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103、チケット予約ピンチ
しおりを挟む昨日ゴリゴリした月見草を取り出し、サボテンじゃなかったカクトゥスを取り出す。
リモーネの実も隣に並べて、と、思いつく限りの素材を取り出す。
「まずは、薬になる物をとりあえず一通り混ぜてみるか」
ポーション材料を次々摺って、ビーカーみたいな瓶に詰め込んでいく。比率は適当。だってポーションを作りたいわけじゃないから。
そして今度は、ポーション材料じゃない物も詰め込んでいく。リモーネの果汁、そして皮。あとはカクトゥス。ついでに昨日買ってきたリベーマロのドライフラワーも詰め込んでみる。他にも数点。
絶対に失敗するのはわかってるんだけどね。ここまで無暗に物を詰め込む作り方なんてありえないし。
水をなみなみと入れて、火にかける。棒でぐるぐる回していると、段々と中の物が抽出されていって、水の色がだんだんと濁ってくる。
「うん、怖いことになったぞ」
濁った水がボコボコ沸騰する様は、見ていて楽しい物じゃなく、不快な匂いが漂い始める。
途中、鑑定を使ってみると、『失敗作』と出ていた。手を止めて、作っていた物を取り出す。
「知ってた」
そこら辺に捨てるのははばかられるので、一応瓶に移し替えてインベントリに突っ込む。
今度は厳選して混ぜてみよう。
「薬用って言われている物……」
さっきみたいに適当じゃなくて、素材の効能を読んで詰め込んでみる。あとは味を調えるための蜂蜜、そしてリモーネの絞り汁。
水を入れて、火にかける。
グルグルしていると、今度は水が緑色になっていった。
今度は何とかものにはなってるかな。
「鑑定」
結果はポーション。ランクはB。既存のアイテムでした。ってこんな作り方もあるのかあ。
試しに味見してみると、最初は甘酸っぱくていい感じ? と思ったら、最後苦みが残って、とても複雑なフレーバーだった。ポーションはいつも作る作り方に限るね。
じゃあ今度は、とポーション素材をとことん避けてビーカーに突っ込んでみる。
グルグルしていると、またも色が濁ってきた。
失敗の色だった。
溜め息を吐いて、二個目の『失敗作』をインベントリにしまい込んだ。
こうして、俺の一日は失敗作続きで幕を閉じた。
新しい物を生み出すのって、マジ大変。
朝起きた俺は、携帯端末の充電をチェックして、ばっちり充電されているのを確認してから学校に向かった。
今日の11時から、『オータムオンラインゲームフェスタ』の予約チケット抽選販売開始なんだ。出席状況は大丈夫だから、今日だけ、俺は抜けます! ごめんね先生。
ほくほくしながら学校に着くと、雄太はやっぱりもう来ていた。
「雄太、おっはよ!」
「おー。健吾、もう番号登録してあるか? 今のうちにしとけよ。そうすればワンプッシュで行けるから」
「あ、その手があったか」
雄太の教えに従って、予約用の番号を端末に入れる。
これで良し。
「授業で視聴覚室使う奴らはこっそりパソコン使って予約入れようとしてるらしいぞ」
「繋がるのかな」
「いや、多分無理だろ。回線が混雑してて落ちるんじゃね?」
「だよなあ。まだ携帯端末の方が確率が高いよな」
二人で話をしていると、教室のドアがガラッと開いて、担任が入ってきた。
後ろを向いていた俺は、端末をポケットにしまうと、前を向いた。
「おはよう。知ってると思うが、今日は某イベントの予約チケット抽選販売がある。こっそり抜け出して電話かけようと思ってる奴もいるだろうが、本来ここは勉強をしに来るところ。その時間抜け出した奴は、容赦なくマイナス評価を下すからな、そこを踏まえて抜け出すように。わかったか? 早退はよほどのことがない限り許可下りないと思え。血反吐を吐くとかヤバいくらいの高熱が出るとか。もちろんちゃんと測定してもらって、保険医に帰れと言われた奴のみ帰っていい」
教卓に就いた瞬間担任から発せられた言葉に、教室中が大ブーイングを出す。俺も例にもれず。雄太の舌打ちが後ろから聞こえてくるのは気のせいじゃない。
担任はそのブーイングをきいて、呆れたように溜め息を吐いた。
「あのなあ。先生だって予約チケット欲しいんだよ。でも学校があるから電話出来ねえんだよ。先生が諦めてるんだ。お前らも潔く諦めろ。仲良く一般で行こう、な」
またも大ブーイング。だって一般で行くと、ゲームフェスタを見るんじゃなくて人間の頭を見て終わるんだよ。今年もそれなんてみじめすぎる。
さ、ホームルーム始めるぞ――という担任の声を聞きながら、俺はがっくりと頭を垂れたのだった。
失意の授業中。一時限目は世界史だったので、ひたすら眠気と格闘した。あの教科書の文字の羅列、どこかに睡眠の魔法陣でも描かれてるんじゃないかな。文字を羅列するんじゃなくて、簡潔に年表にしたものを教科書に載せてくれ。そして大事なところはその横に注釈みたいに書いて欲しい。ずらずら書かれても眠気が増すだけだ。もっとわかりやすい教科書誰か作ってくれないかな。
欠伸を噛み殺しながら、二時限目の体育に備えて体操着に着替える。今日はバスケだって、という誰かの声を聞きながら、バスケかあ、と溜め息を吐く。
身体を動かすのは別に嫌じゃないんだけど。皆容赦なく当たりに来るからそれが億劫だ。雄太は逆に当たって来た奴を弾き飛ばしてるけど俺はされるがままなんだよな。はぁ。
雄太の隣をだらだらと歩く。並ぶと恋人的な身長差になるのはもう諦めている。
先生の笛の音とともにだらだらと準備運動をして、同じような身長の奴と背中合わせになって腕を組む。後ろの奴を背中に乗せる的なアレだ。前に雄太とやっていたら、雄太が「健吾とやっても足が地面から離れないから準備運動にもならねえ」と言って、それ以来別々にやっている。もちろん、その日から数日間、雄太のすねには青あざがあったのは言うまでもない。
ダムダムボールの音が響く中、俺はぼんやりと雄太の雄姿を見ていた。
その動きは体育関係得意な雄太らしい無駄のない動きで、見ているだけでもうやったつもりで満足している俺がいる。
でも授業はそんなわけにはいかず。
ピーッという笛の音で、一斉に試合していた奴がコートの中から引き上げてきた。
「ほら次――。第三試合すぐ開始するぞ――」
体育の先生の声で、俺はのろのろと腰を上げた。
でも一応俺も男の子というか。コートに立つとさっきまでの憂鬱はどこかになりを潜めて、負けたくない根性が出てくる。
かなり必死で試合をして、点数が入るとチームメイトと一緒になって喜び、声を出して走り回った。悔しいけど楽しい。
自分ゴールの下で全員が入り乱れ、リバウンドを奪い合う。
俺もそのボールの奪い合いに巻き込まれて、必死でジャンプ。位置がよかったのか、ボールは俺目がけて弾かれてきた。
よし取った! と思った瞬間、勢い余った敵チームの奴らが、一斉になだれ込んできた。
え、と思った瞬間には、俺を下敷きに、生徒たちの山が出来上がっていた。
お、重い……。
すぐに先生に助けられた俺だけど、無傷とはいかず。
「先生……今ので足捻った……痛い」
俺はまんまと立てなくて、横にいた先生を見上げた。
瞬間、雄太が俺を掬い上げて、担いだ。
「先生、俺が健吾を保健室に連れて行ってくるから」
「あ? ああ、高橋、よろしく頼む。郷野、もし酷そうなら保険医に病院に連れて行ってもらえ」
「う――い」
雄太の肩に担がれたまま、俺は先生に向かって手を上げた。
「雄太ごめん手間かけて。重くない?」
「羽根のように軽いから大丈夫だ」
「お前それ俺が言われて喜ぶと思ってんのかよ」
「いや、喜んだらそれはそれで面白い。それにしても健吾」
俺を担いでるなんて思えないくらい軽い足取りで、雄太が歩く。
っておい、そっち保健室じゃなくて、教室じゃないか?
雄太はずんずんと階段を上って、俺達の教室にたどり着いた。
そして、片手で器用に自分の荷物と俺の荷物をあさる。その間、俺は雄太の肩の上。
雄太は携帯端末を取り出して、二つともポケットに入れた。そして今度こそ保健室に向かった。
「健吾よくやった。これで堂々と予約の電話入れれるな」
雄太はすごくいい笑顔で、俺を担いだまま保健室のドアを潜った。
腫れてる足にシップを貼り、包帯を巻いた保健医は、「これは痛むよ。病院に行った方がいいね。どうする、親呼ぶ?」と俺の顔を覗き込んできた。
「俺の両親、仕事で抜けれないよ」
「あ、先生。俺健吾の近所だし、かかりつけの病院も一緒だから、担いで連れてって見てもらうよ。ここからそう遠くないし」
「ああ、お前たち地元だっけ。ってことはあそこの整形外科か。郷野、高橋に担いで連れてってもらえ」
ニコニコと提案する雄太に、保健医がいいこと言うなあ、という顔を向ける。ってことは俺、外の道中も雄太に担がれて羞恥プレイってことですかね。嫌だ。
そう言うと、保健医は、少し考えてから、雄太にこういった。
「高橋、郷野は担がれるんじゃなくて、お姫様抱っこをご所望らしい」
違うから。
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