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エピローグ

148、最推しが卒業しました。

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 あれだけの大騒動は、表から見ればとても静かに、まるで何事もなかったかのように収まっていた。何せ王太子殿下がやらかしたことは、王家以外にはほぼ知られていない話だから。
 それゆえ、兄様たちの卒業式の日に、陛下が改めて退位とヴォルフラム殿下の即位、それに付随する人事関連の発表をしたことは、国民にとって天地を揺るがす大事となった。
 あの事件が起きたすぐ後に、王太子殿下は色々と理由をそれっぽく付けられて、あの国の秘密は明かさないまま王太子という立場を追われていた。勿論エイダン殿下も。優秀と言われていた王太子殿下が廃太子されたということで、国民も何かを感じ取ってはいたらしいけれど。まさかの政権交代。しかも絶対に王位には立たないだろうと言われていたヴォルフラム殿下が。けれど、陛下がちゃんと説明をしたことと、ヴォルフラム殿下の周りを、発表までの半年弱の時間で固めまくったからか、そこまで国民の中で混乱はなかったように思う。

 既に王太子殿下を中心に王宮が回っていた王宮内は、中央政権にいた貴族たちの立ち位置も含め、全く変わってしまった。
 今まで甘い汁を吸っていた人なんかも炙り出され、王子たちの兄弟仲が悪いのを更にけしかけてみたり内部分裂を画策していた人たちは、背中に汗を掻いていたようだ。
 そんな腐りかけていた王宮内を、義父とセドリック君のお父さんが手を組んで一掃してしまったらしい。二大公爵家に盾突ける者はいなかった。
 しかも第三の勢力となった第二王子殿下……じゃなくてツヴァイト・ソル・ヴィネーラ公爵(仮)がヴォルフラム陛下に剣を捧げたということで、三大勢力となった公爵家を相手どる事の出来るような傑物は皆無となり、王宮勢力は今までにない程に結託されたという。ちなみにヴィネーラ公爵への侮辱を口にしたということで、セドリック君のお母さんは、セドリック君自身の手によって領地に押し込まれたらしい。もう中央政権には戻ってこないということで、女性の勢力図も一掃された。今までトップに立っていたセドリック母がいなくなったことで、うちの母が筆頭公爵夫人として中央に君臨するとか恐ろしすぎる。母はなかなかにまったり派だから、ちゃんと出来るのかとても心配。
 あとやっぱりミラ嬢は市井の生まれだということをあげつらう人たちも出てきて、そういう人たちはまるっと義父たちに閑職に追いやられていた。市井自体は魔物が激減したお陰でいたって平和だったんだけれど。市井の女性が王妃になるなんて王道シンデレラストーリーなので、むしろ市井では大盛り上がりだった。劇場ではこぞって二人の愛の物語を上演し始めたらしい。どんな話なのかとても気になる。何せミラ嬢は初日に招待されて、後々人のいないところで腹痛を起こすほど笑ったらしいのだ。勿論、上演中は腹筋を総動員しで我慢し、王宮に帰って来た途端にヴォルフラム殿下に縋りついて笑いだしたというから。かなり見てみたい。

 俺とセドリック君が仲良しだったというのは、実はかなり義父たちの追い風となっていたらしく、義父とセドリック父が手を取るのがとても容易だったようだ。こんな俺でもお家の役に立つならよかったよ。突撃してくれたセドリック君様様だ。
 義父たちによるお掃除は容赦なかったよとミラ嬢から聞いたので、本当に容赦なかったんだろう。義父、カッコいい。
 兄様とブルーノ君も、ヴォルフラム殿下の傘下に下る旨を宣言し、次代の若者たちもヴォルフラム陛下を中心にかなりがっちり固められた。その後、ヴォルフラム殿下はフリーでいたアドリアン君をミラ嬢専属の護衛に任命し、リコル先生以外の攻略対象者が全員手を組んでいた。
 俺を病から解き放ったあのレガーレは国を挙げての一大事業として、他国への輸出も視野に入れ、本格的に始動した。これで、俺は堂々と魔法を使えることになった。
 あの宝玉に魔力が満ちているからか、魔物の数と強さは激減した。そして国内がほぼ満遍なく豊穣だった。これが、宝玉の魔力が満ちている限り続くとなると、確かに他国に攻め入らなくても自国内で自足自給出来て戦争になんてならないなと、納得せざるを得ない平和が訪れた。そしてどの国も王族はちゃんと戦争ダメ絶対の教えをひたすら叩き込まれるはずだから、しっかりと宝玉に魔力さえ入っていれば世界中が平和ってことだ。たまに暴君などが出て来るらしいけれど、そんな場合は今回の自国のように内乱や政権交代が起こるので、外の戦争まではいかないらしい。素晴らしき世界。

 
 兄様たちが在学中に、上記の全ての片が付いた。
 残りの半年ほどはミラ嬢はヴォルフラム殿下の婚約者として、学園で仲睦まじい姿を披露し、卒業と同時に戴冠及び婚姻の流れとなった。ということで、国民の皆が知った時には、既に戴冠の儀はすぐそこだったというわけだ。文句を出す間もない。
 そしてとうとう、兄様がアプリゲームの舞台だった王立ソレイユ高等学園を卒業した。
 卒業生の挨拶は流石に第二王子殿下がしたけれど、その場で第二王子殿下は皆に「王宮を辞して公爵としてヴォルフラムの政権を盛り立てていくつもりだからよろしく」とウィンク付で挨拶したことで、粛々とした雰囲気はぶち壊され、盛大に盛り上がった。仲睦まじい二人を囃し立てる歓声まで上がった。紳士淑女どこ行った状態で本当に盛り上がった。そういう俺は、中等学園を休んで卒業式に出たので、その盛り上がりを目の前で体験した。熱気が凄かった。卒業式ってこんな感じなのかな、と思わず呟いたら、隣に座っていた義父が苦笑しながら「今年が特別なだけだよ」と教えてくれた。義父の年は粛々と式を終えたそうだ。
 そして第二王子殿下改め、ツヴァイト・ソル・ヴィネーラ公爵家のカッコ仮が外れ、正式に最上位貴族として出発した。
 兄様とブルーノ君は最後まで総会とか生徒会とかそういう立場には立たず、俺が愛してやまなかったゲームのストーリーとはまったく違う道筋を辿り、まったく違う結末を迎えた。
 兄様は俺と、ブルーノ君は妹のルーナと婚約をして、俺とルーナが高等学園を卒業し次第ちゃんと婚姻を結ぶことになる。
 一応攻略対象者と結ばれたミラ嬢は、隠れキャラのヴォルフラム殿下とのエンディングを迎えた、ということでいいんだろうか。俺はヴォルフラム殿下のエンディングの内容を全く知らないけれども。
 公爵家は兄様が継ぐことに決まっていて、後継ぎはブルーノ君たちの子が生れたら一人を俺たちの養子にしようという話までまとまっているのに結末だなんて言えないよね。まだまだこれからなんだから。


 高等学園に入学してから、俺は学園の勉強の他に、魔術陣の勉強を本格的に始め、学生のうちに資格を取った。
 なので、学園を卒業したら、俺は王宮お抱えの『刻魔導師』及び『魔術陣技師』となる。絵は趣味にとどめ、たまに親しい人から依頼を受けて描く程度にしている。ブルーノ君たちはルーナと婚姻したらサリエンテ公爵領に移り、そこで研究施設を拡大し、更なる研究をするらしい。なので領地はルーナたちに丸投げ。
 俺が王宮近くにいないといけないからという措置だけれど、俺が王宮に通うようになったら、兄様も王宮でお仕事をするんだそうだ。なんだかんだで、ツヴァイト殿下と共にヴォルフラム陛下の側近に収まってしまった。俺がどこかで魔法を発動してしまったときの為に、とヴォルフラム陛下が画策してくださったんだ。
 側近の任命式の兄様は、ツヴァイト殿下とおそろいの衣装を身に着けて、ヴォルフラム陛下の前に首を垂れた。俺も王宮所属になるかもしれないからとこっそり任命式に忍ばせて貰ったんだけれど、兄様が格好良すぎて倒れるかと思った。
 その後のパーティーはとても豪華で、でもそんな中でも特に素晴らしい兄様にはとても注目が集まっていた。何せ若き側近。しかもヴォルフラム陛下の信も厚く、見目麗しい。婚約はしているけれど婚姻はまだだということで、兄様たちの同学年の女性以外の方たちから、かなり言い寄られていた。兄様たちの年の女性たちは、逆にそういう女性を蹴散らし、俺を安心させるようににっこりと笑っていたけれども。
 兄様と共にダンスを楽しんでいると、いきなりパリン、とガラスの砕ける音がした。
 そちらに視線を向けると、そこにはミラ王妃が仁王立ちで立っているのが目に入った。

「貴方、今なんておっしゃいました? わたくし達に取り入って? 親子ともども図々しいと」
「あの、いえ、そんな」
「誤魔化さないで。しっかりとこの耳で聞こえましたわ。取り入ると。そんな侮辱の言葉、この様な場所で聞こえて来るとは思いませんでしたわ」
「も、申し訳ありませんでした……! そのような意味ではなく……!」

 ミラ王妃の前にいた人は、真っ青な顔をして、頭を地面にこすりつけていた。
 その人のすぐ近くにガラスの破片が落ちている。 
 鷹揚に座り、事の次第を見守っているヴォルフラム殿下の前で、ミラ王妃は腕を組んで男を見下ろした。
 とても美しい可愛らしい笑顔を浮かべて。

「わたくし達に取り入るなどと、二度とおっしゃらないことですわね。わたくし、そこまで甘くはありませんわよ。そんな陰口を叩くくらいでしたら、とてもおしゃべりが好きなのでしょう。今のお仕事ではなく、ずっとおしゃべりをしていられる場所にでも転職したらいかがかしら? わたくし、陛下を侮る人間は容赦いたしませんわよ」

 男の後頭部に手に持っていた扇子を軽くぺしぺしと当てると、ミラ王妃は会場の人たちに「余興はここまで。皆様、お楽しみくださいね」ととても優雅で美しい笑顔を見せ、ヴォルフラム殿下の横に戻っていった。
 その光景は、ミラ嬢が立派な椅子に座るヴォルフラム殿下の横で啖呵を切っているあの映像と全く同じもので。
 完全に一致するこの光景に笑いそうになるのだった。あの這いつくばっている人を王宮から追い出すなら盛大に手を貸そう。親子ともどもって、うちの義父と兄様を侮辱したのと同義語だ。ミラ王妃に先を越される前に始末しないと。
 笑顔で青筋を立てていると、兄様がそっと俺の腰を引き寄せた。

「あんな小物は放っといていいよ。アルバは今僕と踊っているんだから、僕を見て」

 とても近しい兄様の声に、俺は一瞬で男の存在を忘れたのだった。
 兄様、最近とても色気増し増しですね!

 
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