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44、死闘
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あの目潰しはドラゴンにも有効なものだから、たぶんしばらくは大丈夫。
でも気持ちは焦る。殺せるなら、俺たちの居場所がばれないから、殺したほうがいいのはわかってるんだけど、無理。
クラッシュと森を駆ける。
追い付かれたら、どうしよう。
横目でインベントリを覗きながら、とりあえず男から離れようと必死で足を動かす。
使える物は、さっきのと眠り薬と痺れ薬。ちょっとした毒も一応持ってはいる。でも剣はこの手に持った剣と短剣が一本。だって剣スキル全く持ってないから。職業柄攻撃力も伸びないし。あの蜘蛛用爆弾はあの男には通用しない気がする。だって、強い。
ヴィデロさんがいてくれたら、瞬殺なのにな、なんて、どうしようもないことを思うのは、きっと俺が焦ってるから。
すでに街に向かう方向には向かえない。だってそっちに行くとあの男がいるから。もしかして奥に誘導されてるとか。まさかな。
走りながら、そんな考えがグルグル頭の中で回る。
もう少し落ち着かないときっといい考えも浮かばないよ。しっかりしろ、俺。
「まって、マック……っ、はぁ……っ」
とうとうクラッシュの足が止まった。スタミナ切れだ。俺も切れかけてる。どこまで逃げれたのか、あの男がどれくらい速いのかわからないから、ここで足を止めるのは得策じゃないんだけど。でも、スタミナがない状態で対峙するのはもっとヤバい。
「少しだけ、3分だけ、休憩しよう」
俺が提案すると、クラッシュは素直にうなずいた。
スタミナポーションを飲み干して、呼吸を整える。
「どうしてクラッシュはあの男がヤバいってわかったんだ?」
「だっておかしいだろ。冒険者ギルドから俺たちの捜索依頼が出るなんて。クイックホースが見つかったとしても、脚を怪我してたからまだ森を抜けたかもわからないくらいだろうし。ギルドが動くとしたら、明日の早朝くらいからだよ」
なるほどなあ。咄嗟にそんなことを考えるクラッシュって、ほんとに頭いいよな。俺はHPゲージがなかったら気付いてなかったかもしれないのに。隠蔽が高ければ、もしかしたらHPゲージも隠れるのかもしれないけど。そこまで男の隠蔽スキルが高くなくてよかった。
でもこのままじゃ、街にたどり着くのが難しくなるなあ。
あと丸二日。
こんな状態でクエスト失敗したら、クラッシュはどうなるんだろう。やっぱりトレの街の雑貨屋はなくなるのかな。
街に向かわないと。
「とりあえず、あの男を迂回して戻ろう。こっちは森の中心に向かっちゃってるから」
「うん」
息も整って、スタミナゲージも回復したのを確認して、俺とクラッシュは少しだけ進路を変更した。
魔物の影もなく、俺たちはそのまましばらく進む。
ふと、マップに赤いマーカーが現れた。
次の瞬間、ガサガサっと草が鳴って、誰かが飛び出してきた。
クラッシュに注意する間もない速さだった。
「てめえら覚悟はできてるんだろうなあああああ!」
すごい形相の、さっきの男だった。顔中涙や鼻水や涎が垂れていて、肩で息をしている。たぶん目は半分くらいしか見えてないくらいぐじゅぐじゅしているっぽい。目潰しは半分くらい効いてるってことか。
さっきまでの余裕もなく、剣をぶんぶん大振りに振り回してくる。目潰しくらった魔物と同じような行動のはずなんだけど。
魔物は混乱して攻撃とか出来なくなるのに、男はちゃんと俺を狙ってくる。
人に対しては効きが悪いな。
「うらあああああ!」
男は俺に向かってひたすら切り付けてきた。
剣が振るわれるたび、ブン、と空を切る音がする。
剣の威力はかなり凄くて、たぶん打ち合ったら俺の剣なんて一発で飛ばされる。でも大振りだから避けるのはそこまで難しくなかった。
それに逃げてもまた追ってくるんだろうな。一晩中山の中を追いかけっことか、それは何としてでも回避したい。
ほんの少しでもログアウトして、強制ブラックアウトは避けたいところだし。
「クラッシュは先に逃げろ! こいつは仕留めとかないと厄介だから!」
クラッシュに向かってそう叫ぶと、俺は回避行動をしながら、麻痺薬の入った瓶をさっとインベントリから取り出した。
クラッシュがしっかりと離れたのを確認して、それを男に投げつける。あんまり周りが見えてない男は、すんなり麻痺薬を受け、「う、がっ」と潰れたような声を出した。
目に見えて動きは鈍くなった男は、しかし剣を離すことはなく、俺を狙って剣を振るい続ける。
まだ動けるんだ。こいつやっぱり強い。レベル高いのかな。やばいな。
麻痺の効いてる今のうちに、と俺は剣を構えて男に突っ込んでいった。
勢いのまま剣を薙ぎ払い、男の胴体を切り付ける。そしてそのまま剣を返して胸を狙う。
ガキン! と剣がぶつかる音が鳴り、俺の剣が弾かれて後ろにたたらを踏んだ。
なんでこいつ麻痺しててもこんなに攻撃通らないんだよ!
切り込んだ腹は結構深く切れていて、流れる血にHPが減ってるのがゲージでわかるんだけど。
それでも男は、俺の剣を自分の剣でしっかりと受け止めていた。
跳ね返された衝撃で、剣を持った手が痺れる。でも、ここで引いたらいつ麻痺が治るかわからない。きっと麻痺が治まる前にこいつを倒せなかったら俺の負けだ。もう一度大人しく麻痺になってくれるわけはないから。
ギュッと剣を握り直し、俺はもう一度剣を構えて突っ込んだ。
動きの鈍い男の腹に、剣の切っ先が埋まっていく。
剣が奥まで刺さり、男の身体を貫通した。
よし! と思い顔を上げる。
でも、手応えはあったのに、まだ男のHPはなくなっていなかった。
「あああああああ! ふざけんな!」
叫んだ男が、剣を振りかぶった。
串刺しにされてるのに、目はまだ俺をとらえてギラギラとしている。
どうしてこの状態で動けるんだよ!
その剣から逃れようと、剣を引く。
が、剣は体にがっちりと刺さったまま、びくともしない。
ヤバい、剣が抜けない!
引き抜こうとした行動がいけなかった。
衝撃とともに、わき腹に鋭い痛みが襲った。
「うぐっ……!」
「マック……!」
男の剣が、俺のわき腹を抉る。やばい今のでかなり削られた。そして痛い!
だらだらと血が流れていく。それと同時に自分のHPも削れていく。
くそ、このままだと俺がやられてそのままクラッシュが……!
そんな考えも霧散していくくらいわき腹が痛い、熱い!
抉られた剣を今度は引かれて、わき腹の肉がごっそり持っていかれたのが見なくてもわかる。
やばい、ダメだ、今HP全部削られたら、クラッシュが。
間近には、自分も串刺しにされているのに、にやりと笑う男の顔がある。
「遊びは、終わりだなあ……っ!」
男がそう咆えて、もう一度剣を持ち上げた。
アレを叩きつけられたら終わりだ!
「うあああああ!」
気合いを入れて、男に刺さった剣を横に薙ぐ。
今まで動かなかった剣が、ようやく動いた。
そのまま俺は、横に向かって腕に力を込めた。
ざん、と肉の切れる手ごたえが、剣を伝って俺の元にくる。
「ぐああああああ!」
血が飛び散り、男の腹が裂けたのが感触でわかった。
でも、俺にも確認できる余裕がなかった。
抉られたところが、熱い。
薙いで手元に戻ってきた剣を握っていられずカランと落とした瞬間、横合いからクラッシュが飛び出し、男を一刀両断した。
あああ、出てきたら危ないのに。でも、やっぱりクラッシュの剣さばきは、俺なんかより数段上だな。かっこいい。
ちらりとHPを確認すると、男のHPゲージは空っぽ。
ゆっくりと男が地面に倒れていく。
よかった。終わった。そして、クラッシュは、無事だ。
でも気持ちは焦る。殺せるなら、俺たちの居場所がばれないから、殺したほうがいいのはわかってるんだけど、無理。
クラッシュと森を駆ける。
追い付かれたら、どうしよう。
横目でインベントリを覗きながら、とりあえず男から離れようと必死で足を動かす。
使える物は、さっきのと眠り薬と痺れ薬。ちょっとした毒も一応持ってはいる。でも剣はこの手に持った剣と短剣が一本。だって剣スキル全く持ってないから。職業柄攻撃力も伸びないし。あの蜘蛛用爆弾はあの男には通用しない気がする。だって、強い。
ヴィデロさんがいてくれたら、瞬殺なのにな、なんて、どうしようもないことを思うのは、きっと俺が焦ってるから。
すでに街に向かう方向には向かえない。だってそっちに行くとあの男がいるから。もしかして奥に誘導されてるとか。まさかな。
走りながら、そんな考えがグルグル頭の中で回る。
もう少し落ち着かないときっといい考えも浮かばないよ。しっかりしろ、俺。
「まって、マック……っ、はぁ……っ」
とうとうクラッシュの足が止まった。スタミナ切れだ。俺も切れかけてる。どこまで逃げれたのか、あの男がどれくらい速いのかわからないから、ここで足を止めるのは得策じゃないんだけど。でも、スタミナがない状態で対峙するのはもっとヤバい。
「少しだけ、3分だけ、休憩しよう」
俺が提案すると、クラッシュは素直にうなずいた。
スタミナポーションを飲み干して、呼吸を整える。
「どうしてクラッシュはあの男がヤバいってわかったんだ?」
「だっておかしいだろ。冒険者ギルドから俺たちの捜索依頼が出るなんて。クイックホースが見つかったとしても、脚を怪我してたからまだ森を抜けたかもわからないくらいだろうし。ギルドが動くとしたら、明日の早朝くらいからだよ」
なるほどなあ。咄嗟にそんなことを考えるクラッシュって、ほんとに頭いいよな。俺はHPゲージがなかったら気付いてなかったかもしれないのに。隠蔽が高ければ、もしかしたらHPゲージも隠れるのかもしれないけど。そこまで男の隠蔽スキルが高くなくてよかった。
でもこのままじゃ、街にたどり着くのが難しくなるなあ。
あと丸二日。
こんな状態でクエスト失敗したら、クラッシュはどうなるんだろう。やっぱりトレの街の雑貨屋はなくなるのかな。
街に向かわないと。
「とりあえず、あの男を迂回して戻ろう。こっちは森の中心に向かっちゃってるから」
「うん」
息も整って、スタミナゲージも回復したのを確認して、俺とクラッシュは少しだけ進路を変更した。
魔物の影もなく、俺たちはそのまましばらく進む。
ふと、マップに赤いマーカーが現れた。
次の瞬間、ガサガサっと草が鳴って、誰かが飛び出してきた。
クラッシュに注意する間もない速さだった。
「てめえら覚悟はできてるんだろうなあああああ!」
すごい形相の、さっきの男だった。顔中涙や鼻水や涎が垂れていて、肩で息をしている。たぶん目は半分くらいしか見えてないくらいぐじゅぐじゅしているっぽい。目潰しは半分くらい効いてるってことか。
さっきまでの余裕もなく、剣をぶんぶん大振りに振り回してくる。目潰しくらった魔物と同じような行動のはずなんだけど。
魔物は混乱して攻撃とか出来なくなるのに、男はちゃんと俺を狙ってくる。
人に対しては効きが悪いな。
「うらあああああ!」
男は俺に向かってひたすら切り付けてきた。
剣が振るわれるたび、ブン、と空を切る音がする。
剣の威力はかなり凄くて、たぶん打ち合ったら俺の剣なんて一発で飛ばされる。でも大振りだから避けるのはそこまで難しくなかった。
それに逃げてもまた追ってくるんだろうな。一晩中山の中を追いかけっことか、それは何としてでも回避したい。
ほんの少しでもログアウトして、強制ブラックアウトは避けたいところだし。
「クラッシュは先に逃げろ! こいつは仕留めとかないと厄介だから!」
クラッシュに向かってそう叫ぶと、俺は回避行動をしながら、麻痺薬の入った瓶をさっとインベントリから取り出した。
クラッシュがしっかりと離れたのを確認して、それを男に投げつける。あんまり周りが見えてない男は、すんなり麻痺薬を受け、「う、がっ」と潰れたような声を出した。
目に見えて動きは鈍くなった男は、しかし剣を離すことはなく、俺を狙って剣を振るい続ける。
まだ動けるんだ。こいつやっぱり強い。レベル高いのかな。やばいな。
麻痺の効いてる今のうちに、と俺は剣を構えて男に突っ込んでいった。
勢いのまま剣を薙ぎ払い、男の胴体を切り付ける。そしてそのまま剣を返して胸を狙う。
ガキン! と剣がぶつかる音が鳴り、俺の剣が弾かれて後ろにたたらを踏んだ。
なんでこいつ麻痺しててもこんなに攻撃通らないんだよ!
切り込んだ腹は結構深く切れていて、流れる血にHPが減ってるのがゲージでわかるんだけど。
それでも男は、俺の剣を自分の剣でしっかりと受け止めていた。
跳ね返された衝撃で、剣を持った手が痺れる。でも、ここで引いたらいつ麻痺が治るかわからない。きっと麻痺が治まる前にこいつを倒せなかったら俺の負けだ。もう一度大人しく麻痺になってくれるわけはないから。
ギュッと剣を握り直し、俺はもう一度剣を構えて突っ込んだ。
動きの鈍い男の腹に、剣の切っ先が埋まっていく。
剣が奥まで刺さり、男の身体を貫通した。
よし! と思い顔を上げる。
でも、手応えはあったのに、まだ男のHPはなくなっていなかった。
「あああああああ! ふざけんな!」
叫んだ男が、剣を振りかぶった。
串刺しにされてるのに、目はまだ俺をとらえてギラギラとしている。
どうしてこの状態で動けるんだよ!
その剣から逃れようと、剣を引く。
が、剣は体にがっちりと刺さったまま、びくともしない。
ヤバい、剣が抜けない!
引き抜こうとした行動がいけなかった。
衝撃とともに、わき腹に鋭い痛みが襲った。
「うぐっ……!」
「マック……!」
男の剣が、俺のわき腹を抉る。やばい今のでかなり削られた。そして痛い!
だらだらと血が流れていく。それと同時に自分のHPも削れていく。
くそ、このままだと俺がやられてそのままクラッシュが……!
そんな考えも霧散していくくらいわき腹が痛い、熱い!
抉られた剣を今度は引かれて、わき腹の肉がごっそり持っていかれたのが見なくてもわかる。
やばい、ダメだ、今HP全部削られたら、クラッシュが。
間近には、自分も串刺しにされているのに、にやりと笑う男の顔がある。
「遊びは、終わりだなあ……っ!」
男がそう咆えて、もう一度剣を持ち上げた。
アレを叩きつけられたら終わりだ!
「うあああああ!」
気合いを入れて、男に刺さった剣を横に薙ぐ。
今まで動かなかった剣が、ようやく動いた。
そのまま俺は、横に向かって腕に力を込めた。
ざん、と肉の切れる手ごたえが、剣を伝って俺の元にくる。
「ぐああああああ!」
血が飛び散り、男の腹が裂けたのが感触でわかった。
でも、俺にも確認できる余裕がなかった。
抉られたところが、熱い。
薙いで手元に戻ってきた剣を握っていられずカランと落とした瞬間、横合いからクラッシュが飛び出し、男を一刀両断した。
あああ、出てきたら危ないのに。でも、やっぱりクラッシュの剣さばきは、俺なんかより数段上だな。かっこいい。
ちらりとHPを確認すると、男のHPゲージは空っぽ。
ゆっくりと男が地面に倒れていく。
よかった。終わった。そして、クラッシュは、無事だ。
応援ありがとうございます!
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