異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

文字の大きさ
994 / 1,121

少し前の話 7

しおりを挟む
 その日、思う額での取引が成立し、俺たちは意気揚々と集合場所に戻ることができた。
 とはいえ……意気揚々としていたのは子供たちだけ。俺は、帰り道の途中で力尽き、橇に乗せられた後の記憶が無い……。
 結局歩き切るだけの体力は無く、もっと地道な運動からするしかないと思い知らされ、集落に戻ったら戻ったで、心配していたサヤに涙ぐまれるわ、ジェイドにほら見ろ言ったろうがと散々小言を食らうわ、ユストにも許可してない遠出を怒られるわ……なんとも後味の悪い一日となった……。

 良い面もあった。
 それからちょくちょく、晴れの日の物々交換に声を掛けてもらえるようになったのだ。
 と、いうのも……どうやら獣人の子供らに気に入られたらしい。
 怖くない人だし、一緒に行くと沢山の食べ物が手に入る。と、学んだよう。
 ユストにまた、渋い顔をされたけれど……道中は橇で移動するという約束で許可を貰った。
 実際、あの日は想定していた倍量に近い物品を持ち帰っていたようで、運が良かったで済ませるには異様な戦利品であったのだそう。
 特に野菜は、獣人らにとって貴重な品だった。
 最近は小麦との交換を言われることが増えていたらしく、口下手な彼らはその理由も分からないまま、食べれないよりはと、小麦と交換して帰って来てしまうことが多かったのだ。

 そうして……。

「リアルガーが呼んでる?」
「うん。お話があるって」
「次の交換日のことかな……」

 丁度俺と言葉を交わしていたオーキスが、なんスかね……? と、首を傾げる。

「……うん……まぁ行ってみよう。
 オーキス、それでお願いして良いかな」
「構わねっス。じゃあまぁ……なんか適当に買ってくるっス」
「頼む」

 個人的なお願いをオーキスに取り付けている最中だったのだが、彼は快く引き受けてくれた。
 越冬のこの時期に買い出しなんて普通できないのだけど……彼には相棒の狼がいるし、吠狼は総じて潜伏捜査が得意だから、大きめの街等に紛れ込み、買い出しをすることも可能であるとのこと。

 その足でリアルガーの元に向かった。
 最近俺は、シザーやオブシズを伴っていない。
 なにせもう貴族じゃないし、あの二人は大変貴重な戦力だ。大型の獲物を狩るのに重宝されているようで、俺以上に駆り出されている。

 サヤとクレフィリアは、メイフェィア、イェーナと共に、狩猟に出た者たちの生活を支える日常のお手伝い……。
 食事を作ったり、繕い物をしたりという作業に追われているようだ。
 ユストは俺の体調管理と共に、獣人らの怪我や病を見ているらしく、ある意味ここで一番求められているかもしれない。
 そして俺は……天気が晴れない限りは、基本的に子守り。
 とはいっても、片手だとあまりやれることもなく……まだ狩りに出られない子供らの訓練を見守っていたりが、主な仕事だ。
 ウォルテールはここのところずっと見かけていないのだけれど……獣化できる者も貴重だから、猟にでているのかもしれない。

 俺を呼びに来た子にそのまま連れられ、リアルガーの元に。

「レイールです」

 天幕の前でそう名乗ると、いらんいらん。という返事が返ってきた。

「匂いで分かる。いちいち名乗らんで良いから入れ入れ」

 その感覚、俺たちひとには分からないんだよなぁ……。

 俺たちの暮らす天幕にも、子供らが訪ねて来たりするのだが……問答無用で乱入してくるので、ちょっと心臓に悪い……。
 サヤは音に敏感だからまだ良いのだが、俺はかなり意表をつかれることになるのだよな……。
 リアルガーは朝方猟に出ていたはず……そう思いつつ帷を押し上げて中に入ると、案の定身繕いの最中だった。

「おぅ、すまんなぁ。ちょっと派手に浴びちまってよ」

 天幕が酷く血生臭く、少し……嫌なことを思い起こしてしまったけれど、それはグッと押し殺す。

「大丈夫……何か用かな?」
「この前、お前さんが言ってた件だ。
 お前さんの推測通りだったぜぇ。他の群れでも野菜は不足気味。小麦での交換を要求されることが増えてるってよぉ」

 他の群れとの接触があったのか……。

 狩りの最中に出くわせば、言葉を交わすくらいの交流はあると聞いていたから、確認が取れるならばとお願いしておいたのだけど……。

「丁度そいつら、数日前にも別の群れとその手の話をしたところだったって。
 ここ近年不作なのかもなって、そう話したらしい」

 溜息を吐く俺を、興味深げに見返すリアルガー。
 結局……人の社会が、多少豊かになったとしても……彼らはその恩恵から外れている……。この歪みがそのまま、この社会のいびつさなのだろう……。

 思いの外根深い問題を、いきなり引いてしまったかもしれないな……。

 とはいえ、確認したのは自分だし、知ってしまったのなら、放置しておくわけにもいかない。
 この問題はどんどん、狩猟民らを追い詰めていく結果になりかねないから。

「多分……そうじゃない。
 野菜と交換するより、小麦と交換する方が、安く済むんだ……」
「ほう……初耳だ」
「そうだろうね……」

 大体状況は見えた。
 これは、彼らに話すべきことだろう。

 そう思ったから、リアルガーに話したいことがあるから、纏まった時間を作ってほしいと伝えた。
 そしてその日の夜に、群れの代表者を集め、現在のフェルドナレンの物価変動について、話をすることになった。


 ◆


 夜、リアルガーの天幕に再度赴いた。
 一人で行く予定であったのだけど、サヤにごねられ、結局サヤを伴って……。
 サヤは馬車の荷物を漁り、羊皮紙と硝子筆、墨を持ち出してきて、俺の補佐をすると言う。

「なんだか……ブンカケンの時みたい……」

 小さく呟かれたそんな言葉が耳を掠めたけれど、聞こえていないふりをした。

 集まったのは、群れの主であるリアルガーを筆頭に、狩猟に出る時に長として統括する役割の者が十名。
 マルやローシェンナは現在不在で、調べ物に出ているという話だった。
 接点のある長は二人のみ。交換日の移動手段となってくれたことがある者たちだ。
 長の中には、俺をあまり快く思っていない者が少なからずいる……。
 そんな者たちは今も、視線が剣呑であったり、俺を存在しないものとして無視していたりするのだけれど、彼らの境遇を考えれば、それも当然のことだろうと思った。

 サヤが、俺一人で行くことを危惧したのもそれかな……。

 ユストや他の皆が、当初俺を天幕から出したがらなかったのも、その辺りが関係しているのだと思う。

 まぁ……元貴族だもんな。

 金払いの良かった時ならば利用価値もあったろうけれど、今となっては穀潰しで、ただのお荷物だし。
 地位を失ったにしろ、搾取する側であったのは確かで、貴族は総じて敵だと認識している獣人は多いだろう。
 つまり、初めから気さくに接してくれている、リアルガーが特殊なのだ。

「わざわざ集まってもらったのは、そこのレイールがなぁ、お前たちに話しておきたいことがあるそうなんだわ」

 なんの前触れもなく、急に始まった話しの第一声はそれ。
 貴族でありながら、そこを追われ、獣人社会に転がり込んだ役立たずが話かよ? という鋭い視線が俺の方を向く。

 こう言う時、大抵こういった視線から始まるんだよなぁ……。

 まぁ慣れているので、その手の挑発や威圧を含んだ視線は無視し、俺も口を開くことにした。

「ここ最近の、野菜不足……それの原因について、話しておこうと思った。
 フェルドナレンの物価は、ここ数年、大きく変動しているんだ。
 理由は、交易路が敷かれたから……。
 今、穀物類の流通はほぼ交易路が利用されている。穀物は南での生産が主だし、運送距離が伸びれば伸びるだけ、荷を襲われる危険が増えていた。
 特に北の地は元々被害も多かったから、小麦が不足したり、値が跳ね上がったりということが良くあってね……」
しおりを挟む
感想 192

あなたにおすすめの小説

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...