Vulture's wish Swan's prayer

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彼女が詰まり始めたお話

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昔昔の話です。沼地に一匹の雛が居ました。身寄りがなく、餌を与えるものは誰も居ません。雛の命の灯火は今にも消えかかっていました。そんな時、1匹の青年アヒルがそこを通りかかりました。
青年アヒルは足元に弱々しい雛が居たのに気づきました。
青年アヒルは雛を見やります。
嘴、羽の全てにおいて薄汚いねずみ色。まるで小さな綿埃みたいです。
青年アヒルは最近、バイトをクビになり小遣いが欲しいと思っていました。
アヒルはこの小さな綿埃を小遣い稼ぎにと売り飛ばすことにしました。

こうして綿埃は売りに出された訳ですが、やはりゴミを買うようなものなので誰も欲しがりません。
最初は売り場の餌のおかげで生き延びていましたが、段々と餌は与えられなくなり弱っていきました。近くには同様に餌を与えられなくなり死んでいった者たちが沢山います。

綿埃は幸いなことにまだ幼かったため他の雛と共に売り場に出されました。
詰め詰めの鳥籠の中を自分も含め無数の雛が溢れています。鳴き声がうるさく、眠れない日が続きました。

とある日蠍の旦那が売り場にやって来て雛達を買って行きました。

雛達は蠍によって育てられることになりましたが、その前に選別が行われます。
弱って死ぬだろうと思われた雛は...蠍の食卓に並びました。
綿埃は体が比較的大きかったので無事育てられることになったのでした。

雛は3分の1程の数になりました。
見た所様々な雛達が居ます。
雛は成長するにつれ自我が芽生え、互いに言葉を交わせるようにまでになっていました。
狭い牢屋の中、雛達はなれない言葉で励まし合います。

皆同じ境遇で、同じ恐怖に晒されている。
皆の間には見えないが確かにある仲間意識が出来上がっていたのでした。

大きくなるにつれて人型へと変化出来るものも出てきました。
そこで第二の選抜が行われます。
人型になった者から蠍達の前に出て自己アピールをするのです。
例えば小柄で地味な雲雀ですが、歌はとても上手です。
それ故にコーラスの育成教室に雲雀は売りに出されました。
このような形で育てられた雛は様々な場所へと飛ばされ、私達は別れを涙ながらに告げるのでした。

さて綿埃ですが、特技もないため完全に蠍達の"お荷物"と化していました。
他の雛は見た目が良かったり頭がよかったりと何かしらの特技があるわけですが、本当に綿埃には何もありません。

しかし、特技がなく困りものだったのは綿埃だけではなさそうです。
隣には一番仲が良く一番不名誉な鳥が居ました。彼女は夜鷹でした。臆病で不器用で鈍臭い可哀想な鳥でした。見た目も斑で可愛いとは言い難いです。
二人は似たような存在でしたから本当に仲が良かったです。

蠍達は二匹を中々殺すことも出来ずに手を焼いていました。

そんな日が数年続いて、12歳になった頃二人に転機が訪れました。
なんと夜鷹の売り場が決まったのです。
そこは華やかな夜の街。夜鷹の少女は不安と喜びが入り交じったような複雑な表情をしていました。綿埃は夜鷹の勤め先が決まってとても嬉しそうです。妬む気持ちもないとは言いきれませんでしたが、それ以上に夜鷹を思う気持ちが強かったのです。

夜鷹は街に消えていきました。

残るは綿埃ただ一匹。
蠍達は厄介な存在をただただ鬱陶しく思っていた気持ちが頂点に達し遂には綿埃を蹴飛ばしたり潰したり暴力を振るうようになりました。

どうせ売れないだろうと諦められた綿埃は上からも見て見ぬふりをされました。

「ごめんなさい。ごめんなさい。」そればかり繰り返す綿埃。
それが逆に蠍達の優越感を煽り暴力はエスカレートしてゆきます。
常に腹や腕の青アザが消える前に新しい痣が浮かび蠍の尾で刺された部分は赤く腫れ上がっていました。

毎日の苦痛に耐えていましたが、綿埃はもう虫の息で早く死にたいという想いが募るばかり。
でも夜鷹のことが気がかりで中々死ねません。夜鷹は元気にしているだろうか。幸せになっているのだろうか。
夜鷹のことを考えると少し元気が出てくるのでした。

今日もサンドバッグにされた綿埃は目を静かに閉じ、眠るまましねかいかなぁ。
なんておもっていました。

綿埃は目を覚ましました。寝返りをうつと自分の体に起こった変化に気づきました。股にダラッと液体が流れているようなそんな感覚がしたのです。何事かと思い、股に手をやると指先に生暖かい液体が付着するのがわかりました。
勇気を出し、おそるおそる指を見てみると
指は赤く染まっていました。
あぁ、死ぬのかな。毒のせいかなぁ。なんて冷静に考えながら床に寝そべりました。
程なくして蠍達が綿埃を虐めに汚い部屋にやって来ました。
そのまま寝そべっていると、どうやら様子がおかしいです。蠍達がざわついています。そりゃ股から血が流れてるんだから驚くだろうな。なぜだか笑いそうになりました。
蠍の一人が「ヒュっ」っと声を上げました。
その声で蠍達は金縛りが解けたように動き出しました。
慌ただしく出ていくものや綿埃を色眼鏡で見るもの。誰も手を上げない状況。綿埃は不思議に思い、自分を見ました。

そこでようやくおかしいことに気づきました。

昨日までどんなに洗っても薄汚かった肌は雪のように白く透き通っています。

その様子を見ていたのか蠍はポケットに手をやると小さな手鏡を取り出しました。蠍は綿埃に手渡します。
綿埃はそっと鏡を見ました。
そこには別人が映っていました。
黒豆を適当につけたような二つの小さな目はまつ毛まで真っ白くなり大きな瞳は蒼に輝いていました。
髪は元々クルクルで更に傷んでくしゃくしゃだったのに真っ直ぐで銀に輝く髪が肩を伝っています。

綿埃はぽつんと呟きました。

「私は...だ...れ?」

そこから先はあっという間でした。女性が来た途端部屋を連れ出され久しぶりの風呂に入りました。洗われた綿埃は何倍にも綺麗になっていました。服を着せられたりとなされるがままになっています。

血はとうの昔に止まっていました。

綿埃の売り場ですが美しくなった綿埃を手放したくない理由で蠍の旦那は自分達の店先に置くことにしたのです。


綿埃はもう綿埃と呼べない存在になっていました。そう、白鳥のお姫様になったのです。
今まであった暴力も虐めも全て忘れてお姫様として生きることを強いられました。
なんという手のひら返しでしょうか。

お姫様は月に1回、月明かりが紫になる時のみ舞台に出ること。それ以外は蠍の元にいること。といった約束事が成されました。
お姫様は意思も何にもなくてただただうんうんと頷いていましたが、一つお願いごとをしました。

その内容は夜鷹に会いたいとのことでした。


夜鷹の勤め先は西銀河の果てにある水屋でした。お姫様は数年ぶりの再会に小さな胸を高鳴らせ、会ったらどんな話をしようかと指をおりながら考えるのでした。

お姫様にとって夜鷹はかけがえのない存在でしたから、待ちきれませんでした。

街を歩く度に人がお姫様に惹かれているのがわかります。でもお姫様は慣れてなくてその視線が恐怖でしかありませんでした。

ようやく夜鷹が勤めているであろう店にやって来ました。蠍が案内人に紹介状を渡し、お姫様を中にとおします。

中はすえたような変な匂いがしました。薄いドア1枚から男と女の声が聞こえてきます。
案内人は夜鷹はここだとおしえてくれました。

こじんまりとした部屋には厚化粧をした夜鷹が椅子に座ってタバコを吸っていました。
前見た時よりもキツい印象になっていたのは長く引かれたアイラインのせいでしょうか。

夜鷹は灰皿にタバコを押し付けるとニコニコしてお姫様を抱きしめました。お姫様は嬉しくなって華奢な夜鷹の体をギュッと抱き締め返しました。ほんのりタバコの匂いがします。
夜鷹はお姫様と私、二人だけにして欲しいと言いました。蠍達はお姫様をチラっとみて頷くのを確認すると明日の朝に迎えに来ると言って出ていきました。

しんとした空気に夜鷹とお姫様は二人きり...
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