やがて光りの王となり

雉村由壱

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【 第三章 】やがて光りの王となり

泉にて②*

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「あんり笑いすぎると傷に響くぞ」

 十代の子供のように些細なことで笑い続けるマティアスをカイは呆れながら諌めた。

「だ、誰のせいで……っ」

 顔に泥をつけたまま笑いを堪えようとしているマティアス。カイはそれを微笑ましく眺めながら髪の濯いでやった。髪は滑らかさを取り戻しカイの指の間を泳ぐように流れていく。それから顔の泥も流す。滑らかな頬に触れながらカイは思ったままを口にした。

「髭生えてんのか? 丸二日も剃ってないけど」

「は、生えてるよっ」

「あー、この辺りにちょっとあるか。薄いなぁ」

 泥を落とすと指先に微かにザラつく部分を感じた。近くに置いておいた荷物からハラルドに持たされた剃刀を出し、マティアスの頬にそれを当てた。大して濃い髭も無く滑らかな肌に刃物を当てるのはむしろ怖いくらいだ。

「はい、終わり」

 髭を剃り、泥も綺麗に洗い流し、カイはマティアスを覗き込み言った。マティアスもまたカイを見上げて「ん、ありがとう」と礼を述べる。

「その布で髪拭いて……」

 長い髪を絞ってやりながら指示をしようとするとマティアスはカイをじっと見つめてくる。

「なんだ?」
「……私も水浴びしたい」

 髪は洗ったがどうせなら身体も洗いたいのだろう。だがマティアスはまだ大怪我している状態だと言っていい。

「水冷たいし、脚つかないぞ。泳げるのか?」
「泳げるけど、右腕だけだと難しいかも……」

 それは現状は泳げないと言うことじゃないか、とカイが思っているとマティアスはポソッと小さく呟いた。

「ウィルが抱いてくれればいいと思う……」

 カイは一瞬固まった。つまりそれは全裸のカイが全裸のマティアスを抱きかかえて泉に入ると言うことだ。

(俺に酷い抱かれ方されたってわかってんのか……?)

 たぶんわかってないなとカイは思った。ロッタも同様のことを言っていたし、何よりマティアスはもはやカイのことを『騎士のウィル』と同一視していると感じる。その証拠にカイが『ウィル』と偽名を使うようになってから、マティアスはごく自然に『ウィル』と呼んでいる。

 しかし、王という立場を脱ぎ捨て素直に甘えてくるマティアスをカイが拒絶できるわけもなく……。

「水冷たいからちょっとだけな」

 そう言うとマティアスは嬉しそうに微笑み、着ていた寝巻きを脱ぎだした。

 マティアスは恥じらうことなくあっさりと服を脱ぐ。以前の城であったクレモラ卿からの尋問の際も潔く裸になった。そういう所は実に男らしい。
 マティアスは傷を覆っていた布もとると、顔を歪ませた。

「凄いことになってる……」

 魔術で修復された薄い皮膚の下はまだ赤黒く、そして肩と左胸全体も内出血で青くなっている。

「一昨日は血の気が引いて真っ白だったよ。回復してる証拠だ」

 カイは石の上に座るマティアスに近づき両手を広げた。マティアスは患部を気休めに髪で守るように覆い、カイの肩に右手を置きゆっくりと泉に入って来た。

「うわっ、冷たっ!」

 腰まで水に浸かった段階でマティアスは身を震わせた。

「だから言っただろう」

 カイは笑いながらマティアスをそっと抱きかかえゆっくり水に入った。
 マティアスの滑らかな肌が直にカイの肌に当たる。カイはなるべく意識しないように努めた。

「痛いか?」
「大丈夫だ」

 マティアスの身体を水温に慣らしながらカイは聞いた。

「骨も折れてたって魔術師が言ってたぞ。相当痛かっただろう」

「んー、あまりよく覚えて無いんだ」

 マティアスはカイに抱き着きながら記憶を巡らせている。

「アーロンが吹き飛ばされて、次の瞬間もう輝飛竜に踏まれてた。そしたらウィルが走ってくるのが見えて……ウィルまで襲われたらと思ったら……すごく怖かった。そこから記憶がない」

 カイはあの時マティアスが『来るな』と叫んだことを思い出した。過去の男に似ているというだけで寄せられている好意であっても、心配してくれたことは純粋に嬉しいと感じる。

「招待客なんだから、あんな無茶しなくて良かったんだ」

 マティアスはカイに抱きかかえられたまま偉そうにそう言い、カイの頬をつねってきた。

「でも俺が出しゃばったから今二人とも生きてるんだ。良かっただろ?」

「結果としてはな」

 マティアスのツンと素っ気ない態度にカイはわざとらしくむくれた表情を見せた。

「なんだよ。もっと褒めてくれよ。ただの仕立て屋が飛竜相手にサーベル一本で挑んだんだから」

「まったく、とんでもない仕立て屋だな」

 マティアスはクスクス笑った。そしてつねったカイの頬を今度は優しげな手つきで撫でてきた。

「……感謝してるが、褒めないぞ。もう二度とあんな無茶しないでくれ」

 約束は出来ないとカイは思った。
 きっとマティアスが窮地に立たされれば、その時はまた勝手に身体が動くだろうという確信がある。

「あんまり浸かってると冷える。洗えばいいのか?」

 カイははぐらかすようにそう聞くと、マティアスの答えを待たずにその背中を撫で回した。

「ちょっ! 待ってっ、く、くすぐったいっ!」

「暴れるなよ。傷に響く」

「そ、そんなこと言ったってッ! ひゃぁ! わ、脇はダメッ!」

 くすぐられて笑い転げる子供のようにマティアスはカイの腕の中で身を捩る。仰け反ったマティアスの右胸が目に入った。負傷している左側とは対照的に白い肌に映える瑞々しい赤い飾り。そして手のひらに感じる滑らかな肌の感触。
 カイはグワッと下半身に血が集まるのを感じた。

(まずい……)

 流石にこの密着した状態で勃起してしまったらすぐにバレる。

「さ、もう上がれ」

 カイはそう言ってマティアスを泉の淵に促した。

「ああ、そうするよ」

 マティアスは笑い疲れたようでヘロヘロと先程まで座っていた平たい石にすがりついた。
 片手で必死に上がろうとしているので、カイが水中からマティアスの脚を押し上げてやった。しかしそれがとどめとなった。マティアスの白い尻とさらにその奥の秘めたる場所が目の前晒された。

「んっ、あっ、ありがとっ」

 なんとか泉から出たマティアスは石に全裸で寝転ぶ形になりながら体勢を整えている。さしずめ浜に打ち上げられた人魚のようだ。

(……なんでこんなに無防備なんだよっ!)

「ちゃ、ちゃんと拭いて、荷車、陽が当たってるから乗って身体を温めてろ。俺も身体洗ったらすぐ上がるから」

 カイはそう早口で指示をした。マティアスは「わかった」と素直に頷き、身体を拭き始めた。

 マティアスが身体を拭き再び寝巻きを着て荷車に行ったのを確認し、カイは泉を泳ぎ少し離れた所へ移動した。
 冷たい水の中にもかかわらず股間のそれは硬く天を仰いでいる。急ぎ処理しなければと思いそれを握り扱いた。

 先程のマティアスを思い浮かべる。
 尻の谷間から見えた薄紅色の蕾。先日引き裂いてしまったそこは綺麗に治り慎ましやかに閉じていた。
 今度する時はゆっくり時間をかけて解し、トロトロに溶かして気持ちよくさせてやりたい、等と思いながら手を動かす。次があるかなんて分からないのだが……。

「……くっ!」

 マティアスとの蜜月を妄想しカイは水の中で欲望を吐き出した。
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