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番外編

作戦開始。

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 流れは大体俺が視たものから組み立て、更に詳細な作戦を練り、当日を迎えた。
 今日は決められた時間に各国の代表がうちから送られた転移の魔術陣で集合し、宝玉関連の会議を開く。
 これは一度では無理なので、次用の魔術陣を配ったり、時期を話し合ったりして、ある程度まとまったら、秘密裏に晩餐。
 この晩餐には、うちの国の貴族も呼んでいない。本当に各国王族とその側近護衛のみの参加となる。でもまあ俺は説明したり、どういう経緯で宝玉公開の考えに至ったかを説明サポートしないといけないので、側近の兄様と共に出席。
 多分、ここでヴォルフラム陛下が不調になる何かを口にするんじゃないかという皆の憶測により、ツヴァイト閣下がすぐ横で全てを鑑定することになっている。
 アドリアン君はもともとミラ妃殿下の護衛なのでついており、何かあった時にと、その道のプロ二人、ブルーノ君とリコル先生が隣室で待機している。やっぱりここはちゃんとすべての流れを知っている人を呼ばないとね。ブルーノ君はなんと解毒薬を何種類も抱えて来たので、ある程度の毒には瞬時に対応できるそうだ。それにその毒が少しでも残っていれば、それを元に関連の植物を生やせるようになったらしいから、ブルーノ君は凄い。よっ、毒の第一人者。と前に囃し立てたらこめかみグリグリされて涙目になったので、心の中でだけ呟いておく。
 
 胸元に、兄様の魔力の結晶である蝶を飾り、上着やシャツのポケットに魔術陣を。
 この間兄様に怒られながら作り上げた魔術陣は、何度も使ってみて確認して、実用化にこぎつけている。
 前々からあった狼煙の魔術陣とは違う用途で使えるようにしたものだ。
 そしてブルーノ君飴と、飲み込むタイプのレガーレを内ポケットに詰め込み、姿見で服が不自然に膨らんでいないかをチェックする。
 他の国の人に会うなんてほぼないからか、ちょっと緊張する。
 きっと晩餐が終わるころには俺は馬車の中で寝かされているだろうし。
 でも相手は分かっているから、とやれることはとことんまでやったはず。
 
 落ち着いているけれど、よく見るととても繊細な上着を整えて、兄様の所に向かった。
 兄様は今日、護衛ではないけれど、帯剣を許してもらっている。
 キリッと立つ姿はとても神々しく、あまりのかっこよさに一瞬意識を失いそうになったほどだ。もっと小さい時だったらきっと撃沈していた。あまりの尊さに。でも魔力譲渡キス、婚姻式、そしてショヤを経て、俺は兄様レベルが上がったので何とか正気を保っていられるのだ。
 本番前に兄様の姿を堪能していてよかった。本番で初めてあの姿を見てしまったら、ちょっとヤバかったと思う。
 地下入り口で警備の指示を出していた兄様と合流し、そのまま階段を下りていく。
 各国の王族の方々には、真っすぐ宝玉の間に集まって貰って、そこからの移動は転移魔法陣で行うことになっている。流石に場所まで教えるのは今の段階では難しいということを説明したら、皆納得してくれたらしい。どこも一緒。
 ヴォルフラム陛下の闇魔法とミラ妃殿下の光魔法を連携させてセキュリティーを強化している宝玉の間は、二人よりも更に魔力が高くないと悪戯も出来ない仕様になっていて、俺と兄様の連携魔法くらいしか破れないだろうと言われているので、一安心。他国に魔力が莫大な人がいるかもしれないけれど、固い絆で結ばれた二人の連携魔法がとんでもない威力だということは、実はあまり知られていない。連携魔法事態はどこの国でも研究しているらしいけれど、滅茶苦茶仲のいい研究者二人が手に手を取って研究、なんて状況はほぼないので、気付けないようだ。
 取り敢えず俺と兄様がヴォルフラム陛下のセキュリティの下で連携魔法を使うと反応して破裂するらしいので、いざというとき以外は使わないようにキツく言われている。
 

 さてさて。
 そろそろ皆が魔術陣を使う時間が迫ってきている。
 こちらから送った魔術陣以外は弾く作りになっているし、場所が宝玉の間指定されているので、ここで待てば全員が集まる。
 こちらが送った魔術陣を紛失、ないしは破損した場合は、今回のこの説明には来ることは出来ない。
 王家の紋章が入った物を大事に出来ない国、という枠に分けられ、ここで公開される情報も手に入れることが出来なくなる。そのこともきちんと説明を添えているので、後から文句も受け付けない。そこらへんはツヴァイト閣下が一手に担っていたから、問題なし。
 宝玉の間内部はそれほど広くはないので、王族分だけ椅子を用意している。これも、使う魔術陣によって、その国用に用意した椅子の付近に現れることになっている。番号として把握もしているので、どの国の王族かが、席に座ったことでわかるようになる。ここらへんはミラ妃殿下が色々と考えてくれた。「だって座らせちゃったら数えるのが簡単でしょ」とにこやかに言っていた。孤児院で大騒ぎする子供を数える時に、その手を使うらしい。王族を子供扱いするミラ妃殿下にちょっと笑いがこみ上げた。

 ヴォルフラム陛下は既に中央に立っている。その横で、着飾ったミラ妃殿下も佇んでいる。口を開かなければ淑女の鏡のような姿だから、絵になる。口を開かなければ。
 
「そろそろだな。アルバ、大丈夫か」
「大丈夫です。兄様の蝶も飾られているので準備万端です。蝶がいれば怖いものなしです」
「……取り敢えず、気を付けろ。怪我をするなよ」

 オルシスが怖いから、と小さな声でヴォルフラム陛下が呟いたのが聞こえた気がしたけれど、きっと気のせい。
 俺は気合を入れて、胸元の氷の蝶を見下ろした。



 一人も欠けることなく、招待状を送った全ての国の王族が集まった。
 その集まった王族たちはヴォルフラム陛下とミラ妃殿下の説明を聴いた後、怪訝な顔をする者、驚いた表情の者、そして、興味なさげな者、俺を観察する者など、三者三様の様相を呈していた。

「一度国に持ち帰って、しっかりと検討してみて欲しい」

 そう締めくくったヴォルフラム陛下が合図をしたので、俺たちは一人一人に魔術陣を配った。晩餐が用意されている部屋に向かう魔術陣である。俺お手製である。
 歩くのが億劫なのか、城の内部を公開する気がないことをちゃんと理解してくれているのか、誰も文句を言わなかった。
 ここまでは順調だった。
 ホールに移動し、要人以外はいない晩餐会を開始する。
 酒の入った人たちは、案の定俺が『刻属性』だからと俺を囲んだり、陛下に質問に行ったりと、割と自由に動き始めた。
 兄様は側近のはずなのに、俺の横で腰を抱いている。
 いやいや兄様、ここまでぎっちり抱き締めていたら俺攫われないですよ。

「貴殿らは義兄弟ときく。随分仲がいいな」
「はい。義兄弟から、伴侶という形に変えて慈しんでおります」
「伴侶か。そうか。どちらも見目麗しく聡明なので、我が国に引き抜こうと思ったのだが」
「それ以上はどうかお戯れを。私達は我が国王陛下に忠誠を誓っております故、他の国では今と同じような力は発揮できません」
「そこまで言われては引き下がるしかあるまい。しかし友好を結んでいる我が国がピンチの時は、是非その類稀なる力を貸して欲しいものだ」

 兄様ははいともいいえとも言わず、ただ綺麗に微笑んだ。兄様の顔に見惚れているよ、この王族。俺のなんだから二度と勧誘しないように。
 表面上はにこやかに対応しながら、心の中でムッとする。
 他にも似たようなことを言ってくる人たちに辟易しながらお相手していると、ヴォルフラム陛下の耳元でツヴァイト閣下が何か囁いているのが目に入った。
 それは兄様も見ていたようで、ぐっと俺の腰を支える腕に力を込めた後、フッと腕を解いた。
 ちょっと寂しいなと思いつつ、席を立つ。
 
「……オルシス様、少し、席を外します」

 少しだけ頬を熱くしながら、兄様にそう声を掛けると、兄様はたまらないとでも言うようにフワッと微笑んでから、少しだけ寂しそうな顔になった。
 オルシス様呼びなのは、伴侶なので兄様呼びよりも名前で呼んだ方が親密度が高く思えるというミラ妃殿下の言葉によるものだ。照れる。本当はオルシスと呼べと言われたけれど、はい無理。一度呼んだけれど、あまりの恥ずかしさと恐れ多さと兄様の蕩ける顔に、心臓が止まりそうになってやめた。妃殿下も兄様のその顔を見て、「だらしなさ過ぎるからダメね」と諦めてくれたのでホッとした。
 予定通り、晩餐の終盤で、俺は兄様から離れた。
 ヴォルフラム陛下は例の伯爵から差し入れられたワインのグラスを手にしている。
 多分先程の耳打ちはそのワインの成分報告だったのだと思う。王家に差し入れする物に何かを入れるなんて、処刑されてもいいくらいなんだけど。
 証拠が欲しかったんだろうなあ。皆の前で「メルボン伯爵からの差し入れか」とハッキリ言っていたので、飲んで陛下が不調になったら、メルボン伯爵家終了の合図なんだけど、分かっているんだろうか、彼の伯爵は。
 じろじろと注目される視線を感じながら、俺は陛下に近付いた。
 陛下とツヴァイト閣下に声を掛けて、広間を辞する。
 入り口付近でアドリアン君が視線で合図してくれたので目を細めて返事をすると、フッと一瞬だけ心配そうな顔つきになった。
 大丈夫。何せ俺には兄様の蝶が付いているから。
 視線を下げると、タイの所にしっかりと蝶が止まっていた。可愛い。
 これで百人力。
 レストルームにゆっくりと向かいながら、周囲をそれとなく注意した。
 廊下は護衛達が結構な数いるので、仕掛けてこないのではないか。
 そう思っていると、向こうから当のメルボン伯爵がさりげない歩調で歩いてきた。
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