異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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「では、前置きが長くなってしまったが、本題に入ろう。
 プローホルの下町を捜索させてほしいとあったが、わざわざ他領の根城を捜索すると言う、その理由を教えてもらえるかね」
「はい。先日、プローホルに支店を持ちますヤロヴィ宝石商。支店店主のブリッジスという男が、傭兵団を伴い拠点村に来訪したのですが、その傭兵団が野盗の仮姿であったのです。
 夜半に村を襲撃されるという事態になりまして、なんとか退けることはできたのですが、その頭目が、どうもアギーを探っていた影なのではないかという、疑いが出てまいりました」
「ほう……」
「生きて捉えることができればもう少し、情報を得られたかもしれないのですが……今はまだ疑いの段階。少しでも情報を得たく、連絡させて頂いたのです」

 俺の言葉に、アギー公爵様はほんの少しだけ逡巡した。

「何故、アギーを探っていた影だと思ったのだね?」
「はい。その野盗の頭目が、常に顔を隠しており、配下にすら素顔を晒しておらず、そうするのは表の顔を持つ者なのだと考えました。
 マルクスと検討した結果、おそらく商人の中にも、姿を消した者がいるのではないかと。
 それなりに信頼を得ている地位にいたと思われます」
「随分と具体的だねぇ」
「ヤロヴィは老舗の大店です。いきなり野盗まがいの傭兵団を、護衛役として雇いはしないでしょうから、仲介者がいたはずです。
 また、アギー公爵家を探るのだとしたら、野盗では役に立ちませんから」

 外壁の中に立ち入ることも叶わない地位では、探りたくても探れない。
 おそらく、外壁の外にいる時の顔が、窃盗団の頭目で、外壁の中では中堅どころ辺りの商人として振る舞っていたのではないかと考えている。

「プローホルの市街を我々が捜索させていただくというわけにはいかないでしょうから、外壁外ならばお許しいただけぬものかと思いまして。
 ですから……」
「市街の捜索は此方にというわけか」
「…………我々に必要でありそうな情報があれば、お聞かせ願えますと、有難いのですが」

 わざわざ二つ、もしくはそれ以上の仮姿を持っていたとすれば、その目的は確実に、長期的な潜伏だ。アギーの都でそこまでする影は、はたして……。
 だがそこを俺たちが追求するのはまずいだろうし、アギー公爵様も関わることを望んではいないだろう。
 だから今回は、ある程度の手土産として情報を渡すことで、下町の捜索を堂々と行えるよう、取り計らってもらう。そう考えていた。

「影……。
 はてさて、どの領地であろうなぁ。当然ヴァーリンも候補となるわけだが……」
「……クロードも家族を危険に晒したのです。末弟の娘をあれほどまで慈しむ一族ですよ、ヴァーリンではないと思います。
 ……というか、わざとおっしゃっていませんか?」

 俺への当て付けですよね……。
 そう言い頬を膨らませると、笑ってそっぽを向くアギー公爵様。
 段々、今まで通りの、どこかとぼけた感じに戻ってくださって、ホッとする。

 ……どこの影……か。
 俺たちは、この影の出所をジェスルがもしくは……神殿と、考えていた。

 公爵四家。そしてジェスルは、影を持つ。これは公然の秘密だ。
 けれどこれは、別に地位が高い方々しか影を使いこなせないから……ということではない。影という特殊な組織を維持するのに、莫大な資金と秘密を守れる環境を、必要とするからだ。
 また、その技術の維持にも色々と手間が掛かる。
 人目に触れないことを前提とする影は当然、訓練も組織も、世間からは隠しておかなければならない。
 だから不便な山中であったり、一般の立ち入りを禁止された場所に拠点を持つといわれている。その険しい立地で組織を維持することに、金が必要なのだ。

 だから、公爵家のような、地位も権力も持つ一族でなければ、影は維持できない。
 元公爵家であるジェスルも、その条件が揃っていると言える。
 なにせスヴェトランと直接接しているあの地は、常に脅威に晒されている。それゆえ防衛のためにと、国の予算を多く割り振られているのだ。
 で。
 そういった条件を兼ね備えている組織と考えたならば、神殿が影を持っている可能性も、高いという結論に至るのだ。
 領地に関係無く、国全体に勢力を広げている神殿。
 信心が薄れてきているとはいえ、それでも毎年膨大な寄進を受け取っているだろう。
 孤児らを労働力として使い潰すことができ、しがらみのない、能力ある孤児を選別し、兇手に仕立て上げることも可能だろう。
 とくに信心深いと言われる北の地には、荒野が多い。影を潜伏させるにはうってつけだ。

 だが……。
 これを、アギー公爵様に進言するわけにもいかないだろう。
 あくまで推測であるし、俺たち自身も例外的に、影を持っている身だ。腹を探られては困る……。

「では、下町の根城。そこの捜索で得た情報も、我々に提供してもらえるのかな?」
「アギーに必要な情報は当然お渡しします」
「そうか。では許そう」

 そう言いつつアギー公爵様は……値踏みする視線を、俺に向けた。
 楽しそうに、目を眇め口元に笑みを張り付かせているけれど。

「何故……其方らがアギーを差し置いて、影に狙われることとなったのか。
 興味深いがねぇ……」

 と、探るようにそう言われ、グッと奥歯を噛み締める。

「…………はい。私たちも、それを調べたく思い、捜索をお願いしている次第です」

 俺の言葉を、アギー公爵様がどこまで本気で受け取ってくれたか……。

「だが、陛下の膝下でそのような事態を引き起こすとは由々しきことよな」
「申し訳ございません」
「いやいや、拠点村がそれだけ注目されているということだしねぇ。
 今はアギー  に流れてくることの多い流民だが、セイバーンに金の匂いがするとなれば、今後はそちらに流れることも考えられる」
「はい。それはそれで構わないと考えております。
 セイバーンは七十余年ほど前に流行りました病により、多く人手を失っておりますから、土地としてならば、受け入れは可能なので」

 そう言うと、アギー公爵様は困ったように笑った。

「……其方は本当に、情に厚い。
 しかし、流民というのは難しい。なにせ、素性が知れぬ者らゆえな。
 それこそどこぞの影のように、いつどこで紛れ込まれるともしれぬのだ。特に北からというのが、難題なのだよ」

 そう言いクッと口元を引き上げ笑みを作るアギー公爵様。

「守りをもう少し固めなさい。アギーのプローホルには外壁があるが、それでも足りぬのだ。
 私からも陛下に進言しておくけれどね」
「……ありがとうございます」

 あの地は、見た目よりも軟弱ではない。
 拠点村には水路があり、吠狼がいる。村人との交流も進み、絆は育っている。

 けれど、守り……か。それは確かにな。実際に衛兵や騎士、武官なれる者に、人材不足が甚だしい現状なのだ。
 これを打開する方法を、早急に整える必要があるのは、俺たち自身が実感している……。
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