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267、情報交換
しおりを挟む「マック殿は今日は書庫に用事があって来たのですか?」
「はい」
「通行証を活用していただいて何よりです。何を調べておられたのか、と聞いたらダメでしょうか」
宰相の人の言葉に、俺はちょっとだけ考えた。
宰相の人はあの極秘書庫の本を網羅しているはずだ。そして、ほぼすべてを記憶してるみたいなことを言ってた。
俺が読んだのは単なる一画だけだけど、それで2%しか増えなかったんだから、もしかしたらこの人から話を聞いたらちょっとは成功率が上がるかもしれない。でも、なんとなく最後の最後でこの人が信用ならないんだよなあ。自分の利益のある方に持って行こうとするイメージが常に付きまとって。
さっきのハイパーポーションの件もあるしなあ。
でもそうやって躊躇ってたら何も手に入らない。虎穴に入らずんば虎児を得ず。
「『蘇生薬』という物に興味があって、色々と探していました。やっぱりそういうの、薬師の憧れですよね」
世間話のようにそう言ってみる。
すると、宰相の人が「蘇生薬……」と呟いた。
「マック殿はそこを目標としているのですか。高みを目指しているのですね。素晴らしいことです」
うんうん頷く宰相の人は「蘇生薬」に関する何らかの知識があるっぽかった。
「まだまだ手は届かないんですけど、何か知ってることとかありませんか? 助言とか頂けるととても助かるんですけど」
「知っていること……そうですね。私もほぼ伝承を本で読んだ程度なのですが、『その奇跡の薬は、引き離された肉体と精神を繋ぎ、命尽きようとしている者を生き返らせる。それが「蘇生薬」である』という一文が大陸の本に載っていたと記憶しています。私には肉体と精神が引き離されるということがどういうことなのかわかりませんが、もしそんな薬が出来たら、素晴らしいのと恐ろしいのが半々ですね。でもマック殿ならそのうちぽろっと作ってしまいそうな雰囲気があります。頑張ってください」
「ありがとうございます」
なんかいい話が聞けた。ちらりとクエスト欄を開いて覗くと、成功率が今ので3%増えていた。有意義! 今回のお茶は有意義でした! ありがとう宰相の人!
「ちなみにその本がどの本なのか、覚えてますか? 俺も読んでみたいです」
「そうですね。入り口から入って左手の棚全体が大陸に伝わっていた伝承などが書かれている本を詰めた棚なのです。そこら辺を読むことをお奨めします」
「適当に詰めてるんじゃなかったんだ……変なところにレシピとか入ってるから適当に詰められてるのかと思った……」
本棚の本を思い出してそう呟くと、宰相の人がはははと笑った。
「私もあまり古代魔道語が堪能ではないので、まとめられる物だけをまとめたような形になってしまいましたから。私もさすがに古い言い回しの言葉はとてもとても理解できません」
宰相の人は残念ながら、と肩を竦めた。この人も出来ないことがあったんだなあ。なんて変なことを今更思う。なんでも出来そうな雰囲気があるんだもん。
「探してみます。今日は遅いから、また今度。今度はヴィデロさんと二人で来てもいいですか?」
「もちろんです。ぜひ顔を出してください。ヴィデロ殿も歓迎いたしますよ」
そしたら、その時は極秘建造物に案内してくださいお願いします。と心の中で頭を下げた俺は、お礼とばかりにちょっとだけ情報を明かすことにした。
「そういえばさっき話に出ていたハイポーションより効くポーション、俺、一か所だけ契約して納品してるんですよ。もちろん、人族の元に」
「……それは」
お礼代わりの情報は、宰相の人にとって驚愕の表情を浮かべるほどの内容みたいだった。
「どこに、と聞いてもよろしいですか? もし可能であれば、私どもの所にも、とお願いするのはいけないことなのでしょうか」
「あくまで、現状を見るにみかねて卸してるって感じなので、そこまで切羽詰まってないここに卸す気はありません」
「見るにみかねて……と言いますと」
「辺境騎士団です」
辺境騎士団……と呟いたきり無表情になった宰相の人は、しばらく考え込んでいるようだった。
「辺境には十分な物資を届けているはずなのですが。見るにみかねてとは、どういう状況を指すのでしょうか」
その一言で、宰相の人は辺境に届けられるものが粗悪品だということに気付いていなかったことがわかった。流石にあの仕事量じゃ、各騎士団の物資関連にまで手を出すことは出来ないよなあ。書類くらいは見るかもしれないけど。
物資関連扱ってる人、ちゃんと仕事しろ。もしかして差額を横領してるのかな。うん、何も気付かなかったことにしたい。
「辺境に卸されるハイポーションは、あそこの魔物と戦うにはほぼ使えない粗悪品が届いてたので。さすがに怪我人も増えて、魔物と戦える騎士さんたちが減ってきたって勇者が困ってたんで、獣人さんに許可を貰って卸してるんです。あ、トレの門番さんたちの物資も最悪だって前に聞いたことがあるんですけど、そういう物資関連って低予算なんですか?」
「いえ、魔物の脅威は私共もよくわかっているので、そういうことはないのですが……そうですか。そのようなことが。わかりました。ありがとうございます」
真顔だった宰相の人は、今度は目をきらっと光らせて、獰猛に笑った。
え、俺、何か宰相の人のスイッチ入れちゃった? さっきまでと雰囲気が全然違うんだけど。でもまあ宰相の人が本気を出したら、物資関連も円滑になるってことかな。よ、よしとしよう。宰相の人、倒れないでね。頼みの綱だから。
俺は、カバンからスタミナポーションを取り出して、そっと宰相の人に渡した。これ飲んで元気に頑張ってね。この人が倒れたら、ここにログインするのも危うくなりそうだからさ。
スタミナポーションを一気飲みした宰相の人は、剣呑な雰囲気を和らげて、お菓子を一つ抓んだ。
「マック殿のおかげで、一つ仕事が増えてしまいました。ありがたい悲鳴ですが、また一つ、この国に巣食う病魔を取り除くことが出来そうです」
朗らかに笑う宰相の人の言葉は、全然朗らかじゃない雰囲気を醸し出していた。
頑張って病巣摘出してください。そうしたら辺境で亡くなる人も減るから。悲しむ人も減るから。
あの時見た『高橋と愉快な仲間たち』の悲しそうな顔を思い出しながら、宰相の人に「頑張ってください」とエールを送る俺だった。
もう遅いから、と王宮を辞した俺は、王宮から農園の方に足を進めた。
トレアムさんを連れてきてから結構な時間が経っている。こんな夜中にお邪魔してたのか俺。ちょっとだけ悪いことをしたかな、と思いつつ街灯のついた明るい道を歩いていると、見回りの騎士さんたちとすれ違う。
前に馬を貸してくれた人かな。でも鎧を被ってるから誰が誰だかわからない。
すれ違う騎士さん集団を見送りながら、前にヴィデロさんもあの鎧を着てたんだよなあ、と思い出す。すごく似合っていてかっこよかった。白い近衛騎士の鎧もかっこよかったし、もちろんトレの門番さんたちの鎧もかっこいい。
でも鎧を着るとあの胸筋とかが隠れちゃうのが勿体ない。やっぱり素肌がいちばんかなあ。
いけないいけない。だんだんとヴィデロさんを脱がせたくなってきちゃった。こういう時パンツが張り付いてるのは正直助かる。だって想像しただけで勃っちゃうお年頃だし。俺ももちろん例外じゃないから。
夜風はひんやりしていて、綺麗に整備された道が街灯に照らされてシーンとしている。こんな時間に出歩く人なんていないのかな。
辺りには見回りの騎士さんくらいしか見かけない。けれど見回りの間隔に隙は無く、人の気配がなくなったら即転移してトレに帰ろうと思ってたのに常にマップには人のマークがあって跳ぶことは出来なかった。
もしかしなくてもこんなところを一人で歩く俺って不審者かも。職質されないのが不思議なレベルだよ。って、元から不審者はこの貴族街には入れないんだけど。
農園を目指しながら、すれ違う騎士さんたちに「お疲れ様です」と頭を下げる。騎士さんも同じように挨拶をしてくれるけど、やっぱり「よう!」なんて気楽に声を掛けてくれるトレの門番さんたちが一番な気がする。
特に捕まるわけでもなく無事農園に辿り着いた俺は、モントさんに挨拶するため母屋を訪ねた。
トレアムさんは一足先に帰ったみたいで、もう少し待てばあいつもすぐ帰れたのにな、なんてモントさんに笑われた。タイミングが合えば送ってったのに。
「まあでも、後日同居人と共に馬を返しに来ると言ってたから、それも楽しみなんだろうよ。あれだろ。マックの友人なんだろ」
「輪廻ですか? 友達です。同じ「草花薬師」ですよ」
「そうか。トレアムの所のも「草花薬師」になったのか。いいこと訊いた。ありがとな」
「こう言うのって農園で情報共有するんですか?」
「ああ。ただなあ。トレアムは必要最低限しか話さねえだろ。まだ俺らにその同居人が「草花薬師」っての、あいつ伝えやがらねえ。出し惜しみかよ」
チッと舌打ちするモントさんに、「もしかしたら隠しておきたいのかも。恋人っぽいし」とついポロっと零したら、モントさんは楽しそうにニヤリと笑って俺の頭をポンポン手でたたいた。
今度来た時揶揄うんだって。トレアムさん今までそういう浮名を流したことがなかったからって。俺もその揶揄い風景見たいなあ。
そんなことを考えながら、モントさんに挨拶してトレに戻ったのだった。
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