死にたがり(愛されたがり)の悪役令息

たまも。

文字の大きさ
71 / 79
学園入学編

68‐嫉妬

しおりを挟む


周りの時間が止まった。そんな感覚に陥った。

目の前のアレンが何を言ったのか。一瞬理解できなかった。

その事実を受け入れられなかったからだ。


うそ…でしょ…?そんな、まさか……


何とか頭で理解しようとしている間にもアレンが手が首にくい込んで圧迫するのは止まらない。なにか喋ろうとしても変な声と息しか出ない。


「ッグッ…キュッ…アレ…ン…ッ」


「2年前だ。階段から落ちた後俺はこの忌々しい平民に成り下がっていた。

何をしたんだお前?なあ!!」


そんなの僕が知りたい。いつの間にかこの体になっていた。返せるなら返したい。

僕だってあんな家のいざこざなんて見たくなかった。巻き込まれたくなかった。

せっかく死んだのに。


ググググッ


「ギッ…ァッ……」


アレンの首を掴む手の力が強まってくる。


もういっそ、ここで殺してくれ。


そう思い始めた時だ。人がこちらに向かってくる足音がする。


「チッ…」


アレンがパッと僕から手を離す。
体に力が入らずそのまましゃがみこんでしまう。


「ゲホッ、ケホっ…」


アレンは僕の頭を掴み、上を向かせる。


「これから仲良くしてね。ルーク様♡」


アレンとは思えない歪んだ悪役の満面の笑みで僕に笑いかける。


僕に興味をなくしたように冷たい顔になって頭から手を離し、手をヒラヒラと僕に振りトイレから出ていった。


「っ…けほ…」


頭がまとまらない。何が起こったんだ。
アレンがルーク?ここは僕が知ってるアニメの世界ではないのか。これからどうなる。何が起こる?僕は死ねるの?アレンはこれから僕をどうするつもりなんだ?


僕は一体、なんなんだ。



「…兄上?」


どうやら足音の正体は戻ってこない僕を探しに来たラルクだったらしい。


「兄上っ!大丈夫ですか!?」


膝を地面についている僕を見つけ、心配そうに駆け寄ってくる。アレンに掴まれ乱れた髪に、乱れた服。首と手に力強く掴まれた鬱血痕。
明らかに何かありましたという状況。

僕の体を触り傷を確かめながら怒った獣のような顔でラルクが唸る。


「…さっきすれ違った奴にやられたのか?」


「…大丈夫…大丈夫だから」


「言えよ。やられたんだろ?」


今にもアレンを追っていきそうなラルクの腕を掴んで何とか行かないように止める。


「ぼ、ぼく…おれが!俺が煽ったから。俺が悪いから」


「……兄上」


「だから…だから…」


「…何で、俺を頼ってくれないんだよ」


怒りの表情に悲しみが混じったようななんとも言えない表情で僕を見る。


…頼れないよ。どうやって頼ればいいの。
何を頼るの。分からないよ。僕どうしたらいいの。どうしたら許してくれる?

ごめんなさい。ラルクに迷惑かけてる。死にたい。ごめんなさいごめんなさい。

頭がこんがらがってぐるぐるする。


「…兄上、もう寮に戻ろう」


「……うん…」


ラルクに服と髪を整えられトイレを出てラルクに支えられ歩いている時だ。

アーノルドとアレンが喋っているのが目に入る。


ぁっ…


無意識に体が立ち止まって一瞬立ちつくしてしまう。


僕は今盗られたと思ったのか…?アーノルドを?ただ喋ってるだけなのに?

馬鹿じゃないのか。何ショックを受けているんだ?あれが正しい形なのに。何がそんなに……中身がルークだから?でもルークは今アレンだろ。

それに、元々婚約者はルークなのだから、盗ったのは僕の方じゃないか。

そもそも盗られたってなんだよ。

あれだけ心を許さないとか、受け入れないとかやってたのに、なんで、なんでだ。

自分が気持ち悪い。嫌い。嫌い。


「兄上…?」


「何でもない。行こうラルク」


アーノルドとアレンを視界に入れないように会場から足早に出て行く。

何人かに話しかけられたが、全て無視をした。とにかく、ここにいたくなかった。


…僕って最低だなぁ。誰でもいい、もう殺してよ。お願いだから。もうこんな汚くてどうしようもない僕を殺してくれ。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

弟勇者と保護した魔王に狙われているので家出します。

あじ/Jio
BL
父親に殴られた時、俺は前世を思い出した。 だが、前世を思い出したところで、俺が腹違いの弟を嫌うことに変わりはない。 よくある漫画や小説のように、断罪されるのを回避するために、弟と仲良くする気は毛頭なかった。 弟は600年の眠りから醒めた魔王を退治する英雄だ。 そして俺は、そんな弟に嫉妬して何かと邪魔をしようとするモブ悪役。 どうせ互いに相容れない存在だと、大嫌いな弟から離れて辺境の地で過ごしていた幼少期。 俺は眠りから醒めたばかりの魔王を見つけた。 そして時が過ぎた今、なぜか弟と魔王に執着されてケツ穴を狙われている。 ◎1話完結型になります

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

人気俳優に拾われてペットにされた件

米山のら
BL
地味で平凡な社畜、オレ――三池豆太郎。 そんなオレを拾ったのは、超絶人気俳優・白瀬洸だった。 「ミケ」って呼ばれて、なぜか猫扱いされて、執着されて。 「ミケにはそろそろ“躾”が必要かな」――洸の優しい笑顔の裏には、底なしの狂気が潜んでいた。 これは、オレが洸の変態的な愛情と執着に、容赦なく絡め取られて、逃げ道を失っていく話。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

ヤバい奴に好かれてます。

たいら
BL
主人公の野坂はある日、上司である久保田に呼び出された。その日から久保田による偏狭的な愛を一身に受ける日々が始まった。 他サイトにも掲載しています。

処理中です...