で二時間程度の距離にあるメバックに神殿を建設する約束があるからだ。
 俺が領主になることが決まったことで、俺が最も利用していたメバックは、俺との縁が最も強い街となった。これは街にとっても大きい意味を持ち、更には国の事業を勝ち取っている実績もあるため、俺の発言力は今後更に上がることになるだろう。
 と、なれば、例えこの街に神殿を設けることとなったとしても、俺の意思はある程度尊重される。
 また、俺には吠狼という手駒があり、神殿の監視は難しくとも、神殿からの視察を事前察知することは可能と考えた。
 あと、神官を孤児院に置いてほしいという話もなんとか阻止することに成功している。
 孤児らは国の事業で労働力として扱う。政教分離のフェルドナレンにおいて、そこに宗教関係者が立ち入ることは、あらぬ誤解を招きかねない。と、主張させてもらった。少々無理があったのだが、言い分としては間違っていないし、あちらとしても神官を確保し、給与を用意する手間が省ける。礼拝堂も無しでは神官の生活や仕事全般を賄う寄付は、期待できないからだ。

 内容は全て契約書として纏め、それを三枚複写した。内容においても一文字の間違いもないことをお互いに確認済みだ。一部は神殿。一部はセイバーン。そして最後の一部は国へと提出される。ただ、領主は父上であり、セイバーンの領主印は父上が持っている。そのため、内容を父上に確認していただき、その上で領主印を頂くこととなっていた。
 よって、明日の朝一にアレクセイ殿がアギー領に来訪される。そこでアギー公爵様の立会いのもと、契約書に紋章印を押す手はずとなっていた。
 これに関しては、アギーのご息女様であるリヴィ様が確約してくださってとても助かった。

 驚かれたのは、俺がこの契約書の書き方を理解していたことだ。
 流石に時間が時間なので、今から代筆屋を呼ぶなり、契約書を書ける者を呼ぶなりするのは無理だから、書面作りは明日にと言われたのだが、俺が書けますよと伝えて実際行うと、唖然とされてしまった。
 日にちを挟んで内容を吟味し直す時間は取りたくなかったから、書き方を覚えてて良かったなと本当に思った。
 ……いや、仕事してれば毎日のように目にする書類だし……三年も続ければ覚える。

 だが……。
 そんなことよりも現在、大きな問題があった。
 そう、この馬車の中にだ。

「お腹空いたああぁぁ」
「もう直ぐじゃない。我慢なさい」
「もうみんな食べちゃってるわよ!    ケイト兄様あたりがここぞとばかりに私の分も、リヴィ姉様の分も、食べちゃってるから!」
「……じゃあ、お夜食をお願いしましょう」
「そんなんじゃお腹膨れないイイィィ!」

 クオンティーヌ様のご機嫌がすごぶる悪い……。
 交渉が長引きすぎてしまったせいだ。
 アギーには暗黙の了解があるらしく、夕食の時間を厳守しなかった者は食べる権利を失うらしい……。
 人数が多すぎるアギー家では、皆が揃うのを待つのは困難を極める。よってそのようになっているとのこと。
 食べ盛りの年齢である彼女は、耳年増であっても色気より食い気である様子だ。健全で良いことだと思う。

「貴方のせいだからね!    こんなに長くなるなら先に言っときなさいよ⁉︎」
「申し訳ありませんでした……いや、俺もこんなに長引くとは思ってなくてですね……」
「言い訳なんて見苦しいわ!」
「はっはっは、見事なほどに八つ当たりだな」

 ディート殿は仕事柄、食事の時間など定まっていないようなもので、こういったことは慣れているとのこと。

「それに、前もってレイ殿らに夕食はお願いしておいたからな!」
「貴方だけなんてずるいわ!」
「セイバーンの美味なる食事にありつける機会は逃さぬと誓っているのだ、悪く思うな!」

 なんの誓いですか……。
 とはいえ多分……ハインは先に戻っているだろうし、俺たちの帰りが遅いならば状況は察していることだろう。
 アギーのご令嬢をお二人も伴っていることも、当然承知しているわけだし……。

「あの……よろしければ、セイバーンの晩餐にご招待しても差し支えございませんか?    長らく時間が掛かってしまったお詫びに」

 ハインは優秀な従者だ。
 なので問題無いだろう。万が一品数が足りなくともサヤがいるし、一品くらいは材料さえあれば、半時間と掛からず作ってしまうに違いない。
 視線でちらりと確認してみたが、大丈夫ですよと微笑んでくれた。
 うちの従者は、可愛いうえに頼れる。本当に優秀だ。

 というわけで、お二人を招待することにした。
 朝方干し野菜も余ってるって言ってたし、大丈夫だろ。うん……。
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