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ゲーム終了後編

144、最推しと共同作業した祭壇が……。

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「宝玉の能力に制限がかかっている?」
「ああ。どうやら我ら王家は平和な世に危機感を忘れてしまったらしい」

 俺たちを呼んだ王弟殿下は、溜め息と共にそんなことを零した。

 きっかけは王太子殿下が、第二王子殿下が厄災の魔物討伐と宝玉の回復で陛下に褒賞を貰ったことで、自身の立場を危ぶんだことだったらしい。
 周りの第二王子派の貴族が、第二王子が継承権を放棄したのにもかかわらず次代国王は全てにおいて優秀なツヴァイト殿下がいいのではと騒いだことで、焦りを感じたらしい。本人も優秀らしいけれど、年も離れているのに第二王子殿下に対して劣等感を持っていたんだそうだ。その魔力の多さに陛下と王妃殿下が大騒ぎしたことで。
 だからこそ、自身の立場を危ぶんだ王太子殿下が第二王子殿下に一人での魔力注入を指示したそうだ。魔力が大量にあるのだから、王子としての責務を負えだのなんのと理由をつけて。願わくば、そこで命を落として欲しかった第二王子殿下はピンピンしており、更に兄様と共にまたしても偉業を成した。
 度重なる功績に、とうとう王太子殿下は耐えられなくなってしまった。けれど、自身の魔法では王弟殿下の魔法がかかっている扉を潜ることすら出来ない。なので、自身の立場の不安定さに燻っていた王弟殿下の長男を巻き込んで、功を焦って馬鹿なことをしでかしたらしい。
 ちなみに、何をしたのかというと、王太子殿下も宝玉の間に入れるようにして、宝玉の土台を少し弄って魔力が流れる回路のようなものを詰まらせたらしい。魔力が十分に回らなくなったら、魔物の出現率が上がるので、手持ちの騎士を動かして恩を売り、国民支持を上げたかったと。

「……これは、宝玉の魔力補充期間が長い弊害か……あの宝玉の重要性が分かってないなんて」

 話を聞いた俺が思わず呟くと、王弟殿下が何とも言えない表情を浮かべた。
 だってゲームのエンディングに直結する程の一番の見どころなんだよ、あの宝玉のエピソードは。それくらい大事なんだけど。
 ちなみに、ゲームで魔力を入れなかったらその後の国の描写はひとつもなかった。先のことを全く語られなかったんだ。それがどういうことかなんて、今ここに立っているとすぐにわかる。先はなかったってことだ。ずっと宝玉のことを教えられてきた王太子殿下たちがその重要性をわかっていないって、それだけ宝玉の力が及ぶ期間が長すぎるせいだ。しかもあの二人は魔力値が攻略対象者たちほど高くないから、ハッキリ言って宝玉にはほぼ関わらない。かといって、自分たちの時代に魔力がなくなるとずっと危惧していた陛下や王弟殿下たちのように試行錯誤したりもしていない。
 ツヴァイト殿下やヴォルフラム殿下は自身が関わることだからと苦悩を重ねてひたすら対策を練っていたというのに。立場の違いってここまで差が出るのか。

「流石に今回の出来事は、陛下も庇いだて出来ないだろう。もし二人をそのまま流すというのなら、私が責任もって退位を促す。……彼も王位に固執していたから、難航するかもしれないな……切り捨てることは、出来ればしたくないんだが……」

 溜め息と共に零された言葉には、王弟殿下の心情がたっぷりと籠っていた。あれか。最終的には王位簒奪的な革命を起こす気満々ですかそうですか。ミラ嬢がいれば絶対に一瞬で成功しそうだけれど。空気を読んで、そのことは口に出さない。
 それにしても。
 うんざりしたような第二王子殿下とヴォルフラム殿下の顔をちらりと見て、心の中で嘆息する。
 やっちまったな、王太子殿下。これで、第一王位継承権と第二王位継承権を持つ王太子殿下と王弟殿下の息子さんが一気に消えるということで。
 第二王子殿下は既に継承権を手放しているから、今後王位継承権があるのは、ヴォルフラム殿下一人になるっていうことか。
 なるようになるってこのことか。
 王太子殿下自体はどうでもいいんだ。
 俺の脳裏には、前に見たヴォルフラム殿下と、折角綺麗なドレスを着ていたのに腕を組んで啖呵を切るミラ嬢が浮かんでいる。
 ということは、なるようになるとはそういうことなんだろうな。恋愛的な意味だけじゃなくて。
 でもそれ自体は悪いことじゃない。ヴォルフラム殿下はどう考えても善政を敷く人物になるだろうし、ミラ嬢は心がとても強いから権力に負けるなんてことはないだろうから。
 第二王子殿下は、隣に座るヴォルフラム殿下の肩をポンポンと叩いた。

「俺さ、本ッ当にさっさと王位継承権手放しててよかった。頑張れヴォル」
「私も外に出ると言っていたのに……」
「こうも継ぎたくない奴らが続出なんて、うち終わってるな」

 力ない笑いでハハハと笑う二人に、王弟殿下が疲れ切った顔で「笑い事じゃないのだが」と注意する。本当に、笑い事じゃないよね。

「これから陛下と共に宝玉の間へ行くのだが……陛下は宝玉を満たしたサリエンテ家の二名を同行させろと言っている。来てくれるか」
「それは王命ですか」

 王弟殿下からの要請に、義父が険しい顔でそう訊くと、王弟殿下はしっかりと頷いた。

「断ることもできない、と」
「いや……もし、アルバ君の体調が悪いのであれば、我々だけで行くように取り計らうこともできる」

 頷いたけれど、俺を見る目には、葛藤が滲んでいる気がした。何せ王命を反故にすることもできるなんて言うくらいだ。 
 もしかしなくても、王弟殿下は俺を陛下に近付けないようにしてくれているのかもしれない。
 でも、王命か。

「何も出来ないと思いますけど、行きます」

 俺がはっきりとそう答えると、義父と王弟殿下が肩を落としていた。



 陛下は宝玉の間に向かう扉の前に数人の騎士たちと共に立っていた。横には王太子殿下と王弟殿下の長男と思わしき人たちもいる。ヴォルフラム殿下のお兄さんは王太子殿下よりも少し若い気がするけれど、王太子殿下は義父と同じくらいの歳に見える。こんな年上のおっさんがまだ小さい弟に嫉妬して亡きものにしようとしていたのか。そしてそれを陛下は知っていて手を打たなかったのか。第二王子殿下の苦労はいかほどか。流石乙女ゲームのセンターを張る過去の理不尽さ。けれど二人は、騎士を伴ってというよりも、連行に近い状態のように見えた。
 対するこちら側サイドは、王弟殿下を筆頭に、義父プラス攻略対象者全員集合とミラ嬢、そして俺。

「連れて来いと言った人数より多いな」
「この者たちはあの時ここにいた者たちですので」

 陛下はかなり多い顔ぶれを見て不満そうだったけれど、王弟殿下はしらっとごり押ししていた。義父はいなかったはずなんだけれど。それはスルーでいいのか。
 皆でぞろぞろ宝玉の間に向かう。
 長い回廊を無言で歩き、宝玉の間の扉の前に着くと、陛下は「開けよ」と連れて来た騎士たちに命じた。
 騎士が扉を開けると、宝玉の間は前よりも寂れた様な状態になっていた。
 魔力が溢れたその日は、とても力強く光に溢れ、壁に綺麗な文様のようなものが浮かんでいた筈なのに、今はそれがか細くしか浮かんでいない。うすぼんやりと光る部屋は、確かに異常事態を表していた。兄様たちもその光景を見て息を吞んだ。

「これは……あの時の半分も力が出ていないじゃないか……」

 呆然と第二王子殿下が呟く。
 陛下は無言で目を細め、扉に向かって手を伸ばした。
 しかし、まるで透明な壁があるかのようにその手を拒んだ。
 魔力値が足りないと入れないというのはアレのことか。
 ヴォルフラム殿下は第二王子殿下と違って、ただ静かに陛下を見ていた。この状態を知っていたみたいだった。

「ヴォルフラムよ、この扉の魔法を解け」
「は」

 陛下は、王弟殿下でもヴォルフラム殿下のお兄さんでもなく、ヴォルフラム殿下にそう言った。
 ヴォルフラム殿下が魔法を唱えると、陛下を拒んでいた透明な壁がなくなったらしい。陛下はその部屋に足を踏み入れようとして躊躇い、フッと小さく息を吐いてから一歩進んだ。
 王弟殿下もそれに続き、騎士たちに連れられた兄ズも足を進めさせられていた。

「デュークよ、宝玉がどうなっているのか、お主はわかるか」
「はい。闇属性と光属性の魔法で本来の力を発揮できないようになっております」
「お主はそれが読み解けるか」
「光の方は何とか。しかし、闇魔法は力及ばず」
「……これは、確かにそこのアインとエイダンが起こしたものなのか? ツヴァイトとヴォルフラムではなく」
「状況は説明したはずです」

 ふむ、と陛下は二人の兄ズに視線を向けた。
 
 
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