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第2章
鞍馬寺 その1
牛若は鞍馬寺に入寺すると、遮那王という稚児名をもらい、この境内で16歳の年に受戒、すなわち出家の儀式をするまで、読み書きを習い、経を覚える日々を送る事になった。
そんな遮那王の様子をうかがうために、常盤は定期的に鞍馬寺までやって来て、遮那王と面会していた。
「牛若、いえ遮那王や。元気で暮らしていますか?」
「はい。母上も元気そうで。」
遮那王は、常盤と長成との間に生まれた赤子を思い出しながら尋ねた。
「ところで小福丸は元気ですか?
僕がここに来た時は、まだ乳呑み児でしたが・・・。」
「ええ。もう数え年2歳になりますから・・・。元気に遊びまわっていますよ。」
「もうそんなになりますか・・・。」
しばらく沈黙した後、遮那王はそっけなく言った。
「では、この辺で失礼します。」
常盤は、すこしたじろいだ。
「え?」
「何か他にご用がありますか?」
「いえ・・・。」
「でしたらこれで。」
遮那王は、さっさと席を立った。
常盤は寺を去る前に、東光坊に挨拶に行った。
「東光坊様、あの子は、遮那王は元気でやっているのですか?」
「おや?さっき会ってきたのではないのですか?」
「ええ、会うには会いましたが・・・。あの子、何だかよそよそしくって・・・。
やはり、私はあの子に負い目があるものですから・・・。
何だかこちらからは今一歩踏み込めないところがあるのです。」
「そうですか・・・。
遮那王は、利発な子ですよ。とても・・・。
読み書きなど、あっという間に習得しましたし、性質、器量、容貌といい、他の稚児より遥かに立ち優っています。
比叡山延暦寺や三井寺にも、これほどの稚児がいるとも思えません。」
「それは良かった・・・。そんなに誉めていただけるなんて、遮那王も幸せ者です。」
「ただ・・・。」
「ただ?」
東光坊はそのまま黙り込んでしまった。
その後、遮那王の身の回りの世話係をしている和泉坊という僧が、読経しているはずの遮那王の所に行き、御簾を開けた。
「遮那王殿。先程から読経の声が聞こえませんが、阿弥陀経の一巻は読み終えましたか?」
「いいえ。」
「・・・では、どこまで読み終わりましたか?」
「一行も読んでおりませぬ。」
「・・・そのような事でどうするのですか・・・。
本当に、僧になる気がおありなのですか?」
「・・・。」
和泉坊は、ため息をついた。
「では、しばらくしたらまた来ますので、それまでに読み終えて下さいね。」
和泉坊は、御簾をおろした。
遮那王は静かになった後に心の中でつぶやいた。
(僧になど、なるものか!)
そんな遮那王にほとほと手を焼いた和泉坊が、東光坊に相談に行った。
「東光坊様、ご相談があります。」
「遮那王のことか・・・。」
「・・・はい。
遮那王には、困ったものです。
経を覚える気が全くないのです。
経を教えるようになってずいぶん経つのに、まだ阿弥陀経の一行も覚えていません。読み書きなどは、あっという間に覚えたというのに・・・。」
「分かった。遮那王をここに連れてきてくれ。私に考えがある。」
「はい。」
そんな遮那王の様子をうかがうために、常盤は定期的に鞍馬寺までやって来て、遮那王と面会していた。
「牛若、いえ遮那王や。元気で暮らしていますか?」
「はい。母上も元気そうで。」
遮那王は、常盤と長成との間に生まれた赤子を思い出しながら尋ねた。
「ところで小福丸は元気ですか?
僕がここに来た時は、まだ乳呑み児でしたが・・・。」
「ええ。もう数え年2歳になりますから・・・。元気に遊びまわっていますよ。」
「もうそんなになりますか・・・。」
しばらく沈黙した後、遮那王はそっけなく言った。
「では、この辺で失礼します。」
常盤は、すこしたじろいだ。
「え?」
「何か他にご用がありますか?」
「いえ・・・。」
「でしたらこれで。」
遮那王は、さっさと席を立った。
常盤は寺を去る前に、東光坊に挨拶に行った。
「東光坊様、あの子は、遮那王は元気でやっているのですか?」
「おや?さっき会ってきたのではないのですか?」
「ええ、会うには会いましたが・・・。あの子、何だかよそよそしくって・・・。
やはり、私はあの子に負い目があるものですから・・・。
何だかこちらからは今一歩踏み込めないところがあるのです。」
「そうですか・・・。
遮那王は、利発な子ですよ。とても・・・。
読み書きなど、あっという間に習得しましたし、性質、器量、容貌といい、他の稚児より遥かに立ち優っています。
比叡山延暦寺や三井寺にも、これほどの稚児がいるとも思えません。」
「それは良かった・・・。そんなに誉めていただけるなんて、遮那王も幸せ者です。」
「ただ・・・。」
「ただ?」
東光坊はそのまま黙り込んでしまった。
その後、遮那王の身の回りの世話係をしている和泉坊という僧が、読経しているはずの遮那王の所に行き、御簾を開けた。
「遮那王殿。先程から読経の声が聞こえませんが、阿弥陀経の一巻は読み終えましたか?」
「いいえ。」
「・・・では、どこまで読み終わりましたか?」
「一行も読んでおりませぬ。」
「・・・そのような事でどうするのですか・・・。
本当に、僧になる気がおありなのですか?」
「・・・。」
和泉坊は、ため息をついた。
「では、しばらくしたらまた来ますので、それまでに読み終えて下さいね。」
和泉坊は、御簾をおろした。
遮那王は静かになった後に心の中でつぶやいた。
(僧になど、なるものか!)
そんな遮那王にほとほと手を焼いた和泉坊が、東光坊に相談に行った。
「東光坊様、ご相談があります。」
「遮那王のことか・・・。」
「・・・はい。
遮那王には、困ったものです。
経を覚える気が全くないのです。
経を教えるようになってずいぶん経つのに、まだ阿弥陀経の一行も覚えていません。読み書きなどは、あっという間に覚えたというのに・・・。」
「分かった。遮那王をここに連れてきてくれ。私に考えがある。」
「はい。」
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