これは報われない恋だ。

朝陽天満

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番外編3

最強パーティー肉を食む 3

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「ところで最初からすごく気になっていたんだが」



 ようやく一つ目の『高級肉』を手に入れた俺たち。

 ちょっと小腹が空いたということで安全な村に入り込んで休憩をしていると、早速屋台を取り出したたいやきくんがちらりとヴィデロさんを見て口を開いた。



「そっちの鎧の彼氏は薬師マック君の彼氏だろ。こんな魔大陸の真ん中まで来て大丈夫なのか? 魔物化とかほら」



 俺が浄化した『高級肉』を受け取って屋台で切り始めながら、まるで世間話のようにそんなことを聞いていた。

 そういえば今、ヴィデロさんのマーカーは黄色。黄色っていうのは現地の人を指しているから、確かに魔大陸にいると魔物化待ったなし状態のはずだよね。常識では。

 うかつだった。逆にちゃんとプレイヤーとしてここに来てればよかったんじゃないのかな、なんて思っていると、おもむろにヴィデロさんが兜を取った。白い兜を手に抱えた白い鎧のヴィデロさんが眩しすぎて一時の憂いなんて即俺の頭から吹き飛んだ。かっこよすぎだろ。



「お前がここにいるということは、もう神殿には行ったんだろう。俺は、あの神殿を三度抜けて来たんだ。マック一人でこんな危ない場所に送り出したくはなくてな。まあ、大体は高橋が付いていてくれるからそこまで心配はしていないんだが、たまにこちらが驚くほどの無茶をするんだ」

「ああー薬師マック君愛で魔力をクリアしたのか……根性在り過ぎだろ彼氏さん。っつうかその顔俺のフレンドにそっくりなんだが知り合いか何かか? ヴィルっつープレイヤーなんだが」

「一応はその……俺の兄、だな」

「兄ちゃんプレイかよ! 道理で彼氏さんとヴィルそっくりな訳だ。あはは、なんだか複雑だな!」



 朗らかに笑うと、たいやきくんは手際よく肉を串に刺していった。取り出した壺には秘蔵のタレが入っているらしい。この世界でずっと研究しているんだとか。未だに完成形じゃないんだと肩を竦めるたいやきくんは、本物の職人だった。

 ジュワ―という食欲をそそる音と、胃を刺激するいい匂いが辺りに漂う。俺が作った『高級肉』のステーキともまた違う匂いに、三人とも期待で目を輝かせてたいやきくんを見た。

 一つの高級肉は全部で十二本の串焼きに化けた。

 一人三本。普通だったら結構お腹いっぱいになりそうな塊なんだけど、一口食べて俺たちは溜め息を吐いた。



「どうして串焼きは一人三本分しかないんだ……」



 その溜め息の意味を、雄太が如実に言葉にしてくれる。

 肉を焼いたたいやきくんですら、涙目になっている。



「……俺が求めていた物は……この肉だ……!」



 モグモグしながら叫ぶものだから、口から肉の欠片が飛んでいく。それすらももったいなくて、たいやきくんは落ちた欠片に視線を向けて「あああああああ」と野太い悲鳴を上げた。

 ヴィデロさんも、一口食べた瞬間ほう、と満足の息を吐いていた。なんて表情をするんだエロっぽい。ゆっくりと優雅に噛んで、うっとりと味わっている。俺の料理ではついぞさせたことのない顔だった。悔しいけれど、俺にはこの味は出せない。ただでさえ最高級の肉、それをたいやきくんの手にかかったらこうも劇的に変化するのか……。



「これ、一本30万ガルで売りだしても即売り切れるレベル……っつうか俺が買い占める。金が足りなかったら長光に頼んでた属性鎧キャンセルも辞さない」



 雄太は一瞬にして肉を腹の中に消した。そしてこのセリフである。鎧より肉を取った瞬間だった。



「マジで……マジで今日は連れて来てくれてありがとうな、薬師マック君、そして彼氏さんと高橋。俺は今までこれのためだけにレベルを上げたと言っても過言ではない。ちょっと転移で来たからここら辺の場所わからねえんだが、情報として買い取ってもいいか?」



 ぐっと手を握りしめたたいやきくんは、パッと顔を上げると、俺の方を見てカバンの中から世界地図を取り出した。それは、ヴィルさんの地図に負けず劣らず沢山のメモが描かれており、世界食材地図となっていた。すごすぎる。



「それは、構わないけど、来るのが大変そうかも」

「大丈夫、俺は転移魔法陣使えないけど、長光を誘えば一発で頷くはず。長光ってばいつの間にか転移使えるようになってるんだもんよー。俺も覚えたい。そして食材の場所に跳べるようになりたい。っつうことで、対価は何がいい?」

「ええと……秘蔵のタレ……っていうのは絶対無理だって知ってるし、これ食べれるだけでもう」

「あ、このタレ? いいよ。瓶持ってるなら出しな。これ、いつでも追加できるから全然問題なし」

「えっ」



 絶対断られると思いながら口に出した対価は、意外にもあっさりと了承されてしまった。

 嘘だろ、と呆然としながら瓶を取り出すと、たいやきくんは躊躇いなく壺の中の秘伝のタレを瓶に詰めてくれた。



「えっ……これ、本当に? だって一番の商売道具じゃ……」

「いや? 全然。これで対価にしていいのかってちょっと疑問だ。だってこれ、あと一年後にはもっと改良を重ねてる予定なんだぜ。今はこの美味さだけど、一年後にはもっと美味いってことだろ。まだ完成してねえんだから。完成したらそりゃ出し惜しみするけど、今はまだ全然」



 職人だ、職人がいる。

 手元に来たたいやきくん秘蔵のタレをぼんやりと眺めて、俺は途方に暮れてしまった。

 そんな俺の様子を、ヴィデロさんと雄太が笑いをこらえながら見ていた。



「でもこれ、対価としては貰いすぎ……」



 今いる村の場所を地図に書き込みながら呟いた俺は、薬師としてのプライドが疼いた。

 これ、絶対この場所をキュキュッと書き込むだけの対価としては貰いすぎ。



「たいやきくんは調薬キットって弄ったことある?」

「お、一応調薬スキル伸ばしてるぜ。調味料作りにすっげえ役立つからな」



 うん、徹底してる。

 ホッとした俺は、カバンの中からレシピを取り出した。

 俺専用調薬レシピだ。

 その中にある『ディスペルポーション』のページを開くと、躊躇いなく紙を紐から外した。もう覚えてるから全然使ってないページなんだ。



「対価貰い過ぎだから、超過分はこれでどうかな。さっき『高級肉』を洗ったアイテムの調薬レシピ。初級の調薬キットで作れる簡単な物だからすぐ作れるようになるよ」



 俺が差し出した紙を、たいやきくんは凝視した。

 口から「うええぇおぁぁ?」という変なうめき声を発している。



「こここここれは全プレイヤーが欲しがって止まないレシピ! 実物のアイテムじゃなくてレシピ! すすすすげえええええ! え、待ってくれこれ待ってくれ。ほんとにこれ貰っていいのか……? だって場所の対価ってギルドじゃかなり高額だぜ? あのタレくらいじゃ全然わりに合わねえくらいの」

「でも、串焼きが最高に美味しいから。たいやきくんがいなくてもヴィデロさんにこの最高級のタレで肉を焼いてあげられるのは俺にとって最高のご褒美で」



 自分で言ってちょっと照れてしまった俺は、えへへと笑ってごまかした。

 もう一回あの顔が見れるのは本当に嬉しくて。でも自分で作った料理であの顔をさせたくて。たいやきくん秘蔵のタレっていうのはちょっと悔しいけれど、俺料理人じゃないんだよなあ。本職ここでは薬師だし。

 複雑な心境をヴィデロさんのあの蕩けるようなエロい顔で押さえつけた俺は、手の中の瓶をギュッと握りしめた。これは俺の最高のアイテムだよ。鑑定眼で詳細見れないかな。って、それはずるいか。



「え、え、じゃあ俺、これからはいつでも魔大陸の食材を使えるってことか! うおおおお! 俺、頑張ってこのタレ作ってよかった! ありがとう、マック君、ありがとう!」



 ガシッと両手を握られ、上下にブンブンされて、あまりの力強さに身体が上下に持っていかれる。

 手を離された瞬間よろけると、ヴィデロさんの力強い腕で身体を支えられた。この揺るがなさが最高。さ、もっと頑張って『高級肉』ゲットしようね。

 すごく近いヴィデロさんに、思わずにやけると、ヴィデロさんも俺に微笑んでくれた。はうん、蕩けそう。



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