異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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 アギー公爵様と話がついた。
 そのまま執務室を退き、クロードを探し歩いていたら、先程クロードを追って部屋を出たアギー公爵様の従者に出くわし、中庭の渡廊下にいらっしゃいますと教えられた。
 急いでそちらに向かうと、一人だと思っていたクロードは、誰か別の人と話し込んでいる最中だったよう。
 けれど、俺に気付くと慌てて話を切り上げ、こちらに走り寄ってきた。

「レイシール様!」
「クロード、さっきはごめんな……」
「いえ、そうではなくっ、呼んでくだされば馳せ参じますと、申し上げたではございませんか!」
「大丈夫。そんなに一人で彷徨いてないから」
「そういうことではございません!」

 貴方はもう責任あるお立場なのですから! と、過保護すぎる反応をされ首を傾げた。
 クロードは、こういう神経質な感じではなかったと思ったのに……。

「何かあったのか?」
「何もございませんが、レイシール様……ここは王宮なのです。
 成人前を侮る悪習が根強い場所なのですよ。セイバーンと同じに考えてはいけません。
 戴冠式の時とて、襲撃事件あのようなことがございましたのに……」
「そういえばそうだったな。すまない、失念していた」

 そう言うと、ホッと息を吐く。心配させてしまったのだな。申し訳ないことをした。
 けれどそんなことよりも、未だ後方で待機している、クロードと共にあった人物が気になった。

「クロード、来客ではなかったの? あの方、まだ待っているようだけど……」
「いえ……確かに来客なのですが……私ではなく、貴方へなのです」
「陛下? それともオゼロの使者の方?」
「どちらでもございません。セイバーンに仕官したいとのことでして」
「…………え、なんで王都の方が?」

 意味が分からず首を傾げると、俺の困惑ぶりにクロードも苦笑した。
 いやだって、今しがた、成人前はあなどられるって言われたばかりだし、俺に仕官したいなんて言い出す人が、なんで出てくるの……? と、なるじゃないか。

 そうして聞いてみれば、その方は学舎の卒業生であり、お声が掛かり王都に残ったものの、成人前の処遇に精神を病みかねないほどに疲弊してしまったらしい。
 なかなか上手く立ち回れず、いったん築き損ねた人間関係は、その後も当然ついて回る。
 同じく成人前であった方々と励まし合っていたけれど成人しただけでころりと対応が変わる人もいたりと、更に人間関係に疑問が生じ、苦手意識ばかりが募ってしまったのだそう。

「一応知り合いではあります。交流の多い部署の方なのですよ。
 あそこは役割的に、特に保守的な方が多かったので……」
「そういうのもあるんだ……。
 いや、だけどうちは田舎だし、せっかく王都に仕官となったのに、お身内の方ががっかりしてしまうのじゃないかな」

 王都で出世した人が田舎のセイバーンって、左遷されたと思われるのじゃない?
 そう問い返したら、その方は慌てて、俺の袖に縋ってきた。

「もっ、元々物づくりが好きで! いくらだって眺めらいられるのです。学舎時代は、職人街に入り浸っておりました。
 今の職務も、職人と関われる部署ですから、必死で食らいついていたのです!
 で、ですが、どうにも身体がついてこず……、最近は胃が痛いやら、急に泣けてくるやらで……。正直王宮に出てくることも、苦しく……今日だって、貴方にお会いできるならばと決死の覚悟で参りましたが、庭で躊躇い、会議室に足を伸ばすこともできずにおりました……」

 本日は非番であったのに、わざわざ出向いてきたのだという。

「もう、帰郷するという方向で、実家とも話をしていたのです。なので今更、実家は何も、言わないでしょう……。
 戻ったところで、学舎まで出て、王宮に仕官しておきながら役に立たなかったと、笑われる先しかこざいませんし……。
 ならば最後の足掻きだと思い、貴方がまた王都に来られる会合までと、今日を待ちました。
 私は……秘匿権の無償開示、あれに大きな可能性を見たのです!
 あれはつまり、例えば私でも……拠点村に行けば、職人に関われると、いうことなのではございませんか⁉︎
 ブンカケンというのは、レイシール様の研究施設であり、職人の村なのだとクロード様にも伺いました。私にはそこが、理想郷と聞こえたのです!」

 涙目で必死に言い募られ、慌てて受け止めた。
 切羽詰まった瞳の色に、嘘は見受けられない……。今だって恐怖の中にいるのだろう。俺のことだって、本当は少々怖いと感じているようだ。
 どうしたものかと悩んでいると、クロードが「彼は文官ですよ」と、教えてくれた。

「ベイエル傘下となりますレミオール伯爵家の、エヴェラルド殿です。
 現領主殿の三子アウグスタ殿、その二子でしたね?」
「はい」

 ベイエル公爵家傘下……しかも伯爵家…………。

 アギー公爵様の顔がチラついた……。
 またアギーの血を娶れとか言われかねない。さっきの話で今、この展開は無いよな。うん、ない。
 だけど……だ。

 伯爵家の方であるということは、成人前を侮る風潮の強い王宮であっても、まだ待遇はさほど悪くなかったはず。
 にも関わらず、この方は……見るからにやつれており、食事が喉を通らない日々を送っているのだと伺わせた。
 服装は整えられているし、髪もきちんと撫でつけられている。身嗜みはきちんとしているのに、目の下のくまは酷く、唇はカサつき、指は筋張って細い……。

「……男爵家の成人前に仕えるのは良いんですか……」
「何一つ問題はごほざいません!」

 ベイエルの血に連なるクロードを見かけて、必死で縋ったのかな……。
 悪い人には見えないし、こんなに苦しんでいらっしゃるのに、俺の王都入りを待っていただなんて……。
 なにより今しがた、俺は、俺の下でなら……血が意味を成さない環境を作れるのではと、考えた。
 クロードを受け入れて、彼を切り捨てるというのは……な。どうせ、アギーの方も受け入れるのだし。

「分かりました……。とりあえずそうですね……現在バート商会の離れに間借りしておりまして。
 書簡を用意致しますから、それを持ってそこのマルクスを訪ねていただけますか。彼が文官の筆頭となります。
 マルクスは平民です。それでも貴方の同僚となる。場合によっては、上司となる場合もあります。
 そういった環境で貴方が構わないと言うならば、彼にその旨を伝えてください」
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