時雨のあとに、君を知る

寅次郎

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プロローグ

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 俺があのおっさんのことが気になったきっかけは、ほんの些細なことからだった。

 暗がりの空の下、もうすぐ雨が降ろうする時に俺は恥ずかしいことに、人だかりのある場所で、親友でもあった男にこっぴどく振られてしまったのだ。
 周りからの好奇心の視線に晒され恥を掻き中々顔を上げられず、頭の中がパニックになってしまっており。何か口にしたい意欲すらなく終いには、意識すら手放しそうになっていた。

 そんな最中、目の前の親友だった男に〝男が男を好きになるなんて気持ちが悪い〟と、トドメの言葉すら投げられ、もう何もかも手放したいとすら思ってしまった。
 だが、そんな時にこの場に響いたクラッカーの盛大な音に、ハッとさせられる。すればそのあとすぐに、今度は人の声が大きく耳にまで響く。

『今から全品半額SALEを行います、なくなったら終了でーす!』

 俺の目は自然と声が聞こえた〝たこやき店、時雨〟とたこやき店にはあまり似合わないような名前の店の方へ、視線は向いており、周囲に居た人の目もまたそちらに向けられていた。
 すると、さっきまではあんなにも惨めだとさえ思っていたのに、一気に頭が正気を取り戻したかのようで。目の前の親友だった男もまた、店の方へ視線を向けていたものだから、その隙を狙ったように俺は今までの鬱憤を叩きつけた。当然拍子抜けしたとばかりの表情を見せていたそいつは、暫く唖然としており。気づけばあんなに人だかりが出来ていたこの場には、一発頬を殴られた俺と、いつの間にか天から落ちてきていた雨粒だけになっていたのである。

〝少しばかり救われた〟のはまず間違いなどではなかったのだった。


 俺は単純馬鹿だからあの日以来、まるでルーティンかのように、あの日最悪の出来事があった場所を帰宅ルートに選んでいた。
 通るたびに最悪の気持ちになる癖に、まるで自分にこの教訓を忘れるなと、脳に焼きつけるような行動をしていた。
 そんな日々をいくつかばかり続けているとあの日は、気にもしていなかったことがあとから、あとから、この耳に飛び込んでくる。

『あそこの店長さん、今、奥さんが重い病で入院してるんだって』
『へえ~、それなのにあんなにも明るい顔して商売に励んでるなんて、可哀想にね~』

 〝あの店〟というのはあの時勝手に俺が救われたと思ったたこやき店のことだった。
 なんでも噂好きのおばさんたちの話によると、あそこの店は夫婦一丸でいちから作り上げてきたものらしく。店主を支えていたのはその奥さんだったらしい。その奥さんが不在の今、一人頑張って店を切り盛りしているらしく。この日から俺は常連客の一人となっていったのであった。
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